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人生経験が足りない

温泉を堪能したあとはもう一つテントを出して寝る事に。片方はビビデとバビデで寝ればいいし、皆はひょうたんに帰るだろう。


こっちはぬーちゃん、ウェンディ、ヘスティアだな。


マットレスに寝転ぶとなんかカニ臭い。スンスン臭いを嗅いでいくとどうやら自分から臭ってくるようだ。


服を脱いで確認すると背中にカニの臭いが付いていた。どうやってこぼしたんだろうか?


ま、服を着替えるならもう一度風呂に入るか。ウェンディとヘスティアはもう寝たからそーっと風呂に移動する。サカキ達はまだ飲んでるけど本当に凄いな。


ふいーっと湯気が上がる湖面を見つめるとタマモが入って来ようとしている。


「女湯はあっちだぞ」


「気にすることないさね。昔は一緒に入ってただろ?」


「いつの話だよっ」


そういうと妖狐の姿になって入ってきた。


「これならいいだろ?」


「ま、まあね」


「はぁ、ここはいいところだねぇ」


「そうだね。景色もいいし静か・・・」


ガーハッハッハ


「サカキたちの笑い声は聞こえるけど」


「サカキはアレだけど、ドワーフってのは凄いさね。あれだけサカキに付き合えるやつなんて初めてみたよ」


「まぁ、酒もそうだけど、いつもあんなに話すことあるよね」


「ドワーフも寿命長いみたいだから過去の話なんていくらでもあるみたいだよ。サカキも封印される前の話はたくさんあるさね。まぁ、飲み比べと悪さの話しかないだろうけどね」


「この中でタマモが一番昔からいるんだっけ?」


「そうかもしれないねぇ」


「大陸ってどんなんだったの?」


「争いが耐えなかったよ。それはこっちに来ても西洋に行ってもどこも同じさね。時代が変わろうが世界が変わろうが人間は皆おなじさ」


「そうなんだね」


「セイ、あんた政治に興味はあるかい?」


「無いよ」


「だろうね。でもね、大きな事をしたければ政治は避けて通れないからね。目の前のことだけをするならいいけど、より多くの人間を動かさないといけない時は政治や権力といったものが必要になることだけは覚えておきな」


「政治と権力ねぇ」


「あんたならその世界に入ってもすぐに上に上がれるさ。ま、そういうのに興味が出てくるか必要になれば手伝ってやるさね。いつでも言っておいで」


「出ないと思うよ」


「そうかい?政治と宗教は繋がってるもんだよ、いつの時代もどの世界も。ウェンディの信仰ってのは宗教だろ?興味が無いだけで済まないからね」


タマモの言うことは難しい。ちゃんと理解するには自分の人生経験が圧倒的に足りないんだろうな。わざわざ元の姿に戻ってまで話しに来たのはもうそういうのを知っておかないといけない年齢になってるということなのだろう。


「うん、やり方はわからないけど、取り敢えずこの世界はあちこちに行って自分の目で見てみるよ」


「それがいいさ。自分の当たり前が当たり前で無いことなんてたくさんあるからね。あんたはそういうのを受け入れるのは抵抗ないだろうけど、そうじゃない人も多いから気を付けるんだよ」


「うん、よくわかんないけど」


セイは本当に何を言われているのか理解出来なかったのである。


風呂から出てホコホコの間に寝ることに。テントの中は皆の体温で比較的暖かく感じるけど、朝方は寒いだろうな。


ウェンディとヘスティアに毛布をかけ直してから自分も寝ることに。ぬーちゃんの隣はウェンディに取られてしまっているのでマットレスの端に寄って寝る。


ん?まだカニ臭いな。と思ったらこれウェンディが手を拭いていた毛布じゃないか。いつの間に俺のと交換してやがんだっ。


ウェンディから自分の毛布を剥ぎ取ろうとしたら離しやがらん。本当は起きてんてんじゃないだろうな?と思ってヨシヨシしてみるけど起きない。こりゃ本当に寝てやがる。


仕方がないのでカニ臭い毛布で寝るしかなかったのであった。




日が登る前に重みで起きる。毎度毎度なぜ乗ってくるのだ?


抱きつかれるとかではない。本当に乗ってくるのだ。


ひょいとウェンディを隣におろして外に出る。


ひょーっ、寒っみぃぃ。


キンッと冷えた空気が肌に刺さるかのようだ。鼻の奥が痛いし耳が千切れて落ちそうだ。後ろにユキメがいるんじゃなかろうな?と振り返ってもいなかった。ここまで寒いとユキメがいても同じだな。なんにもないけど呼んでやるか。


「ユキメ、起きてるか?」


「はーい、呼ばれて飛び出てユキメちゃーん」


朝っぱらからテンション高いな。


「お前、こんな気候好きだろ?」


「うん、里よりずっと冷たい。ね、雪合戦しよ」


「二人でか?」


「そう」


ユキメがはしゃいでそういうので、少し移動して雪を投げ合う事に。


いわゆるパウダースノーってやつなのかギュッとしてもあまり固まらない。これなら当たっても問題ないな。


あまり固まらない雪玉をユキメに投げる。スピードも出ないし、当たってもポフっとなるだけだ。


「キャーっ。やったわねぇ。それっ」


「へっへーん。そんなの当たっても痛くも」


ゴンッ


ブッ


「やったぁ!あったりーっ」


「待て待て待て待て。お前何した?石ころいれたんじゃないだろうな?頭が割れるかと思ったぞ」


「何も入れてないわよ。こうやってギュッっと」


ピキンっ


げっ、雪玉が氷の塊になってるじゃないか。


「タンマタンマタンマっ!そんなもん投げたら」


ゴンッ


ダメだ。ユキメは見た目は少女だけど妖怪だ。雪玉というか氷玉のスピードが半端ない。


「きゃっはははは。わたし雪合戦で負けたことないのよーっ」


「当たり前だっ。こんな攻撃危な・・」


ゴンッ


ブッ


ヤバイ。殺られてしまう。


逃げようにも雪で思うように足が動かん。どんどんユキメが迫ってくる。


奥へ奥へと必死に逃げるうちに足が抜けないくらい雪が深い所に来てしまった。


「ま〜て〜」


怖い怖い怖いっ。ユキメのやつ完全な雪女に戻ってやがる。


ユキメと初めて会った時を思い出す。中学の修学旅行か課外授業か忘れたがスキーに行ったのだ。ヤンチャな奴らが探検とか言ってどこかに行って遭難した。普通なら関わらないのだが降ってる雪に妖力が混じっている。いきなり吹雪出したのは妖怪の仕業に違いない。


そしてセイはこそっと抜け出してヤンチャな奴らを探しに行って見つけたのがユキメだ。ヤンチャな奴らを氷漬けにしようとしているときに叱り飛ばした。


しかし誰にも見られなくなってしまってから長い時を過ごしていたユキメは自分に気付いて話し掛けてくれた事を喜び付いてきて今に至るのだ。


ドンっ


「つ〜か〜ま〜え〜たーっ」


逃げ場を失ったセイに抱きついたユキメ。


「なんであんなに必死に逃げるのよっ」


「お前が怖がらすからだろ?」


「逃げるから追いかけただけでしょっ」


そのままベッタリと抱きつくユキメ。


「ねぇ、わたしの事好き?」


「仲間としてはな」


「女としては?」


「お前をそう言う目で見たことはないぞ。美人だとは思うけどな」


「もうっ。少しはそんな目で見てくれたっていいじゃない」


「見るわけないだろ。俺は人間でお前らとはことわりが違うんだから」


「またそう言う。セイもその気になればこっち側になれるでしょ」


「なれるか馬鹿」


「そんなことないわよ。だってセイは」


「ユキメいい加減におしっ。セイが凍えて死んじまうだろっ。もう十分構ってもらったんだ。里にお帰り」


妖狐の姿で出て来たタマモ。ユキメは叱られた感じですぐに帰って行った。


「助かったよタマモ」


「ユキメにあんまり情けをかけるなと言ってあるだろう?あの娘は自分のそばにずっと居て欲しい願望が強いんだから。本当に氷漬けにされちまうよ」


「いやぁ、わかってるんだけどさ。この世界に来てから用事だけさせる事が多いからね。こんな時ぐらいはいいかなと思ったんだよ」


「里の皆は日頃からあんたの妖力を浴びてるんだ。それだけでも十分お釣りがくるから変な事を気にしなくていいんだよ。さ、冷えちまってるだろ。風呂に入んな」


タマモは雪に埋まって抜けなくなっているセイをひょいと咥えて引っ張りだし、背中に乗せて脱衣所で降ろした。


「朝ごはんまでゆっくり浸かって来るといいさね。後で水を持ってきてあげるよ」


そう言われて風呂に浸かる。朝風呂もいいもんだ。


しかし、タマモはああしていつも俺の母親役をしてくれている。里のまとめ役はクラマでもぬらりひょんでもなく本当はタマモなんじゃなかろうか。他の奴らもタマモがビシっと言うと絶対に反論せずに言う事を聞く。サカキですらタマモがハッキリ言った時はちゃんと引くからな。


もしかしたら俺がしらないだけでタマモが最強なのかもしれん。


そんな事を思いながら冷えた身体を温めるセイなのであった。


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