第107話 みんな仲良しです!
ルッタツーが次に呼び出されたのは、なんと翌日のことであった。
「今日も幻夢流道場へ行ってくるので、お留守番お願いしますね!」
「………………」
あまりにも一方的な要求に言葉を失うルッタツー。
「アイテム回収と、ついでにレベル上げをしてきます!」
「久しぶりに帰って来たばかりなのに……もう行くのか……? 家族と離れて寂しいとか……そういう気持ちはないのか?」
楽しそうに予定を話すルッタに対し、彼は思わず問いかける。
「うーん……」
ルッタは少しだけ考えてから言った。
「もちろん寂しさもありますが、ルッタツーが居てくれるので大丈夫です!」
「お、お前……っ!」
予想外の返事に心を打たれ、ルッタツーは目を潤ませる。
「なんていい奴なんだっ!」
彼は涙声で言いながら、勢いよくルッタに抱きついた。
「く、苦しいです……」
自分が自分を抱きしめる奇怪な光景の完成である。
「家族のことは我に任せておけっ! 何があっても絶対に守ってやるっ!」
「よろしくお願いします……」
「我はお前のことを誤解していた……っ! 今まですまない……っ! うわーーーーんっ! ルッターーーーーーっ!」
「あの、そろそろ離れてください……」
かくして、ルッタは本当の意味でルッタツーを屈服させることに成功したのであった。
*
それからしばらくして。
「…………。ルッタが居るネ」
幻夢流道場の片隅で暮らしつつ、兄と共に旅立つ準備を進めていたシャオメイは、残っている東棟の建物から中庭へ出てきたルッタの姿を目撃した。
「ルッタっ! どうしてここに居るカっ?!」
シャオメイは大急ぎで彼に駆け寄り、問いかける。
「おや、昨日ぶりですねシャオメイ!」
一方、彼女の存在に気づいたルッタはのん気に挨拶をした。
「そんなこと言ってる場合ちがうっ! 昨日のお別れは何だったネっ!?」
「僕はまた会えると言った記憶があります!」
「そ、それはそうだけど……いくら何でも早すぎるヨっ! 余韻というものがないネっ!」
怒っているのか照れているのかは不明だが、シャオメイの頬は赤く染まっていた。
「はぁ、はぁ……!」
一通り言いたいことを口にした彼女は、呼吸を整えた後で続ける。
「……でも、また会えて嬉しいネ。しばらくここに居るのカ?」
「いえ。用事は済んだので、もうすぐ帰るつもりです!」
「…………」
あまりにも非情な答えであった。
「……用事って……何しに来たネ……」
シャオメイは少しだけしょんぼりしながら問いかける。
「それはもちろん……レベル上げですよぉ……っ!」
「ひゃあっ?!」
彼女の疑問に答えたのは、いつの間にか背後に立っていた長髪の女――セレーヌであった。
「な、ななな、何者ネっ?!」
「紹介します! この人はセレーヌといって、僕のパーティメンバーの一人です! レベル上げに誘ったら一緒に来てくれました!」
「ぱ、ぱーてぃ? れべるあげ……?」
何一つとして単語の意味を理解できず、大きな混乱に包まれるシャオメイ。
「パーティとはルッタ様に付き従う信徒のこと……そして、レベル上げとはルッタ様に近づくための修行のことを言うのですぅ……!」
「い、意味がわからないネっ! ――ルッタ! こんなのと関わるのはやめた方がヨロシっ!」
「あらあらぁ……そんなに嫌わないでくださいぃ……。私……悲しくなってしまいますぅ……!」
どうやら、二人の相性は最悪のようだ。シャオメイから見たセレーヌは、自分と同い年の男の子に付きまとう不審な女なので無理もない。
「あなたもぉ……ゲーム神さまの素晴らしさを知りたいとは思いませんかぁ……?」
「そんなもの知りたくないネ」
「うふふ……幻夢流の方たちと違ってぇ……強情なのですねぇ……」
不敵に微笑みながら少女の頬を指先でつつくセレーヌ。
「幻夢流……? アイツらに何かしたカ」
「そっと覗いてみれば分かりますよぉ……」
彼女は東棟を指し示しながら、シャオメイの耳元でそう囁くのだった。
「……そうです! ついでに、ムゲン水が他にもないか師匠に聞いてみましょう! もしかしたら増やせるかもしれません!」
その時、いきなりルッタが目を輝かせながら言う。
「なるほどぉ……! それはとても良い考えですねぇ……!」
「さっそく師匠に会いに行きましょう!」
「あぁ……待ってくださいゲーム神さまぁ……!」
そうして二人は走り去り、シャオメイはその場に取り残されてしまうのだった。
(話した雰囲気で何となく分かったネ……。あれはたぶん……ルッタの姉貴……!)
彼女はセレーヌに対してとんでもない誤解をしてしまったようである。
「そう思うと……結構似た性格の姉弟ネ……」
彼女は呆れた様子で呟きつつ、興味本位で東棟へ近づいていく。
そして、少しだけ扉を開けて恐る恐る幻夢流道場の中を覗き込んでみるのだった。
「静粛にッ!」
そこに居たのは、皆の前に立って何やら話をしている師範の男――ラオとその門下生たちである。
「……というわけで、これより幻夢流はゲーム流と名を改める!」
ラオがそう宣言すると、門下生たちは大歓声を上げる。
「経験値! 経験値! 経験値!」
そして、声を揃えて意味のわからない言葉を叫び始めた。
「経験値! 経験値! 経験値!」
彼らはただひたすらにそう言いながら正拳突きを繰り返す。
「全ては……ゲーム神さまの為に……ッ!」
技や肉体の強さ――即ち『力』のみを追い求めていたラオだったが、セレーヌの活躍によって神への愛――信仰の『心』を手に入れ、さらなる高みへと至ったのである。
その過程で幻夢流道場はゲーム流道場となり、いつでも好きな時にレベリングができる素敵な場所へと変化したのだ。
「経験値! 経験値! けいけ――」
「…………」
シャオメイはそっと扉を閉め、何も見なかったことにしてその場を離れるのだった。
第四章 『目指せ無限レベルアップ』 完




