第102話 これが武術の真髄です!
「おお、ルッタか。外が騒がしかったから、そろそろ来る頃だと思っておったぞ。……シャオメイとのおつかいは済んだじゃろうか」
「はい! シャオメイは何故か帰り道に泣いてしまいましたが、今は元気です!」
「………………」
何となく全てを察した師範は、肩を落として小さくため息を吐く。そして、それ以降おつかいについて言及することはなかった。
「俺の門下生たちは何をしている? 今日は誰も入れるなと言っておいたはずだが」
ラオは眉を吊り上げ、不愉快そうに呟く。乱入によって戦いの邪魔をされたことを怒っている様子だ。
「門番の人はハオランが吹き飛ばしてしまいました! ……僕も巻き込まれて吹き飛ばされました! とても痛かったです!」
胸を張って答えるルッタ。
「お前は何を言っている?」
もちろん初対面の人間にこんな説明が通じるはずがない。事実だが、あまりにも滅茶苦茶であった。
「ふむ。よりにもよってお主とハオランが来たのか。予想はしておったが……運のない道場じゃのう……」
師範は憐みと諦めの入り混じったような目でラオを見る。
「……つまり、こんなガキどもに負けたと? 笑止千万。弱い奴らは俺が鍛えてやっても弱いままのようだ。救えんな」
「あまり自分の弟子を悪く言うものではないぞ」
師範は険しい声で言った後、ルッタの名を呼んだ。
「……ルッタ」
「はい、なんでしょうか?」
「わしの代わりに、こやつと戦ってやってくれ。先ほどからしつこくてのう。年寄りにはちと堪えるわい」
「もちろんです! 僕は最初から経験値……ではなく、ラオと戦うつもりでここへ来ました!」
彼は笑顔のまま拳を握りしめ、殴り合う仕草をした。
「拳と拳のぶつかり合いというやつですね!」
あまりの無邪気さに、ラオは思わず顔をしかめる。
「まさか、こんなガキと俺を戦わせようというのか? ……ジジイ、あまりふざけるなよ」
そして怒気を含んだ声で言った。
「言っておくが、ルッタはわしよりも強いぞ。子供に負けるのは怖いかのう?」
「……ほう」
刹那、ラオの目が細くなる。
「嘘を言っている……というわけではないな」
「ここで嘘をつく理由なんてないわい」
二人が睨み合い緊張感に包まれる中、ルッタは周囲に控える門下生たちのことをキョロキョロと見回しながら言い放った。
「……ところで、僕が来たのに周りの人たちはなぜ襲って来ないのでしょうか? イベント中だからですか? ボス戦は周りの雑魚からやっつけるのがセオリーなので、今すぐ経験値にしたいです!」
その言葉によって、幻夢流の実力者たちが一斉に殺気立つ。
「雑魚、だと……?」
「あのガキ……調子に乗りやがって……ッ!」
全員、今にもルッタに飛び掛かりそうな勢いである。
「待て」
しかし、ラオの一言によって彼らは再び動きを止めた。
「面白いじゃないか。――望み通り、俺が相手をしてやろう。他の者は何があっても手出しするな」
「あの、僕は先に周りの人を倒したいと言ったのですが……」
「もちろん……貴様が助けに入ることも許さんぞ?」
ルッタの言葉を完全に無視し、師範の方を見て薄ら笑いを浮かべるラオ。
「必要ないわい。……もっとも、ハオランまでここへ来たらわしにも止められるか怪しいがな」
「心配するな。まとめて血祭りに上げた後、お前も弟子の元へ送ってやる」
「おっかないのう……」
師範は身震いするふりをしながら彼の前を離れ、ルッタの方へ近寄って肩をぽんと叩いた。
「手加減しろ……などとは言わん。好きにやって構わんぞ」
その言葉を聞いたルッタの瞳が、きらきらと輝く。
「…………! 分かりました! 師匠の言う通りにしますっ!」
あまりにも迂闊な一言であったことは言うまでもない。
こうして広間の中央でルッタとラオは向かい合い、一対一でのボス戦が始まった。
「……僕はRPGをやっていたつもりだったのですが、これでは格闘ゲームみたいですね! 対戦よろしくお願いします!」
「御託はいい。さっさと来い」
ラオは深く腰を沈め、鋭い構えを取る。その姿は獲物を狙う龍のようであった。
一方、ルッタはただ全力で息を吸い込んだ。
「いざ、尋常に勝負です! はあーーーーーーーっ!」
そして、その場で声を発しながら力を溜め始める。
(……構えは崩れ、気の流れも感じない。どう見てもただのガキだ。……やはり、あのジジイも耄碌していたか)
その姿から全てを見切り、失望するラオ。彼の分析は正しいものであった。
しかし次の瞬間――
「火球ッ!」
ルッタは右手を突き出して魔法を詠唱し、灼熱の火球を高速で撃ち出した。
「なにぃッ?!」
掛け声によって高めていたのは、気ではなく魔力だったのである。
接近戦が得意な相手には遠距離攻撃を行う。気の扱いや感知に長けた相手は魔力で攻める。
ラオとしては完全な想定外――つまり、ルッタにとっては完全な最適解であった。
「くらえーーーーーっ!」
――ボガーンッ!
火球はそのままラオの顔面に直撃し、彼はそのまま火に包まれて吹き飛んだ。
だが、これで攻撃が終わったわけではない。
「火球ッ! 火球ッ! 火球ッ! 火球ッ! 火球ッ!」
……戦いはまだ始まったばかりである。




