第九話 決戦準備⑤
なんと、又もや新しいブックマークを頂いてしまいました!!!!
付けて下さった方、誠に有難う御座います。
お礼として今日・明日と連続投稿とさせて頂きます。
精一杯面白いエピソードを作りますので、どうか楽しんで頂けると嬉しいです!!
「なあ、それ面白いかッ?」
千賀丸が空の荷車を押し始めると、横から修羅が目をキラキラ輝かせながら訪ねてきた。
「ん? それって?」
「その手で押してる奴だ。修羅にもやらせてくれ!!」
「ああ、荷車の事か。別に良いけど、こんなのを態々押したがるとかお前やっぱり変わった奴だな」
恐らく修羅は荷車を遊び道具か何かだと勘違いしているのだろう。そう察した千賀丸は別に断る理由もないので代わってやり、彼女の隣を歩く事とした。
そして、隣から見た少女の一切憂いが存在しないかの如き、澄みきった笑顔。
それはまるで自分含めたこの世界の全てが、彼女一人のために用意された玩具箱なのではないかと少年に錯覚させる程に美しかった。
「オホッ、ホホッ、オホホホホホッ!! 楽しいなこれ!! 千賀丸これ楽しいぞッ!!」
「そうかよ、お子様は何でも楽しめて羨ましい限りだぜ」
「むぅッ、千賀丸いま意地悪な事思っただろ。代わってあげないからな、もうこれは修羅の物にすると決めたッ!」
「ふん、こっちこそ木材乗せてから重い重いって言っても聞いてやんねえからな。………………………修羅は、この町に父ちゃん母ちゃんと住んでんのか?」
「ん? 修羅は父とも母とも一緒に住んではおらん。修羅は偉い親分じゃからな、部下が沢山おって毎日忙しいのだ!」
「ふ~ん」
話題に困り沈黙を嫌って尋ねた家族の話。
しかしそれから何故か訳の分からない方向へ突飛した修羅の言葉を、千賀丸は幼子の戯言として聞き流す。
「親分はな、子分達に餌を腹一杯食わせてやらんといけないのだ。子分に沢山狩りさせて、経験を蓄えて、強くさせないといけない って兄ちゃんが分けてくれた時に言ってた。修羅の子分まだ物も持てない馬鹿ばっかりだから大変なのだ~」
「そっか。やっぱり部下って親分に似るんだな」
「その通りなのだッ!! ……どういう事なのだ??」
「お、そろそろ見えてきたぞ修羅。あそこに沢山積まれてる奴を西側まで運ぶんだ!」
「うん、分かったーッ!!」
噛み合わない会話をしながら暫く歩き、少年少女は町中の不要な木材が山のごとく積み上げられた広場まで辿り着いた。
そして千賀丸と共に修羅はこの木材が一体何に使われるのかも良く理解せぬまま、しかしとても楽しそうに木の板を荷台の上へ乗せ始める。
だがその結果、あっという間に可載量を軽々超す量の木材が彼らの前に積み上げられてしまったのであった。
「ちょっと張り切り過ぎちまったな。少し量減らすか?」
「ん? 何でなのだ?? きっと沢山積んである方が面白いのだ」
「面白いって言ったって、こんな量オイラ達だけじゃ動かせな………ッ!?」
ギイィィ″ィ″イ″″″! ! ! ! ! ! ! ! ! !
二人掛かりでも動かせるか不安になるほど大量の木材を積んでしまった荷車。そのうず高い影を前に少年は尻込みし、積み荷を減らして軽くしようと提案する。
がしかし何とそれを、修羅はたった一人まるで重さなど感じていないかの様に動かし始めてしまったのだ。
今度の今度は 流石に唖然とさせられる千賀丸。
だが、彼女一人にこの木材の山を押し続けさせる訳にも行かず、慌てて彼も後ろから荷車を力の限りに押し始める。
「しゅッ、修羅…お前見た目細いのに凄い力持ちなんだな」
「そうか? 修羅、力持ちで凄いかッ??」
「うん、本当に凄えよ。オイラの知り合いの雷峰とか雅の旦那並の力持ちだ」
「そっか~、修羅ッ 力持ちなのか!!」
(…………いや、 いくら何でもおかしくないか? あいつもオイラと同じ位の子供なのに何でこん )
「千賀丸!千賀丸! 千賀丸! ほらッ修羅凄いだろ、もっと褒めてくれ千賀丸!!!!」
何かが、引っ掛かった。
がしかし次の瞬間 修羅は荷車を押す速度を突然速くしたのである。
そしてその驚きは頭に生まれた引っ掛かりを幻のごとく掻き消し、何を気にしていたのかすら少年は忘れてしまったのであった。
「…ああ、凄い凄い。凄いけど、お前からそんなに褒めてくれって言われたら何か褒めづらいな」
「えー、何でなのだぁ? じゃあ、どうしたら褒めてくれる? なあ千賀丸ッ どうしたら修羅の事もっともっと褒めてくれるのだ?」
「如何したら褒めてくれるかって……難しい事聞くなあ」
「 じゃあッ!! じゃあッ!! こうしたら……もっと褒めてくれるか? 」
ミシシシ″シ″シ″″シ″″″ッ!!!!!!
それはまるで、 親の気を惹きたがっている子供の如き口調であった。
がしかしそれと共に少女が行ったのは、とても唯の子供と思い込み続けるには無理かある、目を疑うような行動だったのである。
「 ッ″!?!?」
修羅が突如荷車を引く手を止め千賀丸の方を振り返った。かと思えば次の瞬間、 山盛りに木材が積まれたそれを軽々宙に持ち上げて見せたのである。
その上更に、まるで重さなど感じていないかの如く荷車の下で笑顔を浮かべ、腕を上下に動かしガララッガララッと木材同士が揺れ擦れる音を鳴らす。
流石におかしい。何かが根本的におかしい。
だが その引っ掛かりですら次の瞬間には消えてしまいそうに成るのを懸命に繋ぎ止め、千賀丸はようやくその異常に気が付くことが出来たのである。
( そうだ、この怪力本当に修羅って子供なのか? しかもアイツの見た目……なんだあの髪の色、それに瞳の色だって。 えッ、あれ? もしかしてコイツ人間じゃな…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………ァッ……ァ、ア″ア″ッ 」
しかし、その異常にようやく気付いた千賀丸が心臓飛びでる程の驚愕を感じようとした刹那、 突然身体がガチリと固まったのである。
それはまるで溢れ出た感情が喉に詰まり、今まさに窒息しそうに成っているかの如く。
「 ッあ!?」
そしてそんな千賀丸の異変に気が付いた修羅。彼女は対照的に、出し惜しみのない驚愕をその顔一面に浮かべた。
「やっちゃった!! 不驚術掛けてたの忘れてたのだ、千賀丸の心身が剥がれちゃったッ。どうしよう…どうしよう……そ、そうだ″!!」
ッズドン!!!!!!
自分の行動で驚かなくなる術を掛けていた所へ、余りに強過ぎる刺激を与えてしまった。
その結果精神と肉体の繋がりが一時的に千切れ、千賀丸は全身が機能不全のような状態に陥ってしまったのである。
このままでは窒息死は避けられない。
そんな少年の首になんと修羅は、一切の躊躇もなく手刀の一撃を入れて元に戻そうとしたのだった。
ドサッ! …………………………………………………
………………………………………………………………………スゥー スゥー スゥー
頸椎に強い衝撃を受け、意識を断ち切られた千賀丸。彼の身体はまるで木で出来た人形の様に、僅かな受け身さえ取らず地面へと倒れた。
そして、その倒れた口から再び呼吸音が漏れ出したのを受け、修羅もまた安堵の溜息を吐いたのである。
「良かったぁ〜、また壊しちゃったかと思ったぞ。危ない危ない…」
生まれ持った神域に踏み込む力の使い方を誤り、つい始めて出来た人間のお気に入りを壊してしまう所であった。
まさか人が此処まで脆いとは、まだ生み出されて日が浅い彼女には想像出来なかったのである。
固く瞼が閉ざされた寝顔 。それを見て修羅はもう今日は彼と遊べそうに無いと悟った。
そして気絶した千賀丸の傍に蹲み、その額へ何やら見えない文字のような物を書き込む。
そうして、それを終えた彼女はスクッと立ち上がり、今はただ呼吸を行う少年へとこう告げたのである。
「 またな千賀丸ッ。今度来た時は、だんこよりもっともーーっと美味い物を食べさせてやるぞ!! 」
修羅が満面の笑みで落とした不穏な言葉は、誰の耳にも届く事はない。
そして次の瞬間 少女の姿が音も発さず忽然と消失し、その場にはただ大の字で天を仰ぐ少年の身体のみが残されたのであった。




