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悪役転生…させんっ!  作者: とる
悪役令息転生
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08. 王都繁華街

 王都の繁華街は陽が落ちても魔石灯が街路に掲げられているので人通りが途絶えない。道沿いの店も魔石灯で店内の明かりを確保しているので、夜でも客足は絶えない。異世界人の住んでいた街ほど明るくはないが、人の活気は王都の方が上かもしれない。

 俺は晩飯を食う店を探して繁華街を歩いていた。せっかく一時的とはいえ寮住まいなんだから自由を満喫しようと思い、学園の外に食いに出てきたのだ。

 ちなみに寮に門限はない。寮住まいは下級貴族が多いとはいえ、彼らも夜会に出たりはする。門限を決めても運用できないのだ。なので学園の警備は夜も忙しいブラック労働環境となっている。


 繁華街の奥に来ると客引きの商売女がやたらと声を掛けてくる。俺の格好はダンジョン攻略時に着ていた汚れた服のままなので、そこらの通行人より汚れてる筈なんだが、汚れてても服の仕立ての良さで金持ってそうに見えるのかもな。

 商売女を適当に躱して、客入りが多い飲食店を選んで入ってみる。店の中はカウンター席とテーブル席がいくつかあり、ほぼ満員に近い客数だ。カウンターに座って頭頂部が薄い店主の親父に話し掛ける。


「ワインをくれ。それと腹に何か入れたい。何がある?」


「…ワインはありませんぜ。うちにあるのはエールぐらいでさあ。飯は腸詰肉と芋のスープにパンを出せるぐらいでさあね」


「それでいい。それとあっちの奴が食ってる葉っぱみたいなのもくれ」


「キャベッジの酸っぱい漬けでさあね」


 俺はカウンターに銀貨と銅貨をバラバラと置く。いくらか聞いてないから適当だ。店主の親父が銅貨を数枚とって「これだけでさあ」と言ってエールを入れに行った。


 エールがくるまで手持ち無沙汰なので店内を不躾にならない程度に眺めていると、冒険者風の男達三人が酒を飲みながら噂話に興じていた。


「おいおい聞いたか?冒険者ギルドで珍しい喧嘩があったそうだぜ」


「はあ?喧嘩なんて珍しかないだろ」


「聞いた聞いたそれ。例の貴族のお嬢様パーティに絡んだ馬鹿がいたんだろ?」


 貴族のお嬢様パーティなんて興味深いワードが出てきた。店主の親父がテーブルに置いたエールとキャベッジの酸っぱい漬けを肴に集音の魔法も使って話を聞いてみる。


「あれか?別嬪二人に護衛の野郎一人のお忍びできてないパーティだろ」


「そうそれ。王都名物の貴族学園冒険者パーティだ。今年は一組しかいないから特定余裕だな」


「ヒーラーのお嬢様が一番いいよね。清楚そうで」


「いやいや、槍使いのお嬢様だろ。キリッとした表情がそそるぜ」


「じゃあ俺は剣士のイケメンで」


「「えっ!?」」


 三人組のパーティか。特徴聞いただけで誰か特定できるな。十中八九、主人公パーティだろ。聖女令嬢と武闘派令嬢がパーティメンバーかな。

 というか主人公め、サブヒロインの攻略をしてないのか?この時期だとケモミミとか巨乳魔女とかいる筈なんだが。まあ俺がどうこう言える立場じゃないから知らんけど。


「あんな貴族丸出しの清潔な格好で冒険者でございは無理だよな」


「そうそう。こないだ先に受付してたんで、後ろに並んだらいい匂いしてたわぁ」


「毎年いるよな。学園生が何故か冒険者に憧れるやつ」


「三日ぐらいで夢破れる定期。冒険者なんて底辺労働者だっつの」


「ギルドも貴族の子供とトラブル起こしたくないから、ギルドメンバーには徹底してちょっかい出すなって言ってんだけどな」


「数年に一回は馬鹿が出るよね」


 冒険者の一人がしみじみと言う。まあ冒険者って格好良さげな名前つけて誤魔化してるけど、他の奴が言ってたように、保障の無い日雇い危険労働従事者だからな。他に仕事が無い奴の最後のセーフティネット的位置付けだ。勿論トップクラスの奴はもの凄く儲けているし、相応に地位も高いけどな。

 俺は岩塩を貰ってキャベッジの酸っぱい漬けに削りかけて食ってみた。あーこれは箸が止まらんって奴だ。箸じゃ無くてフォークだけど。


「んで、どっかの田舎モンの馬鹿がヒーラーちゃんの肩に手をかけたらしい」


「絶許(怒)」


「槍使いちゃんが秒速でその手を払い除けて険悪な雰囲気になってた。護衛のイケメン君は穏便に済まそうとしてたけど」


「あの場面じゃ悪手だよね。馬鹿の仲間が調子乗って女寄越せとか言いだした瞬間、ドーンですわ」


「ドーンってなんだ?」


「魔法魔法。槍使いのお嬢様が石突きでギルドの床陥没させやがった」


「陥没って…ギルドの床って土間だよな」


「そこで馬鹿も引きゃいいのに、馬鹿だから殴りかかっちゃって返り討ちにあってたわ」


「いやあ、強かったよね槍使いちゃん。四人を一瞬で倒してたし」


「ギルド職員が止めに来る前に終わってたもんな。あいつら減俸じゃね?」


「んで、そいつらどうなったんよ?」


「当然死刑、と思いきやヒーラーちゃんが止めて、厳重注意ってことになった」


「甘っ!」


「さすがヒーラーのお嬢様。聖女かな?」


「田舎でブイブイ言わせてたノリで王都にやって来て、一発アウトになりかけたのにラッキーな奴等だぜ」


「ほんとになぁ」


 ふーん。ゲームでもこんなイベントがあったような記憶があるな。異世界人はサブヒロイン集めまくって攻略してたから、相手は20人ぐらいの戦闘イベントだったけど。

 けど、貴族に喧嘩売った相手を見逃すねぇ…裏に連れて行った後、埋めたんじゃねえかな?解放して逆恨みで襲撃なんかされたらギルドの責任問題になりかねないし。ギルド内で貴族に手を出す馬鹿なんか生かしとかんでしょ。たぶん。


 外に晩飯を食いに出て、思わず主人公の動向を知ってしまった。やっぱり学園生が冒険者やるのはバレバレなんだな。あれ?俺も貴族だってバレてる?

 俺はカウンターの向こうの店主の親父に目を向けた。ついっと、さり気なさを装って目を背ける店主の親父。これはバレてるな。腸詰め肉と芋のスープに映った自分の顔を見て思う。この顔と髪と肌の状態の良さを見れば、多少汚れてても上流階級の人間ってわかるか。そうとう盆暗じゃ無い限り。


 晩飯を食い終わって店の外に出た。なかなか良い店だったな。味は勿論バイクローン家のコックが作る料理の方が上だが、非日常感があるガヤガヤとした賑やかな感じが今日の俺にはあっていた。また気が向いたら来ようと思う。


「そういやアレ受け取りに行かないとな。明日から第二層行くなら必須なの忘れてたわ」


 寮に戻ろうとした脚を職人街に向ける。向かう先は鍛冶屋だ。鍛冶場は開いてるか?まあ閉まってても注文したモノを受け取るだけなのでいいだろ。



 職人街の表通りにある店は、この時間だと飲食以外は閉まっている。ガハハハという笑い声と酒の臭いが外まで漂ってくる店の前を通り過ぎ、脇道から裏通りに入る。

 屋根が傾いている鍛冶場に住居がくっついたような家に勝手に入っていく。扉がないから素通りしただけだ。


「店主ー!注文の品を貰いに来たぞ!」


 鍛冶場でカンカンと鎚がうるさい音を立てているので、大きな声で呼びかける。


「親方と呼べー!」


 鍛冶場が静かになり、のっそりとクマみたいなおっさんが姿を現す。クマみたいというか、まんまクマ耳を持ったクマ獣人だ。俺が学園地下遺跡を攻略し始めてから、第二層で使う装備を発注していたのだ。


「例のモノが出来てるだろ?見せてくれ」


「暗くなってから来んなよ。このへんもそんなに治安はよかねえぞ」


 クマ親方がブツブツ言いながら、棚から弁当箱サイズの木箱を取り出してテーブルの上に置く。俺もテーブルに寄ってクマ親方が箱を開けるのを待つ。


「いくつか粘土で試作を作った中でお前が選んだモノを鋼で作った。とんでもなく複雑な構造で苦労させられたわ」


 木箱の中で布で保護されていたのは黒光りする金属の棒だった。棒の両端には指が入るサイズの穴が開いている。これはサプレッサー(減音器)だ。


「この指を入れる側の大きな空洞はまだしも、先端の方の内部にいくつも隔壁を入れるなんて構造は何なんだよ。気が狂いそうになったわ!」


「ははは!それでもしっかり作ってくれたじゃないか。試し撃ちしたいんだが、この時間でも大丈夫か?」


「鎚を振るっても文句がでない場所だ。気にすんな」


 俺達は鍛冶場の裏に移動した。剣や槍など売り物の試し斬りをする場所だ。適当な木片を拾って壁に立て掛ける。


「お前の意見を可能な限り盛り込んだつもりだが、不具合があれば言え」


「OK。よしよし、人差し指への嵌め心地もちょうど良いな。そうそう、この出っ張りを中指で押えて撃つとき抜けなくするんだよ」


 俺は指にはめたサプレッサーを、5メートルほど離れた所から木片に向ける。


「さあ、音量は変わるかな?」


 89式銃魔法を発動して木片に弾を発射する。バスッ、バスッ、バスッ、バスッと小気味良い間隔で木片に穴が開いていく。指先から出るマズルフラッシュが抑えられ、音も随分と静かだ。


「──いいね。思ってた以上に良い出来だ。さすがだな」


「ふう、成功か。良かったぜ。やっぱすげえ魔法だな。どんなに目をこらしても弾が見えねえ」


「俺の奥の手だ。言いふらすなよ?」


「客の秘密は喋らん。それにしてもその威力で音も無しかよ。暗殺にでも使うのか?いや、余計な詮索だな。すまん」


「余計な気をまわさんでもいい。魔物に気付かれないようにダンジョンを探索する必要があってな。そこで使う」


 奥の手と言っても何が何でも隠したいモノでも無い。他領の騎士の前でも使っているしな。それにしてもサプレッサーを開発するのにはかなり金を使った。銃魔法を作り直して音を出ないようにすることも考えたんだが。これだけ慣れた魔法をリセットして慣らし直しするのは面倒臭い。着脱できる器具を使って魔法を変化させられるなら、その方が結果的に汎用性が高くなると考えてクマ親方に開発費を渡してサプレッサーを作ることにしたのだ。


「残りの報酬だ。それと追加報酬もだ。今後も何か頼むかもしれんからな。受け取れ」


「面倒くせえのは嫌だぞ?貰っとくが」


 クマ親方は腕の良い鍛冶士だが、ゲームでは出番が無かった。主人公の懇意にしている鍛冶士は褐色ドワーフ美少女だったからな。クマ耳おっさん鍛冶士なんてお呼びじゃなかったんだろう。

 そんなクマ親方をなんで俺が知っていたかというと、ゲームの裏設定資料に没キャラとして載っていたからだ。褐色ドワーフ美少女のイベントの鍛冶コンテストで戦うライバルキャラというアイデアもあったらしい。結局没になってクマ親方も出番無しとなったが。


 不具合がないかクマ親方が確認したサプレッサーを木箱に戻し、小脇に抱えて寮に戻ることにした。

 帰路の途中で見上げた夜空は晴れ渡り、星々が瞬いていた。異世界人の記憶の夜空はこんなに星は無かったな。…記憶にある星座は見当たらないな。別の惑星か。

 ここが惑星として、異世界人の魂はどうしてここへ来たんだろうな?どうやってこの世界の未来をゲームに出来た?それともここは神がゲームを元に創った世界なのか?心で自問しても声が返るわけでも無く、詮無き考えだったと自嘲する。

 俺は地上に眼を戻し、声をかけてくる客引きをかわして寮に戻った。


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