第105話 涙のお別れです!
師範を連れて無事に道場へと帰還したルッタ達。
「師匠……無事で良かったんだナっ!」
「ルッタと兄貴も……怪我とかなさそうで嬉しいネっ!」
ロウスーとシャオメイは皆の無事を喜ぶが、今はそれどころではない。
「な、なんじゃあこれはッ!?」
師範が目の当たりにしたのは、跡形もなく破壊された真元流の道場であった。
「ハオラン……ルッタ……お主らがやったのか……?!」
案の定、最も疑わしい二人に問いかける師範。
「違うぞ師匠ッ! やったのは幻夢流の奴らだッ!」
「ひどい言いがかりです! 僕たちはそんなことしません!」
ハオランとルッタは口を揃えて否定した。
「なんと……ッ!」
破壊が行われたのは師範が連れて行かれた後なので、知らなかったようだ。
「こんなことなら、向こうの道場も半壊で済まさず、全壊させておくべきじゃったのう……」
しょんぼりと肩を落としながら、そんなことを呟く師範。
「半壊はさせたカ……」
「ハオランとルッタが乗り込んだことを考えれば……被害は少ない方なんだナ……」
ロウスーは若干引き気味に言った。
「ともかく……こうなってしまったのであれば奴らのところへお邪魔するしかないのう。原因は向こうにあるのじゃから、駄目とは言わせんぞ……!」
やや怒りつつ、踵を返して歩き始める師範。
「皆もわしについて来なさい。まったく……わしは何往復すれば良いんじゃろうか……」
文句を言いつつ再び山を下るのであった。
*
「――というわけで、わしらは少し離れた場所にあるあの建物を使わせてもらうとするからのう。元はと言えばお主らがやったんじゃから、文句はないじゃろう?」
「は、はいっ! 何なりとお申し付けくださいぃぃぃっ!」
崩壊した幻夢流道場へと戻って来た師範とその一行は、満身創痍の門下生たちを捕まえて要求を受け入れさせる。
「どうかっ! どうか命だけはお助けをっ!」
どうやら、ルッタとハオランの恐怖は彼等にしっかりと刻み込まれているようだ。痛ましい限りである。
「……ところで、ワンリーの姿が見当たらんようじゃが……どうしたんじゃ?」
「さ、騒ぎを起こしたので……ラオ師範と一緒に衛兵に連れて行かれてしまいましたッ!」
一番の原因は広場と門を吹き飛ばしたハオランの超絶最強無敵破壊拳である。
「大変そうじゃのう。……師範がいなくて困っておるなら、わしが弟子にしてやるから考えておくとよいぞ」
「はいッ! 考えておきますッ!」
そんなこんなで、無事に寝泊まりする場所を確保できた真元流一派。
彼らは、幻夢流道場の片隅でささやかなお祝いをしたのであった。
*
そして翌朝。
道場が潰されてしまったこともあり、修行を終えた弟子たちはそれぞれ新しい道へと歩き出すこととなった。
「オイラは……料理人を目指すんだナ。師匠の教えは、きっと料理の道にも通じるものがあるんだナ!」
そう話すロウスーの目には、確かな覚悟が宿っている。
「オレはもっと強いヤツを探すぜッ! どこかで会うことがあったら、また闘おうッ!」
危険生物――もとい、ハオランも人里に放たれる時がやって来たようだ。
「シャオメイは……まだちゃんと決めてないヨ。とりあえず、兄貴について行こう思てるネ」
彼女が最後の砦である。
「ルッタ、お主はどうする?」
「僕は目的を達成したので、一度お家に帰ります! もちろん師匠の教えは忘れませんよ! 人を思いやる心を持ちます!」
彼が答えると、師範は満足げに頷いた。
「これからも、たまにレベル上げをしに来ると思います! みなさんありがとうございました!」
「皆、いつでも戻って来るんじゃぞ。道場は壊れてしまったが……そのうち直っておるじゃろう」
師範はどこか寂しそうに告げる。
「分かったんだナ……っ!」
「なんだかんだ言って……今まで楽しかったネ……っ!」
ロウスーもシャオメイも同じように涙をこらえている。
「もちろんだ師匠ッ! その時までに強そうな奴を探しておいてくれッ!」
ハオランはいつも通りであった。
「さてと……それじゃあ、僕は一足先に帰りますね!」
「そういえばお主……どうやって西の国からはるばるやって来たんじゃ?」
ふとルッタに問いかける師範。
「これを使います!」
言いながら、懐からアステルリンクを取り出すルッタ。
「これは登録されている場所へ一瞬で移動できてしまう優れものなのです!」
慣れた手つきで操作しつつ、そんな説明をする。
「魔法は色々なことができるんじゃなあ」
師範はのん気に呟いた。
やがて、操作を終えたルッタの全身が光に包まれる。
「おおッ! 発光しているぞッ!」
「魔法の力はすごいんだナ……!」
驚いた様子のハオランとロウスー。
「ルッタっ!」
――その時、シャオメイが叫んだ。
「また……会えるカ……?」
声を震わせながら問いかける彼女に対し、ルッタはにこりと微笑む。
「はい、もちろんです!」
そして、一瞬にして消え去ってしまった。
「……もっと……居て欲しかったネ……」
寂しそうに天を仰ぐシャオメイの頬を、一筋の涙が伝うのだった。




