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悪役転生…させんっ!  作者: とる
悪役令息転生
17/29

17. 聖剣

「ようやく会えたな。新たな勇者よ」


 鈴を転がすような声の主は、主人公が掲げ持つ剣の束の先に立っていた。身長は20cmぐらいで怜悧な刃の輝きを持つ銀の長髪の褐色美少女であった。ちなみに衣装は異世界人の言うところの改造和服というものらしい。


「う、浮いてる!?」


「我は剣の精霊ゆえな。束のそばなら宙にも浮こう」


 やはり主人公の前でしか現れないか。俺には使えない剣だ。主人公に有効活用してもらおう。


「我は、暁に煌めく黎明の光、聖霊剣ドゥンズ・グリマーリン」


「な!?世に知られる聖剣の中でも最高位と謳われる伝説の剣ではないですか!」


 剣の精霊の名乗りに第三王女が珍しく取り乱したように叫ぶ。


「ほう、小娘、我を知っているか」


「はい。ただ、聖剣に精霊が憑いているとは聞いたことがありませんでしたが」


「憑いているのではない。我こそが剣。剣の精霊ドゥンズ・グリマーリンなのだ」


 インテリジェンスソードって奴だな。試練を超えて成長させれば最強剣になる主人公の最強武器だ。剣の精霊が課してくる試練の難易度が高いので最強になるのは終盤だけどな。

 武闘派令嬢が興味深げに主人公の掲げる剣の先にいる剣の精霊を眺める。


「只ならぬ力を感じる精霊殿だが、本物の聖剣なのか?」


「ほ、本物です。剣の精霊様が姿を現してから聖なる力をビンビンと感じます!」


 武闘派令嬢の失礼な物言いをフォローするように聖女令嬢が本物と断言した。


「──さて、私はお伝えできないことも多々ありますが、敵ではないことはわかっていただけましたでしょうか?」


 俺は剣の精霊を中心にワイワイやっている主人公パーティーに向けて声をかける。


「あっ、はい。魔族に連なる者であれば聖剣を勇者に渡すことは絶対にありえませんもの。これまでの行動と合わせてもファルド卿のことを、とりあえずは信用致しましょう」


「ところでファルド殿はどこで聖剣殿を拾ったのだ?」


「拾ったとは失礼な言い方だな小娘。我は古都の神殿に安置されていたが、意識を消して眠りについている間にダンジョンの奥深くに移されていた。そこの男が強大な守護者を倒して我を助け出したのだ」


「ほう!聖剣殿がいたダンジョンか!物凄く興味があるな!是非とも行ってみたい!」


「僕は伝説の剣が置かれていたダンジョンと聞いただけで遠慮したいな。せっかくの聖剣をファルド様はご自分で使われなかったのですか?」


「私には使えなかったのですよ」


「さよう。我が手を貸すのは勇者のみ」


 助け出されたと言う割には俺の呼びかけはガン無視する塩対応だったし、そういえばお礼も言われてないな。まあいいけど。


 主人公に聖剣を渡したら信用もそれなりにされたようなので、領都周りのダンジョンの攻略難易度と最奥で探す魔導具とその取り扱い方などを説明した。

 そして今回の依頼中にダンジョンから持ち帰った宝物は全てバイクローン領が貰い、依頼中の生活全般や探索に必要な物資の用意はバイクローン領が行うという契約になっている。このあたりの取り決めも後々問題にならないようにきちんと確認しておいた。もし欲しいアイテムがあったら後で交渉してくれ。


「──それでは皆さん。私は手伝えないですが、我が領の民のため、魔族の企みの阻止にご協力をお願いいたします」


「えっ!?ファルド様は一緒に行かれないのですか?」


「私は王都に呼び出されていまして、お手伝いできないのです」


 俺が一緒にダンジョン攻略しないことに聖女令嬢が残念そうに驚いていた。武闘派令嬢がブーブー言っていたが、仮に一緒に行ったとしても武闘派令嬢の腕試しに付き合うつもりはなかったからな?


 聖女令嬢達の世話を屋敷の者に任せて、父に報告をする。俺が王都に戻るのに合わせて、父と母も同行するとのことだ。第三王女も滞在しているので鉢合わせする危険性が無くなるのはありがたい。後のことは弟に言い含めておいたので、何かあれば対応してくれるだろう。


 ◇


 弟に主人公パーティーのフォローを言いつけた後、蒸留酒事業のことで相談をされた。父が社交界で宣伝し、その伝手で注文してきた上流階級の人間に卸す販売形態をしているのだが、蒸留酒の噂を聞いたのか、一般販売して欲しいとの要望が弟まで届いたそうだ。その中でもドワーフを中心とした有名冒険者クランからの熱意が凄いらしく、むさ苦しい髭面の小さいおっさん共が大挙して街の蒸留酒事業本部の建物前に連日座り込みしているらしい。なんて迷惑な。

 毎回衛兵が逮捕しているんだが、暴れるわけでもなく座り込むだけなので重い罰にもならず、只これが続くと領外退去とかさせないといけなくなるので、今の時期に有能な冒険者クランを追い出したくないというのもあって、対応に苦慮しているそうだ。


「うーん、本数限定で一般販売もするか?生産状況に余裕はあるか?」


「月に10本ぐらいなら出す余裕は作れますが、おそらく客が殺到して混乱が起きますよ?」


「そうだろうなあ。今は荒くれ者が多いから流血沙汰になりそうだ」


「はい」


「商業ギルドに任せると利権化してとんでもない高値になりそうだな」


「彼らに任せる以上、ある程度は仕方ないのでは?」


「うーん、そうだな。あまり暴利を貪らないように釘は刺しといてくれ。荒くれの冒険者どもに不満を溜められても良いことは無いしな」


「承知いたしました」


 弟も対応方法は検討していて、俺の許可が欲しかっただけみたいだな。後の対応はスムーズに進めていた。


「──ドワーフ連中は火酒を飲み慣れてるだろうに、うちの蒸留酒のどこが気に入ったんだ?」


「風味じゃないですかね?火酒を試飲しましたけど、とにかく辛くて喉がかぁっと焼けるようで、風味を感じる余地がありませんでした。それに比べるとうちの蒸留酒の芳醇な香りと口当たりの良さは一段二段上の高級さを感じさせてくれます」


「そこらへんは原材料よりも製法の違いが大きいんだろうな──」


 ◇


 王都への旅路は領主夫妻同伴と言うこともあり、途中の領地での歓待を断らずに全て受けながらだったので日数がかかって仕方が無かった。悪役令嬢から伝えられた第二王子主催のパーティーの日までに王都に辿り着けるかも怪しくなったので、俺だけ先に王都へと戻らせて貰うことにした。


 随伴の騎士5名を連れて馬で草原を駆ける。街道を外れて馬を走らせているのは救難信号の魔導具が打ち上げられているのを見つけたからだ。

 救難信号の魔導具は煙を発する火の玉を上空高くに打ち上げることができる。夜間であれば火の玉が、昼間であれば煙が目印となり味方に危難を知らせることができる。平時に街道で使われる場合は救助求むという意味が一般的だ。煙は貴族と平民で色分けされていて、平民なら灰色=普通の煙、貴族なら紫色と分けられている。もちろん平民が紫色の煙を上げれば処罰されてしまう。

 俺たちが見つけたのは紫色の煙だ。この先で貴族が危難に遭っているということだろう。紫の煙が上がるのは非常に稀だ。街の外を出歩く貴族はそれなりの護衛をつけるため、そこらの盗賊や魔物に負けることはまず無い。

 そんな貴族が救難信号を上げるほどなら、かなりやっかいな事態の可能性が高い。そんなことに首を突っ込むのはリスクが大きいが、俺は敢えて救難に向かっている。

 人道主義に基づいてではない。ゲームのランダムイベントで街の外で発生するモノは結構な良いアイテムをお礼に渡してくれるからだ。救難イベントに遭遇するのは初めてなので、ゲーム通りとは限らないがやってみようと思ったわけだ。


 草原を駆けて浅い渓谷の上に着いた。下の干上がった川の側に馬車が停まっている。頑丈そうな外装をしているが片側の車輪が車軸からもがれた様に転がっていて、馬車を牽いていた馬も見当たらないので自走は厳しそうだ。周りには10騎ほどの騎兵が馬車を守るように360度展開している。

 敵影はないが騎兵は戦闘態勢、彼らの足下は砂地。これはアレだな。俺が敵の正体を察していると、騎兵たちが騒がしくなった。下の方では地面が揺れていて馬が浮き足立っている。

 突然、一騎の足下が陥没して馬が蟻地獄に引きずり込まれる虫のようになった。警戒してすぐ脱出行動をとれていたので完全に引きずり込まれてはいないが、流砂の流れが速くて安全圏まで移動ができないようだ。数騎の騎兵が魔法の炎の槍を穴の中心に向かって撃ち込む。爆発して砂を巻き上げるが流砂の動きは止まらない。

 騎兵が一つの流砂に気をとられていると、別の場所で地面に砂が吸い込まれたかと思うと、爆発するように砂と長い身体の魔物が飛び出し、余所を見ていた騎兵の上半身を丸呑みした。

 ミミズを思わせる滑り光る身体に、砂や岩石を砕く乱杭歯の並ぶ口、太さは2mほどで長さは飛び出した後も地中に身体が残っているので計り知れない。ゴリゴリと呑み込んだ騎兵を磨り潰しながら咀嚼し、呑まれた騎兵の上げる凄まじい悲鳴も口内から微かに漏れ聞こえるぐらいだ。

 ドレッド・ワームという名のミミズのような姿の魔物だ。遙か西方にある大砂漠には太さ10mを超える個体が我が物顔で棲息し、砂漠を旅するキャラバンをいくつも壊滅させているそうだ。太さが100mを超えてくる個体は特別に畏怖を込めてドレッド・ギガンティック・ワームと呼ばれる。

 ここにこの魔物が居るとは驚きだ。大砂漠以外にも棲息していたらしい。さすがに大砂漠ほどの巨大個体は居ないようだが砂の中を移動する身体は見た目より頑強で、騎兵の持つ剣や槍では歯がたたない。呑まれた騎兵の足はもう動かず、仲間が周りから魔法を撃ち込んだり槍を突き込んだりしているが、全く意に反さずに魔物は獲物を捕食するとズズズっと地下に潜っていった。


「若様、危険な魔物です。ここは引いた方が…」


 連れてきた騎士が下での戦闘を見て、そう進言してくる。助けに来てすごすご帰るのも情けない気がするが、二次被害に遭わないためにも、冷たいが見捨てるのも手だ。だが俺には遠くからこのイベントをクリアする手段があるので手出しすることにする。


「いや助けよう。ここから攻撃する。あの魔物がこちらに来る危険もあるから警戒しろ」


 俺の魔物討伐に付き合ったことがない騎士は戸惑うが、俺の力を見たことがある騎士はさっと周辺警戒に入ったので他の者もそれに続いた。

 俺は馬から下りて右手を下に向けた。バレットM82銃魔法は貫通力を高めた徹甲弾を主に使っているが、着弾と同時に爆発する炸裂弾タイプも使えるように練習はしている。俺達が到着してから襲われた二人目も地中に馬ごと引きずり込まれた。敵が満足してくれたなら今のうちに逃げ出せるのだが、どうやらまだ居るようだ。震動とともに地中から飛び出したドレッド・ワームが騎兵に覆い被さる。巨体に馬もろとも押し潰されて砂地に埋もれる騎兵。

 動きの鈍った獲物に食らいつこうと身を起こしたドレッド・ワームの頭を狙って俺は炸裂弾を発射した。ゴンッ!という鉄塊を打っ叩いたような音と衝撃を右腕に感じた直後、下方のドレッド・ワームの頭が弾け飛んだ。

 絶体絶命の仲間を助けようと奮闘していた騎兵達は、突然ドレッド・ワームの頭が弾け飛んだ事態に動きが固まった。同時に鳴った鉄塊を叩くような音がした方に目を向けると、渓谷の上に数騎の騎兵がいることに気付く。まだ終わってないぞ。地中を移動している奴がいる。


「──若様、石杭の用意ができました」


「二人分の風魔法でギリギリの重さですけど戦場の上空に浮かせています」


「よし、あの馬車からこちらに20歩分の位置に誘導する。合図をしたら落とせ」


 俺は89式銃魔法で頓挫した馬車から人が走り出したような幅で足跡を撃って作っていく。その後ろを追うように地中を掘り進む魔物の軌跡が地上に盛り上がる。想定位置に足跡が到達したところで合図を出す。


「今だ、落とせ!」


 空高くから電柱のような石杭が自由落下を始めた。風魔法で持ち上げていた二人が落下位置の微調整も行う。足跡が停止した場所にドレッド・ワームが獲物を丸呑みにしようと飛び出すが、目当てのモノがなく口が開きっぱなしになる。そこに重力加速度で威力を増した石杭が飛び込み、ブチブチと体内を串刺しにして進んだ杭がドレッド・ワームを鮎の塩焼きのようにその場に突き立てた。


「「やった!」」


「よし、よくやった。敵はまだ居るかもしれん。気を抜くなよ」


「「はいっ!」」


 その後、もう一体いたドレッド・ワームを渓谷の下の騎兵達と協力して倒した。結果としてこちらの被害は0名、あちらは5名という結果になった。

 馬車は放棄し、渓谷から出て安全を確保してから互いに正式な挨拶をした。相手は近隣貴族家の嫡男だった。彼の家は魔導具の開発と販売を生業にしていて、この渓谷に足を踏み入れた目的は材料採取だそうだ。彼も此処にドレッド・ワームが棲息していることは知らなかったようで、干上がった川を進んでいるときに襲撃を受け、あの状況に追い込まれたらしい。


「──これが主人公なら襲われていたのは美少女だったんだろうな」


「ん?何かおっしゃいましたか?若様」


「いや、何でもない。では行くか」


 丁寧にお礼を言ってきた嫡男は騎士の馬に乗せてもらって帰るそうだ。正式なお礼は後日必ずと言っていた。ゲームみたいにその場でアイテムを渡されるわけではないのは当然と言えば当然か。俺達は街道に戻って王都へと向かう。予期しないイベントはあったがその後は何もなく、夕方には王都の屋敷に到着できた。

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