第4話:小さな一歩
朝焼けが、廃ビルの屋上を淡く染めていた。
遥は眠そうな目をこすりながら、隣で静かに座る美咲を見た。
ふたりは夜通し話し続け、気づけば空が明るくなっていた。
「……帰らなきゃ、だよね」
遥がぽつりと言う。
「うん。でも、ちょっとだけ変われる気がする」
美咲はそう言って、立ち上がった。
その日から、ふたりは連絡を取り合うようになった。
遥は、スマホの通知を初めて「うれしい」と思った。
美咲は、学校での仮面を少しずつ外していった。
ある日、美咲が遥に言った。
「ねえ、外に出てみない?人が少ない時間なら、ゆっくり歩けるよ」
遥は不安そうにうつむいたが、美咲がそっと手を差し出す。
「一緒なら、怖くないよ」
遥は、ゆっくりとその手を握った。
公園のベンチに座って、缶コーヒーを飲みながら話すふたり。
遥は、風の匂いや木々の音が「生きてる」感覚をくれることに気づいた。
美咲は、父親の暴力について児童相談所に相談する決意を固めていた。
「ねえ、リリィだったらどうすると思う?」
遥がふと聞く。
美咲は笑って答えた。
「きっと、“逃げることは弱さじゃない”って言うと思う」
ふたりは、少しだけ未来を信じてみようと思った。
その夜、美咲のスマホに遥からメッセージが届いた。
「今日、外に出られてよかった。ありがとう」
美咲は、画面を見つめながら静かに微笑んだ。
小さな一歩が、確かにふたりを前に進めていた。




