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悪役転生…させんっ!  作者: とる
おまけ
28/29

02. それぞれの日常(弟、騎士見習い三人組)

 カリカリとガラスペンが紙を引っ掻く音が執務室に響く。バイクローン伯爵家改めバイクローン子爵家となった我が家。その当主になってしまった僕の名前はヘルメス・フォン・バイクローン。

 ファルド兄上の侍従を務めていた現侍従長の指導の下、書類仕事に忙殺されている。兄上に付けて頂いた優秀な侍女は昨年辞めてしまった。なんか真実の愛を見つけた?とかなんとか言っていたけど、降爵した我が家を見限る口実だったのかな?


 父は第二王子の反乱の責を取り領地で蟄居させられたのでファルド兄上が当主となったのだが、その兄上が自身は隠居して僕へ家督を継承してしまったため、次男の僕が子爵になってしまった。


 本来ファルド兄上の隠居なんて王国に認められるわけがない。兄上は王都上空に飛来した王都よりも遙かに巨大な岩塊を墜落させないように防いだ功績がある。

 王都全てを影に覆うあの威容を間近で見て本当にどうこうできるのか俄には信じ難いが、王国がその功績を認めてそれと引き換えに、反乱を起こした第二王子の派閥の主要な位置にいた我が家がお取り潰しにならずに降爵だけで済んだ事実からして、本当にファルド兄上がどうにかしてしまったのだろう。


 そんな若き英雄が隠居したいと言っても普通は認められない。だが第二王子派粛正の影響で王城の事務方がグダグダになっている隙を付いて、なんとファルド兄上はそれを通してしまった。兄上は手続きを完璧に済ませて僕に家督を譲ると、王城が気付いて問い合わせてくる前にさっさと国を出奔してしまった。

 公的な手続きだけでなく、家の事も混乱が最小限になるように指示書を纏めていたことからして、随分と前から計画してたんじゃないかと思う。


「ヘルメス様、お茶をお入れしましょう。朝から休み無くされていますので、お疲れかと存じます」


 侍従長に気を遣わせてしまった。没頭すると適切に休むタイミングをついつい忘れてしまう。


「すまないね。心配掛けて」


「勿体なきお言葉」


 侍従長にファルド兄上が出奔することを事前に知っていたのかを聞いてみたい。──いや、聞いても詮のないことか。


 熱いお茶をゆっくりと啜っていると肩の力が抜けるのがわかる。根を詰めすぎていたようだ。ああ、侍従長に家業の事業状況を聞いとこう。最近は領政の仕事を優先してたから全然見てなかったしね。


 侍従長に質問すると、すぐに資料を出してきて説明をしてくれた。

 派閥の大きな変動があって、付き合いのあった貴族が領地の転封(てんぽう)や削減にあい、そのため彼らへの販路が軒並み縮小することとなった。

 僕たちの領はファルド兄上のおかげで領地を削られることもなく爵位が下がるだけだったので領内の資産が減ることは無かったが、売掛金など領外の資産が回収が難しいのもあってかなりの損害となるようだ。ちなみにうちを寄親としていた下位貴族達も兄上の功績に守られた形で実質的な罰は無かったので凄く感謝されている。


 ファルド兄上と婚約解消した子爵家と交わしていた慰謝料代わりに数年間利益の何割かを貰う契約の件だが、あちらは中立派だが娘の聖女が何か功績を上げたとかで今回に騒動の勝ち組に入っている。それを傘に王城に契約の無効を訴えたらしいが、それは今回の騒動とは関係ないとのことで却下された。同じような借金の踏み倒しの訴えが複数あったがいずれも却下されている。これも兄上が功績をもって第一王子と横紙破りの直接交渉をしたおかげだ。


 蒸留酒などの新事業に関しては販売数が少なかったので影響は軽微だ。平民の富裕層向けの販路を太くすれば売り上げだけは維持できる。以前、売ってくれと蒸留酒事業本部の建物前に座り込みしたドワーフ達なら喜んで買っていくだろう。


「そういえばこの前、兄上が持ってこられたダンジョン産の宝物はどうなったかな?」


 ファルド兄上は一年ほどは国に寄り付きもしなかったが、この前ふらっと王都の屋敷に立ち寄り、素人目にも価値の高そうな宝物を置いていった。迷惑料だから取っとけと言われたけど、なかなか扱いに困る。


「宝飾品に関してはは出入りの商会に任せました。明細は此方です」


 侍従長が挿しだした紙を確認してかなりの売却益となったことに軽く驚く。


「相当に良い品だったようだね」


「はい。王都の商会でも滅多に扱わない掘り出し物とのことです」


 さすがは兄上だな。目利きも素晴らしい。


「問題は一緒に持ってこられた魔導具の方でして…」


 そう言って珍しく困った表情を侍従長は見せて、その魔導具が()()納められた箱を僕の机の上に置いた。


「ファルド様がお持ちになられた魔導具はヘルメス様もご確認されましたよね?」


「キレイだったよね。部屋の中が青空に変わって、海っていうの?僕は初めて見たけど果てしなく広い水辺が何処までも続いて、足下はさらさらした砂が敷き詰められて、見たこと無いけど本物と見紛うばかりの体験だったよ!」


「はい。部屋の中を本物そっくりに作り替えてみせる幻術の魔導具です。この魔導具と同じモノは過去に一度だけ商業連邦で開かれる最も権威あるオークションに出品されたことがありました。そちらは星空と神秘的な神殿を見せるようですが」


「ふーん、凄いモノなんだね。…相当な高値が付いたのかい?」


「高値は勿論ですが、落札したのが教会本部の枢機卿でして、かの御方が取り仕切った神事で使用され、成功に大きく貢献したそうです。それが理由かその魔導具を神の授けたアーティファクトであると宣言なされまして…」


「…あぁ…それはヤバいね。神のアーティファクトって言っちゃったか……ちなみに他に同じモノは?」


「今まで見つかっておりません」


 この魔導具を表に出せば莫大な富と引き換えに、避けられない追求の手が伸びてくるだろう。兄上は何処でこんなモノ手に入れたんだ?

 色々なしがらみが嫌で出奔したと思うんだけど、こんなの出したらしがらみで雁字搦めにされると思うんだ。本人に確認しよう。単にこれの価値を知らなかっただけのような気がする。美術品より実用品の方が良いとか言ってたこともあるし、無造作に二つも贈ってくるぐらいだし。


「この件は兄上に確認を取るよ。口外法度で頼む」


「承知いたしました」


 ああ、胃が痛い。こういう類の悩みが当主にはあるんだな。なんとなくファルド兄上が恨めしくなるよ。




 急ぎの仕事は済ませたので、本日の業務は終了する。お茶と茶菓子を用意して貰い、応接用のソファーで休むと、テーブルの上にいつの間にかビロードの張られた薄い冊子が何冊か置かれていた。

 一冊手に取って開いてみると、見目麗しい少女の写実的というには少々美化しすぎている感のある肖像画が描かれていた。他の冊子も人物は違うが同じ意図を持って描かれたのがわかる。


「はぁ、釣書かぁ」


「はい。ヘルメス様はお相手が決まっておりませんので、色々な所から申し込まれておりますよ」


 派閥の再編が進んでいる現在、情勢が落ち着くまで何処かの家と繋がるのは避けたい。庶子の僕が当主になった途端擦り寄ってくるのも、仕方ないとはいえ気分が悪いし。


 もやっとするモノをお茶で流し、菓子を摘まみ気分をリセットする。

 そういえばファルド兄上は例の子爵家の聖女に婚約破棄されてから、暫くは女性を避けていたよね。気にした素振りを見せたことは無かったけど、今の僕より子供だった頃だし、やっぱりショックだったんだろうな。そういうのもあって貴族社会が嫌になったのかな?


 今は王国を飛び出して色々な場所を旅して回っているって言ってたけど、結婚とかは考えていないんだろうか?この前紹介して貰ったエリザベス様とはどうなんだろう?彼女はお取り潰しになったバーテイランス侯爵家のご令嬢らしい。今は男爵位を賜って女男爵となったそうだ。


 第二王子派筆頭のバーテイランス家はお取り潰しという非常に重い罰が下ったわけだけど、そのご息女が連座ではなく、それどころか男爵位を賜るってどういうこと?と疑問を兄上に投げてみたら、彼女はファルド兄上と一緒に王都壊滅を防いだ立役者らしい。

 その功績は連座を免れ、爵位を賜る程だったとか。反乱首謀者への罰を対外的に減罰したようには見せられないため、その功績は喧伝されることは無かったが、知る人ぞ知る情報らしい。ちなみにファルド兄上の功績はあまり喧伝されていないが隠されているわけではない。


 初めて会ったとき彼女はファルド兄上の隣でソファーに優雅に座っていた。背筋はまっすぐに伸びて、その姿勢からは自信と気品が溢れ出ている。緩く縦ロールした金の御髪が肩に流れ、凜とした美しい顔立ちには穏やかな微笑を浮かべていた。時折、兄上と視線を交わし微笑み合う姿を見て、ああ、この方が僕の義姉上(あねうえ)になるんだなと何となく納得したのを憶えてる。


 あれ?そうするとエリザベス義姉上(あねうえ)の男爵家に、家督を持っていないファルド兄上ならスムーズに入り婿出来るのか。えぇ!?そこまで見越して事前準備してた?

 …いや、まさかね…うーん、兄上が何処まで考えていたかは僕には計れないな。


 立ち上がりのびをする。夕食前に少し身体を動かそう。侍従長に声をかけてから僕は鍛錬場に向かった。


 ◇


「「「ひぃ、ひぃ、び、備品運び終わりましたぁ!」」」


「よ-し!ご苦労!10分間休んでよし!」


「「「了解いたしましたぁ!」」」


 ぐぇぇ、騎士団の仕事マジきつい。俺は騎士見習い三人組の一人の……いや名乗ったとこでとこでしゃあないか、今は休みたい!

 ここはバイクローン子爵家の王都のお屋敷にある鍛錬場だ。王国学園の最上級生になった俺達は士官先をここに求めた。


 うちらの家は中立派で、第二王子派の粛正とは関係ないはずだったんだが、寄親の伯爵が中立派と第二王子派を両天秤に掛けてたみたいで、配下の何家かも一緒に転封されてしまったのだ。残された俺達は大いに困ったよ。騎士爵領として村を任されていた俺達の家は、罰としての転封に付いていくことは許されず、寄親の家騎士団に入っていた兄貴は家に戻されることになってしまった。


 次男以下の俺達もほんとは寄親の家騎士団に入るはずで、代わりに兄貴が家に戻って領主を継ぐってのが予定だったんだ。じゃあ新しく来る上位貴族の家騎士団に俺達が入れるかというと、転封のゴタゴタや、いろいろなしがらみやらで、数年は士官は無理となってしまった。

 弟達もいるのに家で冷や飯食いするわけにもいかず、途方に暮れてバイクローン子爵家の当主になったばかりのファルド様に相談、というよりぶっちゃけ雇ってくださいとお願いしたら、ああいいぞって凄く軽くOK を貰えたんだ。


 第二王子派のバイクローン家は反乱の咎で伯爵から子爵に降爵したけど、転封や領地の縮小もなく、実質的な罰は受けなかったんだ。それもこれもファルド様の功績のおかげらしく、すげえお人と知り合いで良かったあ、と三人で小躍りしたもんだ。

 んで、俺達は学園生なので卒業までは王都で、バイクローン子爵家騎士団の方に訓練を見て貰いつつ、仕事のお手伝いをして過ごしている。まだまだ見習い、訓練でゲロ吐いてるうちは兵を率いるなんて無理だなって言われてる。ぐえー。


 そんなこんなで過ごしてたら、いつの間にかファルド様は家督を弟君(おとうとぎみ)に譲って隠居されてしまっていた。弟君を学園でもよろしくな、と言って去って行ったファルド様は、なんだかすっきりした表情をしていたな。

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