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カフェ・ダガール 引退したSランク冒険者は辺境でカフェをはじめました  作者: 長野文三郎


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天使の涙


 悲しいことに客は続かなかった。

 シュナが治療した商人たちが帰ると、他に来店する客はなかったのだ。

 繁盛店への道のりは長く険しい。

 仕方がないので掃除をしたり、建物を修繕したりして過ごした。

 カフェのペンキを塗り直せばお客はくるだろうか?

 人は見た目に騙される。

 初手においては中身より見栄えの方が大事なのだろう。


「ジン、早く迷宮へいこうよ。どうせお客さんなんてこないって」


 悔しいがそうかもしれない。

 窓から外を眺めても街道に人の姿は皆無だ。

 今日はもう店じまいするしかないだろう。

 せめて迷宮で頑張って、カフェの備品や食料を充実させるとしよう。



 ダンジョンレベル12

 タイプ:神殿


 石板を確認したシュナは肩をすくめた。


「微妙なレベルね。どうする、入り直してレベル24にする?」

「めんどうだからこれでいいや」


 危険な迷宮攻略をやりたい気分じゃない。

 ちょっと役に立つものが出てくれればそれでじゅうぶんだ。

 100円ショップに来たぐらいの感覚で、俺は迷宮の回廊をすすんだ。


 何度か入ったことにより、この迷宮の傾向が少しわかってきた。

 迷宮タイプ「荒野」は動物系の魔物が多く、「森」は植物系の魔物が多い。

 どちらも可食の魔物が出没するので、食材探しをするのならこのどちらかだろう。

 今回の神殿タイプは精霊系のモンスターが多いようだ。

 そしてここの魔物は「レシピ」をドロップすることがわかった。

 討ち取ったばかりのエンゼルスネークが消滅すると、代わりにスクロールが現れたのだ。

 精霊系の魔物は死ぬと体が消える。

 エンゼルスネークは純白の翼が生えた蛇で、爬虫類の仲間に見える。

 だけど、こいつも精霊系だった。

 シュナがレシピを広げている。


「スライムタピオカの作り方だって」

「まさか、スライムを原料にするのか?」

「タピオカがどういうものかは知らないけど、青いスライムを使うって書いてあるわよ」


 世の中にはまだまだ俺の知らない可食魔物がいるのだなあ。

 この他にも「レッドボアの脂身入りプディング」とか「キングオクトパスの墨袋のフライ」なんてレシピがドロップされた。

 もっとも、レシピがあっても材料がなければ料理は作れない。

 今後は素材調達も考えていかなければならないだろう。


「これからはスライムを見ても火炎系の魔法は禁止だからな」

「なんでよ?」

「焼いたらタピオカ状にならないんだってよ」

「ふーん、じゃあどうするの?」

「凍らせるんだ。一度凍らせないと弾力が出ないと書いてある」

「それなら任せておいて、エグザスの死の微笑が使えるから」


 エグザスは死を告げる天使だ。

 そのほほえみを見たものは心臓が氷って絶命すると伝えられている。

 シュナにかかればスライムの氷漬けなど造作もないことだろう。


「あと、キングオクトパスを狩るときは墨袋を破かないように注意だぞ。フライができなくなるからな」

「そのへんはジンに任せる。どうせ、タコ焼きにしてもダメなんでしょう?」


 レシピには火を入れることも禁止と書いてある。

 熱を加えるのは、あくまでもフライにするときだけらしい。

 だとすれば俺の出番だろう。

 話しながら歩いていると、神殿の奥に到着した。

 からっぽの礼拝堂で揺れているのはこの迷宮のボスである。

 陰気な幽霊みたいだが、背中には立派な翼を生やしていた。


「あれも天使か?」

「正確に言うと階級の低い堕天使ね。おそらく第七以下よ」


 天界も階級に縛られるとは、窮屈なのはどこへいっても変わらないか。

 堕天使にも頭の上のリングがあった。

 だが錆びた鉄のような風合いで、なんだかうら寂しい感じがした。


「戦いはジンに任せるわ」

「おいおい、少しは手伝えよ」

「神聖魔法には攻撃呪文が少ないの。天使系に浄化の炎は効果が弱いし」


 大天使ネクソルの炎、炎帝フドウのインペリアルファイヤー、告死天使エグザスの氷の微笑、俺が知っているだけでも攻撃魔法は三つもあるぞ。

 これを少ないというのだろうか?


「それに、堕天使ってなんとなくシンパシーを感じるのよね。私も神様とか神殿とかは苦手だから……」

「さすがは堕聖女」

「私のことを聖女って呼ぶなって言ってんだろっ!」


 シュナの指先から紫電が迸り、危険を感じた俺は秘奥義である無影脚をつかって回避した。

 バリバリと轟音を立てながら、雷撃が部屋中に広がっていく。

 俺は紙一重でそれをかわした。


「くおらっ、シュナァ! 死んだらどうすんだよっ!」

「蘇生魔法に決まってんでしょっ!」

「だったらいいか……。いいや、よくないっ! だいたい攻撃魔法のレパートリーは少ないんじゃなかったのかよ! シレッと新技を見せてんじゃねえ!」

「アンタこそ「審判の雷」を目視で避けるな。この非常識!」


 少しかわいそうだったが、堕天使は審判の雷の余波をくらって消滅していた。

 レベル12のボスだから、それほど強い魔物ではなかったのだろう。

 いつものように祭壇が現れ、そこには天使の石像が立っている。

 きっと悔しかったんだろうな、堕天使の石像は泣き顔だった。


「さて、宝箱には何が入っているかな?」


 開けてみると色とりどりの砂糖の粒が入ったガラスジャーだった。

 蓋は鈍い銀色で、見た目からしてなかなかすてきだ。

 しかも砂糖はすべてティアドロップの形をしている。


 天使の涙:コーヒーや紅茶に入れると美味しくなる砂糖


 これはいい、さっそく店で使うとしよう。

 また一歩、カフェ・ダガールはお洒落なカフェに近づくのであった。


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