表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役転生…させんっ!  作者: とる
悪役令息転生
9/29

09. 第二層古戦場エリア

 今日から第二層の古戦場エリアだ。第一層は最短距離をマラソンである。道中現れる魔物は随分と間引きしたので、走りながら銃魔法を撃って先に進む。第二層に着いたら水分補給し休憩して攻略開始だ。


 鎧を着たスケルトンソルジャーが岩場に敵影が無いかを確認しながら進んでいく。彼らは戦いの記憶をなぞっているのだ。本当に敵がいるわけではなく、在りし日にそのように行動して戦っていた。それを再現しているのだ。


 チューチュー


 突然、鼠が岩の影から顔を出す。

 刹那、ゾンッ!と錆びた剣が空に孤を描き、鼠の首を撥ね飛ばした。離れた場所にいたスケルトンソルジャーが驚くべき踏み込みで剣を一閃したのだ。彼らは過去をなぞるが現在に対応できないわけでは無い。彼らの仲間以外がこの戦場に姿を現せば、敵と見做して攻撃してくる。


 ゲームでは、このエリアは大量の敵と戦い進んでいく無双ルートか、なるべく見つからないように進むスニーキングルートのどちらかをプレイヤーの好みで決められた。どちらも目的地は奥地にある砦だ。難易度はスニーキングルートの方が高い。敵に捕捉されれば大量の敵が群がってきて無双ルートに変わる。つまりスニーキングルートとしては失敗となる。

 さて、俺が選ぶのは勿論スニーキングルートだ。無双ルートは主人公がサブヒロイン集めまくってハーレム小隊作って挑むようなルートだ。ソロの俺がやるようなルートじゃない。


 第二層の入口付近にはスケルトンソルジャーなどの魔物はいない。彼らの戦場はもう少し進んだ所からだ。無双ルートに進むのなら、ここから真っ直ぐ砦に向かって魔物に見つかればいい。スニーキングルートの場合は右から反時計回りに砦に向かう。もちろん魔物に見つかってはいけない。


 古戦場エリアは厚い雲が垂れ込めた薄暗い空に、疎らに草木が生えた平原とその周りに起伏に富んだ岩場があるフィールド型と呼ばれるダンジョンだ。空や環境は本物ではなく、ダンジョンが創り出した別次元の幻影と言われている。ダンジョンが決めた範囲外はゲームでは進入不可エリアだったが、現実ではどうなってるかはわからない。ダンジョン研究家の手記に書いてあったが、範囲外に出た者は内の者を認識できなくなり、戻ることも出来なくなるらしい。そして忽然と居なくなる。中々恐ろしい仕様だ。


 俺は右のスニーキングルートに進んだ。左はゲーム知識が役に立たないので選ぶことは無い。スニーキングルートは岩や起伏で身を隠すポイントが沢山ある。魔物の索敵から逃れ、時には倒し、砦まで魔物に見つからなければクリアだ。

 ゲームでは派手なエフェクトのある魔法や剣技などを使うと高確率で魔物に発見された。敵を倒すには通常攻撃か、特定のキャラが持つ暗殺技を使う。ただし戦闘時間が長引くと発見確立は高くなる。ここはしっかりレベリングしていないと攻略が難しいルートなのだ。


 俺は岩陰にしゃがみ込み、手鏡の反射でスケルトンソルジャーの動向を確認する。このルートで初めに出てくるのは必ず一体だ。スケルトンソルジャーが俺がいる位置とは反対方向を向いた。俺は岩陰から腕を出し指を構える。指先にはサプレッサーを嵌めている。


 パスッパスッパスッ、三発の空気が抜けるような音がした後、スケルトンソルジャーの後頭部に三つの穴が開き、骨の身体がブルリと震えた後、ガシャリとその場に崩れ落ちた。暫く様子をうかがった後も、周りに発見されたような雰囲気は感じない。サプレッサーによる減音効果は有効なようだ。

 俺はスケルトンソルジャーの骨と防具の山の中から小指の先ほどの魔石を見つけて粉砕する。アンデッドは魔石を残すと復活が早い。何度も通う予定なので数日は復活しないようにキッチリ潰していく。こんな小さな魔石は二束三文なので回収はしない。


 先に進むとスケルトンソルジャーとゾンビアーチャーがいた。匍匐前進で岩陰を伝ってゾンビアーチャーの後ろに回ると、喉に腕を回し拘束し後ろから胸にナイフを突き刺す。魔石に直撃しなくても衝撃で一時的に無力化出来るので、大人しくなったゾンビアーチャーを静かに転がし、まだ異変に気付いていないスケルトンソルジャーの頭にサプレッサー付き89式銃魔法の弾を叩込んで無力化した。


「うげっ、服にゾンビ汁が付いた。臭っ!?」


 敵に接して倒す機会が多くなるこの階層からは服の汚れが深刻になりそうだ。ゾンビの臭いに辟易しながら魔石を潰して復活出来ないようにする。攻略速度が第一層よりだいぶ落ちるので先は長そうだ。ちなみに敵に見つかった場合、数日は無双ルートが強制的に続くので、時間をロスしないためにもミスは許されない。

 その後もスニーキングルートの攻略を少し進めて、その日は撤収した。暗殺技術がどんどん上がっていくな。クマ親方の言った通りになってて帰り道で一人苦笑してしまった。



 第二層の攻略を始めて数日後、替えの服が減ったので一旦屋敷に帰ることにする。戦利品も厳選しているとはいえ、増えてきたので寮の部屋に置いとくのも邪魔になってきた。いくつか持って帰って侍従に処分させようと思う。

 寮の部屋に伯爵家の使用人を入れたくなかったので、馬車まで荷物を背負っていったら、御者と下男が青くなって飛んできた。侍従には呆れられたが特に小言は言われなかった。こいつは謎に俺への信頼感が高いので、追求して欲しくないときは控えてくれるので助かる。


 王都のバイクローン伯爵邸には俺しか居ない。王都で社交するのが大好きな父と母には珍しく、領地へと戻っている。大半の使用人もそれについて行ってるので、屋敷の広さの割に閑散とした印象がある。学園地下遺跡の戦利品は俺が外のダンジョンで手に入れたモノとして侍従に処分を命じた。俺が一人でダンジョンに潜ったと言ったことには流石に侍従も苦言を呈してきた。確かにその通りなので甘んじて受けとる。受け入れるとは言ってない。執務室に入って馬車で聞かなかった近況の報告を受ける。


「旦那様がファルド様に農作物の買取価格下落の対策について、意見を求められておりました。現状の詳細についてはこちらにまとめております」


「ああ、それで父がわざわざ領地に戻ったのか。社交シーズンが終わったとはいえ、王都を離れたがらない二人だからな」


「はい。本当はファルド様に一緒に戻って欲しかったようですが、連絡が付かず…」


 ダンジョンに朝から晩まで入ってるからな、すまない。


「想定よりもかなりの豊作見込みなのか、俺が王都から意見を言ったところで意味ないな」


 例の新しい農法を本格的にバイクローン伯爵領でも導入した。その結果、相場を荒らすほどの豊作となったらしい。この分だと聖女令嬢の子爵領から契約で得られる利益も目減りしそうだな。


「まあ、価格の下落は予想できていたことだ。そのために加工品で付加価値をつける用意はしていた。アレはどうなっている?」


 俺がそう言ったとき、執務室のドアから侍女の先触れの報告が聞こえた。俺は侍従に了承の意を伝え、お茶で喉を潤し、椅子に深く座り直した。



「お久しぶりでございます、兄上様。お忙しいところ、お目にかかる機会をいただき、大変光栄に存じます。お変わりなくお過ごしでいらっしゃいますか?」


 以前に実家で出会った異母弟が王都の屋敷に来ていたらしく挨拶に来た。見た目や所作が見違えるようにキレイになっており、つけてやった侍女や予算が有効活用されているようだ。


「おお、これは久しいな。私は変わりない。そなたも精進しているようで心強く思うぞ。…ところで普段は兄上でいいぞ。様は堅苦しいから着けなくていい。俺も普通の話し方にする」


「はい。心得ました」


 俺の言葉に弟が朗らかに笑う。暗いところが無くなって何よりだ。弟には俺の将来設計で大事な役割を担ってもらうからな、兄弟仲が良いに越したことはない。少し雑談した後、先ほど話しの途中だったアレについて弟に聞く。


「さっき話していたんだが、お前に任せていた()()()の製造は何処まで進んでいる?」


「はい。販売開始本数の3割まで用意できています。兄上のご指示通り、火と水と風それぞれの魔法使いを集めて訓練しておりますが、蒸留技術と風味付け技術の習得に予想より手間取ってまして、実働出来るのは3人ほど、約1割です。量産体制がまだ貧弱ですので、引き続き人員の募集は進めていきます」


 よどみなく的確に弟が答えることに驚いた。事業の手伝いを弟の教育の一環に使おうと考えていた程度だったが、この分だと侍女任せでは無く、自身で把握して動いていそうだ。侍女が渡してきた資料もわかりやすく纏まっている。


「優秀だな。いいぞ。よく考えて運営出来ている。量産体制の拡充は急務だ。余剰作物の供給が増えるからな」


「豊作の報は聞き及んでおります」


「ああ、それと販売できる分は先に出してしまおう。ちょうど領地に父上が帰っているしな。近隣への宣伝を手伝って貰えばいい」


「はい。宣伝文句は、ドワーフの秘酒の謎を解いて火酒を再現、とかですか?」


「秘酒と火酒か、俺は嫌いじゃないぞ、そのセンス。まあ、宣伝文句は父上と相談してくれ。…父上とは話せるな?」


 弟はネグレクトされていたからな。父とわだかまりがあるなら話をするのは酷かと思ったのだ。


「はい。問題なく話せます。本邸での修学の時にお話しする機会がありまして、たまに現況のご報告の時間を頂いております」


 弟は少し話せば優秀さが伝わるからな。父も使えると判断したのだろう。

 領地の父へ送る意見書については、余剰作物を蒸留酒などへ加工することで付加価値をつけることを簡単に書くことにした。詳細は弟がいるので説明させればいい。


 領地のことで弟と暫く話していると、弟につけた侍女がチラチラと意味ありげに目線を向けてくる。俺の侍従が礼を失っしている彼女に厳しい目を向けているので、彼女は解任して弟につけられたことを不満に思っているのかと思ったが、そういう雰囲気では無い。俺は疑問に思いつつ侍女に声をかけた。


「どうした。何か言いたいことがあるのか?」


「は、ご歓談中に申し訳ございません。弟君(おとうとぎみ)のサロンへの出発の刻限が迫っておりまして、そろそろご準備が必要かと」


 中立派貴族の主催で若年の貴族の集まりが開かれるらしい。弟は社交の練習の一環として、そういった催しに積極的に参加しているそうだ。サロンに行く時間と聞いて残念そうな顔をしていた弟がパッと顔を輝かせて声を上げた。


「そうだ!兄上もご一緒にいかがですか?」


「用事があって行けないんだ。すまんな」


 面倒臭くて行きたくない。俺は弟の提案をすげなく断った。瞬時にシュンとした子犬みたいになった弟の表情に笑いが出る。


「ははは、社交の練習ではあるが、楽しんでこい」


「はい。行ってまいります!」


 弟はだいぶと陽の気質だな。ゲームだと黒髪陰キャなビジュアルだったが、今や爽やかな明るい美少年だ。母は違うが顔立ちも何処か俺に似てるし、俺が15歳だから弟は13歳か、もう少し大きくなったら俺の色違いの2Pキャラとなれるかもしれんな。いや色違いキャラとしての使い道なんか無いが。


 侍従が何か言いたそうに俺を見てくる。お前もか。


「なんだ?」


「いえ、ファルド様も社交を増やされるべきかと。最近はご趣味に邁進してますます減らしておりますよね?」


 ぐっ、建前ではあるが研究を趣味と言うか、まあ確かに貴族家次期当主がのめり込むべき仕事ではないがな。


「バイクローン家の行く末に関わる重要な事柄だ。期間は限定している。暫くは外野からの雑音はお前の方で止めておいてくれ」


「畏まりました」


 侍従に手を振って退出させ、一人になって椅子から立ち上がると背筋を伸ばす。レースのカーテンの隙間から日差しが射し込む窓に移動してバルコニーへと出た。


 王都の伯爵邸は王城の近くにある。王都の北には大河が流れており物流の中心となっている。その大河からは離れて中心よりやや北寄りに王城は建っていて、その周りに公爵邸、侯爵邸、辺境伯邸、伯爵邸と爵位や派閥で区割りされて屋敷が建っている。

 伯爵邸の俺の執務室は三階に用意させており、階段を上るのは面倒だが眺めは良い。バルコニーからは白亜の王城とその向こうの大河の水面に反射する陽の光が目に飛び込んできてちょっと眩しいが、バルコニーに出したカウチソファに寝そべってボーッとしてると良いリフレッシュになる。弟にあるって言ってた用事がこれかと誰かに怒られそうだが、これも忙しい次期領主の精神の健康のためだ。重要だろ?


 リフレッシュ休暇を満喫した後、父への意見書と弟への指示書を纏める。後のことは侍従に任せて、俺は遠乗りに着ていくような頑丈な服を何枚か持って寮へと戻った。



諸事情により明日は12時30分の投稿になります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ