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寿限無寿限無

「お世話になりました。またお邪魔させて下さい。あとこれありがとうございます」


「いいのよぉっ。こっちの方がたくさんもらっちゃったんだから」


奥さんは旅のお供にとベーコンをひと塊くれたのだ。起きて来なかったウェンディとヘスティアも食べたいだろうと遠慮せずにもらっておいた。


「にーちゃん、次はいつに来るんだ?」


「ここの用事が終わったら、温泉に行ってその後ドラゴン狩りにいくから5月末ぐらいかなぁ」


「ドラゴン狩り?なんだよそれすっげーっ」


「なんか面白いの取れたらお土産に持って来てやるよ」


「やったぜっ!」


「ラーラのは?ラーラにも何か取ってきてくれるの?」


「頑張って何か見付けてくるね」


「わーいっ」


「こらセイ。うちの子供をからかうな」


「あはは。帰ってきたらまたお邪魔させてね。ギルドには領主の所の帰りに寄るから」


「おう、悪いが頼んだぞ」


ギルマスから招待状を受け取り、隣国へと向かったセイ。まだムニャムニャ言ってるウェンディは雑にぬーちゃんに乗せられ、寝たふりをしているヘスティアをおぶっていた。



ーセイ達が出発した後のカントと奥さんー


「しかし、子供にもこんな貴重な宝石をホイホイとくれてやるか普通?」


「子供達はとっても喜んでたわよ」


「当たり前だっ。こんなもん持ってる子供がいるかってんだ」


「あなた。これ、アクセサリーじゃなくてお守りにしてあげてね」


「わかってる。こんなもんこれみよがしにぶら下げてたら賊に襲われるからな」





空を駆けて隣国の領主の元へと向かうセイ達は街道沿いを飛んでいく。


「腹へったぞ」


出発してしばらくしてヘスティアがセイの背中越しにそう言う。


「寝たふりして起きて来ないからだろうが」


「バレてたのかよ?」


「置いていったらまたイフリートが非常事態になるからな」


「なんだよそれ?それよか肉もらったんだろ?旨いらしいじゃねーかよ」


「しょうがないなぁ」


ヘスティアがこれ以上ブータレないうちに地上に降りて早めの昼飯にする。ウェンディもぬーちゃんが尻尾でべしんべしんして起こした。ギルドで結構飲んでだから今まで寝てやがったのだ。


「ぬーちゃん、食パンとレタスと卵、マヨネーズをもらって来て」


ぬーちゃんはしばらくして持って来てくれた。卵はもう薄焼きで焼いてくれてある。砂婆もこっちの様子が分かってんだな。


「ベーコンを炙って材料をパンに挟んで終わり。BLTサンドってやつだよ」


セイはTをTAMAGOのTだと思っていた。


「旨いじゃねーかこれ」


「昼飯にちょうどいいだろ?」


サンドイッチのお供はぶどうジュース。この世界のジュースは何を飲んでも100%ジュースだから美味しい。


「キィーーーっ」


ウェンディはサンドイッチの具を全部皿の上にぶちまけている。食べている後ろから具が落ちたのだろう。


見かねたセイはお代わりを4つに切って一口サイズにしてやると齧ってぶちまけた奴を俺に渡しやがった。


なぜ俺はいつもウェンディの食いさしを食わにゃならんのだ。せっかくもらった奥さんのベーコンに申し訳ないので食べるけれども。


「しまった、具が全部出ちまったぜ」


「ハイハイ」


ヘスティアにも切ってやる。さっきまで上手に食べれてたくせに。


「ハイ」


ヘスティアも食いさしを渡して来やがった。ウェンディとヘスティアの齧ったものを食べるセイはだんだんと二人の父親のようになっていく。



隣国に到着するとここも壁があり、門番がいた。ボッケーノ王都ほど入国者がいないのでちゃんと並んで入国する。


「これが冒険者証ね」


「おまえ、アネモスから来たのか?」


「住んでるのはね。今日はボッケーノの領地から来たよ」


「何か依頼を受けているのか?」


「依頼というか、招待されてたから来たんだよ。これ招待状」


「こっ、これはっ。知らせろっ。騎士に知らせろっ。失礼致しました。どうぞこちらへ」


門番に通達されていたのか、別室に通されしばらく待たされた後に立派な鎧を着た兵士というか騎士と呼ばれた人が迎えにきて馬車に乗せられた。馬車は正直乗り心地が悪い。道は石畳で整備士されているとはいえ、ゴツゴツゴツゴツと衝撃が尻に伝わるのだ。


「何してんだお前?」


「お尻が痛いからしょーがないでしょっ」


ウェンディが俺をクッション代わりにして膝に座りやがった。


そして領主の屋敷に到着した時に馬車の扉が開いて騎士と目が合うセイ。


「お楽しみの所、失礼致しましたっ」


バンっと慌てて扉を閉めた騎士。


俺が何を楽しんでいるというのだ?


自分で扉を開けて、ウェンディをよいしょっと先に降ろして外に出た。


「先程は失礼いたしました。どうぞこちらへ」


うん、とっても失礼な発言だったよ。


騎士達の先導で屋敷内に入ると執事に先導をバトンタッチして豪華な部屋に案内される。



「うちもこんな椅子買って」


とても座り心地のよいソファだ。確かにこんなのいいけど、これを買ったらウェンディが毎日これで寝てベッドに運ばないといけない自分を想像したので買うことはないだろう。


お食事は?と聞かれて食べてきたと答えると紅茶とお菓子を持ってきてくれた。お菓子はどんな味か知らない。ウェンディが俺の分までヒョイパクしたからだ。


「これはこれはよく来てくれた。私はこの領地の領主、ジュゲームベンガルリリアフォードアラセーヌシドハットだ」


自己紹介してくれるけど何を言っているのかさっぱりわからない。どこまでが名前でどこからが家名かすらわからん。じゅげむとして認識しておこう。


「そしてこちらが妻のハイドホニャララホニャララ」


もう聞くのは無駄だ。絶対に覚えられない。わかったのはあれは名前であって家名は含まれていないということだ。壁に飾られているたくさんの肖像画に名前が書いてあり、みな最後にリットンと書いてあるから、領主はリットン家ということなのだろう。


「この度は我が娘、クラリスホニャララホニャララ」


もういいもういいっ。


「初めまして。セイと申します。こちらはウェンディ。パーティーメンバーです」


こちらも挨拶をすると座ってくれと言われてまた長々と何やら言っている。要約すると娘を助けてくれてありがとうと言いたいらしい。


あの薄汚れてた娘さんも綺麗に着飾り、とても可愛くなっていた。人間臭さを放ってた人と同一人物とは思えんな。


「付いては報酬の・・・べらべらべらべらべらべらべら」


ダメだ。何を言っているのかさっぱりわからない。言葉はわかるのに意味がわからないのだ。


「旦那様、僭越ながらセイ様はご理解されておられないようですのでわかりやすくお話をされた方が宜しいかと」


領主が話しているのを光の消えた目で聞いていたのが執事にはバレてたようだ。


「あ、あぁ。これは失礼をした。日頃の話し方が出てしまったようだ」


どうやらこの国では貴族同士で話す時に揚げ足を取られたり、言質を取られたりしないようにわざと分かりにくく話すのが通常のようだ。これでお互いに正しく意思疎通ができるのだろうか?


「セイ殿。我がリットン家の将来を頼む」


そう領主が言うと娘はポッと赤くなる。


「あ、あのそのことなんですが、申し訳ないんですけど、俺にはこいつが」


とウェンディを指刺した。


「あっ・・・」


娘とお母さんがウェンディの左手薬指の指輪を見てあっと呟いた。初めてこの指輪が役に立った。


「この度は参上するのが遅くなり申し訳ございません。あのあとすぐに帰国しないといけなかったものですから。ギルドにも報告だけしてすぐに帰ってしまったのです。今回ギルドに行った際に金銭の報酬を頂いたのと招待を頂いていることを知りました」


「そうか。力のある冒険者は引く手数多と聞く。それであれば仕方がないことだったのだな」


ギルドからの依頼はほとんど受けていないし、Cランク冒険者が引く手あまたな事はない。でもそういうことにしておこう。


「あなた、もう一つの報酬はダメですわ。セイさんはすでに・・・」


「そうであったか・・・。ウェンディ殿も幼く見えるが成人されていたのか」


こう見えても成人どころか歳がわからんくらいだぞ。


「では感謝の気持ちを少しでもお伝えしたい。今夜は晩餐に招待させては頂けないか」


明日戻れば大丈夫かな。


「わかりました。ありがたくお呼ばれさせて頂きます」


そしてバンパイアはとはどのような戦いだったのかを聞かれて話をする。奥さんと娘さんはウェンディの宝石に興味津々でウェンディに色々と聞いていた。そいつはなんにも知らないぞ。


「まあっ、ウェンディ様は冗談がお上手でいらっしいますこと。オーホホホホっ」


ウェンディは自分が風の神ゴニョゴニョと説明しているが信じてもらえず、ジョークが上手いと褒められていた。


そしてセイはふと気付いた。奥さんの着けているネックレスに違和感があるなと。


あー、これ呪われてんな。


どうしよこれ?教えてあげるべきかな?




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