24. 軍事施設
エリザベス嬢が俺の言葉を咀嚼出来なくて固まっている。
「古代超高度文明時代?」
「今知られている古代文明より遙か昔に存在した今よりもずっと進んだ技術力を持っていた時代です。その時代は鉄の船が空を飛び、海の底に王都より巨大な都市を築き、人が人を超える存在をデザインして産み出していたそうです」
「空中空母?」
「天空大陸とは他国を侵略するために創り出された兵器なのです。大人数の兵員を輸送でき、制圧用機動兵器群を搭載運用できるシステムを保持し、超長期間の作戦行動を可能にした超戦術兵器です」
「戦闘飛空挺アイロネアグル?」
「空中空母=天空大陸に搭載されている戦闘用の飛行機械です。長距離移動を想定されているので、ある程度の居住性を持った空飛ぶ船です」
「……ファルド様はどうしてそんなことを知っているの?」
「それは秘密です」
「もうー!どうしてそれは教えてくれませんの!?」
ハハハ、エリザベス嬢がぷんすこ怒っておられる。
「わたくしが怒るのを見て愉しんでいますわね!!」
エリザベス嬢が俺の肩をぽこすか叩いてくる。何をイチャついてるんだと冷静な自分が呆れているが、この小動物のように可愛い悪役令嬢様が悪い……いや落ち着け。何を考えているんだ俺は。恋愛脳にやられるな俺!
エリザベス嬢が落ち着いたところで今後の方針を伝える。
「私の目的は戦闘飛空挺アイロネアグルを手に入れることなので、それを第一に目指します。魔族の企みの阻止は第二目標です。申し訳ございませんが私の助力を求めるなら、この優先順位をのんでいただきます」
こうは言ったがエリザベス嬢が一人で魔族を倒しに行くとか言い出したら無理矢理止めるけどな。
「はい、かまいませんわ。わたくし一人で魔族に戦いを挑むほど無謀ではありませんもの」
「ありがとうございます」
「…あの、ファルド様は魔族の企みが何か知っていますの?」
エリザベス嬢が怖ず怖ずと聞いてくる。確かに知っていると返されたら何で?となるものな。ただ、ここで知らないと答えるのは嘘臭すぎるしなぁ。
「……私はある程度の未来と、この世界の知られざる知識を持っています」
「…神託ですか?」
「神託…ではないと思います。何と言い表すのか知りませんが。この世界を題材とした物語を見たような知識ですね」
「物語…」
「はい」
エリザベス嬢が上を向いて俺の語った物語という言葉の意味を解釈しようと思考の海に没する。
「では質問に答えましょう。魔族の企みは天空大陸を王都へ墜落させることです」
「墜落!?」
色々いっぱいいっぱいな情報の濁流にさらに大変な情報を追加しました。エリザベス嬢の百面相を見てるのが愉悦愉悦。
「大変ですわ!?すぐ止めないと!!」
「ああ、まだ余裕はあるから大丈夫ですよ。天空大陸が王都へ着くのは半月後くらいじゃないかな」
「えっ?そんなに掛かるんですの?」
「魔族には天空大陸を兵器として運用する知識はありませんからね。通常速度で移動して王都上空で壊して落とすぐらいしか出来ません」
魔族は長命な分、人間が失伝した情報も持っていたりするが、さすがに超技術の塊の空中空母を自在に動かせるほどではない。せいぜい自動運行の軌道を変更して王都上空を通過させるぐらいしか出来ない。
「ということで先に飛空挺を取りに行きましょう」
「うぅん、喫緊の問題でないことはわかったので、とりあえずは納得いたしますわ」
エリザベス嬢は得られた情報を吟味するためか、オオトカゲの上で思考に没頭し始めた。俺はオオトカゲの手綱を操って天空大陸の草原を進む。今日の寝床に向かうためだ。ちなみに手綱は精霊の写し身のコモドオオトカゲを俺でも操れるようにエリザベス嬢にお願いしてつけたものだ。このトカゲは手綱で示した動きをとってくれるようになっている。
天空大陸は10km四方ほどの広さを持ち、大陸内部の多階層の各フロアの面積を合計すればとんでもない広さとなる。これだけの大きさの構造物を今も空に浮かべているのだから超高度文明の力は凄まじい。
草原を進むと形のそっくりな大きな岩が2つ並んでいるところが見えたのでその岩に向かう。二つの岩の根元にはハッチがあり、取っ手を持ち上げると下に続くハシゴが現れる。
「エリザベス嬢、少しここでお待ちください。下の安全を確保してきます」
「あ、はい。えっと、わたくしも降ります」
思考の海に埋没していたエリザベス嬢が復帰したようだ。地上に一人残すよりは安全なのでハシゴの途中で待っててもらうことにした。ハシゴを下まで降り、横にある隔壁扉を手動で開く。
扉の向こうは非常灯のオレンジのランプだけが着いた広い部屋だった。壁に埋め込まれたコンソールを触るとスリープモードが解除されて画面が明るくなる。異世界人の言語で照明のスイッチと表示された項目があったのでONにすると部屋が明るくなった。部屋にはビニールに包まれたブロック状の肥料やスコップ、荷運び用の自走カートなどが置かれていた。地上への貨物搬出用のエレベーターもあるので作物栽培区画か何かの倉庫兼管理部屋なのかもしれない。魔物や警備用の機械は居なかったのでエリザベス嬢を呼ぶ。
「これは魔石灯でしょうか?随分と明るいですね。壁の建材も色が塗られた石でもない…降りてくるときに見た壁と同じ金属ですか?」
エリザベス嬢が早速倉庫の中の探索をしている。王国の文化文明とは全然違うから珍しくて興味が尽きないのだろう。ペタペタとあちこち触っているのを放置して貨物用エレベーターを開く。地上のオオトカゲに積んできた荷物を下ろすためだ。
「なんですかそれ?」
「荷物を上げ下ろしするための仕組みです」
エリザベス嬢が貨物用エレベーターを見に来たので、説明がてら一緒に乗って動かす。いきなり動き出した筐体にバランスを崩して俺にしがみついてくる。わぁと楽しそうな声を出してキラキラした目でエレベーターを観察する様は童女のようだ。
実は地上の大きな岩がエレベーターの入口になっていて、扉が開いたときに目の前のオオトカゲが眼をまん丸にして此方を見ていた。そのままオオトカゲをエレベーターに乗せて下へ降りる。資材搬入用の大きさだからオオトカゲでも乗せられるのだ。
ここを仮の拠点とするため、倉庫の中に野営セットのテントを設置する。
「ちょっと早いですが、ここで休みましょう」
「はい。何かお手伝いすることはありますか?」
「そうですね。あちらの荷物からパンとベーコンと調理器具を出しておいてもらえますか?」
後で地上に食べられる葉物野菜が自生してないか見てこよう。ちなみにトイレはこの倉庫にもあって、男性トイレと女性トイレのドアが部屋の端にある。中のトイレも使用可能な状態にあってメンテナンスロボットが数千年を超えても仕事をしていることを証明している。シャワールームも勿論メンテされた状態である。
「ひゃあああああ!?」
トイレからエリザベス嬢の悲鳴が聞こえた。さっき教えた温水ウォシュレットを使ってみたのだろう。
夕食を食べながらエリザベス嬢に探索計画を話す。目的地は飛空挺のドック(船渠)なので、ここのような仮の拠点になる部屋を辿りながら向かう。だが先に、ここ以外の仮拠点を見つけるために地図が必要なので、船員が持っていた端末機を探す。そのために明日からは倉庫を出て艦内の部屋を探索していく、といったことをエリザベス嬢に話して聞かせた。
「艦内…ここは本当に船なのですね。魔導具とは趣の違う道具が一杯ですし、調べるモノが沢山あって大変ですわ♪」
「一応、魔族の企みの阻止という目的も後に控えているんで、ゆっくり見て回ることは出来ませんよ?」
「そんなぁ!?」
エリザベス嬢の好奇心を満足させるのは後にしてくれ。シャワールームを使ってさっぱりしたら、エリザベス嬢にテントを使ってもらい、俺はビニール詰めの土の袋をベッドにして眠った。この部屋は頑丈で機能もしっかり生きているので、仮に魔物が突っ込んできてもセキュリティアラートが事前に鳴る。おかげで夜番を立てなくても休めるから有難い。
翌日、朝食を食ったら倉庫を出て艦内の探索を始める。現在いるところは学園地下遺跡から転移したガゼボからほど近い場所にいる。天空大陸の端の方だ。この艦には前後左右の区別はない。便宜上の前方とされる方角はあるが、一々回頭せずともどの方向でも遜色なく進めるようになっている。その広さから重複する機能のブロックが複数あり、今いる場所にも船員の居住ブロックがあったはずだ。
艦内の金属質な壁に二畳分ぐらいの大きさの極彩色のアメーバのようなモノがへばりついている。イリディスウーズと言う名前のスライム系の魔物で、物理攻撃は効かず魔法耐性も高いので、俺との相性が悪い厄介な魔物である。
「ここはわたくしにお任せください」
エリザベス嬢が前に出て詠唱を始める。
「精霊界の虚よ、その口を開き全てを飲み込め。フォーリンアブス」
驚くべきことにエリザベス嬢の魔法が発動すると空中に暗い穴が開き、複数体居たイリディスウーズが全て吸い込まれていった。
「えっ!?今の魔法は一体?」
「精霊界にあるとされる暗き沼への穴を開く精霊魔法ですの。抵抗する意思の弱い相手なら吸い込めるようですわね」
沼に落ちた相手がその後どうなるかは知りませんけどと中々怖いことを言う。いわゆる即死魔法という奴だ。ゲーム知識にない強力な攻撃手段をエリザベス嬢が持っているとは嬉しい誤算だ。天空大陸の攻略に俺の苦手なとこを補ってくれるパートナーが出来たのは有難い。
「ありがとうございますエリザベス嬢。この先もよろしくお願いいたします」
「お役に立てて嬉しいですわ」
堅い敵や物理攻撃が聞きやすい相手には俺が対処し、それ以外にはエリザベス嬢の精霊魔法や精霊召喚をメインに戦っていく、その戦法で探索は随分とはかどった。
扉を覆った蔓性植物を火の精霊によって焼き払ってもらうと、古代人のモノと思われるネームプレートの掛かった部屋が見つかった。部屋の中は朽ちた物品も多数あったが、専用ケースに納められていたスマフォのような端末機はまだキレイな状態だった。バッテリーは切れていたので部屋のコンセントで急速充電をすると、電源が入りOSが起動できた。地図アプリも入っているし、低レベルセキュリティ区画への立ち入りIDもある。飛空挺ドックに入るためのキーがある部屋にも入れそうだ。
地図アプリ入りの端末機で目的地を探すと、飛空挺ドックは数ブロック先にあることがわかった。天空大陸内の移動用転移ポータルの場所もわかったが、端末機のIDでは使用できないらしい。体内に注入したナノマシンでの生体認証が必要なのだが、その施術施設はドックより遠い。面倒だがドックまでは数日かけて歩いて行くしかないようだ。
仮拠点で休んで翌日、次の拠点に向けて地上を歩いた。強力な魔物が襲いかかってくるがエリザベス嬢と協力して倒していく。森の管理小屋を拠点にして休み、また次の拠点へと向かう。天空大陸の魔物は強力で厄介なのが多いため、安全マージンを取るとどうしても遅々とした歩みになってしまう。時にはメンテナンスロボットに修理されていない崩壊した橋があったりして、大きく迂回しなければならないこともある。そんなことがざらにあるので、目的地まで見込みよりも大分と日数が掛かってしまった。
地上が廃墟となっているブロックに到着した。朽ちた駅舎に移動用モノレールがあり、それに搭乗して地下施設へ降りていく。廃墟の地下には巨大空洞が広がっており、採光施設のお陰で地上並みに明かりが確保されている。巨大空洞は球体の半分程が埋め立てられた半球状の形をしており、兵器の開発試験場など軍事施設が並んでいる。モノレールの駅に着くと無人のホームに俺とエリザベス嬢は降り立った。
「誰も居ないと寒々として寂しいですわね」
「その昔はこの場所も沢山の人が行き交っていたのでしょう」
「これだけ発展した文明を持った人々がどうして滅びたのでしょうか?」
「…わかりません。ただ、進化の果てには滅びがあるという言葉もあるそうです。この光景がその答えなのかもしれませんね」
大通りの並木道はメンテナンスロボットに剪定されているのか、今でも往時の雰囲気を残している。車の残骸らしきモノが残る通りの真ん中をエリザベス嬢と並んで歩いていく。駅から少し離れたところに白い建物が建っていた。屋上の給水塔には赤い十字が書かれている。それは医療施設だった。
病院の正面玄関のガラスは破れていたが、残骸はメンテナンスロボットが片付けたのか見当たらなかった。自動扉も稼働していないのでドア枠をまたいで中に入る。
正面の受付の中を覗いても書類らしきモノは残骸も見当たらない。全て電子化されていたのかもしれない。案内看板を見て目的地を確認して階段を登っていった。
「──医療施設のような雰囲気ですわね」
「その通り、病院です」
「やっぱり。ん?飛空挺のドックに行くのではないんですの?」
「そこへ行くために必要なモノがここにあるのですよ」
病院の3階奥にある冷凍保管庫に低レベルセキュリティIDで入室する。この場所はメンテナンスロボットの対象になっているので今でも問題なく稼働している。棚の中から一つの冷凍ボックスを取り出す。
「なんですの?」
俺が冷凍ボックスの蓋を開けると、中を覗き込んだエリザベス嬢が「キャッ」と言って飛び退く。ボックスの中には成人男性の腕が納められていたのだ。
「これは司令官の腕です。戦争という非常時に処置されたモノがここに保管されていたのです」
「そういった事も知っておられるのですか!?」
「これは本筋に関係ないエンドコンテンツ情報というか、まあ、お得情報です」
「殺伐としたお得情報ですわね」
エリザベス嬢が嫌そうな顔をするので冷凍ボックスの蓋を閉める。その後、使えそうな物資を漁った後、病院を後にした。通りを進み、時折襲いかかってくる番犬型のガードロボットを89式銃魔法で穴だらけにして倒していく。
厳重なゲートが閉まっている施設の前に着いた。無人の受付の端末に冷凍ボックスの中の腕で掌紋認証をする。ナノマシンも健在のようで問題なくゲートが開いた。
ゲートをくぐり、広い敷地を真っ直ぐ進んで正面の建物に入った。建物の奥にはいくつもセキュリティゲートがあったが、冷凍ボックスの腕で全て突破して地下への階段の前まで着いた。
「なんだか凄く厳重な施設ですわね」
「軍事施設ですからね。セキュリティは厳しいですよ。イレギュラーな事態でこの腕がさっきの病院になかったら入れませんでした」
つづら折りの階段を地下へと降りていく。ビルの十階分を降りてもまだ底に着かない。
「な、長くありませんこと!?」
「天空大陸の底辺近くまで続いてますからね。めちゃくちゃ長いです」
「こ、こんなの使ってたんですか?」
「ここはあくまで非常時の道です。普段使いは転移ポータルを使うのですが、冷凍ボックスの腕では使えませんので」
なんとかスカイツリー何本分降りたのか、ようやく底に着いた。重い隔壁扉を押し開け、非常灯だけが着いた暗い廊下に出た。廊下の先の扉を開けると目の前に高い天井の広い空間が広がり、船舶のドックのような設備に何隻もの金属の船が係留されていた。
「ひょっとして、あれが?」
「はい。戦闘飛空挺アイロネアグルです」
明日と明後日は10時に投稿します。




