25. 墜落イベント
戦闘飛空挺アイロネアグルは全長100mの金属装甲で守られた空飛ぶ船艦だ。主砲二門、機銃が上下左右後方に五カ所、AIの補助によりワンオペが可能。バリア発生装置に転移装置も備わっているしミサイルも搭載可能、搭乗人数は4人までで、居住性を高めるために風呂トイレキッチン寝室完備。長期間の作戦行動を想定した特務艦仕様となっている。俺達が辿り着いたドックにはアイロネアグル型以外の飛空挺もあるが、居住性能の高さからアイロネアグル一択だ。
「それじゃあ、早速乗り込みましょ?」
「その前にしないといけないことがありまして、あちらをご覧ください」
エリザベス嬢がウキウキといった感じで船に向かおうとするが、寸前で止めた俺はドックの奥を指さした。そこには全長10mの黒い機動兵器が鎮座していた。
「金属のゴーレムですか?初めて見る形ですわ」
「あれは戦艦ドックのガーディアンロボ、名前はオニクス・グラディータ。システムに不具合が出ていて、権限の有無にかかわらず目についた存在を敵と認識して襲いかかります。設備に被害を出さないために近接武器しか持っていませんが、パワー、スピード共に魔王より上のエンドコンテンツの裏ボスです」
「魔王より上!?何かわかりませんけど、凄い強敵ということですわね!」
エリザベス嬢が気合いを入れてオニクスを睨む。オニクスは斬馬刀のような巨大剣を両手に持ち、残像が残るほどのホバー移動で近づいて斬りつけ、シンプルにパワーとスピードで敵を圧倒する。さらに常時バリアフィールドを展開しているため、どんな攻撃を受けても怯みもノックバックもしない。ゲームではラスボスを倒せるパーティーが手も足も出せずに削り殺される動画が当初はたくさん出回っていたみたいだ。
一応バリアフィールドは一定ダメージを与えると短時間消える仕様なので、その間に胸に埋め込まれたパイロットの遺体入りのコアを攻撃すれば、ダメージを与えられて何時かは倒すことも出来るようになっていた。
ちなみにオニクスは転移ポータルを使った正規ルートでドックに来た場合は戦うことが出来ない。正規ルートは主人公達がなんやかやイベントをこなして通れるようにするのだが、ドックに辿り着いた時には、オニクスは朽ちた機動兵器と表示されるだけだった。
「──ファルド様、どのような作戦でまいりますか?」
「そうですねぇ。エリザベス嬢の精霊で私を投げ飛ばせるほどの膂力を持つ者はいますか?」
「はぁ?どういうことでしょう?」
最速でオニクスの弱点に近付きたいのだ。ボスが強すぎて倒せないと飛空挺が手に入らないので、実はオニクス戦では救済策が用意されている。それは冷凍ボックスに入れられていた司令官の腕で、実は彼の腕は高セキュリティ区画へのキーとなる以外に武器として使うことも出来てしまう。司令官の腕を掲げてオニクスのバリアフィールドに飛び込むとダメージを与えなくてもバリアが解除され、司令官の腕でコアの中のパイロットの遺体を殴ると何故か倒せてしまうのだ。
「ということでやっちゃって下さいエリザベス嬢!」
「何が、と言うことですか!」
俺が司令官の腕を捧げ持つと、エリザベス嬢は「ああ、もうっ!」と吐き捨て精霊召喚を行う。
「山を動かすその力強さを示せ。我が声に応じ、ここに姿を現せ!ティタァン・オー・マウティエン!」
直後、小山のような大きさの鈍色をした肌の巨人が咆哮を上げてドックに降り立つと、俺をむんずと掴んで野球選手のようにキレイな投球フォームをとり、おもむろにオニクスめがけて俺を投げつけた。
「ぐぉっ!!」
凄まじい重力加速度が俺の身体に掛かる。ティタァンが現れたときの咆哮で既に起動して目を光らせていたオニクスは、俺が持つ司令官の腕を認識したのか、微妙に慌てた感じでバリアフィールドを解除する。バリアにぶち当たることもなく秒も掛からずオニクスのコアへ至った俺は、激突の衝撃をコアに着地する両足で受け止め、振りかぶった司令官の腕をコアに叩きつけた!
ガンッ
鈍い音がしただけで目を光らせたオニクスに変化はない。
「中のパイロットを殴らないと駄目なのか!?」
オニクスがコアにへばりつく俺を掴んでくる。咄嗟にコアに向けてバレットM82銃魔法を撃つ!撃つ!!撃つ!!!!超至近距離で対物ライフルの連射を受けた蒼い半透明のコアが砕けて穴が貫通した!
「うぉおおおお!!」
オニクスに捻り潰されそうになりながらも司令官の腕を振りかぶった俺は、コアの中のパイロットに司令官の腕を叩きつけた!!
司令官の腕で殴られた長い髪の遺体が、そのミイラのような顔を上げて司令官の腕を見たような気がした。
直後、オニクスからヒュウウンとパワーが落ちるような音がして、俺を掴んでいた手から力が抜ける。
悠久の時を、識る者の居なくなった場所を、護り続けたオニクス・グラディータはその活動を停止したのだった。
──俺は戦艦のドックの床に寝かされてエリザベス嬢の手当を受けていた。バレットM82銃魔法を連射した腕は白煙を上げてバキバキに骨が砕け血が噴き出していた。オニクスに掴まれていた身体もあちこち骨が折れて肋骨が内臓に突き刺さっていたし、アドレナリンで痛みが無視されていたが、それが切れた今は普通に死にそうなぐらい痛い。
「あんな戦い方をして何を考えているのですか貴方は!」
エリザベス嬢がぎゅうっと俺に包帯を巻きながら説教してくる。説明を端折って事を進めたので、エリザベス嬢にしてみれば俺が無謀な特攻をして、たまたま敵を倒せたように見えたのだと思う。まあ正攻法なら絶対に勝てない相手だったので無謀な特攻なのはあっている。もし異世界人の知識と現実が違ったらやばかった。実際、小さな差異はあったしな。その後、エリザベス嬢の最高級ポーションの患部への振り掛け方が優しくなるまで謝り倒したのだった。
応急処置が終わっても大怪我は完治していないので、ドックに隣接する医療区画に肩を貸してもらって連れて行ってもらう。ここには重傷者の治療ポッドがあり、そこに患者を寝かせてスイッチを入れれば、ゲームならHPとMPが全回復していた。今の俺の状態では天空大陸の魔物や魔族と戦うのは辛いので、この治療ポッドを使わせてもらうことにした。
治療ポッドのコンソールには細かいメニューとかは無かった。スタートボタンを押せば勝手に診断や施術をしてくれるのだろう。エリザベス嬢にスタートボタンを押すように頼み、俺は治療ポッドに入って寝転んだ。ポッドのキャノピーが閉まり、治療が開始される。麻酔が注入されたのか意識がゆっくりと落ちていった。
──不意に意識が覚醒する。
寝覚めはすっきりしたモノだった。治療ポッドのキャノピーが持ち上がり、外のひんやりした空気が入ってくる。折れた骨や断裂した筋肉も完治しているようで動きに支障が出るような違和感はない。服が吸い込んだ血が固まってパリパリ細かい粉になって肌に着くのが気持ち悪いくらいか。
シュインと治療室のドアが開くとエリザベス嬢が入ってきた。
「ファルド様!よかった…何日も目を覚まさないから心配しました」
エリザベス嬢が駆け寄って抱きついてきた。安心したように俺の胸に顔を埋める。なれないシチュエーションに俺はおずおずと抱きしめ返した。
「──すみません。御心配おかけしました」
思った以上に重傷だったようだ。──そういえば今何日目だ?こうしているって事はまだ墜落していないんだろうけど。感動シーンをぶった切って悪いが、俺はエリザベス嬢の肩を持って質問する。
「エリザベス嬢、天空大陸に来てから今日で何日目かわかりますか?」
「むぅ、──そうですわね。15日でしょうか?」
ちょっと拗ねたような表情だったエリザベス嬢が、思案顔に変わると日数を教えてくれた。
「やばい。ギリギリかもしれない!」
「あっ忘れてました!魔族が天空大陸を墜落させようとしているんでしたわ!?」
薄情にも二人揃って王都壊滅の危機を忘れてた。俺達は医療区画を出て戦艦のドックに向かった。
俺達はアイロネアグル型の飛空挺の中で銀地に金のラインが入った船に乗り込む。俺達が持ってきた物資も既に積み込まれていた。
「ハハッ、先に見て回ってらしたんですね」
「はい。同じ船を選んでくれて嬉しいですわ」
操縦席に座ってコンソールに端末機をかざすと起動シークエンスに入った。手に入れたIDが飛空挺を動かせる権限を持っていて助かった。駄目だったら数日常温に放置された司令官の腕を取りに行かなければいけなかった。
「動かそうとはしなかったんですか?」
「もちろん。動かし方なんてわかりませんもの。恐いですわ」
OSの起動が終わり、AIが異世界人の言語で喋り出す。
『お疲れ様ですナイトイーグル07。アイロネアグル型戦闘飛空挺三番艦です。ご用命は何でしょうか?』
ナイトイーグル07って俺のことか?端末機の人の趣味か部隊長の趣味なのか、まあどっちでも良いか。
『天空大陸の外を飛びたい。どうすればいい?ああ、それと俺は操縦経験が無い。そのつもりでサポートしてくれ。あと何て呼べばいい?』
『承知いたしました。フルサポートモードで対応いたします。それでは管制官に連絡してドックの入口を開けてもらってください。私のことはアイロネアグルⅢとお呼びください』
『すまないが、非常時で管制官他、人員がいないんだ。どうすればいい?』
『──状況を確認しました。此方でドック入口を開けます。管制官の指示はありませんので判断はナイトイーグル07が行ってください』
ドックの入口が下に向かって開き始めると雲海が見えてきた。アイロネアグルⅢの船体も下に傾き始める。
「ファルド様が何を喋っているのか全然わかりませんわ」
エリザベス嬢が後ろで質問したくてうずうずしているのがわかる。
「はいはい。質問は後でお願いします。危ないからこちらの席にお座りください。──シートベルトはこうやって付けてくださいね」
エリザベス嬢を隣のシートに座らせてシートベルトを締めてあげる。彼女のスタイルが良すぎてベルトで強調される胸に目が釘付けになったのはバレていないと思いたい。
アイロネアグルⅢが滑るように斜め下に落ちていき、空中で着水するような挙動で水平になる。
『ひとまず、天空大陸の周りを飛んでみてくれ』
『承知いたしました』
グンとした衝撃と共に空を滑るようにアイロネアグルⅢが飛び始める。船首を上げて天空大陸の底辺から上空に向かう。ほんの数分ほどの飛行で天空大陸の全貌を眼に収められる高度まで上がってきた。
「わぁ!すごい…こんなにも大きな大陸が本当に空に浮かんでいたのですね!」
大陸と呼ばれるほどの大きさの岩塊が大地の上に影を落として飛ぶ姿は凄まじい迫力だ。こんなものを使って戦争をしてたんだから昔の人間は頭おかしい。
「あっ、ファルド様、あれって王都じゃないですか!」
エリザベス嬢が指さした先に大きな都市が見える。見覚えのある城もあるので間違いは無い。眼下に見える天空大陸は高度を下げて王都へ向かっていた。
「なにっ!?もうこんなに近くに!?くそっ、今から魔族を倒しに行っても間に合わない!」
「えぇっ!?そんな、何か手はありませんの!?」
『アイロネアグルⅢ!天空大陸が墜落しようとしている!止める方法はないか!?』
『──状況把握しました。主艦橋で破壊工作を行っている敵性体を確認。警備ロボが対応していますが排除できていないようです』
「くっ、魔族を倒すのは難しいか…」
「そんな…」
『アイロネアグルⅢは当機による主艦橋の破壊を提案します』
『はっ?そんなことをしては不時着させるなどのコントロールもできなくなるぞ!』
『いいえ、天空大陸には主艦橋が使用不能になった場合の予備が4つ用意されています。主艦橋を委譲する承認フローを回すより、主艦橋を破壊する方が早い対応方法として提案しました』
『なっ!?そんな方法が…迷うこともない。それでいこう!』
『了解いたしました』
アイロネアグルⅢの提案に乗り、天空大陸の主艦橋の破壊に向かう。主艦橋の位置はアイロネアグルⅢがわかっているので真っ直ぐ飛んでいける。主艦橋は天空大陸の中心の高い山に偽装されていた。
「どうされますの!?」
「魔族のいる場所を破壊し、その場所の予備を使って墜落を止めます。衝撃が来るかもしれません。お心積もりを」
主艦橋とおぼしき場所から煙りが上がっている。時折、爆発も起きているので魔族が今も破壊活動をしているのかもしれない。
『主砲の用意が出来ました。照準は私が行いますが、トリガーはナイトイーグル07が引いてください』
『承知した。では主艦橋の破壊と共に魔族も殲滅する!一人も逃がすな。撃てぇ!!』
アイロネアグルⅢの前面につく二門の主砲から砲弾が発射された。超音速で飛ぶ砲弾が主艦橋に突き刺さる。直後、大爆発を起こして主艦橋を大きく吹き飛ばした。巻き込まれた魔族の肉塊があたりに散らばる。主砲を再装填している間に上下左右の機銃で主艦橋内の生体をくまなく掃討する。生き残った魔族達も幹部クラスなのだろうが俺のバレットM82銃魔法と同レベルの弾を連射で食らって無事に済むわけがない。魔族が倒せるかの心配よりも、むしろ身元判明できるレベルの死体が残るかの心配をした方がいいかもしれない。
その後、追加で主砲を8発撃ち込んで主艦橋を破壊した。魔族が内部から破壊していても主砲が10発も必要だった主艦橋の防御力の高さが恐ろしい。予備の艦橋に制御が委譲され、天空大陸の航路も正常軌道に修正されたことで王都への墜落を阻止することが出来た。
後で聞いたところによると、王都は大パニックに陥っていたらしい。王都より巨大な大陸が空から降ってくるのだから然もありなん。天空大陸の軌道が修正されて再浮上するときに王城で一番高い尖塔にちょっと引っ掛けて崩してしまったが、直接の被害はそれだけだった。王国滅亡の危機を救った俺達の功績は大きかったんじゃないかな。
明日も10時に投稿します。




