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悪役転生…させんっ!  作者: とる
悪役令息転生
20/29

20. 逃避行

 第一王子が第二王子の居る城に攻撃を仕掛けるのを、湖上から悪役令嬢と二人で眺める。火矢や火魔法を使っているのは城門を燃やすためだろうか?夜の闇に放物線を描き飛ぶ火矢や、当たって砕ける火の玉は花火を想起させて美しい。


「──はっ!?見入っている場合じゃなかった!これからどうするか…」


 悪役令嬢も俺の胸に頭を預けのんびり見入っていたようで、姿勢を正して取り繕うようにキリッとした顔でどういたしますのと聞いてくる。

 第一王子に保護を求めるのは…無しだな。現状、俺達は第二王子派だし、俺に至っては魔人薬入りの酒を用意したバイクローン伯爵家という誤情報が伝わっているかもしれない。


「私が第一王子軍に保護を求めるのはリスクが大きいのでやめておきます。けどエリザベス嬢なら巻き込まれた被害者の立場を主張すれば保護される可能性もありますが?」


「いえ、わたくしも第一王子には保護を求めません。…それに侍女の形見を父親に早く渡してあげたいですもの」


 死んだ侍女の父親はバーテイランス侯爵家の家宰らしい。当主について王都にいるそうだ。


「わたくしは王都へと向かいます。…ご助力いただけませんか?」


 悪役令嬢が俺の目を見て真摯に頼んでくる。湖面に反射する城の灯りに照らされたエリザベス嬢は、夜に隠された黄金の女神かのような神秘的な美しさを魅せてくれる。ゲームの悪役令息のように恋に狂って破滅するのはごめんだと色恋からは離れようと努力しているのに…


 …俺は頭を振って今考えていたことを散らす。悪役令嬢は王都の侯爵邸が目的地だ。近場の侯爵家の屋敷は第一王子の手が回っている可能性が高いので寄らないみたいだ。

 では俺はどうするか。バイクローン伯爵領は遠く、王都から離れることで情報が遅くなるデメリットは大きい。それに王都に行けば天空大陸へ転移して逃げ込むことが出来るので、むしろその方がメリットが大きいかもしれない。


「私も王都へ行って情報収集いたします。人目のある街道などは使えませんから。山道を行くことになりますが大丈夫ですか?」


「はい大丈夫です。ファルド()、ありがとう存じます」


 んー、なんか悪役令嬢が殊勝な態度だと反応に困る。

 小舟で湖岸まで行かなければいけないのだが、第一王子軍の灯りが湖岸の周りに広がっていってる。手漕ぎでは対岸に着くまでに包囲に捕まるだろう。どうするか。


「見つかるのはこの際仕方ないとして、風魔法で対岸まで行くしかないでしょうか」


「見つからずに対岸まで行けたら追っ手の心配が減りますものね。わたくしにお任せください」


 悪役令嬢は湖に手をつけると詠唱を始めた。


「湖底で微睡む水蜥蜴、その深き静寂の性をここに、我が召喚に応じその力を貸し給え─」


 水色の召喚陣が水中で展開される。陣の光は最小限に抑えられているので遠くから気づかれる可能性は低い。召喚陣の下には体長5mの山椒魚が現れていた。


「この子に舟を運んで貰いましょう」


「驚きました。ずいぶんと大きい姿を精霊に与えられるのですね」


「はい。この城に着いたときにファルド様に魔族の瘴気を祓って頂いたことがあったでしょう?あの時に頭のモヤが晴れまして、精霊達との繋がりも戻ってきました」


 瘴気を元に作られた薬の効果を消したとは少しも伝えていなかったが、その後の状況で理解したのだろう。魔族の瘴気と精霊は相性が悪い。彼女が精霊召喚の才を十全に振るえなかったことは想像に難くない。


 巨大な山椒魚が小舟を背中に乗せて湖中を進んでいく。小舟の上ではオールを漕がずともモーターボート並みの速さで進む舟から振り落とされまいと二人でヘリにしがみついていた。

 速さのわりに波を立てずに進む小舟が城の対岸に着いた。第一王子軍はまだ湖の半分程にも展開できていない。砂浜に乗り上げた水精霊が小舟を残して消えていく。


「舟はここにうち捨てていきましょう。目立ちますが仕方ありません。ですが彼らの本命は城の第二王子なのでこの舟を見つけても深くは追ってこないでしょう」


「わたくしもそう思います。ところで王都の場所はわかるのですか?」


「はい。持ち出した荷物の中に王都の位置を指し示す魔導具がありますので迷うことはありませんよ」


 貰った野営セットの中に対になった魔導具の場所を指し示し続ける針という、方位磁石のさらに便利なモノがあって、王都のバイクローン邸に片方を置いているので対になったモノを持っていれば必ず帰れるようになっている。


「エリザベス様こちらへ。害虫よけの香の煙を被りましょう」


「なかなか独特の薫りですわね」


 準備が出来た俺達は方位磁石の魔導具を持って夜の森へと足を踏み入れた。


 鉈を振るって藪を切り開きながら小一時間ほど二人で森の中を歩いた。先程から悪役令嬢の様子を見ていたがもう限界のようだ。休憩に入ることを伝え、倒木に布巾を敷いて腰掛けて貰う。


「はぁ、はぁ、申し訳ございません。こんなにも自分に体力が無いことを知りませんでしたわ」


「いえ、ご令嬢の体力を把握していなかった私がペース配分を間違えました。申し訳ございません」


 夜の森をご令嬢に歩かせるのはやはり酷だったか。第一王子派の兵に見つからない程度の距離まで徒歩で真っ暗な中を移動してきたが、もうここで夜を明かすことにしよう。

 しかし思ったよりも王都まで時間が掛かりそうだな。悪役令嬢に無理をさせて体調を崩されても拙いし、どうしたものか…


「はぁ、これなら精霊達に乗せて貰っての移動の方が早そうですわね」


「…舟の時のように地上でも乗れる精霊を持っておられるのですか?」


「はい。それほど長い時間は呼べませんが、わたくしの体力より魔力を使った方が効率は良さそうですわ」


 さすが精霊召喚の資質持ちといった所なんだろうな。

 悪役令嬢と話しながらバックパックからテントを取り出して組み立てる。下に断熱マットを敷いたので寒さに震えることは無いはずだ。体力の限界の悪役令嬢にテントを使わせ、俺は万が一の追っ手に備えて火を焚かずに外套にくるまって外で見張りをして夜を明かした。



 翌朝、悪役令嬢が呼び出したのはコモドオオトカゲのような見た目の土精霊だ。それも体長は5mぐらいある。大きさは山椒魚と同じくらいだが、こちらの方が面構えが厳つく、体高も高いので大きく見える。

 悪役令嬢と荷物をオオトカゲの背に置いて、俺は先行して道中邪魔になる魔物を駆除してまわろうと思ったのだが、悪役令嬢に止められて一緒にオオトカゲに乗っていくことになった。俺の銃魔法なら先回りしなくても魔物を倒せるでしょとのことだ。悪役令嬢を一人にしてトラブルに遭っても困るのは確かなので共に行動することを了解したのだが…


「……」


「〜♪」


 オオトカゲの背中に座った俺が魔物の襲撃を警戒していると、後ろで俺の腹に腕を回してしがみついた悪役令嬢が機嫌良さげにハミングして流れる風景を堪能している。エリザベス嬢はメリハリの効いた悪役令嬢らしい体型なので、そんなに引っ付かれると色々と困る。──ふう…まさか悪役令息の俺がこんな甘酸っぱい展開に遭うとはな。


 オオトカゲは藪をかき分けながら前に進んでいく。見た目が怖い割に上に乗せた人間を気遣ってか、あまり無茶なルートを選ぶことがない。たまに姿を見かけるゴブリンなどの小物はオオトカゲにびびって逃げていく。フォレストウルフなど逃げずに観察してくるのは89式銃魔法の餌食にしていった。


 1時間ほど走っては魔力回復のために1時間ほど仮眠して休憩するを3回ほど繰り返して野営場所を探す。一日の移動距離は悪役令嬢の徒歩とは比べものにならない。精霊召喚して正解だったようだ。


「順調に進んでいます。これなら今日を入れて5日程で王都に着くのではないでしょうか」


「第二王子の反乱を鎮圧した軍が戻ってくるぐらいかしら?」


「どうでしょう?第二王子には魔族が協力していますからね。すぐには鎮圧出来ないんじゃないでしょうか。ただ王都の第二王子派貴族はたいした武力は持っていないので監視か拘束をされているとは思います」


「そうですよね…」


「…大丈夫。侯爵家ほどの高位貴族は無体な真似はされていなと思いますよ」


 少なくとも第一王子軍の結果が出るまではだが。その後の仕置きで侯爵家や伯爵家がどこまで第二王子とズブズブかで家のお取り潰しとかなったりする可能性もあるけど、それは今言葉にすることじゃないな。


 小屋が入りそうな巨木のウロを見つけたので中に荷物とテントを置き、火と水の魔導具でお湯を沸かしてお茶を入れる。貰った野営導具が物凄く使い勝手が良い、機会があればお礼を言っておこう。

 一休みしたらテントから離れたところに穴を掘り、簡易トイレを設置する。野営導具にトイレスペースを作る覆いなどの一式が用意されていたのでそれを使った。いたした後は土魔法で土を被せれば一日ぐらいなら臭い問題も出ない。ご令嬢にはこの設備でも厳しいかと思ったが、意外にもエリザベス嬢は楽しそうにあれこれ見て回っていた。

 居住スペースの用意が出来たら召喚した精霊でウロの入り口を塞いで貰い、俺だけ外に出て周囲の索敵を行う。危険な魔物の縄張りの様子はなかったので、ついでに捕まえた野ウサギを捌き、適当な野草を摘んでからウロに戻った。


「問題はありませんでしたの?」


「ええ、危険な魔物の縄張りも近くには無いようなので、今日はこの安全なウロで泊まりましょう」


「なら!水浴び出来るかしら?」


「え!?野営で水浴び?」


「駄目かしら?汗の匂いが気になっちゃって」


 水の魔導具は100リットル出せるし、予備のカートリッジもある。野営導具を漁るとシャワーヘッドの形の温水を出す魔導具まであった。


「用意は出来ますね。シャワールームを用意しますので暫しお待ちください」


「シャワールーム?」


「温水を頭の上からかけ流して身体を洗う部屋です」


 トイレから離れたところに魔法で深い穴を掘り、使った水が流れ込むようにする。シャワールーム用のホースや支柱に、覆いもセットで揃っているので組み立てる。この野営セットはどこを目指しているんだ。


「──素足では泥で汚れますので、こちらのサンダルをお使いください。タオルはご自分でお持ちで?」


「はい持ってきました。ありがとうございます。では入ってきますね♪」


 エリザベス嬢が着替え用に掛けたタープの向こう側に消える。程なくして衣擦れの音やシャワーの音が聞こえてきた。盗み聞きしているわけにもいかないので、野ウサギを調理し始める。異世界人の知識と野営の経験で多少は料理も出来るのだ。携帯食料と一緒に盛り付ければ少しはマシな食事になるだろう。

 塩と香草をまぶした肉を串に刺して焼きながら、ずいぶんおかしな状況になったと物思いにふける。ゲーム知識だともっと先のイベントが前倒しで起き、それを鎮圧する軍を王都で死ぬはずの第一王子が率いている。さらにはイベントの前に死んでいるはずの悪役令息が、ゲームに登場しない悪役令嬢と山の中でキャンプしている。パチャパチャと聞こえる水飛沫の音を意識しないようにさらに物思いにふける。

 それにエリザベス嬢も男と二人きりなのに湯浴みしようとはどういう了見だ。非常時とはいえこの事が侯爵閣下にバレたら死、もしくは責任問題。あれ?逃げ場無くね?


「ふう、良いお湯でしたわ」


「!?」


 シャワーが終わったのに気づかず、危うく焼いている串を落としそうになった。

 エリザベス嬢がタオルで髪を拭きながら出てきた。着ている服は先ほどと変わらないが胸元が少し目のやり場に困る感じで着乱れている。額に張り付く濡れた金の髪も、何時もの完璧な令嬢姿からはほど遠い印象を投げつけてくるが、これはこれで凄く良い。


「俺は何を考えているんだ」


 おかしな感想が頭を流れていく。いやほんと自分らしくない。しっかりせねば。


「ファルド様もシャワーを浴びて来られたら?」


「いえ、私は…」


「いろいろな設営で汗をかかれたでしょ?ファルド様がシャワーを浴びている間はうちの子達にウロの入り口を守って貰うから大丈夫ですわ」


 エリザベス嬢に背中を押されて俺もシャワーを浴びることになった。使っていたタオルも手渡されて、匂いを嗅いでしまいそうになるのを鉄の意思で抑える。

 俺は彼女に気に入られているんだろうか?好意を持たれることをした覚えはないんだが。


 手早く汗を流して火の近くに戻ると、エリザベス嬢が串肉の焼き加減を見てくれていた。携帯食の包み紙を皿代わりに切り分けた肉を置く。ハンバーガーを食べる感じで手掴みだ。ご令嬢に申し訳ないと言うと、こういうのも面白いわと言って笑って食べてくれた。

 なんだろう、悪役令嬢とか心の中で言ってて心底申し訳ございませんでした。


 夜間の見張りは先に俺が受け持つようにした。エリザベス嬢の体調を見て休んでもらう時間を調整するつもりだ。俺は3時間ぐらいの睡眠でも1週間ぐらいなら大丈夫だしな。


 野営場所にウロを見つけられたのは良かった。警戒方向を一つに限定できるだけで心労が違う。朝方に交代して貰ったエリザベス嬢も、初めての夜番で疲労困憊になることなく務められたと言っていた。

 お茶とビスケットを数枚食べて野営セットを片付けたら、土精霊の現し身のコモドオオトカゲに乗って王都へ向けて出発した。


 その後、数日かけて森や川や草原を突っ切り、俺達二人は無事王都へと辿り着くことが出来た。


明日も10時30分に投稿します。

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