第97話 危険な二人組です!
「なんということでしょう……!」
シャオメイの抱きつき攻撃から逃れて無事に道場へと辿り着いたルッタは、目をまんまると見開いて驚愕する。
「道場が……開放感のある空間になってしまいました……!」
少し出かけている間に、拳法道場が跡形もなく破壊されてしまったのだ。
屋根も壁も取り払われ、残っているのは瓦礫の山だけである。
「一体、何が起こったというのですか……?!」
見るも無惨な姿となった道場を眺めながら、呆然と立ち尽くすルッタ。
「ルッターっ! 待つネーっ! ……って、えええええええええっ?!」
少しして彼に追いついたシャオメイも、崩壊した道場をに気づいて驚きの声を上げる。
「こ、これ……もしかして……ルッタがやったのカ?!」
「違います」
あまりにも酷い言いがかりであった。
「じゃあ……もしかしなくても兄貴カ?!」
容疑者は多い。
「なるほど……確かにハオランならやりかねません!」
自分のことを棚に上げてシャオメイの言葉に同調するルッタ。
次の瞬間、突如として瓦礫の中心が盛り上がり、中からハオランが姿を現した。
「ぬわーーーーーッ!」
彼は唐突に叫ぶ。
「ど、どうしたのですかハオラン?!」
「今のはよく寝た時のあくびネ。気にするだけ無駄ヨ」
「えぇ……?」
断末魔の叫びのように豪快なあくびをするハオランに対し、流石のルッタも困惑気味である。
「……ん? おお、ルッタとシャオメイか。よくぞ帰ってきたなッ!」
「兄貴、今はそんなこと言ってる場合じゃないネっ!」
「なにをそんなに慌てて……って、なぜ道場がなくなっているんだッ!?」
ハオランは自身の周囲に積み上がる瓦礫を見て言った。
「本当に何も覚えてないのカ? こんなことになってるのに……」
「ああ! 師匠との手合わせで消耗した体力を回復するため、今までずっと眠っていたからなッ!」
妹の問いかけに対し、彼は腕を組みながら自信満々に答える。
「ハオランが寝ぼけてやってしまったという可能性はありませんか?」
「……有り得ないッ! オレは寝相がいいからなッ!」
「となると、一体誰がこんなことを……?」
ルッタは何故か納得した様子で引き下がった。
「難事件だなッ! 犯人が見つかったらオレが闘うぜッ!」
「……そうですね。僕はレベル上限に達しているので、ハオランが経験値にした方が良いと思います!」
「任せておけッ!」
お互い、色々と通じるところがあるのだろう。
「どうして会話が成り立ってるカ……?」
ただ一人、シャオメイだけが腑に落ちていない様子であった。
ともかく、そんなこんなで事件が迷宮入りしかけたその時――
「やったのはたぶん……ワンリーなんだナ……!」
物陰から負傷したロウスーが現れ、ふらふらとよろめきながら言った。
「「「ロウスー!?」」」
皆は一斉に彼の元へ駆け寄る。
「――ひとまず、傷の手当てをします! 回復!」
「あ、ありがとうなんだナ……」
ルッタに治療を施され、感謝の言葉を述べながら力なくその場へ座り込むロウスー。
「ワンリーさんがやったって……どういうことネ! 師匠はどこ行ったカ!?」
「それは……」
シャオメイに問いかけられ、彼はゆっくりと事の経緯を話し始めるのだった。
「……ワンリーは……師匠に認めてもらえなかったんだナ……。実力は申し分ないけど、まだ心に迷いがあるって……。それで怒って、何も言わずに居なくなっちゃったんだナ……」
「ふむ。――実力があるなら認めるべきだと思うッ! ワンリーが怒るのも仕方ないなッ!」
ハオランの言うことにも一理ある。
「兄貴は黙って」
しかし、今はそんな話をしている場合ではなかった。
「その後、今度はオイラと師匠が手合わせをするはずだったんだけど……ワンリーが変な奴らを連れて戻って来たんだな……」
幻夢流の師範はラオという名の男であり、彼らの要求は真元流の奥義を教えてもらうことであった。
しかし、師範は「そんなものなど存在しないと」言って今まで取り合わなかったため、向こうが強硬手段にしたようなのだ。
「でも、どうしてワンリーさんがそんな奴らを……?」
シャオメイは首を傾げる。
「……元から……だったんだナ」
「え? それって、どういうことヨ?」
「ワンリーは元々幻夢流の人間でっ……奥義を探るためだけに真元流の修行をしていたんだナ……っ!」
ロウスーは怒ってワンリー達と戦おうとしたが、結局は師範に止められてしまったようだ。
「それで……師匠はオイラを庇って……あいつらに……っ!」
彼は悔しそうに地面を叩いた。
「しかし、戦っていないのであればどうしてロウスーはボロボロなのですか?」
一連の話を聞いたルッタは、そんな疑問を投げかける。
「ここに来る途中、急ぎ過ぎて転んだからなんだナ……えへへ」
一瞬、沈黙が辺りを支配した。
「……とにかく、僕はまだムゲン水がどこにあるのかを師匠から聞けていないので、このままだと困ります!」
そう言って皆に背を向けるルッタ。
「――もう一度町へ行って幻夢流の道場を攻略してくるので、皆さんはここで待っていてください!」
「待て、ルッタ!」
だがその時、ハオランが彼の肩をがっしりと掴んだ。
「……今回ばかりは、兄貴の言う通りヨ。状況も分からないのに、いきなり乗り込むなんて――」
「強い奴と闘えるならオレも行くぞッ!」
「……兄貴に期待した私が馬鹿だったネ」
呆れた様子のシャオメイに対し、ハオランはこう告げる。
「シャオメイ! お前は残ってロウスーの怪我の様子を見てやってくれッ! それも大事なことだッ!」
「……分かったヨ。こうなったら、二人で好きなだけ暴れてくると良いネッ!」
――かくして、二体の猛獣が山から解き放たれることとなった。
果たして、ラオ師範の幻夢流は無事に彼らを討伐することができるのだろうか? 裏切りのワンリーが身につけた真元流は彼らに通用するのだろうか?
町の未来は二人の男にかかっていた。




