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悪役転生…させんっ!  作者: とる
悪役令息転生
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07. 悪役令嬢

 パチン、パチンと手慰みに扇子を鳴らす。扇面を傷めることもあるから良くない癖だけど、バーテイランス侯爵家の財力をもってすれば扇子を何本ダメにしようと影響ありませんわ。いえ、そんなことよりも気にくわないことがあります。


「バイクローン伯の御嫡男はまだですの?」


「も、申し訳御座いません。本日もお休みのようで、学園にも来ていないようです」


 同じ第二王子派の方が畏まって次期バイクローン伯の不在を伝えてくる。ビキッと扇子から嫌な音がした。


「いいわ。居ないなら演習の訓練を始めましょう。想定1からの動きを確認しなさい」


「はい!畏まりました」


 黄クラスの生徒達による演習の訓練が始まった。2つに分けた部隊を用意し、想定した状況に合わせた動きを隊員に叩き込んでいる。わたくしは指揮官として木陰に椅子とテーブルとお茶にお茶菓子を用意して監督しているのですわ。


 ティーカップを傾けながら考えるのは演習の訓練に参加しない次期バイクローン伯のこと。あの方、訓練をはじめてから一度も参加したことがありません。中立派や第一王子派の方でもクラス対抗戦ということで、わたくしの要請を快諾(?)して参加して下さっているのに!

 おもむろに詠唱魔法を行使して戦場に水球を振らせる。攻勢に入った方の部隊のうち、少なくない数が防ぐ暇なくびしょ濡れになった。


「常に敵の攻撃に備えなさい!聖女の魔法はこの何倍も速いですわよ!」


「「「はい!」」」


「いい返事ですわ。皆さん意気軒昂で大変よろしいですわよ」


 そう!このようにクラスが纏まっているのに、次期バイクローン伯ったらサボって和を乱して!

 赤クラスの主力は聖女にその護衛騎士の二人。第三王女も高い実力を持ってますけど、表には出したくないようですから演習では手を抜いてくるでしょうね。

 黄クラスは第二王子派が主力ですから魔法攻撃は強いですが、聖女の護衛騎士を抑えきれるかどうかといったところ。わたくしは聖女を抑えるのにあたるでしょうし、やはりもう一人、実力者が欲しい…

 以前、魔法の授業で次期バイクローン伯が騎士見習い達に見たことも無い方法で魔法の手ほどきをしていましたわ。後で教師に詳しく話を聞くと、他人の魔力を操って魔法を使わせていたとのこと。そのような手法、聞いたこともありません。そんなことが出来るなら魔法戦力にならない人員も戦力化出来るのでは?ブルリと身震いしてしまいました。


「貴女、ちょっとこちらにいらして?ああ、その水の入ったポットも一緒にね」


 お湯の温め直しをしていたメイドを側に近寄らせる。水のポットはテーブルに置かせた。


「水を温める魔法を使う時の格好をしてちょうだい。魔法は使わなくていいから」


「畏まりました」


 出来たメイドは余計なことを言わずにこちらの要望をこなす。わたくしは彼女の腕にそっと手を添え、魔力を馴染ませるイメージで流す。


「水を温めて」


「──炎の精霊よ、水を包み、温もりを…んっ、与えよ」


 メイドが私の集中を妨げないように囁くような声で魔法を発動する。彼女が詠唱している間、わたくしは自身の魔力で彼女の魔力の動きを乱して発動を妨害しようと試みていた。他人の魔力を操る試みは過去に何度やっても無理だったので、ただの妨害を試したのだが、魔力の動きは相手に何の影響も与えず、わたくしの全力に近い魔力を濁流のように流して少し邪魔が出来たかどうかといったところ。


「ふう、ダメね。どうしたら出来るのかしら。それともわたくしの魔力でも足りない?」


 結局どうやったのかわからなかったわ。けど次期バイクローン伯がわたくしにも計れない魔法の腕を持っていることは確かね。


「次期バイクローン伯と話をしたいわね。一ヶ月後の演習で勝つためにも彼の協力は不可欠だわ」


 次に彼が教室に現れたらサロンに連行して、演習への協力と魔法技術についての質問と議論をしましょう。うん、決めましたわ。

 ──この時はまさかこの後一ヶ月も次期バイクローン伯が姿を見せないとは思ってもいませんでしたわ。


 ◇


 ミノタウロスの撃破後、数日かけて地下街の最奥に辿り着いた。第一層のボスの座にはアラクネの変異種が君臨していた。蜘蛛の身体は装甲のような硬い外殻に守られている。上についている人型の部分はフルプレートアーマーを着た武人になっており、長大なハルバートを器用に振り回す。大きさは高さ3メートル、横幅6メートルといったところだ。

 場所は大きな教会の中、太い石柱が建ち並び、蜘蛛の糸が張り巡らされ、どういう仕組みか地下なのにステンドグラスから射し込む光が荘厳な雰囲気を作り出している。武人アラクネはその機動力を生かした三次元戦闘で挑戦者を退けるのだ。


「先手必勝、喰らえ!」


 教会に入って武人アラクネの姿を確認したら速攻でダカダカと89式銃魔法を叩き込む。硬い外殻に阻まれて中々ダメージが通らないが、外殻は少しずつ剥がれ落ちていっているので、防御力デバフを与えんと攻撃を続行する。一方的に攻撃するボーナスタイムが終わると、武人アラクネが張り巡らされた糸の上を地上を走るかのように迫ってくる。上下左右と縦横無尽に動くので被弾率を大幅に下げられた。

 ハルバートの長い柄が風を切り、相手の脳天を断ち割らんと振り下ろされる。俺は腰の後ろのサバイバルナイフを右手で逆手に抜きだし、ギャリンと戦斧と火花を散らしながら受け流した。

 アラクネの巨体を回り込むように躱しながら左手の89式銃魔法を撃つが、蜘蛛脚に蹴り上げられて阻まれる。巨体の蹴り上げは俺の身体を後ろに吹き飛ばす威力を持ち、ダメージは結構有ったが意図せぬこととはいえ、距離をとることが出来た。


 ステンドグラスの光が降り注ぐ石柱の林の中を89式銃魔法を撃ちながら駆けていく。武人アラクネは空中を石柱や蜘蛛の糸を足場に、銃弾を避けながら距離を詰めてハルバートで攻撃してくる。外殻がかなり剥がれて攻撃が痛くなったようで銃弾の避け方に必死さが見える。遠距離攻撃をしてこないのもありがたい。もし空中から魔法でも降らされたら鬱陶しかった。


「落ちろ!」


 武人アラクネが飛び移ろうとした蜘蛛の糸を、石柱に繋がっている部分を銃弾で削って切り離す。糸を足場に出来なかった武人アラクネが体勢を崩して無防備に落ちて来るので、ありったけの連射速度で銃弾を撃ち込んだ。

 脚は5本折れ、人型部分も片腕が吹き飛んでいる。地面への衝突を回避するために尻から糸を出し柱にぶら下がったが、そうなれば俺にとっていい的だ。残りの脚もへし折ろうと一本だけ残った片側に弾丸を集中する。

 空中でなす術もない武人アラクネは、最後のあがきにハルバートを俺に向かって投げつけた。矢のように投げつけられたハルバートを半歩横にずれて避ける。戦斧の先についた槍が石畳を砕いて突き刺さる。槍を避けた俺は両手で89式銃魔法を撃ち続け、片側の脚を全部折り、腹部の吐糸管も穴だらけにしてやった。糸が切れた武人アラクネは地面に叩きつけられ、逃げ出すことも出来ずに蜂の巣になり絶命した。


「──ふう、ソロで撃破成功!」


 いやあ、硬い敵だった。両腕が痛え、煙出てるし。物陰に隠して無事だった背嚢から上級ポーションを取り出し、両腕に振りかけて治療する。久しぶりに魔力がガッツリ減った感覚がする。破壊された教会内で無事だったベンチに座り込んで、背嚢から出した薄いワインで水分補給した。


「痛ててて、結構いろんなとこ当てられたな。うわ、蹴られた腹も痣になってる」


 学園地下遺跡第一層ボスとの戦闘は、致命傷は受けなかったが結構ダメージを受けた結果となった。ゲームなら4人パーティーで挑むと考えれば、かなりいい結果だが、今後を考えると不安が残る。以前、湖で格上の魔族を暗殺した時の魔法の改良を進めるか。一発撃つのに何分も掛かってたらダンジョンじゃ使いにくいしな。


 瓶に残った上級ポーションを手で傷痕に塗り込みながら教会内をボーッと眺めてると、祭壇の上にキラリと光るモノが載っているのが見えた。


「ああ、そういやこんなのもあったな」


 それは古びた剣の柄、刃は無く本当に柄だけの剣のパーツである。ネタバレすると、これは主人公の最強装備入手イベント用のアイテムで、これを持っていると、剣に封じられた精霊が目覚めて主人公に数々のクエストを仕掛けてくる。それをこなすことで最強剣ゴルンなんちゃらとかいう剣が手にはいるというモノだった。

 剣の柄をしげしげと観察する。手でパシパシと叩いてみたり、魔力を流してみたり、気恥ずかしいが話し掛けてみたりと色々やってみたが剣の精霊は出てこなかった。どうやら主人公にしか靡かないアイテムらしい。棄てていくのも癪なので持って帰ることにする。どっかのタイミングで魔王に挑む主人公に授けてやろう。


 本日はここまで。明日からは第二層、アンデッド蔓延る古戦場エリアだ。


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