2.王の会議
とある地下墳墓。
かつて、シナリオボスが部下達と食事をしていた巨大円卓に座る4つの人影があった。
「時間だが、招集に応じたのはたった5人か」
部屋の奥側に座る、竜人族の老人、ヘルーガが嘆く。
パチンと閉じられた古めかしい黄金の懐中時計をアイテムストレージにしまうと、その鋭い眼光で出席者を見回す。
「待て、俺は帰らせてもらう」
立ち上がったのは、長い髪を後頭部で結った悪魔族の侍、カムイだ。
「カムイ、座れ」
「嫌だね、俺は師匠が来るかもと思ったから来ただけだ。大体、何話すんだよ」
「・・・3日前、私が発見した新クエストについてだ」
「ハッ、ヘルーガよ、ビビってんのか?」
「慎重になりもする。このゲームでは一度のミスも許されないのだ」
「たかがゲームだろ。それとも、ここで引導を渡してやればスッキリするか?」
侍が刀を装備した瞬間、場に緊張が走る。
このゲームがリリースされてから7年、レベル上限を叩くプレイヤーが現れてから4年。高レベル帯同士での対人戦はただの一度も起きた事が無い。
そんな場を弛緩させるように、二人の声が差し込まれる。
「ヘルーガ、俺はそのクエストとやら興味あるぜ」
「私も」
侍は、声の主である人間族の少年と少女の方をジロリと睨みつけると、吐き出すように嘲笑する。
「ヌルいな、こんなゲームのデータがそんなに大事か?」
「さっさと帰んな、カムイ」
これ以上話す事は無い、と言わんばかりの少年に侍は毒気を抜かれたのか、あっさりと引き下がる。
「ああ、そうさせてもらうよ。じゃあな」
侍の姿が消える。
残された四人の視界端に映るチャットに、カムイがログアウトしたというログが流れる。
「エレイン、ノア、感謝する」
場を宥めてくれた二人に、ヘルーガが頭を下げる。
「気にすんなよ、クエストに興味があるってのはマジだからさ」
答えたのは少年、エレインのみで、ノアと呼ばれた少女は軽く手を挙げて応えるだけだ。
ヘルーガは再度、頭を下げてから残された一人に視線を向ける。
「で、残ったという事は、アーテル、君もこのクエストに興味があるという事でいいのか?」
残された一人、機人族である、全長3mに迫る鋼鉄の巨人は機械音声で応答する。
「情報収集の一環としてです」
「そうか。まあ、それでも構わない。今日は集まってくれてありがとう」
一度場を仕切り直して、ヘルーガが報告を始める。
クエストの発見箇所、推測される発生条件を話してから、詳細内容に入る。
「内容としては、オーソドックスな防衛戦だと思われる。施設に侵攻してくる敵を全て排除すればいい」
ヘルーガが全ての報告を終えると、エレインが尋ねる。
「まだ開始はしてないんだよな?」
「ああ。慎重を期す為にも、現状揃えられる最高戦力で始めたい。とはいえ、クエストには受注期限があるから、待てても後45時間だ。ゲーム内時間でな」
「て事は、リアルで20分弱か。時間無いな」
このゲーム内では、時間が現実世界の100倍の早さで流れている。
とは言え、無制限に過ごせるという訳でもなく、一度意識を失ってしまうと、強制的にゲームを退出させられてしまう。加えて、再度ログイン出来るまで3日掛かるため、寝落ち厳禁である。
「じゃあ、すぐに行こうよ。どうせメンバーはこの三人で決まってるんだしさ。ね?」
これまで無言だった少女、ノアの提案。
彼女の言う三人が残された一人、鋼鉄の巨人へ視線を向ける。
「構いません。今回のクエスト、私は不参加とさせていただきます」
「だってさ。じゃあ、行こう」
「・・・分かった。クエストの場所は、先に話した通りだ。準備にはどれくらい欲しい?」
「15分くれ」
「よし、では、15分後に現地集合としよう」
少女と老人がテレポートで姿を消したのを見てから、残ったエレインがアーテルへ視線を向ける。
「そうだ。アーテル、約束のもんだ」
エレインが宙に浮かぶ半透明のコンソールを操作すると、ポーンと軽快な音と共にアーテルの目の前にシステムウィンドウが表示される。
「こんなに早く・・・暇人ですか?」
「こんなマゾゲーでレベルカンストしてる時点で、ほぼ全員暇人だろ」
「ふ、貴方のそのスタンス、私は好きですよ。ヘルーガさんや、空雪さんは怒りそうですけど」
「かもな。さっきの話だが、ヘルーガも後から参加するのは特に気にしないと思うからよ、いつでも参加してくれて構わないぜ」
「ええ、然るべきタイミングで参加させていただきます。それでは」
アーテルがテレポートで姿を消す。
「もうちょっと、みんなで楽しめないもんかねえ」
残ったエレインは一人呟くと、自身の準備の為にホームへとテレポートした。