決裁のタイムキーパー梅ちゃんと開発部のエース才川さん
「才川さん!今日までに提出しないと間に合わない決済が3つあるんです。今!すぐ!領収書と名前下さい」
地方の大手食品メーカーの廊下にて鋭い声がくうきをさいた。
ツリ目に真っ赤な口紅をつけたサイドボブの小柄な女性 梅小路 奏は自分より10cmも背の高い才川 裕二の通行を両手を広げて遮り既に記入の終わり名前を書くだけの状態の決裁をそれぞれ3つ仕上げたものをキリッと睨み上げながらずいっと突き出す。
梅小路 奏は入社6年目だが今のきついつり目に赤い口紅のサイドボブの姿しか知らない者は入社5年だと思っている人が多い。
というもの新入社員は希望問わず最初の1年はランダムに部署分けされ経理部に配属された彼女はほぼ全ての部署の必要な決裁を把握し決裁を出さないといけない時期に申請状況を確認 催促することで決裁もれを防いでいた。
しかし入社当時彼女は開発部を希望しており化粧けの無いロングヘアの状態だった。
幼くタレ目な元々の顔と顎から下に伸びるとゆる巻したようなふわっとしたロングヘアからは可愛いくて優しい印象で悪いことに先輩社員にハイハイとあしらわれることが多かった。
それも1年後の人事異動までと思っていたが優秀すぎる他の所は副社長から経理部のままでと直々にお願いされならばと清潔のためにまとめやすいよう伸ばしてきた髪をバッサリと切りツリ目に濃いメイクをしてキリッと怖い印象の見た目に変えたのだ。
対する才川 裕二は梅小路と同期生として入社してすぐ希望と同じ開発部へ決まってから次々とアイディアを出していきヒットメーカーを世に送り出している開発部のエースである。
手足の長い長身に華やかな顔をした軽い喋りでフレンドリーな彼だが仕事大好き人間で自分の企画の決裁などは早い段階で済ませ仕事が早いがそれ以外の申請や決裁はまるっと忘れてしまう。
そのため決裁のタイムキーパー梅ちゃんがその他申請をいつもフォローすることが多くそれぞれの課長が認めた上で才川のものに限り梅小路が名前を書くだけのところまで書類を作成するなど全面的に面倒を見ているのだ。
そんな2人のやり取りはもはや恒例行事となっておりまたか~と笑ったり梅ちゃん頑張れ~と声援を送る者もいる。
キツい印象で怖がられてはいるものの毎度このやり取りのおかげで決裁のタイムキーパー梅ちゃんと呼ばれ初めて会う社員にも梅ちゃんと呼ばれるようになった。
自分でキツイ見た目にしたはいいものの他の部署の社員と馴染めず悩んでいたため梅ちゃんと呼ばれるのをむず痒くも嬉しく思う梅小路だった。