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悪役転生…させんっ!  作者: とる
悪役令息転生
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04. 第三王女

 学園敷地内の西側には花々が咲き乱れる見事な庭園がある。園内には所々に東屋が建てられ、生徒達の憩いの場になっていた。その一つ、ドーム状の屋根を持つ白い石造りのガゼボで、傍にメイドを控えさせた緑髪で黄瞳の美少女が文庫サイズの本に目を落としていた。制服の胸には赤いピンをつけていることから、ゲームと同じく主人公と聖女令嬢のクラスメイトなのだろう。


 俺は少し離れた東屋でティーカップ片手に緑髪の少女を観察していた。ゲームの主要人物のあの娘の初登場イベントがどのように進むのか気になったのだ。

 彼女はこの王国の第三王女。王が相手を明かさないため、不貞の娘と揶揄される不憫な王女である。

 ゲームでは第一王子と第二王子が共倒れになって王位につくことになる。三王子の中で最も聡明で魔法の才能が豊富だが兄王子たちに目をつけられないように力を隠している。その出自は魔王率いる魔族との戦争で滅びたエルフ王家の系譜。王とは血の繋がりはないが王と出自を知る側近が後で纏めて退場するせいで王位継承にあやがつくこともなかった。ゲームではどういった経緯で王の子として保護されたのかは描かれなかったが、現実的には色々と黒い話がわんさかあったんじゃないかな?亡国してるし?エルフだし?


「おっ?イベントが始まったな」


 読書中の第三王女目がけて上空から泥水が降りかかる。メイドが悲鳴を上げたことで第三王女が気付き、瞬時に生み出した植物の葉っぱで泥を避ける。エルフの得意な植物魔法だ。ゲームでも隠さず使ってて誰もツッコまないのが不思議だったが、まさか現実でもなのかw

 5人ほどの貴族の少年達が現れて慇懃無礼な態度で第三王女に何事かを言っている。虐めというか嫌がらせというか、第二王子派の貴族は第三王女を蔑んでいるという設定だったので、結構過激な嫌がらせをしてくる。

 現実問題、公式に王族と認められている王女に臣下があからさまな不敬を働くとか、馬鹿かな?族滅上等の自殺志願者かな?と思うが、出自が特殊で第二王子が王族の権威とか考えずに庇うから生きながらえている奇矯な者達だ。ゲームではあのポジションにファルドが立っていた。現実では俺は第三王女と敵対する気なんて全くないので、あの場には居ない。この後で主人公が登場して第三王女を助ける筈。俺がいないことで万が一主人公が助けに来なかった場合のフォローとして見守っているのだが、はてさて。


 物語が佳境になってガゼボの周りを取り囲んだ貴族少年達の攻撃的な魔力が高まる。いや完全な叛逆じゃん。現実でそんな行動とる?ああ、いや、精神を弄る魔族の薬とかあったな。第二王子派だしその影響か。

 俺がゲーム知識を思い出していると、庭園の草花を蹴散らすような勢いで飛び込んできた人物が、ガゼボを取り囲んでいた貴族の少年達を次々と打ち倒していく。ゲーム通り主人公が登場して第三王女を助けたな。

 リーダーっぽい少年は一撃では倒れない実力の持ち主だったが、聖女令嬢と第三王女をパーティーに入れた主人公には、数の暴力で打ち破られることとなり、それは見事なゲームの中ボスの散り様だった。


 第三王女にお礼を言われて照れる主人公と、それを見てちょっと表情が硬い聖女令嬢。第三王女はエルフの血を継いでるからか、神秘的な美しさを持っているからな。ゲームでもヒロインランキングで聖女令嬢と上位を争っていた。ちなみに異世界人の推しは武闘派令嬢だったらしい。聖剣をぶっぱするのが快感とかなんとか。

 これで主人公はメインヒロイン全員と出会うことが出来たな。聖女令嬢、武闘派令嬢、第三王女の三人は性能も普通のサブヒロインより高い。上手く成長して魔王を倒してくれよ。

 武闘派令嬢も現れて四人で楽しげに話してる姿から視線を外し、ティーカップに残った冷めたお茶を飲み干したら、席を立って東屋を後にした。俺は学園では従者を引き連れないことにしているので、空になったティーカップは自分で食堂に返しに行った。


 ◇


「あなたが聖女の守護騎士?わたくしの配下を無残な目に遭わせたそうね!」


 学園の食堂で空いてるテーブルに座って食事を始めようとしていた主人公のもとに、大勢の取り巻きを連れて、食堂の入り口からツカツカと足音高く歩み寄った悪役令嬢が、いつもの見下しのポーズで高らかに宣った。

 見事な高慢のポーズに、主人公も数瞬惚けていたが、悪役令嬢の言っていることを理解するにつれて、苦虫を噛み潰したような表情になっていった。


「彼らは第三王女殿下に無礼を働いていました。臣下として、間違った行いを正しただけです」


「ええ、ええ、それはかまわないわ。臣として適当じゃない行いをしたのであれば正すべきだものね。その是非は別の機会に審議されるでしょう」


 わかりにくい言い方だが、配下の行いの非を認めたわけじゃないな。俺は離れたテーブルで騎士見習い三人組と飯を食いながらやりとりを眺めていた。


「わたくしは諍いを止めるべく間に入った貴方が暴力的な手段をとったことに異議をうったえているのです!」


「いや、それは…」


 うわぁ、諍いって矮小化するのキタナイ。言ってること無茶苦茶じゃね?泥飛ばすっていう暴力振るったのそっちが先じゃん。おっ?聖女令嬢も来た。赤クラスの生徒も後ろについてきたな。おおっ、数の上では同数ぐらいになったぞ!?おいおい、取り巻き同士が罵り合い出しちゃったよ。


「──ファルド様、どうします?」


「ん?何がだ?」


「あれって、黄クラス vs 赤クラスみたいになってるじゃないですか?」


「俺らも参加すんのかなぁって」


 ああ、なんかエスカレートしてお互いのクラスを巻き込んだいがみ合いに発展してるな。人員構成的に第二王子派と中立派の争いっぽいか?


「いやだよ面倒臭い。ていうかお前ら第二王子派じゃないんだから、黄クラスだからといって無理にあんなとこに参加しなくていいよ」


「いやあ、無理じゃないすか?」


「ほら、あれ」


 騎士見習いの一人がソースのついたフォークで人だかりを指す。行儀が悪いことをするな。


「よし、話は分かった!クラス対抗試合で白黒つけようじゃないか!!」


 なぜか武闘派令嬢が取り仕切り、何の勝負かわからないクラス対抗戦の開催を宣言していた。


 ◇


 武闘派令嬢の取り仕切りでクラス対抗で合戦の模擬演習が行われるかもしれない。演習場を使いたいらしく、学園にも話を持っていったそうで、その回答待ちのためか今すぐ試合をするという話にはならなかった。後から話を聞いた第三王女が何でそんな話になってるんですか!?とか悲鳴を上げたとかなんとか。

 この展開は何なんだろうな?ゲームではこんな大規模な演習イベントは無かったはずだが…俺が悪役やってないから代役がイベントを起したのか?悪役令嬢の方が悪役力が高いから俺より大きなイベントになったとか?まあいい。俺は前に出ず、後ろで腕を組んで見学しておこう。


 学園の敷地は広い。敷地内に森や湖まである。それだけ広大でも警備は確りしていて、高精度の感知魔法を使える人員が常時複数配備されていて、不審者が学園内に足を踏み入れようものなら、すぐに警備兵が出動して捕縛する体制が敷かれている。貴族子女の集う学び舎の警備レベルは王城にも匹敵すると言っても過言ではない。

 そんな学園の湖の畔で、俺は深夜にベンチに座って水面を眺めていた。別にアンニュイな気持ちで黄昏れていたりするわけではない。ちょっと欲しい物があって、それを手に入れるためにタイミングを計っているのだ。


 雲に隠れていた月が顔を覗かせ、水面を月光で輝かせていると、突如、湖の対岸の森の中で爆音が弾け、空を焦がすような炎の柱が天を突いた。時を待たず森の中の木々が剣閃と共に次々と沈んでいく。何者かと何者かが戦っているのだ。実はこれはゲームでの重要なイベントの一つ。魔族による聖女令嬢誘拐未遂イベントなのだ。

 魔族が聖女の資質を開花させた聖女令嬢を魔王に捧げるため、子爵邸に忍び込み聖女令嬢を眠らせて誘拐した。しかし護衛騎士の主人公が異変に気付き魔族を追跡、魔族は人間側の協力者がいる学園に忍び込み逃走を続ける。学園は警備が厳重だが、警備責任者を賄賂で抱き込めれば安全に王都を脱せる逃走経路に使える。協力者と落ち合うために逃走を中断していた魔族に追いついた主人公が先制攻撃を行い、それを避けた魔族との戦闘が開始されたのだ。

 湖の対岸の森の中での戦闘なのであまりよく見えないが、流れ弾が届かないのは安心できる。主人公の炎の魔法剣と対峙しているのは、氷の魔剣を構えた魔族の手練れ。ゲームではこのイベント時のレベル帯では勝てない強者とされていた。一定以上のダメージを与えると特大攻撃をしてきて主人公を戦闘不能にして逃げていく。再戦はラスダンだった。俺と同じ中ボスでも強い方の中ボスだな。


 湖の対岸の森の上空で光が弾けている。誘拐されていた聖女令嬢が拘束を解いて主人公と合流したんだな。戦いも佳境のようだ。俺は夜食に持ってきたサンドイッチを口に放り込み、ベンチの裏に回って、その背もたれに前に伸ばした右腕を置き、指先を湖の一角に照準して時を待った。


 何百メートルも離れたここまで激しい戦いの音が聞こえてくる。ひときわ大きい魔力の高まりを感じた次の瞬間、森の一角が氷の塊に覆われた。森の中に急に氷山が現れたようにも見える雄大な景色だ。間違いなく魔族の特大攻撃である。ゲーム通りなら、おそらく主人公達は戦闘続行が困難な大ダメージを受けただろう。だが戦闘時間も掛かっていたので王国の応援も十分駆けつけられたはずだ。なので魔族もそれ以上は何もできず撤退を選ばざるを得なかっただろう。…だろうだろうと不確かな事ばかりだがゲームだとそうなるのだから、今はその想定で動くだけだ。


 戦闘は終了したようで音は聞こえなくなった。そのまま残された氷山が水面に映るさまはどこか幻想的にも感じる。しばし後、湖のこちら側の水面に、自然の風が原因とは異なる波紋が生じる。

 ザバリと水音を立て、白い長髪に褐色肌の男が水草を掻き分けて岸へと上がってくる。黒い上着が所々焦げて穴が開いているが大きな怪我は見えない。月明かりに照らされた横顔には疲れが見えるが、足取りは確りしている。

 中ボス仲間として親近感は…わかないな。うん、ではさらばだ。俺は特別に威力を上げるために魔力を込めに込めていた銃魔法を発射した。

 発射の瞬間、何かを察したのか魔族の男がハッとして俺の方を向こうとしたが、ほんの少しも首を回すことなく頭が破裂して呆気なく絶命した。俺の右腕もゴドンッという発射音とともに破裂したようにグチャグチャになり、あまりの痛さに声も出せない。上級ポーションを湯水のように振り掛けたり飲んだりして、なんとか血が止まって痛みがややマシになった。右腕は暫く使えないだろう。


 水中を進んで追跡を撒こうとした魔族の男は、水中から上がったところに待ち構えていた俺の不意打ちを受けて死んだ。実力的には今の俺でも正面切っての戦闘では分の悪い実力者だ。ドンピシャの位置で待ち構えて攻撃準備も完了させて不意打ちで最強の一撃を叩き込むことで相手に何もさせずに倒すことが出来た。半分暴発したような攻撃だったが上手くいって良かった。


 水辺から魔族の男の死体を引き上げる。右腕が使えないから苦労して戦利品を漁る。首から上を吹き飛ばしたので血の臭いが凄まじい。風魔法で臭いを散らしてもまだ臭い。さっさと盗るモノとって撤収しよう。

 小銭や上級ポーションに氷の魔剣を手に入れた。長剣サイズなので俺には扱い辛いが、アイテムとして使うと氷塊を生み出す力を持っているので、売ってしまうかは後で考えよう。それより俺のお目当てが見つからない。ゲームでは、このイベントで倒すことが出来れば(制限時間内に一定のHP以下にする)低い確率だが手に入った激レアアイテム。それを手に入れるのが今日の目的だったのだ。


「あった!襟の隠しに入れてやがったか!」


 俺は激レアアイテムを夜空に掲げた。それは古ぼけた金属の腕輪。装飾も少ない安物の腕輪の見た目をしている。だがこれの力は凄まじい。魔族の使う瘴気を完全に防ぎ浄化することができる力を秘めているのだ。ゲームでは瘴気が充満するために聖女令嬢が覚醒する終盤まで行けないダンジョンを前倒しで攻略出来るようになるやり込み勢用アイテム。その正式名称は古聖女の腕輪。ゲームでは先々代の聖女が身に付けていた聖遺物というフレーバーテキストが付いていた。なぜこの魔族が持っているのかは知らない。俺の将来のために、そのダンジョンの先にあるものを手に入れるために、この腕輪はどうしても欲しかったのだ。

 ちなみに古聖女の腕輪は瘴気を防ぐこと以外にも、瘴気に侵された人を治癒する力がある。ただし、その力はゲームではイベントで発動するだけの力であり、任意では発動出来なかった。まあ、この腕輪をしておけば瘴気によるバッドステータスを受けなくなるので治癒する力は無くても問題は無い。


 魔族の死体に岩を抱かせて湖に沈め、松明の明かりが増えてきた対岸を尻目にその場をあとにした。俺が殺したことがバレても武功になるだけなので別に構わないのだが、面倒くさい事情聴取とかで時間を取られたくない。知らんふりしてしまおうと思う。

 このエピソードで主人公達は魔族が暗躍していることを知る。ゲームではこれから魔族の出番が増えていく。厄介な敵も多いので主人公には頑張ってほしいと思う。


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