第110話 お姉さまとパーティメンバーの交換をします!
リリアは懐から可愛らしい髪飾りを取り出し、ルッタツーの頭に付ける。
「それを外してはだめよ? ルッタツーちゃんの証だから」
「は、はい……」
その圧にただ頷くことしかできないルッタツー。
次に彼女はルッタの方へ近づき、そっと手をかざす。
「みんな、ルッタちゃんのことを見守ってあげてちょうだい」
「まかせなさい!」「わかった……」「りょうか~い!」
すると、あまり息の合っていないバラバラな返事と共に三つの光が飛び出し、ルッタの周囲をグルグルと回り始めた。
やがてそれらの光は人の形を取り始め、三人の少女へと姿を変える。
「ルッタの面倒はあたしが見てあげるわ!」
赤い光は、燃えるように真っ赤な髪と瞳を持つ少女――メルカに。
「わ、わたしは……ルッタお兄ちゃんのお手伝い、するね……」
青い光は、水色の髪をした肌の白い浴衣姿の少女――ツララに。
「フロナ、ルッタちゃんと遊びた~い!」
そして緑の光は、頭に花飾りをつけた緑色の髪の少女――フロナに変化した。
「なんかいっぱい出てきました!」
三人とも、かつてルッタが精霊石を入手して姉に押しつけた存在である。
「リリア姉さま、いつの間にやら精霊を実体化できるようになっていたのですね!」
「真っ先にルッタちゃんに話したと思うのだけれど……あの時はルッタツーちゃんだったのね」
リリアの問いかけに対し、ルッタツーは静かに頷く。
「本物のルッタちゃん! おはよ~!」
一方、フロナはそう言いながら両手でルッタの頬を引っ張った。かなり強めに。
「やめへふははい!」
「なるほど~! これがリリアの言ってた、『だんりょく』なんだね!」
そして、感心した様子で呟く。
「でも、しょうじきリリアとあんま変わらないと思う~!」
この場の全員、頬の弾力に関してそこまでの差異はない。
「ちょっとフロナ! 抜け駆けしないで! あたしにも触らせなさい!」
「わ、わたしも……ルッタお兄ちゃんのほっぺ触りたい……!」
他の二人も殺到し、ルッタは頬が赤くなるまで代わる代わる引っ張られ続けることになるのだった。
「みんなダメよ。ルッタちゃんは私のものだから、ほっぺも私のものなの。……その次がイーリス王女のものよ」
ちなみに、精霊と契約者は趣味や嗜好が似ている場合が多い。
魔力を共有していることが理由だと言われているが、詳しいことは不明だ。
「違うわ、あたしのよっ!」
「フロナのものでしょ~?」
「わ、わたしのだもん……」
重要なのは、ルッタに執着する異常な存在が四人に増えてしまったという恐るべき事実である。
「僕は誰のものでもありませんっ!」
全ては、彼が手に入れた精霊石を姉に押し付け続けた結果起きたことだ。ある意味自業自得であった。
「まったく。みんな子供なので、加減というもを知らないのですね……!」
やっとの思いで解放されたルッタは、涙目で頬をさすりながらそんなことを呟く。おそらく、彼の言う子供の中に自分自身は含まれていないのだろう。
「よいですか? 他人のことは思いやらなければいけないのですよ!」
――もう少し頬を引っ張られた方が良いかもしれない。
(魔王を前にしても泣かないのに、なぜ今泣くのだ……? 頭を噛み砕かれるよりも、頰をつねられる方が辛いのか……?)
ルッタツーはそんな本体に対し、理解不能な化け物を見るような目を向けていた。
「……とにかく、ルッタちゃんのことはみんなに任せるわ。危ないことをしそうになったら、三人がかりで止めてあげてちょうだい」
どうやら、リリアは弟の暴走を止めるためにはそれだけの人員が必要だと考えているようだ。
完全に過小評価である。
「リリア姉さま! みんな子供なので、どちらかといえば僕の方が面倒を見ることになってしまう気がします!」
ルッタは抗議した。
「大丈夫よ。ルッタちゃんに限ってそれはないわ」
「…………そうなのですか?」
予想外の返答に首を傾げるルッタ。
「……それじゃあ、お姉さまは自分のお部屋で朝の支度をしなければいけないから、しばらくは何があっても気づけないわ」
「そうなのですね!」
「……気をつけて遊んでね、ルッタちゃん」
リリアはそう伝えると、ルッタツーの腕をぐいっと引っ張る。
「……さあ行きましょう」
「えっ?」
そして、彼を連れて部屋を出るのだった。
「……ルッタちゃんは……もうお姉さまから離れるお年頃になってしまったのね……」
廊下に出た彼女は、窓の外を見つめながら寂しげに呟く。
「リリア姉さま……本当に僕で良かったのですか? 僕は……ルッタの偽者です……」
憂いを帯びた彼女の横顔に思うところがあったルッタツーは、そんな問いかけをした。
「ルッタツーちゃん。あのね、ルッタちゃんはそんなことで悩まないわ」
リリアは真剣な顔つきで詰め寄る。
「……は、はい?」
「お姉さまの言うことなんて全然聞いてくれないし、お父さまやお母さまを驚かせるようなことばかりするけれど、いつも笑顔で楽しそうなの。おめめだってキラキラ輝いているわ」
「あ、あの……リリア姉さま?」
ただならぬ雰囲気を感じ取ったルッタツーは彼女から離れようとするが、腕をしっかりと掴まれているので逃げることができない。
「ルッタちゃんはね、おかしいの。私は意味の分からないことを嬉しそうにたくさんお話ししてくれるルッタちゃんのことが大好き」
「……ひっ」
「……時々ルッタちゃんがまともになるから心配していたのだけれど……全部あなただったのね」
「ご、ごめんなさ――」
「大丈夫。ルッタツーちゃんのことは、私がちゃんと『ルッタちゃん』にしてあげるわ」
怯えるルッタツーの耳元で、彼女は優しく囁くのだった。




