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悪役転生…させんっ!  作者: とる
悪役令息転生
23/29

23. 天空大陸

 第三王女と会った翌日は疲れが溜まっていたのか昼まで目が覚めなかった。寝室からリビングに出ると、ラフな格好に着替えたエリザベス嬢が書物を積み上げて書き物をしている。書物の出所を聞くと学園図書館から古代文明についての本を、第三王女に攻略に必要だからと借りてきてもらったそうだ。第三王女は友人のためになら強権発動も厭わないらしい。だが申し訳ないが古代文明の遺跡はスキップするつもりなんだ。

 どうやら食事もとらずにやっていたようなので罪滅ぼしに簡単にサンドイッチを作って渡しておいた。令嬢らしからぬ食事を出したことが侯爵家に知られたら何を言われるんだろうなぁ。


 翌々日、依頼していたダンジョン探索用の物資が届き、学園長から学園地下遺跡の説明を受ける手はずが整った。物資は王都への帰還時に使った野営セットの消耗品の補充と各種ポーション類他、食料を二人で15日分程用意して貰った。エリザベス嬢の精霊に運んで貰えるからこその量だ。

 俺とエリザベス嬢は質素な馬車で学園内の図書館の裏手まで送り届けてもらった。物資が尋常じゃない量というのもあるし、エリザベス嬢が有名人なので顔見知りに会わないための配慮でもある。


「ファルド様も十分有名人でしてよ?」


「そうですか?あまり人脈を広げてはいなかったのですが」


 顔馴染みの受付の紳士にレベル3区画へと案内される。エリザベス嬢は初めて訪れるのか物珍しそうに周りを観察していた。彼女は魔族の洗脳が解けてから令嬢らしからぬ好奇心を抑えなくなっている。本来の気質がこうなのかもしれない。


 レベル3区画には魔石灯が運び込まれ、地下遺跡への隠し階段の周りが夜の道路工事現場のように煌々と照らされている。灯りの前に白髪白髭で金糸で縁取られた黒いローブの年配の男性が立っていた。


「久しぶりじゃのエリザベス嬢。こうして話すのは数年ぶりかの?事情は聞いておるよ」


「お久しぶりです叔父さま。ご挨拶にも参れず、ご心配をお掛けしました」


 学園長はエリザベス嬢の縁者だったか。俺は暫く二人の語らいを邪魔しないよう後ろに控えていた。


「──ファルド卿、またせてしまい済まない。状況を説明しよう」


「いえ、お気になさらず」


「うむ、この階段の下に古代文明の地下遺跡がある。三層からなるダンジョンと化しておるのじゃが、どうやら魔族が攻略して最下層のボスまで倒してしまったようじゃ」


 最下層以外は俺だな。魔族が簡単に攻略できてしまったのは俺が道中の魔物や階層ボスを間引きしてたからか。


「問題は魔族がダンジョン攻略後に最奥に留まり何かをしていることじゃ。昨今の魔族の敵対的な姿勢から放置できない行動をしている危険性がある」


「侵入者が魔族というのはどうやって確認されたのですか?」


「うむ、ここは最奥に侵入者があれば儂が気づける仕組みになっており、その様子も見れるようになっておる。最奥のボスとの戦闘は一部しか見られなかったが、多数の魔族で挑んだようで、多くの死体が転がっておった。魔族は角など身体的特徴が顕著だからの、種族は判別しやすかった」


「私も見ることは出来ますか?」


「出来ない。これは儂の一族だけが見れる仕組みになっておるからの」


「何人生き残りがいるか、何をしているかはわかりますか?」


「見えた範囲でだが5人しか生き残りはいなかった。何をしているかはわからん。最奥の間しか見えず、奴らは奥に入ってしまったからの」


「最奥のさらに奥には何があるのですか?」


「知らんのじゃ。儂には最奥のボスを倒せる力がないからの」


 十中八九、魔族は天空大陸に向かったな。学園長は本当に天空大陸のことを知らないのか?俺が最奥に辿り着けば判明することだから嘘をついても仕方ないし、失伝したのかもな。


「そういえば私達の前に確認に向かわせた者は居ないのですか?」


「何組か冒険者を雇って最奥に向かわせたが辿り着けた者は居ない。第一層は殆ど魔物が居なかったんじゃが、第二層は魔物が狂乱状態でのう。突破できた者がおらん」


 魔族共め、無双ルートを行きやがったな。大人数なら真っ直ぐ最短で行くのが楽だろうからな。


「ファルド卿の実力は戦闘演習で見せて貰ったから十分にこのダンジョンを突破できうると思っておる。だがその先の魔族の実力は未知数。危なければ撤退を選ぶのじゃぞ?」


「承知いたしました。エリザベス嬢も一緒なので御心配をお掛けしないよう進みます」


 俺と学園長の話は終わった。階段の下におり、ダンジョン内でエリザベス嬢に王都への帰還時にも乗ったコモドオオトカゲ型の土精霊を出してもらう。大型騎獣用の鞍と荷物用のキャリアを付け、野営セットや物資を積んでいき、用意が出来たら出発だ。


「それでは行って参ります」


「叔父さま行って参りますわね」


「二人とも気をつけてな。危ないと思ったらすぐ撤退するんじゃぞ」


 見送りに手を振り、俺とエリザベス嬢を乗せたオオトカゲは学園地下遺跡の第一層を進んでいった。


 ◇


「古代文明の街並みなのでしょうけど、生活するにはおかしな区割りになっているところとか見られますわね?」


「ダンジョン化した時に、元の街を改変しているようですね」


「ある程度の不便を受け入れたらダンジョン内で生活することも可能ではありませんこと?」


「うーん、確かに私もダンジョン内で仮眠とったこともありますし、こういった街を再現したタイプのダンジョンなら可能かもしれませんね。魔物の脅威を無視できれば」


「ああ、魔物ですか。普通の人は街中に魔物が闊歩するところでは生活できませんよね」


「はい。家の中にいきなり涌いたりもするでしょうしね」


「あっ、ファルド様、あの家の中を覗いて見てもよろしいですか?」


「どうぞ。私が先に入りますので後からついてきてください」


 エリザベス嬢の好奇心を満足させるために探索に付き合っている。転移の指輪で天空大陸へひとっ飛びすることも出来たが、何となく彼女が楽しそうなんで先を急がず寄り道している。

 建物の中に金目のモノはなく、代わりに餓鬼が何匹か涌いていた。89式銃魔法でタタタタと掃射して安全を確保すると、エリザベス嬢を招き入れた。


「簡単に魔物を倒してしまいますわね。その魔法の威力からすると消費魔力は決して軽くないと思うのですが」


「魔力量には自信がありますので」


 モルタルっぽい壁の作りや梁や柱の建て方などを見てメモをとっている。


「──小さい頃からこういう古い時代のモノを見るのが好きなんですの。令嬢らしからぬ趣味ということで何時しか止めてしまっていたけど」


 高位女性貴族に求められる教養や役割は多い。エリザベス嬢の普段の姿を見ていると並大抵の努力では無かったのだろうと察せられる。それこそ遊んだり、休む時間も削らねばならないぐらい。


「バーテイランス家がお取り潰しになったら趣味の時間をとれるようになるかしら?」


 精霊に愛される少女は冗談めかしてそう言う。


「バイクローン家も同じですね。家のことを気にしなくて良くなったらどこか旅に出るのも面白いかもしれませんね」


 そうですね。とエリザベス嬢が小さく笑う。ここは共に行こうと言うべき場面だろうけど、ヘタレな悪役令息の俺には言えない台詞だった。


 ◇


「脇道にそれてしまいましたけど第二層に降りる階段までの道順はわかりますか?」


「ええ、学園長から地図を頂いていますので。それにどうとでもなりますし……エリザベス嬢、こちらの階層はご満足いただけましたか?」


「はい。古代文明の時代に生きた人々の息吹が多少なりとも感じられました。次はダンジョン化していないところを見てみたいですわね」


 エリザベス嬢も満足したようだし、申し訳ないが第二第三層は飛ばして天空大陸へ行かせてもらう。俺は懐に仕舞った貴重品入れの小袋から転移の指輪を取り出す。


「それはなんですの?」


「これは転移の指輪というモノです。この学園地下遺跡ダンジョンを超えた先に行けるアイテムですよ」


「えっ?てんい?なんのことで──」


 エリザベス嬢が喋っている途中で俺は転移の指輪を発動し、エリザベス嬢とコモドオオトカゲを巻き込んで天空大陸に転移した。




 ──光に包まれ、一瞬の浮遊感の後、青空の下にある白いガゼボの前に俺とエリザベス嬢とコモドオオトカゲは居た。


「──キャアアアア!なんですの!?なんですの!?ファルド様!ここは何処ですの!?」


「天空大陸ですね」


「普通に答えないでくださいまし!」


 ハハッ理不尽な。こんな反応が見たくて、ついついイタズラ心を抑えられずに、ろくに説明もせず転移をしてしまった。いやほんと申し訳ない。

 ぷりぷり怒るエリザベス嬢に指輪を手に入れた経緯などを説明する。事ここに至って隠す必要も無いので正直にだ。


「──ということはファルド様は学園地下遺跡ダンジョンをお一人で制覇されたのですか!?」


「第三層のボスは倒さなかったので完全制覇とは言えませんが」


「それでも前人未踏の偉業ではありませんか。なぜ公表しないのです?」


「隠されたダンジョンですし、私の目的は名声ではありませんから」


 そう言って草原を少し歩く。遠くの草原の端の向こうには白い雲海が見える。これだけの高度だ。普通は空気の薄さで身体に悪影響がありそうなものだが俺達の動きに支障は無い。さすがは古代超高度文明時代の空飛ぶ侵略占領拠点だ。

 エリザベス嬢が俺の横に並び、雲海に目を向ける。その景色を見た瞳には感動と興奮の色が浮かんでいる。早速メモ帳を取り出してスケッチなど書き物をし始めた。


「天空大陸と言えばおとぎ話の存在ですわ!吟遊詩人が謳い、古の冒険家が手記に残す伝説の土地。一説では山の高地に造られた都のことだというのも有力視されていましたが、今わたくしの目が捉えているのは、まさしく天に浮かぶ大地!天空の大陸は実在したのですわぁ!!」


 エリザベス嬢が興奮しておられる。彼女がコモドオオトカゲの背中を台にして書き物に熱中していると、草原のむこうから鳥が飛んできた。遠目なので大きさがわかりにくいが第二層にいた翼長6mのボーンウィングヴァルチャーを3倍ぐらいにした大きさがある。あれは嵐の翼テンペストウィングと呼ばれる天空大陸の魔物だ。見た目は始祖鳥を凶悪にした感じだな。

 小型旅客機ぐらいはある巨鳥が相手では89式銃魔法では豆鉄砲ぐらいとは言わないが、致命傷を与えるには何発撃ち込まないといけないことか。ここはバレットM82銃魔法を使う。ダンジョンの開始直後に俺の虎の子を使わされるのは業腹だが、ここはそれだけのレベル帯のダンジョンと言うことだ。

 ズドンッという砂袋をハンマーで叩いたような音の直後、こちらに向かっていたテンペストウィングの頭と首と胴体に穴が穿たれ、力なく滑空を続けた後、地面にズズンと墜落した。


「ななっ!?なんですの!?」


「お気になさらず。鳥です」


「鳥って大きさじゃないですわよね!?」


「こんなのでも天空大陸では普通サイズなんですよ…」


「えぇっ、とんでも魔境ですのぉ…」


 エリザベス嬢は天空大陸の生態系に慄きながらも、墜落した巨鳥にオオトカゲに乗って近付いて観察を始めた。


「そういえばファルド様の本当の目的ってなんですの?天空大陸をご自分の領地にするとか?」


「そこまで大それたことは考えていませんよ」


 俺はエリザベス嬢の邪魔をしないように周りを警戒しながら言葉を返した。


「古代超高度文明時代の空中空母=天空大陸に格納されている戦闘飛空挺アイロネアグル。それを手に入れることが私の今生最大の目的です」



元旦は1時に投稿します。

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