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悪役転生…させんっ!  作者: とる
悪役令息転生
12/29

12. 第二層ボス

 第二層の古戦場エリアもあと少しだ。ターンと乾いた銃声が崖際に響けば、ボーンウィングヴァルチャーの巨体が空から地上に落ちてくる。ターンターンと連続で反響音を鳴らして次々と禿鷲共を狩っていく。禿鷲は耳が良くないのでサプレッサーを外して銃声を響かせても大挙して押し寄せてくることが無い。銃魔法のメリットを最大限に生かして長距離から姿を隠して狙撃していった。


 何日かかけてルート上の敵を殲滅していく。スナイピングで進めるのでボーンウィングヴァルチャーの生息域は俺にとってはボーナスステージだった。

 ゴールの砦を目の端に置いて、黒光りする攻殻を纏った虫人間のような体長3m近い魔物であるオブシダン・カラペス・クロウラー(略してOCC)と対峙する。こいつは高い身体能力と攻殻の防御力でゴリゴリ近接戦を仕掛けてくる厄介な相手だ。89式銃魔法の弾丸もあまり効いているように思えない。飛び上がってクルクルと回転しながらこちらに突っ込んできたOCCは、鋭い爪で俺を切り裂こうとしてくる。その爪を横にずれて躱し、ボーンウィングヴァルチャーの羽根ナイフを攻殻と攻殻の隙間にぶっ刺していく。なんともゲーム的な攻撃だがOCCの攻撃が虫並に単調だから出来ることだ。

 羽根ナイフが20本ほど攻殻の隙間から生える頃にはOCCの動きはギチギチと見る影も無かった。俺はOCCの背中に指先を押し当て、89式銃魔法を一転集中で当てる。頑丈な攻殻も同じ場所への連続の衝撃には耐えきれず、穴を穿たれて中の肉が見える。こいつらは外骨格を持つのに内骨格もあるので、背骨と肋骨を避け銃弾を叩込むと、ビクンと大きく震えた後、ようやく動きを止めた。


 古戦場エリアの最奥には武骨な要塞とも呼ぶべき石造りの砦が建っている。二つの岩山の間を塞ぐように建つそれは巨大なダムのようにも見える。いかにも要塞の先には進ませないぞという感じだが、ここはダンジョンなのでこの向こうには何も無い。古の時代なら都を護る最後の砦だったのかもしれない。背後の護るべきモノは無いが、砦の最奥にいるボスを倒せばその後ろの第三層に続く道が開けるので、存在理由までは失っていないのが幸いか。

 砦までは無双ルートとスニーキングルートがあったが砦の中はルートは分かれていない。敵を倒すも良し、見つからないように進むも良しだ。内部でのメインの敵は人と見まごうばかりのフレッシュゾンビだ。動きは素早く力も強く知能も高い。人の兵士の上位互換である。ただし聖職者が使うターンアンデッドが決まれば一撃で倒せる。まあ俺にはターンアンデッドなんかないので地道に倒していくしかないが。

 では砦の攻略を始めようか。昨日はここまでのルートを確保してから帰った。ここまで最短距離、敵殲滅状態でマラソンして片道3時間だ。異世界のマラソン記録保持者でも倍以上は掛かるだろう。体力も戦闘技術もかなり進歩したと思う。

 砦の出入口には2体の巨躯のフレッシュゾンビが門番として立っている。戦闘を行えば門の内側から増援が来るので力ずくでの突破は無双ルートを越える戦力がいる。少数での突破を図るなら下水道からの潜入だ。幸い敵でトイレを使いそうなのはアンデッドばかりなので下水に汚物が流れてくることはないはず。


 下水道の入り口は砦から少し離れた位置にある。こちらにもフレッシュゾンビの見張りが2体いて、スニーキングルートと同じ方針で倒さないとワラワラと敵が集ってくる。俺の場合はサプレッサー付き89式銃魔法での狙撃だ。手早く頭を撃ち抜き、鎧を脱がして胸の奥の魔石に弾を撃ち込んで砕く。ここではまったく気付かれることなく倒すことが出来れば増援が涌くことはない。ここに下水道や砦内の戦闘では持ち歩くと邪魔になる上級ポーションなどの物資を手持ち以外は置いていく。使い切ったらここに戻ってきて補充するつもりだ。


 下水道の入り口の石階段を下りていく。下水の脇には整備用の作業通路があり、そちらを歩けば下水に入らなくてすむようになっている。

 ここでの敵はフレッシュゾンビ以外だと淀みに潜む鼠の魔物のスタグナントラットや、陰に隠れて這い寄る毒虫のシャドウクリープがいる。どちらも暗い下水道では侮れない魔物だ。俺は身体強化魔法の眼の部分への作用を弄る。光感度を上げて暗視スコープを通したような視野を手に入れた。


 作業通路を歩いていくと早速スタグナントラットが数匹走り寄ってくる。暗視が無ければ接近されるまで気付くのは難しかった。プシプシプシッとサプレッサー付き89式銃魔法を掃射して鼠共を撃退する。シャドウクリープまで寄ってきたので、そちらも相手の攻撃範囲に入る前に倒す。

 要所要所に立つフレッシュゾンビの歩哨には、注意を引き付けた後、後ろから忍び寄ってサバイバルナイフ風短剣で首をかっさばき倒していく。すっかり異世界の特殊部隊員みたいな戦い方が身についてしまった。


 下水道を進み、上に登る梯子を使って砦内部に出る。その前に索敵は忘れない。手鏡を使って梯子の周りを確認すると、木材に腰掛けて此方に顔を向けているフレッシュゾンビが1体確認出来た。素早く腕だけ出してサプレッサー付き89式銃魔法で弾を撃ち込み無力化する。砦内は薄暗いが暗視を使うほどじゃないので切ることにした。

 索敵しながら砦内の廊下を進んでいく。ゲーム知識だとフレッシュゾンビの哨戒パターンは時間帯によって変わる。何人か確認してパターンを特定すると、最も敵に会いにくいルートと位置取りで進んでいった。

 黒い攻殻を纏った虫人間のオブシダン・カラペス・クロウラーが3体現れる大広間が一番の山場だ。あまりにも硬すぎる敵を3体同時に相手することになるので、奥の手として温存していた新式銃魔法を披露することにした。


 バレットM82銃魔法──有効射程2000m級の対物ライフルほどの威力の弾を発射する。以前、聖女令嬢を誘拐未遂した魔族の頭を吹っ飛ばした魔法を洗練させた魔法だ。以前より俺も成長しているので準備時間や消費魔力は少なく、弾の形状を弄って破壊力を維持した魔法に仕上がっている。89式銃魔法は人差し指一本を銃身に見立てるが、バレットM82銃魔法は人差し指と中指の二本を伸ばして銃身に見立てる。撃つときの腕に掛かる負荷が大きいので連射すると腕が壊れる。もちろんサプレッサーは使えない。この魔法を使ってまずは一体を確実に倒す。


 大広間の石柱の陰に潜み、動き回る3体のOCCの位置関係のタイミングを計る。ターゲット以外の2体が俺から離れてくれているのが望ましい。人差し指と中指を伸ばした右腕をターゲットに向ける。仮想砲身の強度は89式銃魔法より強固に、銃弾の形状は細く長く硬くなるように調整。込める魔力は89式銃魔法30発分。OCCがちょうどいい位置に来た処で魔法のトリガーを引く。ゴンッ!というハンマーでぶっ叩いたような重い音が腹に響き、オブシダン・カラペス・クロウラーの黒い攻殻に守られた分厚い胸に大穴が開いた。


「痛ってぇ。くそっ!…暫く撃てそうにないか」


 右腕から湯気が立ち上る。前のように暴発はしなかったが痺れるような痛みが続く。急いで上級ポーションを右腕にかけた。

 対物ライフル並の銃声を聞いてこの大広間にフレッシュゾンビが入ってきた。追加された敵に左腕から89式銃魔法を撃ち込んでいると、遠くから走り寄って来たOCCがその勢いのまま殴りかかってきた。奴の攻撃は単調なので事前に気付いていれば避けるのは難しくない。


「ぐぉっ!?」


 だが、それも1体の場合だ。2体のOCCに攻撃されると途端に難易度が上がる。さらには増援のフレッシュゾンビが進路妨害をしてくるので、そちらにも対処しなければならない。

 掴みかかってくるフレッシュゾンビの腕をかいくぐり、避けた先にいるゾンビの顔面に左腕の銃魔法の弾を撃ち込み、よろけた屍体を他のゾンビに押しつけた。体長3m近いOCCがフレッシュゾンビ共を薙ぎ倒しながら突っ込んで来る。鋭い爪を伸ばして刺し貫こうとする抜き手を、右手に持ったサバイバルナイフでギャリギャリいわせながら躱すが、快復しきっていない右腕が軋んだ音を立てる。歯を食いしばって痛みに耐えながら一時的に包囲網を抜け、大広間の端の2階の回廊へ上る階段の踊り場に飛び込み、追ってくるOCCやフレッシュゾンビ共の足下に腰のポーチから取り出した茶筒のような魔導具を放り込む。一拍後、魔導具は破裂し強烈な光を発して魔物の眼を焼き奴等を悶え苦しませた。


 フラッシュグレネードのような魔導具は性能もそれに似たようなモノだ。俺がゲーム知識で探したアイテムの一つだ。使い捨てアイテムだから数はそれなりに多いが、現実ではアイテムボックスなんか無いから3個ぐらいしか持ち歩けない。

 残り少ない上級ポーションを飲み干しながら階段を駆け上がる。2階の回廊は大広間を囲むようにあり、吹き抜けになっているので、2階から1階の敵を攻撃することも出来る。絶好の狙撃ポイントだが回廊は狭いので複数のOCCに攻撃されると詰むので最初は上がらなかった。だが今のように纏めた敵をフラッシュグレネードで行動不能にさせたシチュエーションなら別だ。まだ少し痛む右腕でバレットM82銃魔法の準備をする。2体のOCCへの射線が重なる位置へ回廊を走って移動し、片膝を地面につけたニーリング・ポジションのような姿勢で手すりの間から右腕を出して照準する。フラッシュグレネードの効果が切れかけている2体のOCC目がけてバレットM82銃魔法が火を噴いた。

 ゴンッ!というハンマーでぶっ叩く衝撃が右腕に響いたと同時に、2体のオブシダン・カラペス・クロウラーの胸に大穴が開き、フラッシュグレネードで藻掻いていた動きを止めて崩れ落ちた。

 右腕からさっきより大量に湯気が噴いているので、手持ち最後の上級ポーションを飲み干して痛みに耐える。フラッシュグレネードで動きを止めていたフレッシュゾンビ共も動き出した。

 3体のOCCを倒すと大広間も大分楽になる。回廊を走り回りながら敵に89式銃魔法を撃ち込んでいくだけだ。たまに挟み撃ちに遭って危うい場面もあったが、小一時間かけて殲滅を完了させることが出来た。



 その後、何日かかけて砦を攻略していき、ようやく最奥の階層ボスに辿り着いた。

 第二層のボスは全長30mを超す巨大な多腕の怪物ヘカトンケイルの上半身が壁から生えたような姿だ。第一層ボスの武人アラクネと違い、動き回りはしないが遠距離、近距離問わず強力無比な攻撃を連発してくる。無双ルートのボスでもあるので、大人数での攻略を想定しているからか体力や攻撃力がべらぼうに高い。よってスニーキングルートを越えてくるような少人数では手数で押し負けてしまう。

 ゲームではその救済措置として、最奥に到着したらボス登場イベントが起きて、ヘカトンケイルが奥の壁を突き破って出て来た時に、解放した力で最奥から砦入り口までデカいビームで穴を空ける演出が入る。強制無双ルートになることも止まるのでスニーキングルートの人はそこを通ってダンジョンの外に戻り、人員補充してボスに挑むことも出来るようになっていた。その演出は現実でも起きるようで、正門が吹っ飛び奥まで丸見えになった砦がそこにあった。


「──よし、右腕が回復したな。また一発撃つか」


 バレットM82銃魔法の用意をして岩場に腰掛け、遠くにある大穴の開いた砦の入り口から、いくつもの部屋を通った先、遙か遠くのヘカトンケイルを狙う。今の俺は身体強化魔法の視力向上効果を改変して望遠スコープを使っているような視界になっている。身体にいくつも開いた穴から血を噴き出して怒り狂いながら腕を振り回すヘカトンケイルが見えた。また口から巨大なビームを撃って砦に穴を空けているが俺の居場所はわからないらしい。それも当然で俺の居場所は砦を出て1000mは離れた平原にいる。うようよ居たアンデッド達も何処かへ行って今は居ないし、安心して超遠距離狙撃が出来る場所を確保していた。


 数日かけて何百発も撃ったところで命の灯火が消えたのかヘカトンケイルが沈黙した。念のためもう十発ほど撃って確実に死んでいることを確認する。ヘカトンケイルを倒すために使った上級ポーションは何本だろうか、金額を考えると青くなりそうだ。

 砦に近付き、大穴を通って最奥に到達する。穴だらけのヘカトンケイルが血の海に沈み、奥の壁に第三層墳墓エリアへの下り階段が開いていた。


 ◇


 王城の綺麗に刈り揃えられた庭木で囲まれた広場の真ん中で、第二王子の俺はお気に入りの両手剣を青眼に構え、振り上げては斬り下ろしを繰り返して鍛錬をしていた。


「ふんっ!──ふんっ!──ふんっ!」


「第二王子殿下、バーテイランス侯爵閣下が登城なされました」


「──わかった。待たせておけ」


 鍛練を中途半端に止めたくなかったので最後まで続ける。侍従が何故か焦った表情をするが、目下の者が待つのは当然。俺の予定を狂わせる必要は無いな。


 ──鍛練後の疲労感が心地よい。流れる汗も嫌いではないが、人と会うのだから拭っておくか。汗臭い王子とは言われたくないしな。


「おい、汗を拭け」


 近くにいたメイドに命じて汗を拭かせる。慣れていないのか手際が悪い。


「やめろ!くすぐったいではないか!」


 手の甲でメイドの頬を打ち払い、拭くのを止めさせる。何か謝っていたようだが興味は無い。俺の執務室につくと、何人ものメイドが着替えを用意して待っている。侍従がバーテイランス侯が応接室で待っていることを伝えてくる。俺が忘れていたとでも思っているのか?そんなことは過去に2、3度しかないわ。


「──おお、バーテイランス侯、待たせたな。息災だったか?」


「…ご機嫌麗しく。王子殿下」


 白髪と白髭を綺麗に整えたバーテイランス侯が恭しくお辞儀してくる。敬意を感じる態度に嬉しく思うぞ。

 バーテイランス候からの話といってもたいしたことではない。簡単な世間話の後で、()()()から俺に兵を融通するという申し出を受けたというのを伝えに来たのだ。残念ながら軍権は兄の第一王子に盗られているからな。俺の裁量で動かせる兵は非常に少ないのだ。奴等の兵であれば実力も十分であろう。俺はバーテイランス侯に申し出を受けよと伝えた。侯は何故か渋っていたようだが、候も兵はくれなかったではないか。俺が率いて戦う最強の軍団があれば、王位も簡単に手にはいるであろう。俺は玉座から眺める景色を夢想し、ニヤニヤ笑いを抑えることが出来なかった。



明日と明後日は10時30分に投稿します。

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