第五話 月夜のバトルロイヤル
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遂に、夜が始まった。
陽光は遠く水平線の果てにまで落ちきり、寂れた街並みは暗く冷たい闇に呑まれゆき、力無き者共は皆己の巣穴へと逃げ込んだ。
そうして人の血に飢えたケダモノ達が目を覚ます。足の枷を噛み千切り、待ち侘びた月と自由に遠吠える。
遂に、夜が始まった。
「旦那、起きてくれ旦那。日が落ちたぜ」
「…………………………………ッ″!!」
昼間に言われていた通り、夜に成ったので旦那を起こした千賀丸。
しかし、起こされた雅は目が開いた瞬間 枕元に立つ気配に身体が脊髄のみで反応。近くに置いていた刀を引っ掴んでそれを斬り捨てようと動く。
「うおっとッ!?!?」
ブォンッ″″……
しかしギリギリで刀を手から遠ざけたおかげで、今回も見えない刃に斬られるのみで済んだ。だがあと少し反応が遅れていれば真二つに成っていた所である。
千賀丸はヘソ上に感じた死の気配に腰が抜け、ヘナヘナと座り込んだ。
「あ、危ねぇ~……。もうッ、旦那いい加減慣れてくれよ!! この先起こす度こんな目遭ってたら命が幾つあっても足んねえぜ!」
「…………ん? なんじゃお前、 誰じゃぁ?」
「千賀丸だよッ!! 旦那が日が落ちたら起こせってオイラに言ったんだろ!!」
「…………ああ、そんな気もする。もう夜に成ったのか」
「人を斬り殺しかけておいてゴメンの一言も無しかよ……まあ良いや。で、こんな夜に起きて今から何するんだ旦那?」
「あ? 決まっておるじゃろうが。獄門衆を斬りにいく」
千賀丸の命を掛けた苦情でようやく意識が本格的に覚醒した雅。彼は乱れた着物を直しながら、未だ寝ぼけ抜けきらぬ声で当然の如くそう言った。
しかしその当然に、千賀丸は顔を困惑で埋める。
「き、斬りに行くってッ、まさか未だこの街で殺し合いするの諦めて無かったのか!? 翁のじいさんが言ってただろ、この町じゃ殺し合いは禁止だって」
「日中は という話だったじゃろうが。夜に成れば話は別、通り歩いとる人間をどれだけ斬り殺そうとも邪魔だてされる事ははない。あのジジイもその意図をもってワシに話しかけて来た筈じゃ」
「夜に成れば話は別……………………そうか、だから翁はやたら夜になる前にオイラを帰そうとしてたのか」
その雅の発言で、千賀丸は点が線で繋がった様な気分に成った。
「 まあ、あのジジイを叩き斬って日中から始めても良かったが、雑魚を幾ら斬った所で得る物はないからの。今なら出歩いておるのは腕に覚えがある獄門衆のみに成る。寝て待つだけの意味はあった」
「はぁ、旦那は本当に殺し合いが好きだねぇ。そんなに楽しいかい?」
「ああ、楽しいのう。じゃからガキ、お前も外に出て協力しろ」
「………………ッえ″″、オイラも?!」
刀を鞘から抜きその刃に毀れが無いかを確認しながらニヤニヤしていた雅が、突如千賀丸へと話を振った。
そしてその内容に、今日はもう布団の中へ入り寝ようと思っていた少年は目をギョッと見開く。
「外へ出てって、獄門衆と戦えって事かッ? そんなの無理だぜ! だってオイラ、滅茶苦茶弱いんだもん!!!!」
「んな事をデカい声で言うな。…お前は撒き餌じゃ、獄門衆を引き寄せるためのな。町をブラブラ歩いておればお前のような楽に首が取れそうなガキには勝手に獲物が寄ってくるじゃろ」
「寄ってきちゃ駄目だよぉ! 死ねって事か、殺されろって言いたいのかッ! この血も涙もない人殺し!!」
「そうじゃが」
「あ、そうだった……」
「 良いかガキ、お前は獄門衆に出会ったらそのまま何とかしてワシの元まで走って来い。そうすれば釣れた魚をワシが斬り殺して守ってやるわい」
「行くぞ小僧」
「な、何とかしてってそんな…ッ!? うわあ″あ″あ″あ″あ″!!!!」
自分の圧倒的な非力さを叫ぶ千賀丸の言葉にまるで耳を貸さず、雅は彼の小さな体をヒョイと抱える。そして長屋の一室借りた宿を出て、白刃がごとき冷気充満する外界へと飛び出した。
周囲はもう既に死の気配が立ち込めている。唯立っているだけで心臓が跳ね回り始めるという有様だ。
そして其処で、 まるで二人を待っていたかの如く、 ケダモノ共を目覚めさせる夜の鶏鳴が響いたのである。
……ギ″ィ ヤ″″ア″″ア″″ア″″ア″″″ア″″″!!!!!!!!!!!!
戦いの火蓋を斬って落とす最初の断末魔。それが景気よく夜空へと放たれた。
日が昇るか 全ての参加者が死ぬまで終わらない灰河町バトルロワイヤル、 開幕である。
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