第100話 真元流奥義!
ルッタがムゲン水を発見しレベル上限を突破したその頃、ハオランは道場内を縦横無尽に駆け巡っていた。
「うおおおおおおおおおおおッ! 超絶無敵最強おおおおおおおッ!」
意味の分からないことを大声で叫びながら。
「ぎゃああああああああッ!」
彼の突進に巻き込まれた者たちが次々と吹き飛ばされ、物言わぬ経験値へと変えられていく。
「……よし! 次は誰が闘ってくれるんだッ?! まとめて来てくれても構わないぞッ!」
化け物はギラギラと目を輝かせながら、立ち尽くしている幻夢流の一般門下生たちに問いかけた。
「くそっ! どうなっているんだっ!」
「勝てない……こんなの、力の差がありすぎる……っ!」
彼らは、圧倒的な強さを有するハオランを見て絶望する。
「ふ、ふざけるなっ! 俺たちだけでどうやって止めろって言うんだよっ! 相手は化け物だぞっ!」
「ひ、ひいいいいっ! 誰か助けてええええええええええっ!」
「お母さんっ! 私まだ死にたくないっ! 家に帰りたいよおおおおおっ!」
中には恐怖のあまり敵前逃亡する者たちまで出始めていた。
「……次は私が相手をしよう」
その時、門下生たちの背後から男の声が響く。
「あ、あなたは……!」
現れたのは、真元流の裏切り者にして、どうなかこの化け物を抑えられるかもしれない希望の男――ワンリーであった。
「ワンリーさんっ!」
「来てくれたのですね……!」
門下生たちは目を潤ませながら彼のことを見つめる。
「うむ? どうしてワンリーがここに居るんだッ?!」
「私が真元流に愛想を尽かして出て行ったからだよ。……ロウスー辺りから聞いていないのか?」
しばしの沈黙の後、ハオランは思い出したかのように手を叩く。
「……ああ! そうだったなッ! もちろん聞いているぞッ!」
「まったく、どうしてあの爺さんはお前のような山猿を弟子として認めているのかね。理解に苦しむよ」
呆れ果てた様子で恨み言を口にするワンリー。
「ワンリーと本気で闘うのは随分と久しぶりだなッ! さっそく始めようッ!」
しかし、化け物に人の言葉は通じない。
「……ここは少し手狭だろう。場所を変えよう」
建物が更に破壊されることを危惧したワンリーは、彼にそんな提案をする。
「わ、ワンリーさん……アレにそんな提案が通じるとはとても……」
「分かったッ! 好きにしてくれッ!」
「……そこは素直なのか」
かくして、ハオランは広々とした道場の中庭へと案内されるのであった。
*
怪我を負った幻夢流の門下生たちが固唾を飲んで見守る中、ワンリーとハオランは構えをとって向かい合う。
「いくぞッ! ワンリーッ!」
「来い」
そうして始まったのは、一進一退の攻防であった。ハオランが放つ力任せの一撃を、ワンリーが技でいなす。そして今度は彼が放つ反撃の一打をハオランが腕で弾く。互いの手の内を知っているからこそ、両者一歩も譲らない。
彼らの纏った気がぶつかり合う度に大きな衝撃波が発生し、大地が揺れた。
順当にいけば、先に体内の気が尽きてしまった方が敗北する。消耗が激しいのは一撃に込める気の量が多いハオランであった。
(……一ヶ月、あのルッタとかいうガキと修行したところで、やはりこの程度。攻撃力こそ格段に増しているが……闘い方は武術の何たるかをまるで理解していない! あの爺の目は節穴だな)
ワンリーは内心で勝ち誇る。
「…………そうだッ!」
その時、一度距離を取ったハオランが唐突に声を発する。
「ワンリーは確か、真元流の奥義が見たいんだったな!」
「…………ッ!」
彼の言葉を聞いたワンリーの眉が、ぴくりと動いた。
「まさか……教えたのか?! お前にはッ!」
ハオランはにやりと笑い、両手の拳を強く握りしめる。
「真元流……奥義ッ!」
刹那、彼の身体から発せられる気が爆発的に高まり、道場全体を揺らす。
「なんだと……!? ……やはり、やはり師匠は私に隠していたのかッ!」
ワンリーは激しい怒りを露わにして叫んだ。
「なぜ……どうしてお前なんだッ! ふざけるなッ! 師匠は何を考えているッ! なぜ私には――」
「違うぞ、ワンリー」
言いながら、ハオランは鋭く彼のことを見据える。
「奥義は……自分で考えるものだぜッ!」
「は?」
「おかげで寝不足になったッ!」
ワンリーが言葉の意味を理解する前に、ハオランは彼の視界から消える。
――正確には一瞬だけ足に気を集中させて地面を蹴り、目で捉えられない早さで一気に距離を詰めた。
「いくぞッ! 超絶最強爆裂爆砕拳ッ!」
「な、なんだそのふざけた名前は――ッ」
彼の奥義は、一瞬の隙をついて後先考えずに全力で相手を殴り続けるというものである。
「うおおおおおおおおおおッ!」
単純ゆえに強力だが、おそらくハオラン以外には真似できない。
「ぐああああああああああッ!」
一撃で道場を破壊し隣に居たルッタをも巻き込むハオランの拳。
それを連続で叩き込まれたワンリーは、もちろん派手に爆発しながら吹き飛んだ。
「ワンリーさーーーーんッ!」
門下生たちの悲鳴が中庭に響き渡る。
「ごふッ!」
殴られただけでこうなるとはとても思えない、酷い姿になって気絶するワンリー。
「よしッ! オレの考えた最強の奥義も使えたし、満足だッ!」
かくして、勝敗は決したのだった。
ちなみに、ハオランは手合わせで師範にこの奥義を使おうとしたところ「年寄りを労われ」と言われて却下されている。ワンリーが一人目の犠牲者だ。
「この調子で、もっと強い奴にも……」
言いながら中庭を立ち去ろうとしたハオランだったが、彼は唐突にバタンと倒れ込む。
「……ぐがー!」
そして深い眠りにつくのだった。どうやら、奥義を使うとかなりの体力を消耗するようだ。
「止まった……! 化け物が止まったぞ……!」
「う、うおおおおおおおおっ! ワンリーさんがやったんだっ!」
動かなくなったハオランを見て大喜びする門下生たち。ワンリーの尊い犠牲により化け物を無力化することに成功したのだ。
――しかし、元気を取り戻したばかりの個体がまだ一体残っている。




