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悪役転生…させんっ!  作者: とる
悪役令息転生
18/29

18. パーティー

 演習は別として学園の授業にでるのは二ヶ月ぶりくらいだろうか。と思っていたが学園は長期休みに入っていて、第二王子主催のパーティーに行く当日まで悪役令嬢に挨拶をする機会がなかった。第三王女達がうちの領に来たのも長期休みがあったからのようだ。


 第二王子主催のパーティーは王都から馬車で三日ほどの王族の直轄領で開かれる。王都からほど近い場所なので王族の避暑地になっている風光明媚な場所だ。高位貴族の屋敷も建っており、我が伯爵家の屋敷もある。

 パーティーの当日、俺は正装をして侯爵家の屋敷へと訪れ、当主の三人目の弟にあたる代理の方に挨拶をした。金髪で口ひげを生やした穏やかな顔のイケオジだ。この屋敷の管理を任されているらしい。

「やっぱりエスコート役は無し。帰れ!」とか言われるのを期待していたのだが、そんなことを言ってくることは無く、姪の世話をよろしく頼むよと言われてしまった。

 ホールで悪役令嬢を待っていると、正面階段の上に美しく着飾った悪役令嬢が姿を現した。深い紺色のマーメイドラインのドレスに夜空の星を思わせる煌びやかな宝石がちりばめられ、豪奢な縦ロールの金髪が今日はアップに纏められている。大人の優美さと少女の清廉さを併せ持つ令嬢の魅力を一層と引き出している。


「ご無沙汰しておりますエリザベス嬢。このエスコートの任をお受けできることを大変光栄に思います。貴女の側で今日の夜会を共に過ごせることを楽しみにしておりました。どうぞよろしくお願いいたします」


「そう。楽しみという割にはお願いを出してから一度も学園に顔を出していませんでしたけど!」


 やっぱり凄く怒ってるね。いやほんと他の奴に頼んだら良かったのに。馬車の前に移動した悪役令嬢は俺の差し出した手を無視して侍女の手を借りて乗り込んだ。侯爵代理のイケオジが苦笑して頼んだよと手を上げ、俺達は送り出された。


 侯爵家の馬車がパーティー会場の屋敷に向かって進む。キレイに舗装された石畳の道が続くので、揺れが無くて非常に快適なのだが、舌を噛む心配が無いので会場に着くまで、演習が終わってからも学園に行けなかった言い訳を延々とする羽目になった。ツンケンしつつも話をすれば応えてくれるので心根は悪くないのが救いか。


 第二王子派の夜会は湖畔に浮かぶように建つ城で行われる。各所に光の灯った城が凪いだ湖面に映る様は絵画に残したくなるほど美しい。

 橋を渡って城の正面口に着くと何台か順番待ちの馬車がいる。侯爵家が待たされることは無いようで俺達の馬車はすぐに玄関口まで通された。俺は先に馬車を降りて悪役令嬢に手を差し出す。さすがに会場についてまで無視することはせず、俺の手を借りて下りるようだ。

 銀髪の悪役令息と金髪の悪役令嬢が正装でパーティー会場に現れるとか、ゲームならイベントスチルに使われるくらい映える絵だな。まあここには主人公パーティーが誰もいないけど。

 俺が馬鹿なことを考えつつ真面目な顔で差し出した手に悪役令嬢の手が触れたその時、突如淡い光が湧き上がって俺達を包み込んだ。


「きゃっ!?な、なんですの?」


「これは…」


 俺が身につけている古聖女の腕輪の力が反応したようだ。悪役令嬢に掛かっていた魔族による瘴気由来の薬の効力を打ち消したのだと思う。


「なんだか温かい光ですわね?ファルド卿のお力ですか?」


「まあ、私の持つ魔導具の効果ですね。体調不良などを癒やしてくれます」


「たしかに、何だか身体が軽くなったような気が致しますわ。ありがとう存じます」


 正直な効果を人の多いここで言うわけにもいかないので適当に誤魔化しておこう。身体の不調、恐らく精神的なモノと思うが、それが回復して機嫌が良くなったのか、俺の腕に手を掛けてエスコートを促してきた。いつもの悪役令嬢らしい皮肉げな嗤いと違った自然な笑顔には少しドキリとさせられた。



 パーティー会場である城の大広間は、魔法の光を灯されたシャンデリアがいくつも吊され、隅々まで明るく照らされている。部屋の奥には目立たぬようにオーケストラが用意され、音楽を奏でていた。

 立食形式のようで、広間を囲うようにテーブルが並べられ、贅を尽くした色とりどりの料理が飾り付けられている。ちなみにこの国での立食形式のパーティーの始まりは、隣国との戦争の出陣式で貴族達が呑みすぎないように鎧を着たままで立って出席させたという、嘘か本当かそんな逸話が伝わっていた。


「エリザベス嬢、何かつままれますか?」


「いえ、今は結構ですわ。何か飲み物を」


「はい。少しお待ちください」


 俺は近くの給仕に酒精の薄い飲み物を頼み、用意されたシャンパングラスのような細身のグラスに入った飲み物の片方を悪役令嬢に渡した。


「──爽やかな香りがして飲みやすいお酒ですわね」


「どうやら我が領の酒をジュースと炭酸水で割っているようですね。蒸留酒は酒精が高いので薄めるために良い工夫をしているようです」


 炭酸水の湧き出る温泉地でも近くにあるのだろうか、微炭酸の飲み物が出てくるとは、さすが王族主催のパーティー。しかし余計な混ぜ物もしているな?グラスを受け取った時に古聖女の腕輪が反応して瘴気を払っていたぞ。


 広間の中央で悪役令嬢が貴族令息や令嬢から挨拶を受けている間は、俺は後ろに控えている。こちらに挨拶に来る者もいるので休むわけにもいかないが、悪役令嬢の添え物扱いなので、色目を使ってくるご令嬢もいつもより少なくて助かる。こういうパーティーって貴族の男女にとっては婚活会場でもあるので基本ガツガツしているな。貴族らしく取り繕ってはいるけど。


 挨拶も一通り終わり、今は広間の端によって休んでいる。悪役令嬢が扇をパタパタしながら隣に立つ俺に喋りかけてきた。


「なんだか蒸し暑いというか、空気が悪いですわね。お香を焚きすぎなのかしら?」


「そうですね。あまり良い空気ではないようですね」


 これはかなりやっかいな事態かもしれない。古聖女の腕輪がさっきから発動しっぱなしで俺と悪役令嬢の周りの瘴気混じりの空気を浄化し続けている。このシチュエーションはまさかあれか?もっと先のイベントのはずなのだが…


「エリザベス嬢、私から離れること無きようお願いします」


「あら?なんだか大胆なことをおっしゃいますわね。エスコート役に任じましたがまだ婚約者にはなっていませんわよ?」


 そういうつもりで言ったわけじゃないから。ちょっとイラッとしながらも顔は微笑んで距離を詰めておく。瘴気を加工した薬の濃度が高い。これが例のイベントなら悪役令嬢に吸わせるわけにはいかない。他の連中は残念だが諦めてくれ。俺の手は一人分の長さしかない。


 広間の入り口から歓声が上がった。第二王子が現れたようだ。婚約者の公爵令嬢を後ろに連れている。第一王子は隣国の姫君を娶ったので、第二王子は国内からということになったそうだが、彼はちょっと考え無しのところがあって、婚約者はもっと美人がよかったとか他者の耳があるところで放言してしまい、叔父でもある公爵から叱責を受けたことがあるらしい。見た目はよく鍛えられた身体を持った堂々とした偉丈夫だが、目の光というか、顔つきに傲慢さと愚かさが滲み出ている。ゲームでは俺の死亡原因でもあるので好きになれない奴だ。


 広間の奥の一段高くなった場所に立った第二王子が挨拶を始める。


「皆の者。俺の呼びかけによく集まってくれた。今宵は我が王国にとって記念すべき日となることを先に伝えておこう──」


 やっぱり。この台詞は第二王子反乱イベントの始まりじゃん。中ボスの俺が倒された後に起きるイベントだ。ゲームで俺が死ぬのはこの時期では無かったはずだ。ストーリーが前倒しされている?


「どうしました?ファルド卿。そんなに顔を顰めて」


「いえ、少しこの後のこと考えると、先が思いやられて…」


「第二王子にご挨拶に上がるだけですよ?初めてお会いするわけでもないですよね?」


 広間の香の量が煙るぐらいに上がっているのに、広間の人々は恍惚とした表情で第二王子の演説を聴いている。悪役令嬢も周りに違和感を感じはじめたのか俺に身を寄せてきた。


 新しいシャンパングラスが給仕によって皆に配られていく。中には気泡を発する色のついた酒が注がれているようだが、古聖女の腕輪がすぐに浄化できないほどの瘴気の薬も混入されているようだ。悪役令嬢の耳元に口を近づけて絶対に飲まないでくださいと伝えておく。


「──栄光ある王国の繁栄を願って乾杯をしようと思う。皆の者、グラスを手に。──この酒はバイクローン伯爵が提供してくれた新酒だ。知っている者もいるとは思うがなかなか美味いぞ」


 あああっ!うちの名前を出すな!バイクローン家が薬盛ったみたいになるだろアホ王子!!

 こちらを向いてニカリと笑う第二王子の顔面に、俺は89式銃魔法を撃ち込みたい衝動に駆られたのだった。


 乾杯の音頭で広間の人間がグラスをあおった。悪役令嬢に俺の浄化したグラスを渡して交換し、俺は飲むフリだけをする。

 酒を飲んだ周りの人間は一見変わりはないが、纏う魔力に瘴気が混じり、魔族の気配に近いものへと変貌していった。

 これはゲームでの俺の死因であった魔人薬の症状だ。魔族が瘴気から作り出した薬で、魔力が爆発的に増えるが攻撃性が強まり人間性が徐々に失われていく。瘴気を操る魔族の傀儡にもされ、完全に堕ちきれば肉体も変貌し破壊衝動に身を任せるだけの魔物と化してしまう危険な薬だ。

 ゲームだと魔族に唆されて第二王子は配下を強力な魔人の軍団にして王都を奇襲するんだけど、案の定、王都に侵攻した魔人は暴走して街をめちゃくちゃにしてしまう。第二王子は第一王子を斬り殺した後、魔族の手によって巨大な魔物に変貌させられて、主人公に倒されることになる。そんなイベントの始まりが今だ。


 拙いな。ここにいては反乱軍に参加したと見なされる。なんとか城を脱出したいが悪役令嬢はどうするのかな?彼女が残るならここでお別れだが。


「ファルド卿、何が起きているのです?広間の様子が尋常ではありません」


 広間の隅で殴り合いをしている男達もいたり、あたりはばからず笑い声を上げる女もいる。そんなおかしな奴らを気にもとめずに、第一王子を中傷して王都侵攻を煽る第二王子の演説を恍惚の表情で見ている貴族達。この中でまともな思考を保てている方が少数派のようだ。


「第二王子が反乱を決断したようです」


「それだけでは無いですわよね?」


「…恐らく第二王子は魔族と結託しています。魔族の薬が盛られたことでこの場の者達がおかしくなっているのでしょう」


「そんなっ!?」


「私は魔族の企みに乗る気は無いのでこの場を離脱しますが、エリザベス様はどういたしますか?」


「…いきなりのことで情報が咀嚼仕切れていませんが、魔族が関わっていることは真実なのでしょう。わたくしの精霊がこんなに怯えていますもの」


 そう言って胸元を抑えていた手をどけると、淡く光るリスのような形の精霊が悪役令嬢の胸に震えながらしがみついていた。


「わたくしも魔族に与する気はありません。共に連れて行っていただけますか?」


 胸に光を灯しながら毅然とした表情で魔には与しないと言葉を発する彼女の姿に、場違いにも儚くも強く咲く野生の鈴蘭のような美しさを感じてしまった。


「…お任せを。必ずや王都まで無事にお連れいたします」


 ダンスに誘うかのように悪役令嬢に頭を垂れて手を差し出してしまった。ちょうどその時オーケストラの演奏が始まり、広間の中央がダンス会場になる。悪役令嬢は俺の手を取り二人でダンスの人の群れに紛れていった。




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