第十話 獄卒の群②
なんと 新たな小説の評価を付けて頂きました!!
付けて下さった方、誠に有難う御座いました。
そしてそのお礼に、明日も連続投稿をさせて頂きます!!!!
精一杯面白いエピソードを作りますので、どうか楽しんで頂けると嬉しいです。
千賀丸に見送られ東門から外に出た一行は、町の外周を大きくグルリと回って西門裏の森へと移動。そこで獄卒の群を迎え撃つという形を取った。
わざわざ遠回りとなる東門から出た訳は、群が西方から迫ってきている事が命懸けで斥候を務めてくれた村の男達のお陰で分かり、真っ先に西側の防御を固めた故。
西門は既に何重にも板を打ち付けて開かなく成っており、唯一まだ開閉機能を残していた東門を使ったのだ。
そしてその東門も、自分達が出れば即刻板を打ち付けて塞ぐようにと指示を出してある。
つまり彼らは今、完全に退路を立った背水の陣にて獄卒の群を相手取らんとしているであった。
「 暇じゃ 」
ブウォン″ッ!!!!!! ブウォン″ッ!!!!!! ブウォン″ッ!!!!!!
( 何であの馬鹿デカイ武器をあんな音上げて振り回せるのかしら……)
そうして 予め決めていた定位置に着いた一行。
すると一転、訪れたのは心臓に悪い待ちの時間であった。
手持ち無沙汰となったのか、雅が大木の枝に乗った状態で身の丈程もある大太刀を片手で素振りし始めた。そしてそんな姿を、まるで妖怪にでも出会ったかの如き表情で照姫は地上から見上げる。
さながら今回の役割を担当するが為に生まれてきたかの如き、超人的な腕力と平衡感覚だ。
彼ら四人は所詮出会って数日も経たない寄せ集めの兵である。故にとても一糸乱れぬ連携など望める筈もない。
そこで、この戦場での取り決めは、ただ各人が相手する敵の種類を分けるのみに留めていた。
小山のごときサイズを誇る大型の獄卒は特殊な機動力を持っていなければ人が致命傷を与えるのは物理的に不可能。故にその機動力を持つ雅と翁が引き受ける事となった。
そして体格差が二倍以内の中型は雷峰が、体格が人と殆ど変わらぬ小型の獄卒は照姫が一手に引き受ける事に。
雅同様 翁はその機動力を最大限活かすため木の上へ登り、大太刀を手に幹へ寄り掛かっている。
雷峰は、四股を踏むという彼なりの精神統一を先程から只管行い続けている。
そして照姫は、 破裂しそうな程高鳴る自らの心音をただ聞いていた。
数で圧倒的に劣っており、防衛戦である以上こちらから攻める訳にもいかない。
故にその場へ縛られ 敵の出方を延々伺い続けるという、生殺しの様な状況が暫し続いた。
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そうして、一秒が百倍に引き延ばされた極限の緊張に気が狂う寸前
……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………ッ……………ミシ…………バキィッ………… ド″″ォ″オン ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! !
その時は、 突然訪れた。
「 ぅぁああ″あ″あ″あ″あ″あ″あ″あ″あ″あ″あ″あ″あ″あ″あ″あ″″あ″″″あ″″″″あ″″″″″あ″″″″″!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
樹冠に空を隠された薄暗い森の奥より聞こえた枝や若木が折れる音。
その音が段々大きく成っている事に気付いた次の刹那、 化け物が獣と人の中間のような鳴き声を上げ木立の向こう側から飛び出してきたのである。
「あ″ぅ″あ″あ″あ″あ″あ″″あ″″″!!!!」
ズズズズズズズズズズズッ!!!!!!!!!
出現したのは頭部が異常に膨れ上がった獄卒。
そしてその巨頭が重いのか 赤子の如く四肢を使って顔の右側を地に擦り付けながら這い進み、にも関わらず凄まじいスピードで照姫へと迫ってくる。
「……ッ″!!」
その目に入る情報全てに寒気を覚える醜い怪物へと顰めっ面を向け、照姫は即座に薙刀を構えた。
がしかし彼女の握った得物では、迫る山が動いてるかの如き怪物を相手取るのに、重さと刃渡りが致命的に足りていない。
「あ″あ″あ″あ″あ″あ″あ″あ″あ″あ″あ″あ″あ″あ″あ″あ″あ″″″あ″″″あ″″″あ″″″あ″″″ッ!!!!」
ズズズズズズズズ 、ガパァッ!!!!!!
瞬き一つの内に異形の怪物は彼女の目前へと到達。
人の女など一口に呑み込んでしまう大口が悪臭と共に開かれ、 その奈落が如き口孔の闇が待ち切れぬと言わんばかりに首を伸ばし照姫へと喰らい付いた。
「あ″″″あ″″″あ″″″″!! あ″ぐッ…………………………」
ズ ′′ッバア″ア″″ン″″″!!!!!!!!!!
だが、 照姫を呑み込まんと迫り来ていた闇が、 彼女の目と鼻の先で突如急減速。
そして怪物の巨頭ごとそれは斜め横方向にスライドし、 胴体と別たれ傍に転がっていったのであった。
「……ふぅ、ちょっとは信用しても良いみたいね 」
それを確認し、照姫の口から安堵の息が漏れた。
どうやら彼も 自分に与えられた役割程度は果たすつもりが有るらしい。
雅が、 この戦の一番首を挙げたのだ。
彼は獄卒の影を見るなり躊躇なく樹上から飛び降り、落下速度を破壊力として上乗せした大太刀にて獄卒の首を一振りに斬り飛ばしてみせた。
「…………ッ!」
がしかし、そこで思わぬ誤算が起こる。
その一撃は余りの威力に頸椎を両断するのみに留まらず、なんと更に下の地面まで斬り裂き 長大な刀身が土に潜り込んでしまったのだ。
「ぅう″ぅう″ぅう″ぅう″ぅう″ぅう″ぅう″」
「ふるるるるるるるるるるるるるるるるる」
流石に巨大な獄卒の首を一太刀に切断しまだ勢いが余るのは想定外。雅がその顔に驚きの色を浮かべていると、そこへ更なる獄卒が出現。
似た様なサイズの小型二体。それが森の奥から奇声発し滅茶苦茶に手足を動かしながら姿を表し、彼の背へと襲い掛かってきたのだ。
「 ッどすこおおおおおい!!」
ガ′′ ツゥ″ン″″!!!!!!!!!
だが、その獄卒の更に背後より野太い大声が上がる。そして鬼共の頭を巨大な掌が包み、火花散るような速度で二つを衝突させた。
メギリィッという互いが互いの頭蓋骨を粉砕し合う感触、それが力士の手から腕へと這い上がってくる。
「 二匹だッ!! これでオレは二匹目だなぁ、侍! 」
新手の気配に素早く大太刀を手放し、腰の太刀で敵を抜き打たんとしていた雅。そんな彼の背後に立った雷峰が、これ以上無いほど勝ち誇った顔でそう宣う。
どうやら、倒した獄卒の数で競おうと挑発している様だ。
「チッ、余計な真似を…ッ!!!!」
当然、雅がそんな喧嘩を売られて買わない訳が無い。即座に煽り返すため 彼の身体が忽然とその場から消える。
……………… ッバ′′″″ズ″″ウウウウン!!!!!!!!
そして次の瞬間、彼らが話していた場所から幾らか離れた地点より 何か硬い物体が破裂したような重低音が薄暗い森中に響いた。
予め木の幹に突き刺しておくよう指示しておいた無数の大太刀。そのうちの一本へ、雅が業『死不別互』を使用し瞬間移動。
そうしてそれを素早く幹から抜き、新たに森の奥から姿を表した大型獄卒の頭上に落下。脳天へと狙い定め、渾身の一撃を振り降ろしたのだ。
ドオォォン……
再びただの一振りで巨大な獄卒が泥人形の如く倒れ、大地が揺れた。
雅の斬撃は敵の頭蓋骨を殆ど破裂させる様にして叩き割り、更にその奥の命まで抉り取ってみせたのだ。
落下速度、そして武器の質量という助力もある。
がそれでも彼が一撃で大型の獄卒を仕留められる様になった裏には、ここ最近非常な密度で超えてきた数々の死闘による武人としての成長が覗く。
「 二匹じゃあ″あ″あ″あ″ッ!! ワシは二匹やったぞ雑魚力士、お前の何倍もデカイのを二匹なァ″!!」
そして雅は自らが叩き割った獄卒の頭に乗り、其処から引き抜いた大太刀の切っ先を雷峰へ向けそう叫んだ。
『デカイ』と態々強調している点。そこが彼の人間的な器は、ここ最近の死闘を経てもまるで成長してはいなかったという事を物語る。
「 もう二匹か、やはり若者は凄いのう 」
…………ッドオォォン…ッドオォォン…ッドオォォン
「ワシは今ようやっと……三匹目を倒した所じゃッ」
更に、そんな若者二人の意地の張り合いに割り込んできた翁の言葉。
それは武人など、所詮どれほど歳を取ろうとも 負けず嫌いな小僧に過ぎないという事を雄弁に物語るのであった。
木々の隙間を雷光煌めくが如く三筋の残像が貫く。そしてそれから僅かな静寂挟み、新たに出現した大型の獄卒三匹が首から血を吹き出し地面へと倒れたのであった。
各一撃ずつ 命を刈る最低限の傷を与え、まるで眠りに落とす様にし獄卒を絶命させたのだ。
刹那の内に見せ付けられた桁違いの技巧。
それに一瞬呆気に取られてしまった事に対し、雅と雷峰の腹底からフツフツと認めたくない悔しさが湧き上がってくる。
「おいジジイッ!!!! それはワシの獲物じゃ、横取りするなッ! 老いぼれは後ろへ下がって茶でも飲んでろ!!」
ズバア″″ッ!!!!!!
「おいッ馬鹿剣士! お前の担当は大型だけだろうが、チビはオレに譲れ!!」
ゴ″ズ″ゥ″ン″!!!!
「ホッホッホッ、威勢が良くて結構じゃな。………ほれ、これで四体目じゃ」
スパァン″ッ!!
「 ッジ″ ジ″ イ″!!!! お前またワシの獲物を横取りしおったな、斬り殺すぞ! そいつもワシのじゃ、寄越せ″」
ッズ′′ バアアア″ン″″″!!!!!!!!!!!!!!
「………………これ、私要るのかしら?」
ズバッ!!
人間同士で争っている場合では無いにも関わらず、倒した獄卒の数で競い始めた男達。
そんな彼らの傍を擦り抜けてきた子供程の獄卒をようやく一匹倒し、照姫は独り言を呟いたのだった。
雅と雷峰と翁は、次々と出現する獄卒達をまるで流れ作業の如くに屠ってゆく。今の所、危なげが無いどころか寧ろ敵を奪い合っているという有様だ。
そして当然それは、 普通でない。
明らかに普通でない 常軌を逸した光景である。
この世界に身を置いていれば嫌でも耳に入ってくる、人がまるで虫ケラか何かのごとく獄卒によって蹂躙される話。
ある村は、たった一匹偶然入ってきた中型の獄卒によって皆殺しにされたらしい。またある人は、侵入した小型の獄卒一匹を追い出すことが出来ず 生まれ育った集落を捨てる事になったそうだ。
獄卒と人間の間にある差、それは本来これ程埋め難いものなのである。
がにも関わらず、今目の前にて繰り広げられる 巨大な獄卒が次々と骸に変わってゆく光景。それを見ていると、ついこの無間地獄の常識を忘れてしまいそうになるのだ。
出会った瞬間殺し合いが当たり前の獄門衆。それが決して協力とは呼べぬものの目的を共有している、 この時点で既に奇跡は起こっているのだ。
そしてそのうえ更に、獄門衆の中でも上澄みも上澄み 人の極め得る頂き一つを踏み越えた武の達人が今此処へ複数人集っている。
(これなら……若しかすると本当に、群から町を守りきれるかも知れないッ)
獄卒の群が接近していると聞いた時、実は内心この町のことを諦めていた照姫。しかしそんな彼女の考えを雅・雷峰・翁の正しく一騎当千な戦いぶりが変えた。
地獄の責め苦に人の力が勝利する。
そんな有り得る筈のない事を、 つい期待してしまったのだ。
がしかし、まだ感涙に咽び泣くには時期尚早。
まるで地獄側が人の力を試しているが如く、此処から獄卒の数は愈々増え 敵はより頑強になり 戦いは加速度的に苛烈さを増してゆくのだった。




