第六話 地獄大横綱 雷峰③
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「「………………………」」
中腰で地面に拳を突く 仕切り の姿勢となり下から睨め上げる自らの視線、それを冷やかに睨み返す細面の剣士を見て、雷峰は此奴も力士かと内心心躍らせた。
雅と雷峰は時を待っているのだ。
己の集中が最高潮に達する瞬間 ではない。互いの集中が共に最高潮へと到達し、息がピタリと重なった立ち合い刹那を彼らは待ち望んでいる。
(…二人で一緒に作ろうじゃねえか、最高の殺し合いッ!!)
それは両者が唯勝利する事だけを目的とした下賤な戦士ではないという事の証明。
彼らは求めている。己が最高の力を発揮する事と同じほどに、敵が最高の力を発揮せん事を。
敵の玉に己の玉を真正面からぶつけ、その上で打ち砕き、より一層の輝き得んと欲しているのだ。
この強者を求め、しかしその上で己の勝利を僅かすら疑わぬ不遜な精神性こそ、雅と雷峰をこの夜の中で生き残らせた他の獄門衆との違いであった。
「「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………ッア″″ア″″!!!!」」
ダァン″″″!!
そして、互いの呼吸がピタリと重なる瞬間、それは唐突に訪れた。
両者がまるで見えない何かで繋がっているかの様に同時に吠え、地を蹴り抜いたのだ。結果、雅と雷峰は互いに互いを引っ張り上げるが如く 己が本来有している以上の力をこの一瞬に発揮し突進する。
雅が放ったのは その突進に腕の振りと全体重を乗せた初撃必殺を体で現す上段斬り。
対し なんと雷峰は、その振り下ろされ迫る斬撃を前にし宛ら槍の如く己が頭頂を前へと突き出すぶちかましにて迎え撃ったのだった。
このままいけば、雷峰は人間最大の急所をみすみす敵の凶刃にくれてやる事となる。しかしにも関わず この力士は一切重心を後ろに残すこと無く、僅かすら速度緩めぬまま全身を投げ出すようにして突っ込んできたのだ。
そして当然、こと殺し合いに関して雅が手心を加える筈がない。
ズウォオ″ン″!!!!……………………………………………
雅はその差し出された急所へと、躊躇なく刃を叩き込んだ。
そして、 その得物より伝わってきた感触により、 男は勝利を確信する笑みを口端へと浮かべたのである。
このたった一瞬の遣り取り、それだけでこの夜の勝敗が決してしまったのだ。
………………ガ″ッ ギィ″イ″イ″″イ″″ン″″″!!!!!!!!
敵の刃は、己の鍛え抜かれた鋼の肉体その奥に隠された命へと届くことは無い。
そうと分かった雷峰は、決着を待たずして脳内の星取表に新たな白丸を書き加えたのであった。
「……ッ″!?!?」
対照的に、まさか剥き出しの頭で斬撃を弾き返されるとは思ってもみなかった雅は 一転その表情を硬直させたのである。
まるで鉄の塊へでも斬り付けたかの如き衝撃。それに刀は両腕の痺れと火花を残して手中を離れ、薄い月明を照り返しつつ後方へと飛んでいったのだ。
斬撃が通じない。得物を手から弾き出された。そしてその有り得ない光景を作ってみせた化け物が 今正に目と鼻の先でお返しの一撃を振り被ってゆく。
絶体絶命の状況、それを前に今夜一度たりとも陰ることが無かった雅の余裕が、遂に途切れる。
「さあッ、次はこっちの番だな! 気張れよ侍″ィ″″!!」
そして、そんな絶好の隙晒した敵を力士は猛然と仕留めに掛かった。
さながら大木の幹が如き右腕。それが未だ己の剣技通じぬ衝撃より立ち直れない雅の前で豪快に引き絞られてゆき、さながら剛弓の弦弾けるよう 横殴りに振り払われた。
ッ ブ″ウォオ″オ″オ″″ン″″″!!!!!!!!!!!!!!!!
大気切り裂く轟音唸らせ、力士の右腕は狙い違わず標的へと吸い込まれた。
剣士の細首など容易くへし折ってしまう、一撃必殺 鎧袖一触の大技である。
「いいや。お前に番は回ってこんよ」
だが、その面を次に驚愕で埋める事と成ったのは、何と攻撃放った雷峰の方であった。
標的を捉えたと思ったその瞬間、 敵の姿が忽然と視界から消えたのだ。
そして同時に、彼の腕同様木の幹がごとき太さの首へと、敵の手より弾き出された筈の刀が何故か横方向より抉り込んできたのである。
……………………………………………ズウォ″オ″ッ
雅が敵の頭の尋常でない硬さに面食らったのは事実であり、手から刀が弾き出されたのはその驚愕によって生まれた事故。
其処は、 間違いない。
(まさかこの男、敢えて刀を手放し油断を誘ったのか…ッ!?)
がしかし、雷峰がその全てにおいてこの剣士は計算ずくだったのだと誤解した原因は、まるで脳が二つ別個に付いているかの如き激情と冷静が両立する雅の奇妙な人格故であった。
丸腰にさせられ 敵の一撃迫るという状況。そこにおいて彼は脊髄反射の領域で己が勝つために必要な最適解を選び、即座機械の如く行動へと移したのである。
業『死不別互』により、背後へ弾き飛ばされていた刀へと瞬間移動。それによって敵の攻撃を紙一重で空振りに終わらせ、再び手中へと戻った得物の刃を敵に向ける。
そして間髪入れず 一蹴りに標的を己が間合いへと入れ、敵首目掛け斬撃を振り抜いた。
(駄目だ、躱しきれん…ッ!!!!)
刹那の内に痛感させられた殺人経験値の差。それに雷峰は、白旗を上げるような顔と成ったのである。
人殺しとしての格が違う。まるで腕一本指一本髪一本、いや細胞一つ一つに至るまで戦いの為に作られているが如き人外的な戦闘能力。
ッバ″ ズゥ″ウ″″ン″″″!!!!!!!!!!!!
雷峰は慌てて上体を仰け反らせ敵が振り抜いてくるその斬撃を躱そうとする。
がしかし、 幾ら体格の割には素早いと言っても、勝負を決めに来た雅の神域に片足踏み込む一振りを後出しで避けられる訳が無かった。
白銀の剣閃は美しい円弧描き首へと吸い込まれ、それから僅かに遅れて 真っ赤な血飛沫が舞ったのである。
そして、 その瞬間を区切りとし、 その男は目を見開いたまま動かなく成ってしまったのであった。
「……………………………こりゃあ、見事にしてやられたぜ。 武道の試合ならアンタの一本、腕比べも知恵比べもそっちの勝ちだ。 だが、勝負に負けて殺し合いに勝つとは、正しくこの事だなッ」
「 なん、だとッ″ ?」
自らの殺す気で振り抜いた刃が、一度ならず二度までも唯の人体に止められた。それも分厚い頭蓋骨にではなく 美しい軌跡描いて首へと入った一撃がだ。
その事実が呑み込めない雅へ向け、雷峰はまるで此方が負けたかの如くそう宣ったのである。
剣士が横薙ぎに叩き込んだ斬撃は、刀身半分を雷峰の首へと抉り込ませた所で ピタリと停止していた。
僅かに一筋血が垂れる傷口周辺は隆起し刀を咥え込んでおり、そもそもの岩石のような肉体強度へ加え 筋肉の万力が如き圧力が刃を止めている事を暗示していたのだ。
それは言うなれば、これまで二人の間で繰り広げられてきた駆け引き全てを、否定するかの如き光景。
「………………」
己の生涯捧げ鍛え上げてきた剣が、 通用しない。
そう無言で見せ付けてくる目前の光景が受け入れられぬ雅。その見開かれた細面へ向け、雷峰の巨砲が如き右腕が静かに振り上げられてゆく。
…………ド″ッガ″″ア″ア″″ア″″″ン″″″″″!! ! ! !!!!!!!!!!!!
そして放たれた殺人的な威力秘める突っ張り。それが紙切れ一枚さえその間に挟まること無く、 直撃。
その瞬間 雅の身体が彼ら二人の戦っていた通りより煙の如く消失する。
と同時に 右隣へ存在していた複数軒の民家を貫く 一つの大穴が、灰川町の街並みへ忽然と出現したのであった。
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