第九話 決戦準備④
なんと、新たなブックマークを頂きました!!
付けて下さった方、誠に有難う御座います。
そしてお礼として本日も連続投稿させて頂きます。
どうか楽しんで頂けると嬉しいです!!!!
「ん? 仕事ってなんだぁ? そういう遊びか??」
突如現れた見知らぬ少女。
それが千賀丸の大人ぶった発言に小首を傾げ、直後まるで振り出しに戻るかの如く遊んでいるのかと尋ねてくる。
「 違うよ、オイラはこの町を守る為に働いてるんだ!! お前みたいな子供のお遊びとはちが…」
「修羅はなッ! 修羅はなッ! いい匂いがしたからちょっと摘まみに来たのだ。修羅は偉いから、子分達よりも少し先に摘まみ食いしても許されるのだーー!!」
どうやら仕事という単語すら知らないらしい少女に、千賀丸がその意味を説明してやろうとする。だが彼女は自分から尋ねた関わらず、その説明に上から声を被せてきた。
天真爛漫極まった幼い言動、それに少年は少しムッとしてしまう。
「修羅って何だよ。良いから邪魔しないでくれ、オイラは今いそが…」
「 修羅は修羅なのだッ!!!! ほら、今お前の目の前に居るではないか。………お前もしかして、目見えんのか? それとも若しかしてッ、お前馬鹿なのか??」
「 ばッ、馬鹿ァッ!? 」
何の前置きもなく突然訳の分からない事を言い出した少女を軽く遇らおうとした千賀丸。
しかしその言葉すらも遮って、手をバタバタと動かし飛び跳ねながら 少女は躊躇なく彼のことを馬鹿だと罵ってきたのである。
そしてその言葉に、千賀丸はとうとう少女と同じ目線に立って言い返してしまう。
「オイラは馬鹿じゃ無いよ!! 目の前に居るって……もしかしてそれお前の名前?」
「そうに決まっておるだろ。何でそんな事わざわざ聞く必要があるのだ?」
「聞かなきゃ分からないだろ!! お前の名前なんて、今初めて会ったのに知ってる訳無い」
「な、何ぃッ!? お前修羅が修羅だって知らないのか!? やっぱり馬鹿なのだ、馬鹿大馬鹿なのだッ!!!!」
「だから馬鹿じゃ無いってば! それを言うなら、お前だってオイラの名前知らないだろッ!!」
「え? ……………………………………うん、修羅知らない。お前誰?」
「それと一緒だよ。オイラの名前は千賀丸、君の名前は修羅、お互い今初めて知ったんだ」
「…………そうか、修羅の名前知らない奴も居るのだな。フフッ、面白いッ!! お前面白いな、修羅気に入った!! キャハハハハハハハハハッ!!」
修羅はまるで、始めてこの世に自分の名前を知らない人間がいると知ったかの様な顔をしてウンウンと頷く。
そして何故かその後上機嫌となり、腹を抱えて笑い始めたのだった。
「 今の話のなにが面白いんだ?」
「面白いじゃろッ。修羅の事を知らない奴がいた、そいつの名は千賀丸!! 千賀丸!! ハハハッ、千賀丸ーッ!!」
「……全く、子供は単純過ぎて逆に分かんねえな」
「千賀丸ーーーッ!!!! キャハハハハ!!」
自分の名を知らぬ者が居たという事実が余程面白かったらしく、修羅は暫く笑いを引きずり続けた。
その姿に千賀丸はヤレヤレと呆れた仕草を作る。がしかし同時に、こんなに屈託なく笑える人に出会ったのは久しぶりで 少年は僅かに少女へ対して心を開いたのであった。
「 そんな事より、いい匂いがしたから摘まみに来たって…お前コレが欲しいんだろ? ほら、やるよ」
千賀丸は笑いが一段落したのを見計らって、番重に入れていた照姫の団子一串を摘み 少女へと手渡してあげた。
するとそれを受け取った修羅は顔をキョトンとさせ、まるで玩具を貰ったかの様にそのみたらしの光沢が上から下へと垂れてゆくのを眺め始める。
「なんじゃ、これ?」
「えッ、お前もしかして団子も知らねえのか!?」
「だんこ、 これはだんこというのか」
「だんこじゃなくて団子ッ!! ほんとに知らねえんだな……」
「だんこッ! だんこッ! だんこーッ!」
「違う団子だってば!! 良いか団子っつうのはなあ……いやッ 食いもんを言葉で説明するのは野暮か。とにかく、食べてみろって」
「うぇ、これ食べてもいいのか?」
「皆にタダで配ってる物なんだから料金なんて取らねえよ。ほら、食べてみなって」
蜜が垂れて手に絡まってゆくのも気にせず、興奮に頬を紅潮させながら串へ向かって名前を呼び続けていた修羅。
しかし千賀丸に食べてみろよと促されて、彼女は急にその子供ながらやけに整った顔を緊張させ始める。
そして少し間を置き、 思い切って一口にその未知の食材を頬張った。
「 ハムゥッ!!!! ………………グムッ……グムッ……グムッ……グムッ……」
「如何だ? 美味いだろッ」
「うむむむむ……あんま美味しくなぁい。口の中でクニャクニャしてて、気持ち悪いぞ」
「えッ、本気で言ってんのかよ!?!? そのクニャクニャしてんのか良いんじゃねえか。この世に団子が苦手な奴なんて居るんだな」
修羅はどうやら団子の柔らかいのに歯応えがある食感が苦手だったらしく、顔を顰めながら咀嚼した。
しかしそれでも貰い物を残す気はさらさら無いようで、串に刺さっていた全ての団子を良く噛んだ末にゴクリッと呑み込む。
そうして口の中が空っぽに成ったのをわざわざ見せ付けてきた彼女は、千賀丸へと再び能天気にこう言ったのであった。
「あんまり美味しくないけど、そのせいで腹減りが無くなったぞ! なあ千賀丸、遊ぼうッ 遊ぼうッ !!!!」
「まだそんな事言ってんのかよ。オイラはお前と違って忙しいんだ。今ので団子は配り終えたから、次は補強に使う木材を壁まで運ぶっていう仕事をしなくちゃならねえ」
「じゃあ、その仕事って遊びを修羅もするッ!!」
「だから仕事は遊びじゃねえって! ……分かったよ、お前も暇なんなら仕事ちょっと分けてやる。待ってろ、今木材運ぶようの荷車取ってくるから」
自分が今から行おうとしてる町を守る為の崇高なる行為を遊びと一緒にされ、再び訂正を試みる千賀丸。
しかし目前に浮かぶ修羅の何も考えていなさそうな笑顔を見て説明するのも馬鹿馬鹿しくなり、彼女の望み通り一緒に仕事を熟すことを決めた。
そして千賀丸は雷峰らが作業している壁の近くに置かれた荷車を手に取り、再び修羅の元へと戻ってくる。
「少し離れた所に町中の木材が集まってる広場があるから、其処からこれに乗せて木材を運んでこよう。そうしたら大人達が壁の補強に使ってくれる筈だ。 分かったか修羅?」
「 うん、分かったのだ千賀丸!! 」
「…………」
絶対に分かってないだろうなという笑顔を、修羅は浮かべている。
だが此処までの会話で無理に分からせようとしても無駄だとは学習済み。故に無駄な抵抗をやめた少年と少女は、目的の広場へ向けてとにかく出発する事としたのであった。




