第11話 お姉さまを強化しよう!
あくる日の早朝、リリア・アルルーはいつものように目を覚ます。
「ふわぁ……」
母のステラによく似た真面目で几帳面な性格の彼女は、家族の中で誰よりも早く眠り、誰よりも早く起きるのである。
「あら、もうこんな時間だわ……」
しかしその日は、普段より少しだけ起床が遅かったようだ。
(寝坊しちゃったみたい……)
リリアは枕元に置かれた魔法仕掛けの時計を見て驚きの表情を浮かべた。
彼女は慌ててベッドから起き上がり、ナイトキャップを脱ぐ。そして手ぐしで軽く寝癖を直した。
「私、浮かれすぎているのね……」
――リリアの起床が遅れたのには理由がある。それは、本日が彼女の誕生日だからだ。
七歳になるのがあまりにも楽しみで、昨晩はなかなか寝付けなかったのである。
(だけど、これでまたルッタちゃんのお姉さまに戻ったわ……!)
リリアは一歳しか違わないルッタが誕生日を迎えて年齢で追いつかれる度に、嬉しい反面少しだけ寂しい気持ちになっているのだ。
(お姉さまとして、ちゃんとしないと……!)
彼女はルッタに対し、年上のお姉さんぶりたいお年頃であった。
「――リリアさま、お部屋のお掃除に参りましたが……お目覚めですか?」
その時、部屋の扉がノックされメイドの声が聞こえてくる。
「ええ、今起きたわ」
リリアはそう返事をしてベッドを降り、軽く伸びをした。
「……すぐに開けるから、待っていて」
そして、部屋の扉を開けてメイドに挨拶をするのだった。
かくして誕生日を迎えたリリアの一日が始まったのである。
*
洗顔と着替えを済ませたリリアは、自室の隣にある弟の部屋の扉にそっと耳を当てていた。
「ルッタちゃん、脱走しないでちゃんと眠っているかしら?」
これは最近になって追加された彼女の日課の一つである。
「リリア姉さま! おはようございます!」
「あら?」
背後で声がしたので振り返ると、そこにはいつも通り意味もなく楽しそうなルッタが立っていた。
「ふふふ、おはようルッタちゃん」
リリアは微笑ましい気持ちになりながら、普段と同じように挨拶を返す。
「そんなところに居たのね。探していたわ」
そして、ごく自然に両手を伸ばしてルッタの頬を揉んだ。
「やめへくらはいっ!」
リリアは明るく元気で可愛い弟のことが異常なほど大好きなのである。
その溺愛っぷりは、両親が密かに将来のことを心配するほどであった。
「でも、もう少しだけ……さわっていたいわ……」
そんな彼女は近頃、弟の頬っぺたをむにむにする感触にはまっている。
「ねえルッタちゃん。後で私のこともむにむにしていいから……もっとむにむにさせてもらえないかしら……?」
「させません!」
「……そう」
しかしあっさりと拒絶され、リリアは名残惜しさを感じながら引き下がった。
「……ところでルッタちゃん、今日は起きるのが早いのね」
「はい! おそらく大切なイベントが発生するので!」
「大切な……イベント……?」
リリアの胸が期待で高鳴る。
「それって、一体なんのことかしら?」
前髪を整えつつ、全く気にしていないような素振りをしながら問いかけた。
「それはもちろん――」
ごくりと唾を飲み込み、ルッタの次の言葉を待つリリア。
「ステータスアップの日です!」
「…………?」
しかし、返ってきたのは意味の分からない答えだった。例のごとくいつも通りである。
「す、すてーたす……あっぷ……?」
リリアは困惑した表情で首をかしげた。
「ちゃんと好感度をアップできそうなアイテムもゲットしているので、準備は完璧だと思います!」
「そ、そうなの……。ルッタちゃんが楽しそうで良かったわ……」
心の中で思い描いていた期待が外れ、少しだけしょんぼりしながら言うリリア。
「では早速――お誕生日おめでとうございます! リリア姉さま!」
だが直後に望んでいた祝福をされ、驚きと嬉しさで目をまんまるに見開いた。
アルティマ・ファンタジアでは、キャラの誕生日に設定されている日にプレゼントを渡すことで好感度をアップできるのである。
「ルッタちゃん……!」
リリアは感動のあまり、今にも泣き出してしまいそうであった。
「僕からのプレゼントです! 受け取ってください!」
そう言ってルッタが手渡したのは、燃える炎のように真っ赤な石である。
「これは……宝石、かしら?」
「メルカという炎の精霊の魂が入った精霊石ですよ!」
「せ、精霊石……!?」
リリアはさらに驚愕する。精霊石と呼ばれる希少な石の存在は、彼女も本で読んだことがあった。
適性のあるものがこの石に魔力を送り込むことで、中に眠る精霊と契約することができる代物である。だが滅多なことでは発見されず、入手は非常に困難だ。
「そんな珍しいもの、一体どこで見つけてきたの……?」
「話すと少し長くなってしまいますが……聞きたいですか?!」
「……や、やめておくわ」
キラキラと輝くルッタの目を見てワームの一件を思い出し、ただならぬ雰囲気を感じ取ったリリアは、それ以上深く追求しないことにした。
「そうですか……」
「で、でも嬉しいわ……まさか、あなたがこんなに綺麗で素敵なプレゼントをくれるなんて……! ――ありがとう、ルッタちゃんっ!」
リリアは目の端に涙を浮かべながら、ルッタにぎゅっと抱きつくのだった。
(無事に好感度がアップしたみたいです! これで、リリア姉さまとパーティを組む時に能力値の上昇が見込めますね!)
目論見が成功し、ニコニコするルッタ。好感度が上がると、様々な場面で有利になるのがアルティマ・ファンタジアのシステムなのである。
「……僕はこれから、たくさん精霊石を見つけてきてリリア姉さまに渡すので、頑張って契約してみてください! 残念なことに、僕は精霊と契約することができないみたいなので!」
「ルッタちゃんにできないのに……私にできるかしら……?」
「はい! 全属性に適性を持つリリア姉さまなら、どんな精霊とも契約できるはずです! なので、これから最強のお姉さまを目指しましょう!」
「か、かいかぶり過ぎよルッタちゃん……っ!」
あたふたするリリアだったが、同時に心の中ではこう思っていた。
(――でも、ルッタちゃんの期待に応えるのが、お姉さまとしての役目……よね)
彼女はもらった精霊石をしっかりと胸に抱きしめる。
「……わかったわ。私……この子と契約して、最強のお姉さまになれるよう頑張ってみる……!」
彼女の瞳には固い決意のようなものが宿っていた。ルッタはそんなリリアを見つめながら、心の中でこう思う。
(その意気です! ――僕もしっかりとリリア姉さまの育成計画を立てておきますね! 万能キャラなので、育成方針が今後を左右するのです!)
そこには、姉を自分好みに育成しようとする危険な六歳児がいた。




