1.プロローグ
『エクストラ・ユナイティア』
突如として電子の海に現れたその作品は、あらゆる作品を過去にした。
意識を完全にゲーム内のキャラに移す、完全同化型ゲーム初の対人戦をメインとした、RPG。
骨太な物語、膨大な装備、圧倒的な自由度、ゲームプレイヤーにとって魅力的な要素の詰め込まれたその作品は、多くのプレイヤーを虜にした。
だが、そのゲームが流行する事は無かった。
一時期、最大同接数3000万人を超えていた筈のそのゲームは、僅か四ヶ月後に1万人も遊んでいないマイナーゲームになってしまったのだ。
理由は単純、その圧倒的な難易度にある。
まず、レベル制でありながら、高度なプレイスキルを要求される点。
具体的には、レベル50であったとしても、回避や特殊攻撃を上手く使えなければ、レベル20の敵にすら苦戦する。しかも、それを自分の身体を操作するようにやらなければならない。
次に、対人要素がある事による治安の悪化。
このゲームは街中や、特殊イベントエリア以外で普通にプレイヤー同士の攻撃が有効化する。非有効エリアを把握していない初心者プレイヤーを意図的に狙う集団によって、新規プレイヤーの参入が殆どなくなってしまった。
最後に、一度の死亡でプレイデータが完全に初期化されるという点。
これが最もプレイヤー達にとっては不評だった。
非常に高難易度でありながら、レベル制RPGという要素を主軸としたこのゲーム。中堅勢で一度死んだ人間は、ほとんどが復帰しなかった。
これが原因でボリューム層のプレイヤーを殆ど失ったのだ。
今、ゲームをプレイしているのは物珍しさで始めた初心者プレイヤーか、地獄を生き抜いてきた歴戦のプレイヤー達のみだ。
特に、ゲーム内レベルをカンストさせた、たった12名のプレイヤー達は、畏怖と敬意を込めて『王』と呼ばれていた。