15. 戦闘演習終了
「くぁっ!?」
俺が横に振り抜いたサバイバルナイフの一撃を両手持ちにした剣で受け止めた主人公が呻きながら後ずさる。敵を麻痺させるバインド系魔法を放とうとする聖女令嬢の詠唱は銃魔法を聖杖に掠らせて失敗させた。第三王女へ撃った銃魔法は主人公が間に滑り込んで剣で防いだ。手加減しているとはいえ銃弾を剣で受けるなんて芸当を普通にこなす主人公はさすがだ。
俺の唐突な「今の君達が魔王に勝てるかな?」発言のせいで、三人ともちょっと注意散漫にさせてしまったので、もうちょっと実力を見させて貰おうと思う。
俺は主人公の死角に入るように身体を地面スレスレまで沈めて、パシンッと小気味良い音をさせて彼の脚を払って転がした。転んだ主人公を躱して魔法を発動しようとしていた第三王女に近付き、指を額に突きつけるフェイントで怯ませてこちらも足を掬って転ばせる。
「きゃっ!」
第三王女の悲鳴に我に返った赤クラスの生徒達は、彼女を助けようと矢や魔法を用意して俺を狙おうとしたが、用意を完了する前に89式銃魔法を喰らって救命の紋章を浮かべて退場していった。
俺と赤クラスの1ラウンド目の攻防が終わり、主人公は既に立ち上がり戦意十分に剣を向けてきている。聖女令嬢は聖杖についた傷を青くなって消せないか擦っているし、第三王女はコケる寸前に自分の身体の下に生やしたでかいキノコから立ち上がっていた。
主人公の剣技に関しては俺みたいな素人では評せないが、身体能力面ではこちらの攻撃にもよく対応できていたので反射神経や膂力はいいように思う。ただ、俺の身体能力や魔力、総合的な戦闘能力は学園地下遺跡ダンジョンの攻略前と後では比べものにならないぐらい違うのでゲーム中盤くらいの強さの主人公達ならまだまだ負けない。なにせゲームなら後半に行くダンジョンをソロ攻略したからな。これが終盤くらいになったらわからないけど。何せ勇者と聖女にエルフの王女とか、ユニーク過ぎて一般の中ボスでは太刀打ちできる気がしないし。
「二人とも僕が彼を抑える!アレを!」
「わかったわ!」
「貴方に託します!」
主人公が剣を突き出して俺に突進してくる。聖女令嬢と第三王女も気合を入れて詠唱を始めた。何か奥の手を出す気か?
「朽ちし茨よ、鋼に宿りて燃え盛れ! 烈火の精霊よ、その力を剣に与えよ! 炎の舞を踊り、全てを焼き尽くす嵐となれ! ブレイジングソーン・テンペストブレイド!」
主人公の魔法が発動すると剣に纏わりつくように枯れた茨が何処からともなく生え伸び、着火した蔓が油でも含まれていたかのように燃え盛り、逆巻く火炎となって剣を取り巻いた。主人公が剣を振るうたびに焔の旋風が俺を焼きつくそうと躍りかかってくる。今まで使っていた炎の剣の魔法とは強さが段違いだ。おそらく炎の精霊に力を借りている。悪役令嬢の精霊召喚ほどレアではないが、精霊魔法も中々に珍しい魔法である。
走り回る俺を焼き焦がさんと次々と火炎の旋風が唸りを上げて襲ってくる。避けられた火炎旋風はすぐに消失させて周りに被害を出さない気配りを見せるぐらいに制御しきっているようだ。
他の赤クラスの生徒は俺達の戦いを避けて丘を登り、黄クラスの砦に攻撃をしかけている。戦力差が大きくなりすぎたので黄クラスの砦を落とすことはできそうにない。
俺の銃魔法は貫通力に特化しているので、こういう範囲の大きな攻撃を相殺するには向いていない。範囲の大きな魔法も使えるが普通に詠唱しないといけないので、残念ながら主人公の連射力には追いつけないのだ。銃魔法を磨くことに専念してきたことに後悔は無いが、こういう時ちょっと歯痒い。
迫る火炎旋風をダメージを受けかねないギリギリまで引き付けてから、身体能力のゴリ押しで出した高速移動で避ける。精霊魔法は精霊に払う魔力が結構高くつくはずだが、主人公は後のことを考えていないかのようにどんどん火炎旋風を打ってくる。
そうこうしているうちに、聖女令嬢と第三王女の準備が整ったようだ。詠唱しながら地面に魔力で魔方陣を描いていたので、そういった魔法発動の補助が必要なぐらいの大魔法を使う気のようだ。
「大地の鼓動よ、森の精霊よ、力を貸したまえ!根を張り、枝を広げ、天地を覆う巨木となれ!」
「光よ!その輝きを世界に広げ、大地の愛し子に成長の加護を!」
「光と樹海が交わり万物に祝福を与えん!ここに光輝満つる樹海楽土を創り出したまえ!」
「悠久の時を越え、神獣の形を取り、我らの呼び声に応えよ!ここに誕生せよ、森羅の守護神!!」
向かい合った二人が歌うように互いの詠唱をハモらせる。二つの異なる魔法を連携させる合体魔法と呼ぶべきモノだろう。
第三王女が生み出した樹木の芽を聖女令嬢の光魔法が生長させ、第三王女によって大樹が巨大な龍を模した姿となり、聖女令嬢によって神獣としての神格を与えられる。擬似的なモノとはいえ、これは神話の存在の召喚に匹敵する。ゲーム知識にも記憶があるその大魔法の名は──
「「レイディアントスカイ・ドレイグオン・マニフェスティケイシオン!!」」
巨大な光の龍が天に向かって咆哮を上げる。戦場の全ての人間がその威容に圧倒された。
「糞がぁ!それ、人に向けるレベルの魔法じゃねえだろ!!」
ついキタナイ言葉が口をついて出てしまった。そういうのはラスボスとか巨大な敵を相手に使って欲しい。どう考えても人間に向けるにはオーバーキルだ。救命の魔導具は一度しか肩代わりできないのに、こいつに襲われたら連続ダメージでHPが削り殺される未来しか見えない。
主人公の放つ火炎旋風が俺の退路を断ち、光り輝く龍が光線を吐き出し、その巨体をくねらせ大地を抉り焼きながら暴れ回る。既に近場には俺達四人以外は敵も味方もいない。
89式銃魔法で術者二人を狙うが、光龍がその身を前に置いているので弾が届かない。主人公と光の龍の猛攻を無理矢理避け続けるのも厳しくなってきた頃、先に相手がしびれを切らしてさらなる奥の手を使ってきた。
「光龍よ!僕に力を貸してくれ!!」
主人公が天高くに飛び上がり、大上段に構えた剣に向かって光龍がその身を光の粒子に変えながら集束していく。
主人公の剣は今や光り輝く極光を放つ状態となって天にあった。それはまさしく太陽の顕現。その剣を振り下ろせば正に地上に太陽が落ちた惨状を産み出せるだろう。それこそ救命の魔導具があっても助からないのでは?と思えるほどだ。
重ね重ね言うが、こいつら俺をなんだと思っているのだろう?大怪獣みたいな巨大ボスに使うような技を人間大の相手に使うなと言いたい。初見の相手にこの加減のない思い切りの良さはゲーム的だなと妙に納得もしてしまった。
「だが、まあ、俺相手にその技を選択したのは悪手だったな」
主人公が極光を纏う剣を振り下ろさんとするより前に、俺がバレットM82銃魔法を用意する方が早かった。俺は片膝をついて右手を天に向ける姿勢でいる。発砲の音は極光渦巻く天空の音に紛れて聞こえることはなかった。
天の頂で剣を大上段に構えたままの主人公の頭の上に救命の紋章が浮かび上がっている。白目を剥いてもんどり打った主人公が極光を霧散してキラキラとした光の粒を振りまきながら地に落ちていった。
「やっぱりあいつらに魔王を倒して貰うべきだな。巨大ボス相手は俺では荷が重すぎる」
◇
主人公が退場した後、光龍の術を破られた反動か、聖女令嬢と第三王女も気を失ってしまう。救命の紋章は浮かんでいなかったが、続投不能ということで赤クラスの生徒に主人公と一緒に演習場から運び出して貰った。
赤クラスの主力三人が退場したあと、黄クラスの生徒が反撃として出撃していった。赤クラスの生徒が慌てて拠点に戻ったが陥落は時間の問題だろう。俺は反撃には参加せず、黄クラスの砦跡で休んでいた。光龍の攻撃で屋根は吹き飛び、壁は穴だらけなので跡地というのがしっくりくる。
「──まだ演習は終わっていないのに、随分とゆっくりしていますわね」
「あれだけ働いたのですから御勘弁を」
俺が休んでいた空が見える部屋に入って話し掛けてきた悪役令嬢が、わたくし気に入りませんわという表情で、ふんっと顔を背けている。主人公達三人を相手にして結構疲れてるので一人にして欲しいんだが。
その後も三人を相手にして使っていた魔法のことを聞かれたり、聖女令嬢と第三王女の合体魔法についての考察を聞かされたり、適当に相づち打ってたら、ちゃんと聞けと怒られたりして時間が過ぎていき、いつの間にか黄クラスが赤クラスの旗を奪って勝利していた。
戦闘演習が終わって黄クラスの生徒達は派閥関係なく勝利を喜び合った。俺のところにも騎士見習い三人組が勝利を共に喜びに来た。
「ファルド様!お疲れさまです!」
「赤クラスの奴らを一瞬で倒してたのヤバいっす!どうやったんすか!?」
「聖女様の護衛騎士なんて俺ら一瞬で斬られたのに、ファルド様は余裕で相手してたもんなぁ」
たしかに三人は遊撃隊で、赤クラスに奇襲をかけに行って斬られてたな。まあ主人公が相手じゃな。どんまい。
「ファルド様のご勇姿に感動しました!」
「ファルド様にお護り頂いたおかげで最後まで残れました。ありがとうございますぅ♡」
その後も普段話したことのない第二王子派の男子や女子からおべんちゃらを言われて適当に話をしていた。しばらくすると、学園からの説明があり、次の青クラスvs黄赤連合の演習は中止となった。演習場の破壊状況が想定以上だったので、これ以上壊れるのは困るという話だった。青クラスの武闘派令嬢の落胆は激しく、駄々っ子のように学園側に抗議していたが決定が覆ることはなかった。しまいにはファルド卿と一騎打ちでも良いから!と勝手に俺を巻き込もうとしてきたので、教師に言って早退させてもらった。戦闘狂にロックオンされた気がする。
寮の部屋から小物だけ持ち出して屋敷に帰ることにする。部屋は借りたままにするが寝泊まりはもうしないだろう。馬車止めで待たせていた伯爵家の馬車に乗り学園を出た。
街中を移動中、侍従から領地への帰還の話が出た。領地で何やら問題が起きているらしい。
「詳細は聞いていないのか?」
「はい。問題が起きたので若君に領地へお戻り頂きたいとのことしか言付かっておりません」
詳細を言えないようなことなのか?なら急ぐか。
「わかった。すぐに発とう。用意を頼む」
「承知いたしました」
久しぶりの屋敷で、ゆっくり湯浴みでもしたかったのだが、そんな時間はなさそうだな。
◇
王都の屋敷で休む暇もなく、バイクローン伯爵領へと帰ってきた。行きと違い、同行する他家のご令嬢もいなかったので移動がスムーズに行けたのは幸いだった。
「すこし人が増えたか?」
「そうでございますね。冒険者が増えております」
数カ月ぶりの領都は何が変わっているということもないが、活気のようなものがあるように感じたので、屋敷の執務室で父の侍従に近況を尋ねてみた。
話によると、最近相次いで領都の近郊にダンジョンが発生したらしく、しかもそれらから発見される宝物品がかなり質が良いため、冒険者などの山師が集まり、ゴールドラッシュのような盛況になっているらしい。
「それが若様にご帰還いただいた理由にも関連していることでして──」
そう言って父の侍従が地図を机に広げた。かつて使われていた地図は縮尺もランドマークの位置も不正確で使いにくいこと甚だしかったので、俺が指導して測量部隊を作って作り直させたのだ。そしてそれは手始めに測量技術を伝えて作ったバイクローン伯爵領都を中心とした近郊の地図であった。位置関係や縮尺が正確に記載された軍事機密な地図である。今はそれの各所に赤インクの標が追記されている。
「まさか、この場所がダンジョンの位置か?」
侍従が頷きをもって返答した場所は一つ一つは何の変哲もない草原や麦畑の中などだが、その位置が正確な地図の中で等間隔に記されているのがわかる。
「新しく発生したダンジョンと既存のダンジョンの両方が記載されておりますが、測ったように綺麗な配置になっており、何らかの意図があるように感じます。この正確な地図でなければ気付けませんでした」
「そうだな。これは…領都を中心に一番外周の点と内周の点を交わるように直線で繋ぐと──」
俺はガラスペンと定規を使って点と点を繋ぐ直線を引いていく。
「ああ、やはり意味があったのですね…」
「領都を中心とした五芒星が浮かび上がるわけだ…」
俺はこれを知っている。異世界人のゲーム知識にあった領都壊滅イベントだ。ただしそのイベントは武闘派令嬢の辺境伯領都で起きることだったはず。バイクローン伯爵領都ではない。
「これはどういうことだ?」
俺はゲーム知識と大きく異なるイベントが俺に関係する場所で起こったことに嫌なモノを感じていた。




