新しい魔法、新しい飲み物
アドアドフレーバー・クンカクンカのおかげで新商品ができた。
アーモンド風味とバナナ風味のホッとチョコレートである。
さっそくメニューに追加したが、お客からの評判は上々だ。
ポビックさんの孫娘のマイネはバナナ風味がお気に入りである。
そして、俺はこのアドアドフレーバー・クンカクンカのさらなる活用を求めて新魔法を研究中だ。
左手に水魔法、右手に風魔法を発動させた。
右手の風は火炎魔法で作った二酸化炭素を圧縮させたものだ。
この右手の風を左手の水へ圧入させたいのだが、どうしても安定しない。
それが目下のところの悩みだった。
「つまり、こうしたいの?」
「はえ? おま……それ……」
やはりシュナは魔法の天才だった。
俺のやりたかったことをいとも簡単に成功させている。
「何この魔法?」
「炭酸魔法だ」
「で、このシュワシュワする水はなんなのよ?」
「それは炭酸水だ。この壺へ入れてくれ」
空中に浮かんでいる炭酸水のボールをシュナは静かに壺へ注いだ。
「それでどうするの?」
「先ほど作っておいたシロップをこの炭酸水で割るのだ。シュナは何のフレーバーが好きだ?」
「ん~、今日の気分はメロンかな」
俺はダイヤルをメロンに合わせ、アドアドフレーバー・クンカクンカでシロップを撃った。
無色透明のシロップは緑色に変化して、メロンの香りを漂わせる。
無果汁とは思えないほど、本物に近い匂いで驚くばかりだ。
さすがは宇宙のテクノロジー、まさにコズミックファンタジーである。
「で、どうするの?」
「こうするのさ!」
グラスにシロップを注ぎ、炭酸水で割ればメロンソーダの出来上がりだ。
「え、きれい……」
「飲んでみろ」
促すと、シュナは素直に口をつけた。
「シュワシュワする! それにメロンの味だ!」
「成功だな。よし、俺はイチゴソーダを作ってみるぞ」
これを応用すればさまざまなフレーバーのソーダ水を提供できるだろう。
「レモンソーダも飲んでみたいな」
「ちょっと待て、バナナソーダという壮大なる実験が先だ」
ワイワイとやっていたらドアの鐘がお客の来訪を告げた。
「相変わらず騒々しい店だな」
やってきたのは不機嫌な顔のドガだった。
「誰かと思ったらドガじゃねえか。どうした、また仕事か?」
「そうではない、ちょっと寄ってみただけだ」
いつもは大勢の使用人や弟子が一緒なのに今日は一人である。
「おまえまさか……」
「なんだ?」
「地元に友だちがいないのか?」
「うるさい! いつも人に囲まれているから、たまには一人でのんびりしたいと思っただけだ」
「ふーん、そうかい」
一人になりたいのならゴーダ砂漠という選択は悪くない。
数百キロ四方、誰もいないなんてことだってありうるのだから。
「ちょうどよかった、新商品の開発中だったんだよ」
「ほう……、また変なものを作っているのだろう」
「ソーダ水っていうんだ。飲んでみろよ」
ドガの返事を聞く前にメロンソーダのグラスを押し付けた。
こいつはツンツンしているから、欲しくても要らないとか言ってしまうタイプである。
まったくもって面倒な性格をしているのだ。
ソーダ水を飲んだドガが驚いている。
「発泡ワインに似ているな。これはどうやって作るのだ?」
「炭酸水にフレーバーシロップを加えたんだ」
一流の料理人であるドガはそれだけでだいたいわかったようだ。
「なるほど、だがこれほど強い炭酸水があるとは知らなかった」
地域によっては天然の炭酸水が取れる場所もある。
だが、炭酸魔法で作るほどの強炭酸ではないのだ。
「これは火炎魔法と風魔法と水魔法で作ったんだよ。シュナがな」
「そういうことか……」
シュナの魔法のすごさはドガもよくわかっているので一発で納得したようだ。
「このシロップはどうやった? 果物の痕跡がないのだが……」
「そいつは宇宙から来たダルダルさんのおかげだ」
「は?」
ダルダルさんのことをドガに説明した。
「まったく、ここは常識外のことばかりが起こる」
「そんなに褒めるなよ」
「呆れているんだ!」
「それよりさ、ドガに頼みがあるんだ。アイスクリームを作ってくれよ」
「お、お前はまた気軽に言うな。私はレストラン・ゴージャスモンモランシーのオーナーシェフ、ドガ・ザッケローニだぞ! 私の料理を食べるためにどれほどの人間が……」
「かたいことを言うなよ」
俺はアドアドフレーバー・クンカクンカでドガをレモンフレーバーにした。
「ドガが黄色くなった。プッ、うける!」
シュナまで笑っている。
「な、なにをするか!」
「ドガレモン」
「何がドガレモンだ!」
「たまにはいいじゃねえか、ドガにも撃たせてやるからさ」
「なっ……」
黄色い顔で絶句していたドガだったが、光線銃をひったくると俺に向けて撃った。
電子音と共にダークレッドの光が俺を包む。
「チェリージンの出来上がりだ」
「ドガ、私も撃って」
珍しくシュナもノリノリだぞ。
「く、くらえっ!」
ドガはダイヤルを回してシュナを撃った。
少しだけ楽しそうな顔になっている。
「私はアップルシュナね」
「俺たちはフルーツ戦隊だ。名乗りを上げるぞ。俺はチェリージン」
「アップルシュナ!」
「ド、ドガレモン……」
「よし、今夜の俺たちは同じ仲間だ。というわけでアイスクリームを作ってくれ」
ドガは大きなため息をついたのちに訊いてきた。
「材料はあるのか……?」
こいつも緊張の毎日を送っているのかもしれない。
アホなことをして脱力した後は、少しだけ和らいだ表情でアイスクリームを作ってくれた。
「久しぶりにドガの料理を食ったけどやっぱり美味いな。本当に一流料理人なんだなあ」
「当然だ。ところで、どうして急にアイスクリームなんだ?」
いい質問だ。
「それはな、これをこうして、こうするためだ!」
緑色のメロンソーダにぽっかり浮かぶアイスクリームの白い島。
懐かしのクリームソーダの完成である。
前世以来だなあ……。
その日は、あーだこーだと騒ぎながら三人でクリームソーダを堪能した。
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