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カフェ・ダガール 引退したSランク冒険者は辺境でカフェをはじめました  作者: 長野文三郎


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天国のポトフ


 宝箱の中には大量のソーセージと大きな骨が入っていた。


 シャウグレート: 牛、豚、羊の肉を混ぜて作ったソーセージ。それは天国の味わい。


 テトランドンの骨:スッキリながら濃厚な出汁がでる。何度でも使える。



 シャウグレートは太くて長いソーセージ、テトランドンの骨は大きくて真っ白だった。

 ソーセージとは使いやすい素材が手に入ったものだ。

 これで美味しい料理が作れるだろう。


「そうだ、ポトフを作るっていうのはどうだろう?」


 ガキの頃、メランダばあちゃんが作ってくれるポトフが大好きだった。

 あれにも大きなソーセージが入っていたものである。

 シャウグレートを見てそのことを思い出したのだ。


「いいわね。勝利の電鍋で作れば、天国のポトフができるんじゃない?」

「それだ! こいつはきっと看板メニューになるぜ」

「ポトフに入っている材料って何だったかしら?」

「玉ネギ、ニンジン、ジャガイモあたりだな」

「どれもポビックさんのお店で売っているわね」

「よし、行ってみよう!」


 こんな場所に長居は無用だ。

 手に入れたシャウグレートを手分けして持ち、俺たちは迷宮を後にした。



 ヘロッズ食料品店で必要なものを揃えた。

 金を勘定しながらビックじいさんがカゴに野菜を詰めていく。


「玉ねぎにジャガイモにニンジンか。何をするんだ?」

「新メニューのポトフだよ。とんでもなく美味いのができる予定だからぜひ食べに来てくれ」

「ほほう、ポトフか。ポトフと言えばメランダさんの得意料理だったな」


 昔を懐かしむように言ったポビックじいさんの言葉に驚いてしまった。


「じいさんも覚えていてくれたんだな」

「あの店で何度食べたかわからないぞ。ところでポトフを作るのならベイリーフはいいのか?」

「ベイリーフ?」

「メランダさんはいつも入れていたんだよ」

「そりゃあいいことを聞いた。だったらベイリーフも貰おうか」


 必要なものはヘロッズ食料品店ですべてそろえることができた。


「夜にはできるから来てくれよ」


 買い物かごを腕に提げ、ヒョードルに飛び乗って店まで戻った。



 羊皮紙のレシピを読みながら俺とシュナは料理に取り掛かった。

 

「まずは鍋に水を張るか」


 魔法で水を出そうとする俺をシュナが止める。


「どうせなら徹底的にやりましょう」

「徹底的に、ってどうするんだ?」

「水は慈愛の女神ユーラの雫を使うの」


 荒れた大地を一滴で潤したと伝えられるユーラの雫は聖女が使う大魔法だ。

 その水は人々を心身ともに健やかに導くと伝えられる。

 魔法薬の原料にもなるらしい。


「大丈夫なのか? もしも食べられないものができちまったら……」

「安心して。薬を作るつもりで水を入れるから」


 それなら平気かもしれないし、まだ料理は始まったばかりなので取り返しがつかなくなることもないだろう。


「よし、シュナに任せるぜ。最高のポトフを作ろう」

「ポトフって言わないで! 料理を意識すると失敗しそうだから……」

「わ、わかった」


 心配したけど、シュナは首尾よくユーラの雫を鍋一杯分作り出すことに成功した。


「よかった、上手くいって。間違ってエグゾの百毒ができたらどうしようかと思っちゃった」


 エグゾの百毒は解毒不能と言われている猛毒だ。

 魔界の軍団長エグゾの尻尾から分泌されると伝えられる。

 どこをどう間違ったらユーラの雫がエグゾの百毒に変化するのだろう?

 不可解ではあったが、今はポトフに集中だ。


「次はテトランドンの骨の表面を軽く焦げ目がつくまで焙るぞ」


 これは俺がやることになった。

 シュナに任せると消し炭か灰になってしまうからだ。

 骨は大きすぎたのでナイフを使って小さめにする。

 焙った骨を勝利の電鍋に入れてタイマーを三時間にセットした。

 普通の鍋ならもっと時間がかかるだろうが、勝利の電鍋ならこれで問題ない。

 きっと美味いスープが取れるはずだ。


 時間が来て最高のスープができあがった。

 一口ずつ味見をしたが、出汁の深みがまるで違う。


「ユーラの雫、テトランドンの骨、勝利の電鍋がこれを作り出したんだな。ここに野菜とシャウグレートが加わったらどうなるんだ?」

「とりあえず二人前だけ作ってみましょうよ!」


 シュナにせっつかれてポトフの仕上げに入った。

 出来上がったスープで野菜とベイリーフを煮込み、最後にシャウグレートを加えてもうひと煮込み。

 塩と胡椒で味を調えたら完成だ。


「食べてみるか」

「ええ」


 緊張しながらポトフを口に運んだ。

 懐かしいばあちゃんの味が一瞬したが、そのあとからやってきたのはとめどもない多幸感だった。

 なんだこれは!

 シャウグレートの中に凝縮された旨味、野菜の滋味、テトランドンの出汁の深み、すべてが混然一体となりユーラの雫に包まれている。


「こ、こいつはすげえ……。こんなものを俺たちが作ったなんて信じられねえ……」

「これこそ看板メニューにふさわしいわね」

「ああ、さっそくメニューに加えておこう」


 天国のポトフ(パン付き)   ……1200ゲト


 そうこうしているうちにポビックじいさんが常連たちを連れてやってきた。


「おう、今夜はジンがうめえものを食わせてくれるそうじゃねえか?」

「夕飯を抜いてきたんだ、まずかったらぶん殴るからな、ガハハハッ」


 じいさんたちは勝手なことを言って騒いでいる。


「大人しく座って待っとけ、みんなの寿命を延ばしてやるからよお!」


 さっそく五人前のポトフを用意した。

 食べたじいさんたちはぜんいんが夢見心地だ。


「うめえ……はは……はははは………………」

「おい、ピックル、しっかりしろ!」

「バランもどうした? え……、息をしていないぞ!」


 夢見心地を通り越して昇天しかけているじゃねえか!


「シュナ、蘇生魔法だ!」

「あぁもう、本当に世話が焼ける!」


 シュナの活躍で店から死者をだす事態は免れた。

 危ねえったらありゃしない。


「天国はいいところじゃったぁ……」

「べっぴんの女神さまがほほえんでいたよあ」


 こちらの心配をよそに、じいさんどもはのんきだ。


「さてポトフの続きを食べるとするか」


 死にかけたのにまだ食う気か?


「じいさんたちはもう食うな!」

「そうはいくか、こんな美味いものを食い残したら死にきれねえ!」

「死んでも食うからな!」


 結局、常連たちはポトフをすべてたいらげ、元気に引き上げていった。

 幸いにして再び天国の門を叩いたじいさんは一人もでなかった。


【グラストNOVELSより発売中】

よろしくお願いします!

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