第103話 マスターラオVSルッタス・リー!
「ほう、お主がこれほどまでの魔術の使い手だったとはのう。話には聞いておったが……驚きじゃわい」
火魔法による連続攻撃を目の当たりにした師範は、感心した様子で呟く。
ちなみに、ルッタの火球は師範の元で行った精神修行によって安定し、完全に制御されていた。誤って建物を燃やす可能性もかなり低くなったので、これからは不慮の事故によって経験値を失い泣くこともないだろう。
「魔術……だとぉ……ッ?」
そんな中、ラオが黒煙に包まれながら這い出して来る。
「ぶっ、武闘家の端くれが……西の国の怪しげな術を使うとは……」
彼はゆっくりと立ち上がりながら、殺意を帯びた目でルッタのことを睨みつけて言った。
「貴様、ふざけているなッ!」
「……なるほど。ラオ戦で魔法を使うとこんな特殊セリフが聞けるのですね! 気になっていたので、試してみて良かったです!」
しかし、少年に反省の色はない。
「さっきから……意味の分からないことばかり言いやがって……ッ!」
理解不能な返答に、青筋を立てて憤怒するラオ。
「貴様は――ここで殺すッ!」
彼は大きく足を広げ、力を高め始める。
「ファイア――」
「やめろと言っているんだッ!」
「えっ」
それを隙とみなして再び魔法を放とうとしたルッタの動きを、大きな声で一喝して止める。
「死ねいッ!」
次の瞬間、彼は物凄い勢いで突撃し一気に距離を詰めた。
「――死にませんっ!」
言いながら、ルッタは怒りに満ちた彼の攻撃を捌いていく。
「死ね死ね死ね死ね死ねいッ!」
「死にません死にません死にません死にませんっ!」
二人は目にも止まらぬ速さでぶつかり合い、打撃や蹴りによる衝突音が辺りに響き渡る。
「火球!」
「小癪なァッ!」
ルッタは時々そこに魔法を織り交ぜるが、気を纏った右腕で振り払われて掻き消えてしまう。
「同じ魔法は通用しないというわけですね……!」
どうやら、今の短い間で対策されてしまったらしい。
「あまり舐めた真似をするなよ……ガキ……!」
最初の一撃――もとい六撃が余程屈辱的だったのだろう。
「ボス戦はちゃんと全力でやっています! MPも温存しません!」
そうして、彼らは一進一退の攻防を繰り広げていた。
「ラオ師範が……押されている……!?」
その時、戦いを見ていた門下生の一人が呆然とした様子で呟く。
彼の言う通り、戦いの主導権を握っているのはルッタであった。やはり最初の卑劣な不意打ちが功を奏したのだろう。
「隙ありですっ!」
言いながら、少しだけよろめいたラオの前へ踏み込むルッタ。
「甘いわッ!」
しかしその瞬間、ラオは身体を大きくひねり、彼の腹へ重い蹴りを叩き込んだ。
「ごふっ!」
ルッタの軽い体が空中へ浮かび、その勢いのまま天井近くまで打ち上げられる。
ラオは彼から一刻も視線を逸らさずに鋭く目を細め、両手を突き出して構えた。
「幻夢流奥義――」
「むむっ!」
危険な技の発動を感じ取ったルッタは、どうにか空中で体勢を立て直そうとする。だが、もう間に合わない。
ラオは踏み抜くような勢いで力強く床を蹴って飛び上がった。
「幻夢刹斗拳ッ!」
十本の指が鋭い短剣のように尖り、瞬く間にルッタの全身へと突き刺さる。それは、音もなく相手のことを仕留める恐ろしき暗殺拳であった。
「ぐふッ!」
彼の必殺技をまともに受けたルッタは、ぼろ雑巾のような姿になって床へと落下する。
「……褒めてやろう。まさか、ガキ相手にこれを使うことになるとは思わなかったぞ」
ラオは服に付いた煤を払いのけながら、勝ち誇った顔で宣言した。
「ジジイ、次は貴様の番だ。まさか、この期に及んで怖気づいたなどとは言わないだろう? 何せ、俺は弟子の仇だからな」
薄ら笑いを浮かべて師範を挑発するラオ。
「――いいや。お主の負けじゃな」
「……は?」
予想外の言葉に呆気に取られている彼の背後で、少年の声が響いた。
「忍法・変わり身の術です!」
振り返った先には、傷一つないルッタが立っている。
「なにッ!?」
床に転がっているルッタの体は、本人がとっさに作り出した分身だったのである。
「それは三人目の僕――ルッタスリーですよ!」
「なん……だとぉッ……?!」
ルッタスリーは本人そっくりの外見をしているが、意志を持たなず動くこともないただの張りぼてである。魔王もどきが分身の肩代わりをしてくれるようになったことで、少しだけ余力ができたのだ。
――おまけに、それだけではない。
ルッタはにっこりと笑いながら、軽く指を鳴らす。
「爆破!」
「な、何を――ッ!?」
彼が魔法を詠唱した刹那、床に倒れていたルッタスリーの体が見る見るうちに膨れ上がり――そのまま激しい爆発を引き起こした。
「ぐ、ぐああああああああああああああッ!」
悲鳴を上げながら吹き飛ばされ、壁に激突するラオ。
「ぐ……がはッ! 気味の悪い術ばかり……使いやがってぇ……ッ!」
彼は最後にそう言い残し、気絶してしまうのだった。
「……災難じゃのう」
流石の師範も同情気味である。
「なんだ、あれ……」
「人のすることじゃないだろ……」
「ば、化け物……!」
門下生を含めた全員が引き気味にルッタのことを見つめる中、当人は元気よく両手を上げてこう言うのだった。
「レベルアップですっ!」
無限レベルアップへの道は始まったばかりである。




