第六話 地獄大横綱 雷峰②
昨夜またも星5評価を頂けましたので、明日も新エピソード投稿します!!
評価して下さった方、誠に有難う御座いました。
「あ、あんたッ確か……雷峰ッ!?」
その思いもせず命を救ってくれた大男の名を、千賀丸は上手く回らない舌を何とか動かして呼んだ。
するとその声で初めて彼の存在に気付いたらしく、地獄の大横綱は足元に尻餅を突く小さな影に驚きの表情を向ける。
「 うおッ、何でこんな所に子供がおるんだ!? オレの四股名を知ってるって事はぁ…昼の興行を見に来てくれた子かい?」
「うん、オイラ千賀丸ってんだ。助けてくれてありがとう、アンタやっぱり強えんだな!」
「止してくれ。別に助けようと思って助けた訳じゃねえんだから。ま、子供に褒めて貰えるってのはこれ程力士冥利に尽き事はないけどな! ガッハッハッハッハアッ!!」
千賀丸が命を救われた礼を述べると、雷峰は恩を着せる気も無いようで神社で聞いたのと全く同じ豪快な笑いを飛ばす。
それが、つい先程まで老婆の狂気に晒されていた少年にとって何よりの精神安定剤となったのだ。全身に立っていた鳥肌が静かに収まってゆくのを感じる。
そうして一頻り豪快に笑った後、雷峰は急に真面目な顔となって千賀丸に言った。
「ってんな事より千賀丸! お前さんこんな夜中に出歩いてたら危ねえじゃねえか。日が沈んだら子供は父ちゃんと母ちゃんの所帰って寝る、じゃなきゃデカく成れねえぞ」
彼が口にしたのは、夜道でたった一人歩いてる子供を見掛けた大人として当たり前の事。
だが此処は無間地獄。当たり前が異常に裏返るこの場所で聞いた余りに真っ当な発言に 千賀丸は返って驚かされたのである。
「オレがガキの頃なんてなー、飯食うのと相撲取るの以外殆どの時間鼾掻いて寝てたもんだ。飯食ってすぐ寝ると牛に成るというがアレは間違いだな、飯食ってすぐ寝ると力士になれッ」
「父ちゃんも母ちゃんもこの世界には居ねえ。 オイラ、こう見えてもアンタと同じ獄門衆なんだ」
がしかしそんな中、なんと千賀丸は自ら自分が獄門衆であると明かしたのだ。
それはこの夜において他に無いレベルの危険行為。こんな何の力も無い子供が獄門衆だと大っぴらに明かすなど、どうぞご自由の貴方の経の一節にしてくださいと言っている様な物である。
「………………………は? ご、 獄門衆″ッ!?!? こんな小さい子供がまさか冗談ッ で言う事じゃねえよな……」
だが目の前の少年が獄門衆だと知った雷峰は、そんな事など思いもしないという様に言葉を失う。
そして有り得ないと首を横に振ろうとするも、こんな嘘を付く理由が無いと思い至ってその顔を居た堪れない表情で埋めた。
それは間違いなく、心の底から少年の身の上に同情してくれている顔であったのだ。
「……………………」
「……………………」
雷峰はなにか良い言葉を探そうとする。がしかし結局掛ける言葉が何も見付からず、ただ重苦しい沈黙だねが二人の間を暫し流れた。
「 ッ」
だが、 その無意識に下がっていた雷峰の顔が突如 跳ね上がった。更に彼のガラス玉の如く大きな眼球は、千賀丸の来た方向を見据えてぴたりと止まる。
そして表情を僅かに明るくした力士は、その大きな手で少年の頭を二度優しく叩きつつ、こう語り掛けたのであった。
「お前さんが何の因果で地獄に落ちてきたかは聞かねえ……だがともかく、この夜を良く生き残ったな。もう大丈夫だ」
「え? もう大丈夫って、どういう意味??」
「ちょうど今、一人獄門衆が死んだ。これで後この町に残っている殺気はオレとアレの二つだけ。お互い決着を望んでいる様だし、お前さんにちょっかい出してくる輩はもうおらんだろう。今からオレが向う方向へだけ近付かぬようにして、朝を待ちなさい」
「残っている殺気は、二つ だけ…………それってまさか″ッ!!」
雷峰の発した意味深な言葉に小首を傾げた千賀丸。
しかし暫し考えて、少年はその意味する所が 彼をこれまで助けてくれた二人の恩人同士が殺し合いをするという事だと思い至ったのだ。
ダ″ァンッ!!!! ……………………………………………
だが、彼がそれに気付き慌てて止めようとした時にはもう既に手遅れ。
雷峰は地を蹴って天高く跳び上がり、家屋の屋根へと登る。そしてこの夜の内ただ一つ残った殺気へ向け 一直線に走り出してしまったのであった。
傾斜のある屋根の上をまるで平坦な地面であるかの如く駆け抜け、家三軒は並ぼうかという通りも一跳び軽々と超え、 視界の内ビュンビュンと夜の闇が後方へと吹き飛んでゆく。
相撲取りの巨体に似合わぬ、まるで人の形をした砲弾のような凄まじいスピード。
………………………………ッズ ダ″ア″ン″″″!!!!!!!!!!
そして あっという間にその殺気と殺気を隔てていた距離は消え失せ、最後に一際大きく跳び上がった雷峰は、堂々と敵の真正面へ土煙と共に降り立った。
「 よう、お前さん中々強いらしいな。遠く離れた場所でも気配をビンビンに感じてたぜッ」
「ほう…そちらも感じておったか。まあお前も、多少は期待できそうじゃなッ。この無間地獄で目に光が残っておる奴は、総じて厄介と相場が決まっておる」
屋根の上から降ってきた大男に、雅は驚きもせず刀を構える。
そして切っ先の冷光を唯一点に向けられた雷峰はニヤリと笑い、四股を一つ踏んで己の構えを作った。
この夜に起こった数無数の殺し合い。その中を数多殺して生き残った両雄が遂に向かい合う。
そして月沈み日登る前に今夜の勝者を決めようと、二人の男は名も聞かず 決戦の火蓋を切って落としたのであった。
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