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悪役転生…させんっ!  作者: とる
悪役令息転生
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02. 婚約破棄

 ゲーム知識を得てから数年、魔法開発や鍛錬、勉学に領地開発に将来の布石を打ちと忙しい日々を過ごした。気付けば数ヶ月後には貴族子女が通う王都の学園への入学が迫っている。そんな慌ただしい時期に俺の許嫁とのお茶会の席が設けられた。

 俺の許嫁の子爵令嬢はゲームでのメインヒロインの一人だ。もちろん俺のヒロインではなく主人公のだ。魔族の瘴気を祓う聖女の資質というのを持っている薄ピンク色の髪の清楚な見た目の割に、勝ち気な性格を持つという美少女だ。ゲームでの俺は一目惚れして恋に狂ったようだが、ゲームストーリーを知っていると妙に醒めてしまって、見た目が良いなという感想以上は出てこなかった。

 この婚約は子爵が新農法開発の資金繰りに失敗し、そこに父であるバイクローン伯爵が手を差し伸べ、その見返りに聖女の血をバイクローン家と結ぶということで決まったことだ。子爵令嬢的には父親に売られたとの意識が強いのと、彼女の幼馴染みでゲームの主人公でもある騎士見習い君に抱く淡い想いのせいで婚約には反発している。今も主人公を後ろに立たせて仏頂面で俺の前に座っている。


「いかがですか?我が領で採れた自慢の茶葉です。フルーティーな香りが自慢でシンプルな味付けのパウンドケーキと良く合うのですよ」


「…とても美味しく思いますわ」


 会話が転がらないこと甚だしいな!よくゲームでの俺はこの娘に惚れたもんだよ。終始こんな調子なのでお付きの侍女と護衛の主人公までハラハラしているぞ。その様子が面白いのでもう少し会話を続けても良いが、まあ本題に入ろうか。


「そういえば、子爵家にはレッサーキマイラを討伐した私達の同年代の騎士がいるそうですね?そのような若き英雄を擁するなど羨ましいことです」


「っ!はいっ、その英雄こそ私の護衛騎士の彼なんです!」


 子爵令嬢の顔がパッと輝き、それまでの不満顔が嘘のように主人公のこれまでの活躍を話し出す。あまりの分かりやすさに失笑を苦笑に見せるのに苦労させられるわ。子爵令嬢の惚気話を適当に聞き流してから、俺は主人公に目を向けて話し掛ける。


「そうなんですね。素晴らしい腕だ。そんな英雄に魔獣討伐をお願いすることはできますか?」


「えっ?それは僕の一存では…」


 さりげない申し出のつもりだったが、警戒させてしまったか。まあいいそのまま畳みかけてしまおう。俺は子爵令嬢に向き直って説得を続ける。


「魔獣といってもレッサーキマイラほどではありません。魔犬ガルムが一匹です。袋小路の谷に追い込んだのですが倒せる者が出払っておりまして、ここで逃すと手負い故にどんな被害が出るか分かりません」


「そ、そうなのですか?で、でも魔犬ですか…」


「お礼はいくらでもとは言えませんが相場の倍は払いましょう。さらには討伐していただければ望みのモノを可能な限り用意します」


「望のモノ?」


「はい。モノでなく約束事でもいいですよ。子爵家ではなく貴女個人が今、本当に望むことを仰有って頂ければ、バイクローン伯爵家次期当主ファルドの名に掛けてかなえて見せます」


 君の望みは婚約破棄だろ?分かっているよーという想いを込めて話してみたんだが…伝わったようだ。子爵令嬢の顔がパッと明るくなり、主人公に振り返り魔犬討伐をお願いしている。令嬢のお付きの侍女は訝しげな表情だがまだ察せていないな。はいはいサクサク進めようか。


 事前に魔犬ガルムを谷に追い込んで用意していたので、主人公がそこに行けば戦えるようになっている。小一時間ほどで魔犬を討伐した主人公が帰ってきた。なかなかのスピード討伐である。準備した伯爵家スタッフには後で報奨金を出しておこう。

 無事、魔犬を討伐して帰ってきた主人公に抱きつかんばかりに喜ぶ子爵令嬢。そのテンションで彼女が望むのは案の定、俺との婚約破棄だった。お付きの侍女がムンクの叫びのような顔になって止めようとしてきたが、茶会に許可なく従者が口を挟むのは御法度。俺が侍女の発言を許さずに封じた。

 ちなみに主人公は身体の汚れを落とさせるためにこの場から下がらせていた。普通に主人公的な性格してるから子爵令嬢を止める側に廻りそうだったので。よくあるらしい主人公も転生者パターンも可能性として考えていたんだが、悪役令息としてこちらを認識している様子もなく、普通に常識人みたいな感じだったのでこの場に居させない方が良いだろうと思ったのだ。

 子爵令嬢に婚約破棄は彼女が主人公を愛しているからと理由まで言わせて、それを俺は讃えて婚約破棄に同意してやった。告白イベントってゲームだともっと後なんだけどね。だいぶ早めてしまったよ。これがRTAというやつか(違う)


 子爵令嬢側は親の同意をとっていない婚約破棄だったが、俺の側は実は事前に根回しは済んでいる。以前、農村で試験させて良い結果を出した農法は子爵家で開発されたモノだった。新農法が結果を出すことは確実なので父のバイクローン伯爵には聖女の血を取り込むよりも新農法の利益を掠め取る方が何倍も得ですよとエビデンスを持ってプレゼンしたのだ。

 援助を受けながら子爵側から約束を反故にさせる。依頼の報酬とはいえ明らかに釣り合っていないし、瑕疵は子爵家側にあるのは対外的に明らか。交渉は父に任せていたのだが、後から聞いたら子爵家の新農法を使って得た利益の一割を10年間無償で伯爵家に払うという約定で話しがついたらしい。

 子爵は令嬢相手にカンカンに怒ったのではないかな?今は新農法の結果が出ていないが援助があればすぐにでも結果は出るだろう。約定で失う利益が判明したとき子爵が憤死しないか心配だw


 ◇


 王都の学園に行くためバイクローン伯爵領を出立する日が来た。領都から王都へは間に二つの他領がある。第二王子派の同派閥の貴族が治める土地で、爵位もバイクローン家の方が上なので気負わずに通ることが出来る。これが他派の土地だと嫌がらせや襲撃に気をつける必要があるらしいから、そういう立地の家は大変だろう。

 通過する領地が下位の家といえど俺はまだ爵位を持ってはいないので挨拶に出向くのはおかしな事では無い。無駄に偉そうにしても得るものは多くないしな。この辺りの感覚は異世界人の記憶に影響を受けてるかもしれない。へりくだるのは論外だが礼を失さない程度に接するのは中々難しいな。


「ファルド・フォン・バイクローンです。此度は領内の通行をお許し下さりありがとう存じます」


「これはこれは御丁寧にありがとうございます。ささっ、ファルド殿も長旅でお疲れでしょう。我が屋敷で旅の疲れを癒やして下され」


 ハゲ頭で小太りの男爵が歓待してくれる。長居したくないが早く出過ぎても失礼なので三日ほど逗留することになった。

 町の広さはバイクローンの領都とは比ぶべくも無い規模だが、市場は領の特色が見えて中々面白い。白いナマコのような見た目の野菜がカボチャのような甘味を持っていて、スープにするとホワイトシチューみたいになって食事処で出てきたときは美味しく頂いた。他にも白いテニスボール大の繭玉から高級な布を織り上げたり、白濁したお湯が湧く温泉など、別に雪深いわけでもないのに白いのが特産の領地なのは不思議な気もする。


 まあ思ったよりは遊べたが、三日もいれば廻るところはなくなる。俺の一学年上の男爵の娘も休暇終わりで学園に戻るために同行をお願いしてきたので許可をする。伯爵家の嫡男に顔繋ぎと、ついでに護衛費が節約できて向こうには一石二鳥なのだろう。それぐらいは好きに利用するがいいさ。さすがに俺より横幅の広い豊満な身体で同じ馬車に乗り込もうとする男爵令嬢には閉口したが。



 男爵領の町を出て小さな村を経由して進んでいると、綿ぼこりのような草が茂って白い雪景色のように見える平原に、黒い点がぽつぽつと現れ、段々と俺達の車列に近付いてきた。


「魔犬ガルムだ!30匹はいるぞ!」


「隊列を組め!馬車に近づけるな!」


 バイクローン家の騎士20名が俺達を護るべく隊列を組み替え、瞬く間に魔犬ガルムの群れを迎え撃つ準備を整える。男爵家の馬車も俺の馬車の近くに寄せ、男爵家のお気持ちでつけられた3名の護衛騎士は数も練度も足りないので俺達の馬車の周りで最後の肉壁役を担ってもらうことにする。魔犬ガルムは並の騎士2名で1匹を相手取るような魔物だ。1人で倒した主人公はゲーム初期としては中々の練度に達していると言える。

 魔犬は魔法を警戒してか散開して距離を詰めてくるので、騎士達から疎らに撃たれる火球などの魔法が直撃することはない。騎士も遠距離攻撃魔法は使えるが戦い方のメインは剣や槍での接近戦だ。魔犬の連携を乱す牽制になれば御の字ということなのだろう。


「だからといって一匹も減らせずこの数と当たるのは良くないな」


 俺は馬車の扉を開け、屋根に手をかけて逆上がりの要領で上に登る。騎士は金の掛かった人材なんだ。何もせずむざむざと死なせないために、ここは俺が骨を折る場面だな。


「若様!?危のうございます!中へ!」


「かまわん!少し数を減らす。俺に飛び掛かってきたら叩き落としてくれよ?」


 近衛の騎士が馬車の中へ戻って欲しそうにしているが、無視して銃魔法の準備をする。真っ白な平原に黒い体色の魔犬が散在している景色が、異世界人の好物だった大福餅なるものを連想させて、場違いに笑いが漏れた。俺は実戦経験が少ないから適度に肩の力が抜けるのは良いことだと思う。

 まず1発目、前線の騎士に一番に到達しそうな魔犬を狙う。右腕を前に伸ばして人差し指でターゲットを指さし、腕の内側に構築した仮想の砲身に弾を込める。魔犬が騎士の隙を探って襲い掛かるため脚を止めた瞬間に発砲する。

 刹那の瞬間に魔犬ガルムの頭が弾け飛んだ。遅れてパーンというやけに軽い乾いた爆発音が辺りに響く。恐らくこの世界では聞いたことがない音だろう。魔犬共がビクッと身体を硬直させ、その動きが数瞬止まる。都合が良いのでその隙に五発ほど発砲した。追加で三匹倒れたので命中率はまずまずでは無いだろうか。銃魔法は火球や氷の礫を飛ばす魔法とは飛翔体の速度が段違いに違う。レーザーを撃つ光魔法にはさすがに負けるが、ここいらでエンカウントする魔物では視認して避けることは無理だろう。

 四匹倒された後の魔犬の動きは明らかに変わった。襲い掛かる圧力は小さくなり、脅威度が高い俺の魔法を警戒するようになった。そんな消極的な姿勢でバイクローン伯爵騎士団を止められるわけが無い。及び腰の魔犬は次々と騎士達に討ち取られる。防御陣を抜けて俺に食らいつこうとした勇敢な魔犬には大量の弾丸を叩き込んでミンチにしてやった。ポーカーフェイスは保てたが心臓はバクバクだ。男爵家の騎士ども役に立たねえな!しっかり俺の前で盾役してろよ!!


 魔犬ガルムは半分ほどが殺されると撤退していった。騎士達に負傷者は出たものの、任務を続けられなくなるような死者や重傷者はいなかった。あの規模の魔犬ガルムの群れに襲われて、この程度の被害で抑えられたのは快挙だそうだ。うちの騎士達は誇らしげに鼻の穴を膨らませる程度で平静なモノだが、男爵家の騎士達は子供のような興奮ぶりだ。それにあてられたか馬車の奥に居て戦いを見ていなかった筈の男爵令嬢も頬を紅潮させ、ぶつかり稽古のような勢いで迫ってきてお礼を言ってきた。それを適当にあしらい、休憩を取って騎士達を休ませた後に王都へ向けて再出発した。



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