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悪役転生…させんっ!  作者: とる
悪役令息転生
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06. 学園地下遺跡

 学園地下遺跡は王国建国以前にこの地で栄えた古代文明の遺跡だ。大地震により地中深くに沈んだ都市が、永い年月を経てダンジョン化することで魔物蔓延る魔窟と化している。

 学園長の家は古代文明をルーツとする家で、遺跡の唯一の出入り口がここにあることを見つけ、この地に学園を建てて遺跡から出土する品々で財を成した。数十年前にはめぼしい出土品も取り尽くし、本格的なダンジョン化によって魔物の脅威度も上がり、入り口を塞ぐことで文字通り蓋をして今に至る。

 ズズズという音を立て書架の下の段がズレ、さらなる地下へと降りる階段が現れる。本当の入り口はこの部屋中央付近に開いていた大穴なのだが、横合いに人一人通れるサイズの隠し階段だけを残し、他は埋められた。


 俺が隠し階段を降り始めると上の方で再びズズズという音が鳴り、入り口が閉まった。自動で閉まる機構という何気に洗練された技術に感動する。階段を降りた先には石造りのスロープが真っ直ぐに伸び、さらに先に進むと石壁に大人が横向きになって通れるほどの亀裂が走っている。その亀裂をズリズリとすり抜けると地下街の一角に出た。異世界人の記憶にある梅田ダンジョンというのと似ているだろうか。あちらほど進んだ科学文明は持っていなかったようだが、現代王国文明とは違う雰囲気が異国情緒を感じさせる。振り返ってみると壁の亀裂は他の場所にも沢山あり、ここが出入口と知らなければ二度と出られなくなりそうだ。過去の探掘隊が亀裂前の地面に魔物の注意を引かないようにマーキングをしているので、一応ここまで来ればお目当ての亀裂を探し出せそうだ。


 朽ちた扉跡を潜り、部屋の中を見て回ったが、壊れた陶器の破片や木片らしきモノ、瓦礫などが散乱するだけで、めぼしいお宝は何も無かった。


「ゲームだとこういった通路の壁扱いの建物とかには入れなかったようだが、現実だと当然入れるんだよな。まあ、こんな浅いところは盗掘済みだが」


 建物を出て通路を歩いていく。ダンジョン化してるからか、往時の建物の配置とは異なってダンジョン的になっている。こんなに袋小路や狭い道が多いと生活しにくいったらありゃしないだろうな。


 さて、ある程度散策して知的好奇心も満足したので、攻略の下見に移っていこうと思う。この辺りは魔物もほとんど出ないが、先に進めば普通にエンカウントするからな。気を引き締めねば。

 学園地下遺跡ダンジョンは三層のエリアからなっている。今居るここ第一層は地下街エリア、第二層は砦のある古戦場エリア、第三層は巨大な墓所のある墳墓エリア。階層数は少ない若いダンジョンだが、ゲームでは後半に行くことになるので出現する魔物は強めになっている。

 ゲーム知識で目的地までのルートは分かっているので、探索を端折れば時短は出来るが、それでも攻略に一ヶ月は掛かりそうだ。幸いゲームと違い、道中の敵は一度倒せば数日~数年は復活はしない。休みたければ攻略途中でダンジョンの外に出てもいい。


 地下街エリアの通路を歩いていると、奥からペタペタペタペタと足音が聞こえてきた。俺はすぐに建物の陰に身体を隠すと、右腕だけを出して照準を足音がしてくる方に合わせる。

 ほどなくして五匹の魔物が姿を見せる。ゴブリンのような矮躯に、あばらの浮き出たガリガリの身体、反面お腹だけはぽっこり膨れ、常に飢えに襲われているかのような涎を垂らした口と、ギョロリとした眼が凶相を作っている。異世界人曰く、餓鬼と呼ばれる魔物だ。

 俺の存在に気付いて近付いてきたようで、建物の陰から腕だけ出している俺にすぐに気付き、いっせいに食らいつかんと走り寄ってくる。俺は銃魔法の引き金を引き、89式5.56mm小銃ほどの威力の弾を30発ほどばらまくと、餓鬼は身体の各部から血を噴き出しながら、もんどり打って後ろに倒れ伏した。89式何たらとか俺は使ったことないのだが、異世界人知識で自衛隊の自動小銃とかいうのに威力を寄せてみたんだが、思った以上の威力だったな。魔力増強訓練を今も続けているおかげで、この威力の魔法攻撃をしたのに大して魔力が減った気がしない。


「よしよし、これからこの威力で撃つときは89式銃魔法と言おう」


 俺は89式銃魔法の使い勝手を確認するため、魔物に会えば回避せずに戦闘をするようにした。餓鬼の次にはニシキヘビサイズのワームがうじゃうじゃと横道から涌いてきたので、弾をダカダカ撃ち込んでミンチに変えた。魔犬ガルムも自動小銃なみに弾を連射すればダース単位で現れても危なげなく倒せた。


「──これなら問題は無さそうだ。明日からダンジョン攻略に取り掛かろう」


 ダンジョンに足を踏み入れてから3時間ほどたった。89式銃魔法で弾をばらまけば一回の戦闘時間をとてつもなく短く出来るし、戦利品漁りを最小限にして移動も早めれば、さらに時間短縮出来そうだ。俺は確かな手応えを感じて、いったん帰って本格的な攻略の準備をすることにした。


 ◇


 学園図書館を出た。陽がだいぶ傾いているので暗くなる前に教員棟へと向かう。事務員に寮の部屋を今日から使うことを告げ、契約していた部屋の鍵を受け取る。ダンジョンを攻略するためには通いやすい所に拠点を確保する必要がある。学園図書館のレベル3区画に入ったまま夜になっても出てこなければ問題になるだろうし、王都の伯爵邸から学園地下遺跡に毎日通うのは時間が勿体ない。なので実家には事前に研究のため一ヶ月ほど寮に泊まると告げていた。従者も随伴できない寮のルールに侍従は難色を示したがなんとか納得させた。


 時間が無いので部屋の確認は後にして市場に走る。もう夕方なので何処も店じまいを始めているが、開いている店を見つけては入り、干しイチジクや干し肉などの乾物や、魔物避けの香など日持ちしないモノを買っては背嚢に詰めていく。

 この背嚢は屋敷の針仕事が得意なメイドに、型紙を用意してまで作って貰った逸品だ。俺が用意した型紙を随分と修正して使い勝手と強度を上げ、良いモノに仕上げてくれた。腰痛持ちなのに夜遅くまで仕事してくれて感謝しきりである。俺が聖女なら腰痛を治してやるのに。代わりに背嚢の商品化を指示した商会に、彼女に製作アドバイザーとして顧問料を支払うように手配しておいた。売れ行きによってはメイドの給金より高い報酬になるかもな。


 寮に帰り着いた頃には月のない星空が瞬いていた。部屋は一階の角部屋だ。エレベーターは無いので下の階ほど家賃も人気も高い。この時間には知り合いの寮生も出歩いてはいない。明日からは授業も欠席してダンジョン攻略に専念するので、クラスメイトとは暫く顔を合わせることもないかもしれない。明日からは学校が始まる前に図書館に入って、夕方に出てくる生活になるのでもう寝ようと思う。



 翌朝、寮の硬いベッドの寝心地は悪かった。伯爵邸からベッドを持ち込むように手配しようと思う。

 家から持ち出したポーションや毒消し薬に、薄いワインを入れた革袋を背嚢にいれる。服装は昨日も着ていた頑丈な布の服に、動きを阻害しない革製の部分鎧をつける。ゴツメのサバイバルナイフのような短剣は鞘に入れて腰の後ろに固定した。日帰りダンジョンアタックなので荷物はそこそこだが、これを背負って素早い動きは厳しいな。近接戦がありそうなら事前に背嚢を落とそう。ゲームみたいにインベントリが欲しい。それとも主人公なら現実でも使えるのかな?


 格好が制服じゃないのでローブを羽織って寮生が登校するより早めの時間に部屋を出る。学園図書館に着いたら受付に行く。


「おはよう。良い朝だね。ファルド・フォン・バイクローンだ。これからひと月ほど研究でレベル3区画に入り浸るつもりだ。基本的には毎日夜遅くなる前には帰るつもりだから心配は要らない」


「はい。承りました。お食事等はどうされますか?」


「干しイチジクなど乾物と水ですませるつもりだが、持ち込んでも良いだろうか?」


「乾物と水でしたら大丈夫です。飲食にはレベル3区画でしたら階段脇の休憩スペースをご利用下さい。休憩スペースへの本の持ち込みは禁止されておりますのでご注意下さい」


「勿論だとも。本を傷つけるようなことはしないさ」


 受付の紳士に一ヶ月の利用予定を伝えておく。研究者の中には何日も泊まり込むのもいるが、三日泊まり込むと職員が確認に来る。学生ならもっと早くに確認が来るかもしれないので、一応その日のうちには帰るとあらかじめ伝えておいたのだ。


「レベル3区画にはもう誰かいるかい?」


「申し訳ございません。他の利用者のことはお答えできかねます」


「そうか」


 よしよし、個人情報保護もしっかり出来てるな。ちなみにレベル3区画の本を傷つけたらとんでもない額の賠償金を請求される。本には保護魔法や記録魔法が施されており、言い逃れも難しい。高額の保証金も払ってるのにさらに賠償金まで!それだけ貴重な本があるのだろう。そんなところにダンジョン入り口を置くなとも思うが、図書館を後から建てたんだから確信犯か。まさかこんなところにという奴だろうか。



 守衛に入館証を見せてレベル3区画に入る。今日も他に人は居ないようだ。夕方ダンジョンから出るときに鉢合わせないように気を付けるのを忘れないようにしよう。


 ダンジョンに降りたらローブを脱いで背嚢にいれる。今日の目標は第一層の中間地点にある鐘楼だ。

 ストレッチをし、背嚢を背負い直したら軽く走り始める。現れる魔物は発見と同時に89式銃魔法を叩き込む。死体は放置。たまにある罠は避けるか銃魔法で無効化する。基本的には足を止めずにジョギングで進んでいく。体力作りに走り込みもしているので余裕のペースだ。ダンジョン最奥へのルートと罠の位置をゲーム知識で抑えているからこそ出来る芸当だ。少なくとも比較的敵が弱い浅層はこれで時短したい。



 餓鬼30体と魔犬ガルム20体を、建物の二階から89式銃魔法を掃射して倒した。出発から2時間ほど経ったので、ここで一旦休憩しようと思う。背嚢を下ろし、干しイチジクと薄いワインの入った革袋を取り出し、ゆっくりとイチジクを噛みながら薄いワインで胃に流し込む。中間地点の鐘楼はもう少し先だが、思ったより敵が多いのでそこまで行けないかもしれない。無理そうなら手前で引き返そう。魔物避けの香を焚き、眠りはしないが目を閉じて体力回復に努めた。


 結局この日は鐘楼手前で引き返した。ダンジョン入り口の隠し階段前で集音の魔法を使い、人が居ないことを確認してから出る。学園図書館を出るときも何も言われなかったので、俺のしていることはバレていないようだ。今日の戦利品は特別大きい魔犬ガルムから出た魔石一つだった。乾物やワインは食堂で取り寄せが出来るそうなので、そのサービスを利用させて貰う。わざわざ買い出しに行くのは面倒臭いからな。



 次の日、今日も朝からマラソンだ。昨日倒した魔物はまだ復活しないのでサクサク進める。昼前には第一層の中間地点である鐘楼がある広場に着いた。この鐘楼もかつては決まった時間に鐘を鳴らして人々に時刻を告げていたのだろう。周りの建物より高い鐘楼の下には牛頭の筋骨隆々な大男の魔物であるミノタウロスが立っていた。手には切れ味より重さで叩き切ることを意図したバトルアックスが両手で握られている。ミノタウロスは第一層の中ボスである。こいつを倒すことで第一層のボスの間への鍵が手にはいる。第一層のボスの間は第二層へ続く階段の間でもあるので、つまりこいつと戦うのは必須ということだ。

 さて、こいつは見た目通りのパワーファイターで力がとんでもなく強い。巨大なバトルアックスをぶんぶん振り回してくるので、一撃食らうと二撃目、三撃目と連続で喰らい負けることが多々ある。反面、肉体美を見せつけるためか半裸なので防御力は低い。遠距離からチクチクやってれば勝てるということだ。


「ということで死んでくれ!」


 タタタタタッと両手の指先からマズルフラッシュを迸らせながら、ミノタウロスに銃弾を叩き込んでいく。ミノタウロスはグオオオオオッ!と痛みに怯みながらも、バトルアックスを盾にして俺に突進してきた。前を見ずに突っ込んで来るのを避けることなど容易い。俺はミノタウロスの突進を走って横に避けながら、両手で銃弾を叩き込み続ける。ミノタウロスの筋骨隆々な肉体が銃弾でどんどんと削られて血塗れになっていく。

 バトルアックスを盾にしていてはジリ貧なことに気付いたミノタウロスは、最後の力を振り絞りバトルアックスを俺に叩きつけんと、銃弾の壁の向こうにいる俺に捨て身で特攻してきた。斜め上から空気を拉ぐように振り下ろされるバトルアックス。だが俺も近接戦闘を磨き続けてきた男。こんな破れかぶれの大振りな一撃は避けてみせる。

 身体のすぐ横を破滅的な風圧が通り過ぎ、次にミノタウロスの血に濡れた顔が間近で目に映る。二丁の89式銃魔法を超至近からミノタウロスの顔面に叩き込んだ。短時間だったが合計で20数発の弾丸はミノタウロスの面影を無くさせた。振り抜かれたバトルアックスが手をすっぽ抜け、石畳を砕きながら転がっていく。膝をついたミノタウロスは数瞬硬直した後、力なくズズウンッと崩れ落ちた。


「──っ!ふぅううう…結構、緊張感が凄かった!」


 実戦経験が少ない俺は、強敵と戦うとまだまだドキドキする。近接戦闘は鍛錬を重ねてると自分を鼓舞したが才能は正直あまりないしな。遠距離狙撃でチクチクやって全く反撃受けずに倒すことも出来ただろうが、実戦経験を積むために敢えて敵の前に立って戦った。いつかこの経験が生死の境を生側に跨ぐ一助になることを祈る。


 ミノタウロスの戦利品はどうするか。ミノタウロスは魔石や頭の角や大腿骨の骨などが武器防具の素材に使える。死体を冒険者ギルドに持っていけば英雄扱いだってされるほどの強い魔物である。持っていたバトルアックスも銃痕塗れとはいえ、まだ使えるし鋳つぶしても良い。バイクローン伯爵騎士団に卸せば結構な金額で買い取るだろう。

 けど大きさがネックだ。こんなデカいの図書館から持ち出そうとしたら受付の紳士が心臓発作で倒れる。インベントリが欲しい。まあ無いものをねだっても仕方が無い。胸にある魔石だけ貰って他は放置だ。ダンジョンに吸収されるのは勿体ないが仕方ない。持ち帰る方法考えるより攻略優先だ。先に進もう。


 結局この日は第一層の最奥には辿り着かずに引き返す。奥に行くほど魔物もダンジョンも手強くなるので攻略速度が鈍っていくのは仕方がない。だが命の危機を感じる実戦経験は俺を強くする筈だ。攻略速度の低下も強くなれば巻き返せるかもしれない。俺は頑張っていこうと気合いを入れ直した。



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