第98話 真元流と幻夢流
幻夢流は力こそが全てであるという考えのもと、他の流派を取り込んで門下生を増やし、着実に勢力を伸ばしている一派である。
そのため、心の大切さを説く真元流とはある意味で対極の存在であった。
そんな彼らの道場は、町の中心地に悠然と佇んでいる。
「随分と広いのう。羨ましい限りじゃわい」
奥にある大広間へと連れてこられた師範は、周囲を取り囲む幻夢流の門下生たちを見回しながら続ける。
「……もっとも、今はちと手狭のようじゃが」
教えによるものなのか、彼らは皆殺気立っている様子だった。
「……この期に及んでも尚、考えを改めないというのですか?」
対して、向かいに立つワンリーは険しい表情をしながら問いかける。
「ラオは冷酷な男です。いつまで経っても真元流の奥義について教える気がないのであれば、いずれ貴方を殺すでしょう」
「奥義など存在しないと何度も言っておるじゃろう。お前さんも聞かん坊じゃな」
師範は呆れ果てた様子で答えた。
「今まで様々な流派を学んで来ましたが、奥義が存在しないなんて聞いたことがありません」
「基本さえ極めれば、ただの正拳突きすらも奥義たりえる。結局のところはそれが答えじゃよ。……何度聞かれようと、他に言い表しようがないのう」
話はいつまで経っても平行線である。
「私は……貴方の事を尊敬していた。……しかし貴方は私のことを認めず、まるで獣のような……何も考えていない子供たちに心があると言う。……ルッタやハオランが、本当に貴方の教えを理解していると思っているのですか?」
「……少なくとも、今のお主よりは」
「話になりませんね」
ワンリーが深く肩を落としたその時。
「クックック……聞いていた通り、随分と頑固な爺さんのようだな」
門下生たちが一斉に道を開け、そこから鋭い目つきをした総髪の男――幻夢流の師範であるラオが姿を現した。
「ラオ……だったかのう。お主はなぜ、そこまでして強さを求める?」
「下らん問答だ。強さを求めることに理由など必要ない。そこにあるのは自然の掟――弱者はただ虐げられるのみよ」
「成程。それもまた、理にかなった答えじゃのう」
師範の言葉に、ラオは少しだけ驚いたような表情をする。
「ほう、私の考えを否定しないのか」
「自覚はあるようじゃからのう。わしの弟子たちと比べれば、随分と真っ当じゃ」
「フン、訳の分からんことを……おかしなガキどもと暮らし過ぎて耄碌したのか? ワンリーの言った通りだな」
侮蔑の笑みを浮かべるラオ。
「……そうですか。ラオの事は認めるのですか」
「ワンリー、お主と比べたら此奴は分かりやすい男じゃぞ」
「ふざけないでください……ッ!」
彼の怒りは頂点に達しつつあった。当然の結果である。
「……ともかく、いくら聞かれようが奥義など存在しないのじゃから、ここで教えられることもないんじゃが……いい加減帰してくれんかのう?」
「貴様の道場は俺の弟子たちが壊した。もう帰る場所などないぞ」
「ふぁっ?!」
あまりの衝撃発言に固まる師範。
「貴様の弟子たちも、今頃はどうなっているか分からんなぁ?」
「……では、尚のこと此処に長居する理由はないのう」
師範は言いながら構えを取り、自身の気を高め始める。
それを見たワンリーが周囲に合図をすると、幻夢流の門下生たちも各々構えをとった。
「ここに居るのは皆、一流の使い手ばかりです。……貴方が負けるとは思いませんが、技を出し渋っていたら相応の深手を負いますよ」
「よもや、こんな場所で組手をする羽目になるとはのう。……わし、もう結構疲れてるんじゃが」
「我々に協力する気になったら、いつでも歓迎しますよ。師匠」
そう言い残し、ワンリーは広間を後にする。
「私は真元流の武術を見物させてもらうとしよう」
ラオは少し離れた場所に陣取り、余裕の表情で腕を組む。
「まったく。年寄りは労わるものじゃぞ」
――かくして、真元流と幻夢流の激しい闘いが幕を開けるのだった。
*
一方その頃、道場の入り口では。
「あん? なんだ貴様ら? 弟子入り志願者か?」
「いえ、幻夢流の道場を攻略しに来ました!」
「道場破りだッ! 看板はいらないから、一番強いやつと闘わせてくれッ! あと、ついでに師匠も返して欲しいぞッ!」
見張をしていた門下生の数人が、突如として襲来した不審人物二名と対峙していた。
「道場破りだとぉ……? ガキどもが調子に乗るんじゃねェぞ……!」
「待て、コイツら……真元流だ!」
「なんだとォ……?」
それを聞いた門下生の一人が、凄みながら二人に近づいていく。
「ケッ! だったら俺が軽く捻り潰してやるよ」
「おお! お前が一番強いのかッ! よろしく頼むッ!」
言いながら、深々とお辞儀をするハオラン。
「今の僕には経験値が入らないので、雑魚戦はハオランに譲ります! ガンガン行きましょう!」
「任せろルッタッ! うおおおおおおおッ! 超絶最強無敵破壊拳ッ!」
「おや、何ですかその技?」
――数秒後、幻夢流道場の入り口と町の広場周辺は、跡形もなく吹き飛ぶこととなるのだった。
負傷者は幻夢流の門下生三名とルッタの計四名である。




