第二話 千賀丸⑤
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ッ パアァン″″!!!!!!!!!!!!!
軍服の男が持つ銃剣、三八式歩兵銃の薬莢が爆ぜ弾丸が撃ち出された。
雅はその鉛玉をしかと見詰め、意識の全ベクトルをその小さな唯一点へと集める。そして細胞一つ残らずの意思統一が完了した所で、腹の奥底にある魂へグウッと力を込めた。
……………・・・・・ ・ ・ ・ ・
業『天地孤独』が発動し、視界に映る全てが速度を剥ぎ取られてゆく。
そうして等々纏った速度全てを失い静止したその弾丸へ向け、雅は次の刹那に肉体が辿る動きを作った。
あらゆる力が消え失せ 音は遠くなり 色はモノクロと成った世界をキャンバスに、一筆書きで己が未来を描いてゆく。
そうして、業を解除。世界と雅の肉体は爆発的に加速していった。
・ ・ ・ ・・・・・……………
この一瞬、雅が辿ったのは自らの肉体へ超音速で迫りくる弾丸に刃を合わせるという動き。
通常人間が持っている反射神経ではどう足掻いた所で不可能な無理難題。
しかし業により秘めたる潜在能力を限界まで引き出された身体はその無理を押し通す。摩訶不思議の領域から流れ込んだ力に刀は振られ、その切っ先は弾丸が貫く超音速をさらに超えていた。
………………………………………………………………………………ッパ″″″ ズン!!!!!!!!!!!!
「ッ″!?」
「 凄ぇ……弾丸をッ斬って落としやがった」
大気を真二つに割るが如く引かれた地面垂直 一直線の剣閃。それと弾丸の描く軌跡が重なった瞬間、6,5mmの鉛は小さく爆ぜ、左右に分かたれ落下した。
そのまるで神を身に降ろしているが如き研ぎ抜かれた動きと眼光に、藪の中から戦いを見る千賀丸は、一つ人の極め得る頂を見た気がしたのである。
そしてその神域に片足入れた眼光湛える瞳を、雅はスッと軍服の男へと向けた。
「 ッヒ!! …………………ワ″ア″ア″ア″″ア″″ア″″ア″″″ア″″″ア″″″″!!!!!!」
軍服はその瞳に見据えられた瞬間、ヒィッという短い縦笛のような声を上げ肩を跳ね上げる。
がしかしその直後彼が取った行動は、やはり常人とかけ離れていた。まるで蛇に睨まれた蛙が如き心境と成った男は、何故かその手に持つ武器を握り直し一心不乱に銃剣突撃を行ってきたのである。
この無間地獄に落ちてくる人間は皆何かしらかの スイッチ を持っている。
それが恐怖によって入るのか、怒りによって入るのか、若しくは全くの突発的に入るのかは千差万別。がしかし皆一様に、それが切り替わった瞬間侮りがたい力を発揮するのだ。
そして明らかにスイッチが切り替わった軍服の姿を見て、雅はその口端に凶暴な笑みを滲ませる。
「ッエ″″ェ″イ!!」
ダン ズドォ″ッ!!!!
軍服が飛び込むようにして突き出してきた銃剣。それを雅は上体を捻りながら斜め後方へと跳び、白銀の傍を擦り抜け回避。
「ヌゥオ″オ″オ″オ″オ″″オ″″オ″″!!」
ズド″ンッ ズド″ッ ズド″ッ ズド″ッズド″ッズド″ッ!!!!
しかし、攻撃を躱されようとも関係無く軍服の男は後退を知らぬかの様にドンドンと前へ出てくる。
その失う物はなにも無いと言うかの如き攻めっ気の強さには、流石の雅も重心を後ろへ引き左右に跳び退きながら受けに回らされる。
だが当然、その男は静かに戦いの嗅覚を研ぎ澄ましていた。
フォッ ズ″″ワ″ァン!!!!
突如、雅がまるで地面へ沈み込むが如く屈み 頭上に銃剣を躱す。そして其処から刃を敵の胴へと向けつつ両手で刀を引き付け、踏み込むと同時斬り上げを放ったのだ。
その斬撃の尾に引かれた残像は、宛ら大地より牙を伸ばす大蛇の如く敵の肉へと喰らい付く。
「 ッグ″、ウ!!」
ガッ チ″ィ″″ン″″″!!!!!!!!
しかし、その虚を衝いた斬撃にも軍服は何とか対応。
敵の姿が消えた瞬間空かさず腕を引き、胴との間に挟み込んだ銃身にて刃を受止めたのだ。その瞬間火花が散り身体は僅かに浮かび上がったが、それでも致命傷は回避する。
「フッ」
若造の割にはやりよるわい、そう雅は思った。
この無間地獄は現世の時の流れと別たれている。
そして此処で古も新も様々な獄門衆と戦ってきた彼は、今目の前にいる相手が、己の生きていた頃よりかなり後の時代の人間であるという事を察していた。
地獄で相まみえるモノノフ共は、基本的に古き時代の人間に成れば成るほど腕が立つ。原初に近づけば近づく程に人か怪物か神かという領域の輩が湧いてくる。
だがそんな中 新しい時代の人間で有りながらそこそこ気骨が有りそうな未来の男を見て、雅は珍しい虫や動物を見付けた様な感慨を覚えたのであった。
こいつが何処までやれるのか、俄かに興味が湧いてくる。
「 歯ァ食い縛れッ!! 若造″ォ″ォ″ッ″!!!!」
下からの胴を両断せんという斬撃を受け軍服が微かに後退った隙。それを衝き、雅は弾かれたように立ち上がると共に得物を大上段へと振りかぶる。
そしてそれへ前方へと飛び込む動きを合わせて、全体重を刀身に乗せ振り降ろした。
ッガ″″″ ギイイィ″ィ″″ン″″″!!!!!!!!!!
ドサァッ
一振りに命を賭ける僅かさえ重心を後ろへ残さぬ斬撃。そんな物未来には残っていないのか、軍服は余りの重さに顔へ満面の驚愕を浮べた。
それは宛ら天が落ちてきたかと思う程の衝撃で容易く彼の両膝を折り、背中から地面に転倒させる。
「 死ね」
「ッ″″!?!?」
そんな敵が見せた絶好の隙を、この男が見逃す筈はない。
雅はその陥った窮地へ顔を青くする若造へと、無慈悲に、再び全身全霊の斬撃を叩き込んだ。
「ラァア″ア″″ッ!!!!」
ッガァ″ ギ″イ″イ″イ″″イ″″イ″″ン″″″″!!!!!!!!!!!!
軍服は咄嗟に額の前へ銃剣を掲げ、斬撃を受け止めんとする。この辺りの勘の良さは素晴らしい。
がしかし腕だけで止めるには、その一撃は余りに重過ぎた。刃が触れた瞬間銃身に刀の纏っていた速度がそのまま乗り移り、閃光と共に前床が凄まじい勢いで額へと降ってきたのである。
ド″ゴ″ ゥッ……………
頭蓋骨の内部で幾度も跳ねまわる鈍い衝撃。
それを受けた軍服の瞳が、光失い上瞼の中へと転げ落ちていった。
「…………………はッ……はッ……はッ……」
山を一度の休息もなしに駆け上がっても、海を荒波に揉まれながら沖まで泳いでも 息一つ上がらない。
そんな人外じみた体力を持つ雅の呼吸が、たった二度の斬撃を経て乱れた。
彼はまともな道場で剣を習った事など無い。
道行く腰に刀をぶら下げた人間に挑みかかり、幾度も死にかけ、そして実際に死んで身に着けた叩き上げの剣である。
それ故 雅が己の剣術としている物は言葉一つ。
生を捨てて飛び込み全力で振り下ろす最速最大の一撃、その前には如何なる型も技術も無意味。 そんな生涯を掛け掴んだ教訓のみが彼の剣術であったのだ。
そしてその剣術は、どうやら未知の武器相手だろうか有効らしい。
「は ぁッ……ッ…………ッ………………」
まるで皮膚の下で大炎が暴れ回っているかの如き熱が呼吸によって僅かに抜け、何とか身体を動かせる様になった。当然 直ぐさま雅は敵へトドメを刺しに掛かる。
刀の柄を両手ともに逆手へ握り、 額の辺りまで腕を上げ、 敵首目掛けて一息に振り下ろした。
「……ッ!?」
しかし、その切っ先が急所を捉える寸前。まるで狙い澄ましたかの如く、瞼の中に消えていた黒目が降ってくるのを千賀丸は藪の中から見た。
「 旦那ァ″″ッ!! まだ気ィ失ってない、そいつッ飛ぶつもりだ″!!!!」
そう少年の甲高い声が響くのと、雅の振り下ろした切っ先が空を貫き地に突き刺さったのは同時であった。
地面に背中を預けて意識を失っていた筈の身体が、忽然と消えたのである。
ッ パアァン″″!!!!!!!!!!!!!
三度、三八式実包の爆ぜる音が響いた。
そして正しく三度目の正直という奴で その弾丸は見事命中。若きモノノフの一撃が、古強者の身体を貫いてみせたのだった。
お読み頂きありがとうございます。
早いもので連載を開始してから、もう九つのエピソードを投稿させて頂きました。どれも手抜き無く全力で向き合い作った作品ですので、楽しんで頂けていたら幸いです。
そして次回で投稿数が十に成るのを節目に、更新頻度を上げさせて頂きたいと思います!!
これから毎日一つでも『ブックマーク』や『評価』等々の反応が頂ければ、間隔を開けず『毎日更新』を行ってゆくつもりです。
これからも持てる力の全てを振り絞って小説を書いてゆきますので、何卒応援のほど宜しくお願い申し上げます。