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「ふー。久しぶりにこんなに肉を食べたな」
「私も~……もう無理」
一時間程二人は無心で肉を貪り食った。
けっこう久しぶりだったし、食べ放題ということもあり、かなり食べてしまった。
僕はお腹を擦りながらぐったりとしていた。
しかし。
「さすがにこの量は平凡とは言えないな」
目の前に座る宝条も僕と同じように肉をがっついていた。
多少の野菜も食べてはいたが、彼女の場合ゼリーやフルーツ、ミニケーキといった甘味も食べていたため、総カロリーでは僕とどっこいどっこいだ。
「え? そう? これくらいじゃあ平凡だと思うけど」
宝条はそんな僕の皮肉めいた発言には特に気にした様子もなく、平然とした表情でそんなことを言ってのける。
「……そうなのか?」
僕のリサーチ不足なのだろうか。
いくら女子と言えど、高校生で育ち盛りな世代に性別など関係なく、食べる量に差はないと。
「そうだよ? 私の友達ならもっと食べるもん」
「……むう」
流石の僕もそういった同年代女子の情報には疎い。
普段から一人で行動することが多いし、こんな風に誰かとつるんだりする経験が圧倒的に不足しているからだ。
黙っている僕をじっと見て、何故か宝条は嬉しそうだった。
「ふふっ、さすがの城之内くんもそういう知識は足りないみたいね」
「……ふん。そんなことわからなくても執筆に大きな影響はない」
僕は腕を組み、そっぽを向いた。
馬鹿にされたようで気に入らない。
「ふふ。誘ってくれたら付き合ってあげるのに。」
「はっ?」
僕は思いの外大きな声を出してしまった。
横を向けていた首をぐるんと前へ戻し、宝条の方を向いてしまう。
何というか、こういうのは気にする方が馬鹿なのか。
しばらく宝条を見つめていると、やがて彼女は何かに気づいたように慌てだした。
「あ? いやっ!? ち、違うのっ。言葉のあやだよ? べ、別に変な意味じゃないからっ! ご、ごめん」
そう言いながら最後の方は俯き下を向いてしまう。
そんな彼女に学校でのイメージと少し違うなと思いつつ、僕はため息をついた。
「……何をその程度のことで謝っている?」
「ん? ……だって……さ」
宝条は未だ俯き自嘲気味な息を吐く。
それに何だか僕は胸がもやもやしてしまう。
「別に謝る必要はないと言ってるんだ。僕は本当に宝条美咲のことが嫌いというわけではない」
「っ??」
宝条は僕の言葉にようやく顔を上げた。
でもその弾かれたような仕草と丸くした目が、僕をむず痒くさせるのだ。
「…………」
そのまま沈黙が下り、居心地が悪くなる。
僕は少しイライラしたが、この空気を作ってしまったのは他でもない僕自身だ。
だからその先の言葉を言わねばならないような使命感に駆られたのかもしれない。
「っ……だ、だから……そんな悲しそうな顔をするな」
「っ!!?」
僕も堪らず目を逸らす。
何というか、予想以上に緊張し、一気に顔に熱が込もっていく。
視線を逸らす直前、宝条が驚いたように顔を上げたのが見えた。
きっと今、彼女は意外そうに僕を見ているのだろう。
そう考えるとより一層顔が熱くなる。
正直、言わなければよかった、そんなこと。
「……ぷっ! あはははははっ!」
と思ったら宝条の笑い声が耳朶に響き、僕は何事かと彼女を見てしまう。
彼女はお腹に手を当て、にこやかな笑みを讃えていた。
「なっ、何を笑っているっ」
僕は宝条を睨み付け、恨みがましく彼女に視線を投げつける。
「だって、城之内くんがそんなこと言うなんてっ! すっごく意外すぎてっ……」
尚も苦しそうに笑みを浮かべる宝条を見て、僕の心には羞恥の念が湧き起こる。
「……ち……ちいっ! ……しょうもないことを言うんじゃなかったっ……」
僕はまるで敗北者のような気分で横を向き、舌打ちした。
テーブルの上に置いた拳に自然と力が入る。
そんな折、僕の拳に柔らかなものが触れた。
ぎょっとして顔を上げるとそれはやはり宝条の指で、彼女は優しく僕に微笑みかけていたんだ。
「……城之内くん……ありがと」
「っ!!? ……」
僕は柄にもなく、彼女の微笑みを見た時、胸がよく分からない締め付けに苦しくて息がつまりそうになっていたんだ。