第六話 地獄大横綱 雷峰④
〜キャラステータス〜
【名前】 雷峰
【累計獄門衆殺害数】 28人
【使用武器】 なし
【合計死亡回数】 2度
【保有している業】
『立死縄内』→己の肉体を現在立っている地点に固定する能力。発動中は敵の自身も髪の毛一本すら動かす事は出来なくなる。
『神之依代』→どれだけの大怪我を負おうとも瀕死状態で留まる能力。発動時間は最大三十分間。
【スペック】
力:92 技:67 体:95 心:65 知:50 術:0
計369
………………………………………ッドカア″ア″ア″ア″″ア″″ン″″″!!!!
突如 民家の壁を凄まじい勢いで突き破り、血と塵に塗れた物体が轟音と共に飛び出してきた。
その使い古した雑巾の様な外見と成った人間の名は雅。敵の巨砲が如き右腕から繰り出された突っ張りが直撃し、此処まで吹き飛ばされてきたのである。
しかもその吹き飛び方が尋常ではなく、軌道上に存在していた凡ゆる障害物を身一つで貫通し、最終的に民家四軒へと風穴を開け 幾らか地面を転がった果てに漸く今停止したのだ。
地獄の大横綱の、恐るべき怪力。
その理不尽極まる膂力をモロに受けてしまった雅の身体は沈黙、ピクリとも動かない。
「…………………………………………………………………………………………ッ ゲ″″ホ″ォ!! ゴホッゴホッ………ア、ァ…ゲエェェッ」
しかし 突き抜けていった巨大なエネルギーに呼吸さえ出来ぬほど萎縮しきっていた身体が、奇跡的に一つの咳を境として、詰まっていた物が抜けた様に呼吸を再開した。
そして意識を取り戻した雅は 同時に凄まじ息苦しさも覚え貪るように息を吸う。
だが、漸く呼吸が出来たかと思うと、その息の後を追って喉を血が駆け登ってきたのだ。
攻撃が直撃したのは頭部。にも関わらず、どうやらその余波と吹き飛ばされる過程の衝撃だけで 内臓が傷付いたらしい。
「 ハハッ…如何ってこと無いわ、吐血程度…。まだ 生きとる…それだけて儲けもんじゃ」
雅は四つん這いのまま頭へと手をやる。
そして触れた自らの頭蓋骨がまだ原型を保っていた事を受けニヤリと笑い、そう譫言の如く呟いたのであった。
脳への被害は、三重に成った視界と殺人的な頭痛・吐き気・眩暈。それへ更に吐血と息苦しさ加えたとしても、 彼にとっては十二分に軽傷の範囲内であったのだ。
まだ刀が振れる、それならば何も問題は無い。
がしかしそれでも、あと一,二発貰えば命は無いだろうな。という事をまるで他人の話が如く乱れたまま収まらぬしん
……ッド″″ ガ″ア″ア″ア″″ン″″″!!!!!!!!
「ッどすこおおおおおおい!!!!!!」
唐突に、殺し合い再開のゴングが鳴り響いた。
雅の身体が貫き空けた民家の風穴、の隣を突き破り更なる穴を開けつつ 小山の如き巨体が飛び出してきたのだ。
雷峰による間髪入れぬ電撃急襲である。
どうやら奴には降伏勧告を行う気も、命乞いに耳を貸す気も無いらしい。突っ張りのダメージが少しでも多く残っている内にトドメを刺しに来た。
そしてその思惑通り、依然甚大なダメージに縛られている雅は 素早く身体を起こす事が出来ない。
雷峰は勢いそのままに、まるで虫螻を相手にするがごとく雅の頭を踏み潰しに掛かった。
………ズドォ″!!!!
「ぐ″ッ!」
しかし、 足の裏に違和感。と殆ど同時に彼の背中へ鋭い衝撃が走ったのだ。
雷峰はその太い首を即座動かし、背後を振り返る。すると其処には、一瞬で背後へと回り込み敵の巨大な背中へと短刀突き刺した 雅の姿が。
此処でも雅の命を救ったのは業『死不別互』。
保険を用意しておいたのだ。彼は雷峰の突っ張りを受けて地面を転がる中、懐から短刀を取り出し 民家へと突っ込んだタイミングで手放していたのである。
そしてダメージが甚大で動けない演技をし、敵をギリギリまで引き付け、 瞬間移動。
電光石火に背後を取って短刀を突き立てたのであった。
「………ゲホッ。 ク、ソ……何故 刃が通らん」
だが、その戦術的に二枚も三枚も上回ってみせた努力虚しく、 短刀は敵の背中の薄皮一枚を貫くのが精々であった。
唯でさえ鋼の強度を誇る雷峰の肉体。それに軽質量の短刀、攻撃を喰らった蓄積ダメージという負の要素を背負いつつぶつかって 致命傷を与えられる筈が無かったのである。
ズウォオオ″ン″″ッ!!
背後から受けた不意の一撃。それへ雷峰は即座に裏拳を放って蚊を振り払わんとする。
例え何が起ころうとも敵の攻撃が自らの命へと届くことは無い、そんな余裕で満ちた豪快な動きだ。
そして、その裏拳が何も捉えず空を切ろうとも、最早力士は驚く事すらしない。
(……短刀じゃ話にならんッ。こうなれば、奴が死ぬまで太刀を叩き込み続けてやるわ″!!)
反撃を予期していた雅は、敵が僅かに予備動作を見せた瞬間 再び業を発動し距離を離す。
今度は先程地面へ伏し動けぬフリをしていた際に手放していた刀の元。そこへと戻った剣士は往生際悪く、己の本得物を引っ掴み 更に敵の背後より斬り掛かったのである。
刃が通らなければ撲殺だろうが何だろうが構わない。兎にも角にも、敵が死ぬまで得物を振り回し続けるまで。
ガ″ ギ″ィ″イ″″ン″″″ッ!!!!!!!!!!
「 フッ」
「ッ″!?!?」
しかし雷峰側もそう幾度となく背後を取らせはしない。殺気感じ取り素早く振り返って、なんと振り下ろされた刃を握り拳にて受け止めて見せたのである。
まるで金属同士がかち合ったかの如き音と閃光、それを散らし拳と刀が弾き合う。
「…………ッ″ ア″″ア″″ア″″ア″″ア″″ア″″!!!!」
斬撃が握り拳に止められる。その有り得て良い筈のない光景に、雅は弾かれた得物ごと闘志まで飛んでしまわぬよう 腹の奥底から叫び声を上げた。
そして徒手空拳の相手に対し余りにも頼りなく感じる刀を今一度強くを握り直し、重心残さず 一蹴りに前方へと斬り込んだ。
ガギン″ッ!!!! ガンッ! キィンッ!! ズウォ、スウォッ キン″、ガ″ッ ガアン″!!!! ッギ″ィ″イ″ン″″!!!!!!
雅が宙に引く白銀の剣閃。それに雷峰は無骨な拳骨の一振りにて迎え撃ち その悉くを叩き落としてみせた。
拳と刃が幾度となく衝突 一拍ごと暗中に眩く火花が咲き、そして散り消える。
恐らくこの地獄の底以外では見られぬ摩訶不思議な光景。それが両雄の間 正真正銘命の削り合いとして繰り広げられたのである。
「 少し、場を乱そうか」
ッガ″″…ダン!!!!!!!
だが、その緊迫した削り合いの最中で束の間生まれた均衡を、その男はいとも容易く崩壊させた。
横薙ぎに振るわれた刀 それを拳でかち上げる。そして一瞬前方に開いたスペースへと、雷峰は額を突き出し躊躇なく飛び込んできたのだ。
それはこの戦いへ火蓋落とした最初の遣り取りを模す、余りにも露骨な挑発。
奴が己の石頭に絶大な自信を持っている事は既に知っている。真剣勝負の最中、刃を弾くほど硬いと分かっている場所を態々斬るほど馬鹿な事はない。
(見え透いた挑発を……良いだろう、乗ってやる″ッ)
がしかし、この様な場合において、 雅は所謂馬鹿に分類される部類の男であった。
売られた喧嘩は買うぞと言わんばかりに、腹の奥底 魂へと力を込める。
………・・・ ・ ・ ・ ・
業『天地孤独』を発動。意識が時の流れから引き剥がされ、何もかもが止まったモノクロの世界が視界一杯に広がる。
そして一瞬先へと作るは唯一つの動作。
ご親切にも上方向へと弾かれた刀。それを大上段にまで振り上げ、この肉体が生み出せる最大威力・最大精度によって振り下ろし 敵の眉間を叩き割るのだ。
もう言い訳は効かない。これより放たれるは業の力によって己の潜在能力一滴残らずを絞り尽くした、正真正銘最強の一撃である。
一瞬先の未来には、確定した勝利か敗北以外待ってはいない。
業を解除。
時は再び動き出し、雅とその刀は残像に溶ける。
・ ・ ・ ・ ・・・…………………………ッガ″″″ ギ″イ″ィ″ィ″ィ″″ン″″″″!!!!!!!!!!!!!!!!
鼓膜を引っ掻く甲高い音。
辺りの闇を一瞬払い飛ばす閃光。
全身を包み込んだ息も詰まる熱気。
互いの身体を、落雷が通り過ぎたかの如き衝撃が、貫いていった。
「お前、女みてえな面の割に随分と真っ直ぐな野郎だな。敵ながら、天晴れだぜ」
力士は敵に対する最大限の賛辞を述べる。その声にはどこか 晴れ晴れとした歯切れの良さが纏われていて、嫌味の類は一切感じ取れない。
「…………」
一方剣士は、何も喋らない。
敵への賛辞も、罵倒も、称賛も、恨み言も。自らへの絶賛も、叱咤も、愉悦も、絶望も。
余りの悔しさ故に奥歯を食い縛るので忙しく、とても言葉を発する余裕など無かったのである。
何故なら、雅の繰り出した最強の一撃は、雷峰の額に擦り傷一つすら残せず 再び受け止められてしまったのだから。
ド″ゴ″ゥッ!!!!
「ガ″ッ…ハ″″!!!!」
直後、雷峰が動いたと同時に雅の口から濁音と血が吐き出された。
まるで一繋がりの流れが如く洗練された動作で放たれた膝蹴り。それが完全に雅の腹部へと入り、内臓が押し潰される感触に彼の身体はくの字へと折れる。
「正々堂々と戦った戦士には敬意を表す。…今楽にしてやろう」
そしてその一撃により、敵の全身が麻痺したかの如く再び硬直したのを認め、雷峰はこの戦いの決まり手を作り始める。
全身の筋繊維隈なくの力みを取り去りつつ、右腕をピンと伸ばし、雷峰は宛らゼンマイ巻くかの如くに上半身へと捻りを加えた。
そして背中の半分が前方の敵から見える程に捻られた所で足・腰・胸の順に全身で回転運動を起こし、最も外周に位置する右腕へと体軸の数倍にも及ぶ速度を纏わせてゆく。更にその只中で右腕の付け根より徐々に徐々にと力が込められてゆき、まるで流水の如く韌であった腕が鋼の硬さ秘めた凶器へと変貌させられてゆく。
そうして横薙ぎに振るわれた右腕。それが敵の顔面を捉えた瞬間 遂に力が中指の先まで到達。
雷峰の全身が生み出したエネルギーが、 その掌の内にて爆発した。
ッ″″″″″″″″″″″″″″″″″・・・・・・・・・・・・・・・・・
残像尾に引く巨大な力の塊との衝突。
その一瞬に雅は今まで体験した事の無い大爆音を聞き、直後耳を針で突かれた様な激痛と共に 世界の音がなにも聞こえなく成る。
余りの衝撃で、耳の奥の鼓膜が破裂したのだ。
しかし当の本人がそうと知る前に、雅の意識は身体との繋がりをプツリと切断され、深い暗闇の中へと落ちていったのである。
「…………まだ息あんのか。ヘッ、とんだ化物がいたもんだ」
自らの攻撃をモロに受けて吹き飛び 数秒間にもわたる空中浮遊を経てようやく地上に落ちて来たその肉体に、雷峰はノシリッノシリッと歩み寄る。
そして顔が血塗れで白目剥き 小さく痙攣する男。その僅かに開かれた口より息が漏れるのを聞いて、彼は畏怖混じりの苦笑いを浮べたのであった。
今放ったのは、彼が力士として培ってきた全技術を乗せた一撃。人は勿論、熊だろうが獄卒だろうが 当たれば確実に頭蓋骨を粉砕し殺しててきた伝家の宝刀。
しかし、その確実を最後に真正面から否定してみせた健闘を称え、雷峰は滅多行なわぬ相手への合掌を作ったのだ。
「お前はよく戦った。早く蘇ってオレを殺しに来い」
スゥッ
そして胸中で念仏唱え終えた彼は、文字通り息の根を止めるため 雅の首の真上に右足を浮べる。
この足を踏み抜けば その瞬間首はポキリと小枝が如く折れ、確実に敵は絶命するであろう。
「…………」
この雷峰という男は獄門衆には珍しく善悪の判別がハッキリとしている人間だ。そして同時に、悪だと分かった上でも殺人を行える立派な狂人でもある。
彼は現世に居た時分からもう数え切れぬ程の人間を、自分勝手なある目的の為だけに殺めてきた。
もう引き返せないのである。ここで相手に情けを掛けてしまえば、その瞬間殺した人間と見逃した人間の命の間に優劣が付いてしまうから。
正々堂々と戦った相手は皆平等に敬意をもって殺し、全ての罪を背負ってでもこの世界で戦い続ける。
それが地獄の大横綱にたった一つだけ許された贖罪。
ド″″ス″ゥンッ!!!!!!
雷峰の右足が、 雅の首へと落ちる音が響いた。
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