第2話:沈黙の出会い
廃ビルの屋上。
夜の風が冷たく吹き抜ける中、遥はフェンスのそばに座っていた。
その数メートル先に、制服姿の美咲が立っている。互いに気づいているが、言葉はない。
沈黙が、空気を重くしていた。
「……なんで、ここに来たの?」
美咲がぽつりと口を開いた。
遥は少しだけ顔を上げるが、すぐに視線をそらす。
「別に。もう、どうでもいいって思っただけ」
その言葉に、美咲は静かに頷いた。
「私も。誰にも言えないことばっかで、疲れちゃった」
遥は少し驚いたように美咲を見た。
学校での彼女は、いつも笑顔で、誰からも好かれていたはずだった。
「……あんた、人気者じゃん。なんでそんなこと言うの」
「人気者って、仮面みたいなもんだよ。誰も本当の私なんて知らない」
沈黙がまた訪れる。だが、さっきより少しだけ柔らかい。
ふと、遥の視線が美咲のバッグに向かう。
チャックの隙間から、ちらりと見えたキーホルダー。
それは、アニメ『星屑のリリィ』の主人公リリィの小さなマスコットだった。
「……それ、リリィ?」
遥がぽつりと呟く。美咲は驚いてバッグを見下ろす。
「あ、うん。好きなの。見てた?」
「全部。あの最終回、泣いた。リリィが“生きてるだけで、誰かの光になれる”って言ったとこ」
美咲は目を見開き、そして笑った。
「私も。あのセリフ、ずっと頭に残ってる。なんか……救われた気がして」
ふたりは初めて、心から笑い合った。
同じアニメを好きだった。それだけで、少しだけ世界が優しくなった気がした。
「……ねえ、もう少しだけ話しててもいい?」
「うん。帰るの、もうちょっと後でいいや」
夜空には、星がひとつだけ瞬いていた。




