普通じゃない特別
「行ってしまった。セイが手の届かない所に行ってしまった・・・」
「アイアンがなんかブツブツ言ってるけどどうしたんだ?」
とリードに聞いてみる。
「いやな、お前が借金背負った時に俺達は見捨てたろ?あれをずっと悪かったなぁと思ってたんだよ。で、アネモスにいる時は臨時でもいいから組みたいなとか話してたんだ。それが本部直々に特別ランクを付与されるとか、もう俺達と別次元の存在になったから呆けてるんだよ」
「別次元とか言うなよ」
「別次元じゃねーかよ。登録して1年も経たないうちにこんなことあるかよ。お前は普通じゃねーよ」
普通じゃないと言われてズキッとする。悪い意味で言われてるのではないのは理解している。してはいるがお前は俺達と同じじゃないと言われるのは元の世界でも同じだったのだ。
「そうだね・・・。俺は普通じゃないね。アイアン、ごちそうさまでした。俺、約束あるからもう行くわ。ギルマス、ボッケーノにはドラゴン狩りが終わったら顔出すよ。多分5月から6月くらいに。だから騎士団派遣すんなって言っておいて」
セイは皆にバイバイしてその場を去ったのであった。
「ちっ、お前ら余計な事を言いやがってよ」
「な、なんか変な事を言ったか俺?」
「言ってねぇ。言ってねぇがよ。リタ、今晩空いてるか?」
「はい。いつでも空いてます」
「今晩グリンディルと晩飯食いに行くが一緒に来るか?」
「はい勿論っ」
「えっ?リタちゃんいつでも空いてんの?それなら俺と・・・」
「めっちゃ詰まってるから無理です」
他のテーブルからリタを誘った冒険者はメラウスの剣なみに一刀両断にされたのであった。
セイは夜まで特にすることがないのでプラプラと街を歩きながら冒険者証を見る。
普通じゃないか。確かに普通じゃないよなぁ。
「ぬーちゃん、俺って普通じゃないよなぁ?」
「うん。特別っ」
「そうか、俺は特別かぁ」
「うーん♪」
ぬーちゃんに特別と言われて気が軽くなる。普通じゃないと特別は似ているようで異なる。ぬーちゃんの特別という言葉は少し嬉しかった。
「ぬーちゃんも俺にとって特別だよ」
「うーん。とっくべつ とっくべつ♪」
二人でとっくべつ♪と歌いながら歩いていると服屋で冬物セールをやっていたので手袋と帽子を買ってみた。フワフワの可愛い奴だ。ドラゴン狩りに行くのを早めるつもりでいるので空はまだまだ寒いだろうからな。
夜になったので秘密通路の屋敷を尋ねると執事が出迎えてくれて地下の部屋に案内された。
「持ってきてくれたのか」
「これがご依頼の物です」
地下室でこんな事をしていると、まるで闇取引をしている気分だ。
ケースを開けて中を確認する当主。
「妻には言ってないだろうな?」
「言わなくてもバレてると思いますよ。奥さんが何も言わないので協力しましたけど。あと、奥さんにはレームさん用の宝石と貴金属を渡しました。王家のより上等だからまずいかもと悩まれてましたけど」
「これはそれほど価値があるのか?」
「自分にはよくわかりませんけど、鑑定書を見てそうおっしゃってました」
「ウアジェーヌがそう言ってたのか?」
奥さん、ウアジェーヌっていうのか。初めて知ったわ。
「はい」
「そうか。それほどのものなのか・・・」
「どうするかはお任せしますね」
「あぁ。ありがとう。セイ殿への礼は何がいい?」
「当主さんは国でどのような重責を担っておられるんですか?」
「中央の文官の取りまとめだ」
役所みたいなところかな?
「予算策定に関わってます?」
「それもある」
「難しいとはおもいますけど、災害に備えた準備に尽力を頂くようお願いします」
「それはもちろんだ。しかし約束は出来ん。すでに中長期の計画が決定しているからいまからそれを変更していくのはかなり難しいとは思っておいてくれ」
「わかりました。ちなみに強い魔物が出るスピードが想定よりずっと早くなってます。冒険者ギルドには伝えましたが、空飛ぶ強い魔物が出たら災害より先に被害がでますからね」
「空飛ぶ魔物?」
「ハイ。ワイバーンと申しましてボッケーノではもう出てます。ボッケーノは街を襲う前に討伐する仕組みが出来ているみたいなので被害は出てませんがここはそういう仕組みが取れるかどうかわかりませんのでご忠告申し上げておきますね」
「わかった。それも合わせて進言していく」
「では宜しくお願いします」
リーゼロイ家の抜け道の屋敷を出て家に帰るとギルマス、グリンディル、リタが来ていた。
「あれ?どうしたの?」
「ちょっとサカキ達と飲みたくなってな。迷惑だったか?」
「いやぜんぜん。飯は何にする?」
「おうっ、グリンディル来たか。飲むぞ」
「その勝負受けたっ」
サカキ達は早速飲み勝負に入り、飯は砂婆にお任せにした。
ギルマスは飲み勝負に参加しないようでこちらのテーブルで一緒に食うことに。
晩御飯はお好み焼き。豚玉だけでなく海鮮ミックスモダン焼きだ。
「変わった食べ物ですねぇ」
リタもギルマスも初めてみる食べ物だ。
「これはお好み焼きっていうんだよ。それに焼そばが入るとモダン焼きとか呼び方が変わるんだ。地域に寄って呼び方が変わって、それは違うとかもめたりする面白い食べ物だよ」
いま出てきたのは関西圏で一般的なモダン焼きだ。広島のお好み焼きとはまた別物。
「変わったスプーンで食べるんですね?」
「これはコテと言って、こうやって切って食べるもの。これもヘラとか地域によって呼び方が違うんだよ」
へぇと聞きながらリタはピザ切をするが、セイはタテタテヨコヨコで切っていく。
「あ、切り方違いました?」
「好きに切ればいいよ」
「あっづぅぅぅぅぅっ」
ビクッ
「どうしました?」
「あ、いや、ヘスティアがいきなり耳元で叫んだから驚いちゃって」
「熱いなら熱いって言えよっ」
湯気がホコホコ出てるからみたら分かるだろうが。
ウェンディはフォークでちぎって食べる乱暴なパンケーキ食べだ。ヘスティアは俺が切ったのをヒョイパクして口の中を火傷したのだ。摘んだ指は熱くないのに不思議だ。
四角に切ったお好み焼をフーフーして口に運んでやる。ヘスティアは浮いたままセイの後ろから横に顔を出してるのだ。霊に憑かれているのと大差がない。
「お、旨いじゃねーかこれ」
「ていうか自分で食べろ」
「いいじゃねーかよ」
「取り憑かれてるみたいな感じなんだよ。ほら、もう冷めて来てるから一人で食え」
とコテを渡す。
「あっづぅぅぅぅぅっ。冷めてるとか嘘じゃねーかよっ」
よく見ると餅が入ってた。これにやられたのか。結局騙されたと怒るヘスティアを隣に座らせてフーフーして食べさせることになってしまった。
「セイ、もしかしてヘスティア様にフーフーして食べさせてんのか?」
「子供の面倒をみてるような気分だよ」
「誰が子供なんだよっ」
「お前だお前。飯くらい自分で食え」
「貸せっ」
ヘスティアはセイからコテを引ったくり自分で食べた。
「あっづぅぅぅぅぅっ」
あぁ、ウェンディと一緒にいるとやっぱり伝染るんだな。ヘスティアの記憶回路も侵されてしまったようだ。
「思ったより元気だな」
ギルマスがいきなりそういう。
「何が?」
「いや、何でもねぇ」
リタがこそっとセイの事を心配してここに来た事を教えてくれた。普通じゃないと言われた後にギルドを出ていったのが気になったそうだ。
それを心配して来てくれたのか。よく見てんなギルマス。
「ギルマス」
「なんだ?」
「俺は普通じゃないんじゃなくて特別なんだよ」
「は?特別?」
「そう。なー、ぬーちゃん」
「セイはとくべつーっ」
「はい、セイさんは特別です」
と、リタもそう言ってくれた。
「けっ、似たようなもんだろが」
「まぁね」
そして美味しいお好み焼きを堪能してしばらく雑談したあとギルマス達は帰ることに。
お見送りに外に出るとキンっと寒い。ギルマスとグリンディルは平気そうだけどリタは寒そうだ。
ウェンディにと思って手袋と帽子を買ったけどウェンディだけにやったらヘスティアが拗ねるだろうな。
「リタ、これ被って帰れ」
セイはそう言っリタにフワフワ帽子を被せ、手袋を渡した。
「うわぁっ。可愛くて温かいです。いいんですか?」
「いいよ。今日は来てくれてありがとうな」
と、ギルマスに聞こえるように言ったセイ。
「こちらこそご馳走でした」
3人はまたねと手を振って帰って行った。
リタを送り届けたギルマスとグリンディルは腕を組みながら自宅へと向かう。
「あの帽子と手袋。ウェンディに買ってやったやつなんだろうね」
「だろうな。ま、いいんじゃねーか。あいつ金持ちだし」
「じゃ、私も買ってもらおうかな。新しい防具とかね」
「前のがあるだろ?」
「セイの前でハニーフラッシュしても知らないからね」
「よし、買おう」
ギルマスとグリンディルはいくつになっても仲の良い夫婦であった。