献上なさいませ
今日も温泉を堪能する。もうカニはいいかなということになり、焼肉と焼鳥が晩飯だった。一晩中カニの臭いを嗅ぎ続けてたかしばらく見るのも嫌になったのだ。
「この温泉、出来れば毎年来たいね」
「おう、まぁ、酒さえあればどこでもいいぜ」
それを聞いたセイはサカキを酒に漬けておいてやろうかとも思った。
セイ達は翌朝ビビデ達を送ってアネモスに帰えることに。
「あー、我が家が一番ね」
「そうだな。ここにいる時間は少ないけど、もう家って感じがするよな」
ウェンディもヘスティアもお寛ぎモードでリビングでゴロゴロしている。他の家は知らないけどここは玄関で靴を脱ぐようにしてあるから絨毯でゴロゴロしても問題はない。
「ウェンディ、留守番しててくれ」
「どっか行くの?」
「リーゼロイ家に宝石を届けてくる」
「いってらん」
なんだその略し方は?
セイはリーゼロイ家に出向き、門番に用件を伝えるとすぐに執事を呼びに行った。ちゃんと学んだようだな。感心感心。
「セイ様、先日は娘の結婚式をありがとうございました」
「いい式と宴会でしたね。ラームさんもとても綺麗で幸せそうで良かったです」
「はい。とても素晴らしくて良かったです」
と、微笑む奥さん。奥さんの事も鬼達みたいだと思ってたけどこういう顔を見ると少し綺麗だなとか思ってしまう。鬼達はこういうのを感じとるのだろうな。
「これ、お約束の宝石です。ボッケーノの宝石店が鑑定書を付けてくれたんですよ」
と宝石の入ったケースと鑑定書を渡す。
奥さんはケースを開けて宝石を見て、それから鑑定書に目をやる。
・・・
・・・
・・・
あれ?お気に召さなかった?
奥さんはとても難しい顔をしている。
「だ、ダメでしたかね?すいません。俺、宝石の事がよく分からなくて」
「セイ様」
「は、はい」
「ラームのアクセサリー類にも鑑定書はございますの?」
「いや、無いです。今回は貴族からの依頼だと言ったら鑑定書を作ってくれたんですよ。でも同じダンジョン産なんで品質にはあまり差がないんじゃないかなぁっとか思ってたりして・・・」
「おそらくそうでしょうね」
「なんかまずかった・・・ですか?」
「はい。とてもまずいかもしれません」
「ごっ、ごめんなさい。取り替えて来ましょうか・・・と言っても多分同じような物になってしまいますけど」
「これは王家に献上すべき物かもしれません」
は?
「王家に献上?」
「はい。これは恐らく王家で所有する宝石より良い物なのです。鑑定書によると全ての品質が最高グレード。このような宝石は本当に存在するのかと思われるぐらいの物です」
「あー、ボッケーノの姫様もその宝石店の物を気に入って献上させたとか言ってました。どこの王室も気に入ったら取り上げるとか酷いですね」
「いえ、献上とは代金の支払いこそございませんがそれ以上の見返りがございます」
「なんかお返しをくれるんですか?」
「はい。お金では手に入らないものが与えられます」
「例えば?」
「これほどの宝石であれば爵位や領地といったものかもしれません」
「平民が貴族になるってこと?」
「はい。元々貴族であれば位が上がったりするのですが、リーゼロイ家はこれ以上爵位はあがりませんので、子供に別の爵位を賜るようになるかもしれません」
「ならそれを献上用にして、違うのを用意しましょうか?」
「いえ、王家と同じ品質の物を持っていても人前で身に付ける事は出来ません。貴族は宝石や服を自分より上位の者より良い物や同等の物を身に付けて人前には出てはいけないのです」
「なんで?」
「身に付ける宝石や服は格を表すからです」
面倒だなそれ。
「ボッケーノでは同じ品質の宝石を売ってますよ」
「単品であればそこまで指摘されることはないのです。このようなフルセットの場合は別なのです」
「そうなんですか。じゃ、ティアラとか宝石の数を減らして作って貰えばいいんじゃないですかね?もしくは大きいのを外すとか」
「セイ様、これを王室に献上なさいませ」
「は?どうして」
「アネモスでのセイ様の地位が格段に上がります。それはウェンディ様の信仰心を広めるのにも一役買うことになるでしょう」
「立場が上がってウェンディを信仰しろって命令するってこと?」
「はい」
「それは意味ないかなぁ。俺に立場がある間はいいかもしれないけど、これから何百年とか継続するものじゃないでしょ?俺がいなくなった後にまたウェンディへの信仰心が無くなったらダメだからね。ウェンディへの信仰心は命令でなく心から受け入れて欲しいと思ってますよ」
「それはそうかもしれませんね」
「なので、それを献上するならリーゼロイ家からしてください。また代わりの物を用意しますよ」
「いえ、リーゼロイ家からこのような物を献上したら必ず入手先を問われます。セイ様が王室と関係を持つのをご希望されているのなら良いのですがそうで無ければご迷惑がかかりますし、他の貴族からのやっかみも大きいでしょうしね」
色々と面倒だな貴族って。
「その宝石はご自分の物にされるおつもりでしたか?それとも娘さんにですか?」
「ラームにはレームという妹がおります。レームが嫁ぐときに同じような物を用意してあげれたらというつもりでした」
「そうなんですねぇ。どうしましょうか?」
「今回は小さな物を頂いて、大きな物はお返ししようかと思います」
「なら、それをネックレスかなんかにして別に持てばいいんじゃないですか。フルセットでなければいいんですよね。貴金属を変えたらセットじゃないと言えるでしょうし」
「金とプラチナみたいに貴金属を変えると?」
「あ、これも差し上げます。ピンクゴールドっていうものらしくて結構綺麗でしょ。貴金属の価値としては金やプラチナより劣るそうなのでこれで作られてはどうでしょう」
「まぁっ。なんて綺麗というか可愛い色をした貴金属なのかしら。これもダンジョン産ですの?」
「宝石とは違うダンジョンですけどそうですよ」
「これは金やプラチナより価値が下ですの?」
「タマモがそう言ってました」
「そうですか。それなら大丈夫かもしれません」
「ではこれで依頼達成ということで宜しいですか?」
「はい。報酬はリーゼロイ家がセイ様のご希望をお手伝いするということで宜しいですか?」
「はい。お金よりそちらの方が助かります」
「リーゼロイ家は総力をあげてセイ様をバックアップさせて頂く事をお約束致します」
「宜しくお願いします」
屋敷を出る時に執事に当主とこっそりと会えないか聞いてみる。
「では、抜け道の屋敷で夜にお待ちしております」
との事で夜にもう一度来ることに。
その間にギルドに寄ろう。
「あれ?リタは休み?」
「居ますよ」
シャン♪と鈴を馴らしたリタ。
「なんで巫女服着てんの?」
「お見送り専任リタです」
「なにそれ?」
「冒険者さん達が依頼を達成出来て無事に帰って来られるようにお見送りをする係です」
「そんなのあったの?」
「出来ました。ギルマスが縁起がいいから皆に幸を分けろと。評判いいんですよ。なのでお給料も上げて貰いました」
「リッ、リタちゃん。行ってくるよっ」
顔を赤くした若い冒険者がリタにそう告げるとシャンシャンと鈴を鳴らしてお見送り。
「よーしっ。今日も頑張るぞーっ」
と喜んで出て行った。
「ねっ♪」
そう言って微笑んだリタは可愛かった。
「おっ、セイがいるじゃねーか」
「あ、アイアン久しぶり」
「依頼受けに来たのか?」
「いや、顔出しに来ただけ」
「時間あるか?」
「夜までは予定入れてないよ」
「よーしっ。じゃ、臨時パーティー復活だ。これ受けるぜっ」
バッと依頼書を受け取って受付に走って行ったアイアン。
「リード、アイアンはなんの依頼を受けたんだ?」
「ピンクオークの討伐だ」
「どこに出てんの?」
「前にウドー討伐やったろ?あの近くだ」
あんな近くにもうピンクオークが出てんのか。
「依頼残ってたの?」
「まぁな。そこそこ数がいるみたいで俺達3人じゃキツイかなって受けるの躊躇してたんだ。セイが入ってくれるなら余裕だぜ」
俺はあれからアイアン達と依頼受けてないけど、色々とやらかしているの知ってるのかもしれん。
「おーい、すぐに出ようぜ。日が暮れちまうわ」
「ではお気を付けていってらっしゃーい」
リタは鈴を鳴らしながら舞ってくれた。祝いの舞の短縮バージョンってところだ。
「ありがとう。じゃ行って来るよ」
「セイだけズルぃよな」
「何が?」
「リタは鈴は鳴らしてくれるけど、踊ってくれるとか初めてだぜ」
「そうなの?」
「あの服もお前があげたんだってな」
「俺というより仲間が用意したんだよ」
「どこまで行ったんだ?」
「オーガ島だよ」
「オーガ島っ?あんな所に何を・・・って、そんなの意味じゃねぇよ。お前ら付き合ってんだろ?」
「は?付き合う?」
「遊びか?それとも結婚すんのか?あの自称神の嬢ちゃんはどうすんだ?今日はいないのか?」
アイアンはピンクオークを狩りに行く途中で矢継早に聞いてくる。
「まず、リタとはそんな関係じゃない。ウェンディともそんな関係じゃない。あいつは家でゴロゴロしてる」
「お前、あんなアクセサリーや服をリタにやってんのに付き合ってもないのか?」
「仕事仲間というかお世話になってるからね。アクセサリーはお土産。あの服はどちらかと言うとアルバイトの時の服」
は?とアイアンはあまり理解出来ていなかったけど、リタ、ウェンディとはそんな仲じゃないことは伝わったようだった。そしてウドーポイントから少し進んだ所にピンクオークがいた。
「あ、ラームのお母さん・・・」
と言いかけたのはアイアン達にバレなかった。
結婚式の時にピンクのドレスを着ていたラームのお母さんかと思ったのは秘密にしておこう。