カントハウス再び
サカキの酒とセイの剣でどんどん起きている人が減っていく冒険者ギルドの酒場。
「お前、うちの冒険者共をみな討伐する気か?」
そこへギルマスのカントがやって来た。
「討伐って・・・。起きたら夢だった、とかになればいいかなと思っただけだよ」
「ったくよ。とんでもねぇことしやがるぜ。今日は宿取ってないんだろ?終わったらうちで泊めてやる」
「悪いね。サカキは奥さんと飲むの楽しそうだから喜ぶよ」
「うちのカミさんもお前達に会えるの楽しみにしてやがる。この前もらった宝石もめちゃくちゃ喜んでな。あんなのやった事なかったからよ」
「加工賃高く付いたでしょ?」
「まぁな。しかし、宝石とか欲しがらなかったけど、本当は欲しかったんだろうなと気付かせてもらったわ」
「喜んで貰えて良かったよ」
そこから少したわいもない話をする二人。
「明日、隣国の領主の所へ寄ってくれるか?」
「そうしないとギルマスが困るんでしょ?挨拶だけはしてくるよ」
「すまんな。宜しく頼む」
ギルマスは宝石のお礼とこれを言いに来たみたいで、お開きになったら呼んでくれとギルマスの部屋に戻っていった。
「セイー、肉食べたい」
ずっと猫サイズで首に巻き付いていたぬーちゃんが場が落ち着いたのを見計らってそう言ったのでいつものサイズに戻って飯にする。角有りの肉を狐火でコンガリと炙って食べさせた。
「お前ら、堂々と持ち込みしてやがんな」
酒場の店主がこちらに呆れた顔でやってくる。肉も酒も勝手に持ってるやつ出してたからな。
「ごめん、あの酒もこの肉もここにはないだろ?請求の時に持ち込み料も入れといて」
「まぁ、別にそんなの構わんさ。それより俺にも味見させてくれ」
「どれ食べる?サカキが焼いてた肉はブラックオーク、これは角有りのミノタウロスの肉。酒は鬼殺しとドワーフの酒があるよ」
「えらい高級な肉を食ってやがんな。売らずに食うのか?」
「アネモスに山を持っててね。そこでブラックオークと角有りが狩れるからいくらでも手に入るんだよ」
「いくらでも狩れるってお前らどんな戦い方してやがんだ。それにドワーフの酒は売ってたのか?」
「いや、剣と防具を作ってくれた職人と仲良くしもらっててね、酒はよく貰うんだよ」
「職人?」
「ビビデとバビデ兄弟」
「お前、あの二人の剣と防具を使ってんのか?」
「そう、ボッケーノの冒険者に紹介してもらってから仲良くなってね。ここから帰ったら一緒に遊びに行く約束をしてるんだよ」
「はぁー、お前Cランクだそうだがランクなんてあてにならんな」
「そうかもね。うちはメンバーが強いから」
「それは使い魔か?」
「友達だよ。ぬーちゃんは強いし空も飛べるから頼りになるんだよ」
「そりゃすげえな。おっ、この肉めちゃくちゃ旨ぇな」
「ここの唐揚も旨いよね。あれ何の肉?」
「イワトカゲだ」
「あれ?あいつ鉄鉱石になるんじゃなかったっけ?」
「ダンジョンではそうだな。外の奴は肉や皮になるやつの方が多いからこの街ではポピュラーな食材ってやつだ」
「へぇ」
「カアッッ、この鬼殺しってのはめちゃくちゃ強ぇな。よくあんな飲み方してやがるわ。・・・しかし、くせになる酒だな」
「気に入った?」
「こいつをここに卸す気はあるか?」
「いや、酒関係を売るとサカキが怒るからね。それに鬼殺しとドワーフの酒は他で売ってないから貰うしかないないんだよ」
「そいつは残念だな」
「肉なら余分に持ってるけど?」
「いや、こんな上等の肉はこいつら金払ってまで食わんだろ。旨いより勿体ねぇが先にくるだろうからな」
「これを稼ぎにしてたらそうなるかもしれないね。ドワーフの酒も飲む?」
「おうっ」
これも癖になりやがると言いながら仕事に戻っていった。この街はボッケーノ王都より田舎だからみんな気さくだな。アネモスでの会話は借金払えと言われる事が多かったけど。
狐火で角有りを焼いていると食べたそうなやつらが寄ってきたので皿に乗せていく。好きに食べてくれ。
すると次々に並ぶ冒険者達。セイのテーブルはさながら肉フェスのキッチンカーのようになっていった。
そして落ち着いた頃を見計らってお会計をする。金貨3枚とかみんなよく飲み食いしたな。まだ注文してるやつもいるので5枚払っておいた。これを越えたら自腹で払ってもらうことに。
支払いを終えてギルマスの部屋に行く。
「終わったか?」
「まだ騒いでるのもいるけど。もう俺がいなくなっても気付かないと思うよ」
「なら行くか」
コップに舌を突っ込んだまま寝ているウェンディ。コップ周りに水溜りが出来てるけどヨダレじゃないだろうな?
ウェンディをおぶろうとするとヘスティアが寝たふりをしやがった。
しょうがないのでウェンディをぬーちゃんに乗せてヘスティアをおぶることに。
サカキに手を振ってギルドを出るとしばらくしてから追いついてきた。
「どうやって抜けたんだ?」
「飲ましたに決まってんだろ?」
きっと無理矢理飲ましてきたんだな。酷いやつだ。
ヘスティアはマントの中で嬉しそうにおぶさりながら本当に寝たようだ。なんとなく重くなったので解る。
ギルマスの家に到着すると奥さんが出迎えてくれた。遅い時間に突然来たというのに嫌な顔ひとつしない。
「あらぁ、誰かと思ったらセイくんじゃなぁい。さ、入って入って」
子供達はすでに寝ているようなので静かにウェンディとヘスティアを寝かせて貰った。
ダイニングに戻るともう飲んでる。
「セイくん、これありがとうっ。とってもカワイイっ」
「よく似合ってますよ。凄くカワイイです」
同じようにカワイイで返してみる。
「やっだぁっもうっ」
どすぅっ
ぐふっ
そうだ。この奥さん見た目と違って強いんだった。
ワイバーン防具の上からでも伝わる衝撃はなかなかの物だ。
そこからサカキと奥さんは楽しそうに飲み始めたのでシャワーを浴びさせて貰って先に寝た。付き合ってられん。
朝起きるともう奥さんは朝食の準備を始めてくれていた。カントは飲み潰れたようでまだ起きてこない。
「おはよございます。毎度突然ですいません」
「いいのよぉ。失敗したとか上手くいかなくて悩んでる冒険者をよく連れてくるからぁ」
そういうケアをしてるのか。カントはいいギルマスなんだな。冒険者達がギルマスの部屋にいきなり来たりするのも慕われている証なのかもしれん。
「セイくん、悪いけど子供達を起こして来てくれない?きっと起きた時にセイくんがいたら喜ぶと思うの」
「いいですよ」
と子供部屋にいき、ケビンとラーラを起こす。まずはケビンから。
「朝だぞ」
「うーん、まだ寝てたいよぉ」
「そんな事を言うやつは血を吸ってやろうかぁ」
「うわァァァっ!バンパイアだぁ・・・ってにーちゃん?」
「おはよう。朝だぞ」
「いつ来たんだよ?」
「昨日の夜遅くにな」
「ラーラ、起きろっ。にーちゃんが来てんぞっ」
「えっ?おにーちゃん?あっ、本当だーっ」
会うのは2回目だというのにえらく懐かれたな。ラーラはおんぶして欲しそうなのでおぶってダイニングへ向かう。
「あらあら、ラーラ。赤ちゃんみたいよ」
おんぶで赤ちゃん呼ばわりされるなら、うちにも赤ちゃんが二人いる。
朝食はベーコンエッグとパン、じゃがいもとニンジンのスープだった。このベーコン旨いな。
「このベーコン美味しいですね」
「えーっ。毎日毎日これなんだぜ」
ケビンはベーコンが続いていて不満のようだ。
「いいじゃん。旨い飯を毎日食えて」
「朝も昼も夜も肉はベーコンかハム、それかイワトカゲなんだから飽きるよ」
「そうなんだ」
「ごめんなさいねぇ。冬はどうしても新鮮なお肉が手に入りにくくなるから。お野菜も限られてるし」
なるほど。
「お肉いります?まだあるから良かったらケビン達に食べさせてあげて下さい」
と角有りと黒豚を出す。
「まぁっ。こんなにたくさん新鮮なお肉が」
「カニも食べますか?」
とカニも出す。
「にーちゃんなんだこれ?」
「海の魔物だよ。茹でるか焼くかして食べさせてもらいな。お父さんに言えば綺麗に切ってくれると思うぞ」
「いいんですか?」
「たくさんありますからどうぞ。野菜もなんかいります?ぬーちゃん、砂婆に葉物野菜頂戴と言ってきて」
そういうとぬーちゃんは白菜、キャベツ、ほうれん草を持ってきた。
奥さんは白菜を見たことがなかったのでカニと鍋にするといいですよと教えておいた。それぐらいしか食べ方はしらん。後は浅漬とかだけど作り方知らないからな。
「まぁまぁまぁ、ありがとうございます。良かったわねケビン」
「にーちゃんすげぇな。いつもこんなの持ち歩いてんのかよ?」
「どこでも旨いもの食えた方がいいだろ?」
「そりゃそうだね」
ケビンは食べ盛り育ち盛りの年齢なのだろう。朝からベーコンは飽きたと言いながらモリモリ食ってた。
「セイくん、また遊びに来てくれるかしら?」
「はい。そう言って頂けるなら」
「じゃ、こっちの豚肉はベーコンにしておいてあげるわね。ハムも食べるかしら?」
「食べますっ」
ということで追加で黒豚を2つ渡しておいた。夏前には来てねと言われたからドラゴン狩りの帰りに寄らせてもらおう。
「おにーちゃん」
「なにラーラ?」
「わたしもおかーさんみたいなカワイイの欲しいなぁ」
ラーラがもじもじしながらカワイイのが欲しいとおねだりしてきた。
「これっ、ラーラっ」
「好きな色はある?」
「黄色が好きっ」
「じゃあ、これをあげるね。黄色のは火の神様ヘスティアも同じのを着けてるからご利益があるといいね」
と、小さめの黄色い宝石を一つあげた。
「わーいっ」
めっちゃ喜ぶラーラ。こんなに小さな娘でもこういうのに興味があるんだな。
「えーっ、ラーラだけいいなぁ」
「ケビンも宝石が欲しいのか?」
「お、俺は青いのがいい」
「じゃ、これな」
「いいのかよっ。これスッゲー高いんだろ?」
「別にいいよ。それウェンディとお揃いだけどいいのか?」
「おっ、お揃いとかいうなよっ」
そう言って赤くなるケビン。そうか、ウェンディの見た目に惑わされたんだな。しかしコップに舌を突っ込んで寝ている姿をみたらその宝石を投げ捨てるんじゃないだろうか?
「セイくん、そんなに簡単にあげちゃっていいの?」
「別に大丈夫ですよ。気にしないで下さい。俺には宝石よりこのベーコンの方がいいです」
「やっだぁ」
どすうっ
「朝っぱらから元気・・・。お前ら、その宝石どうした?」
「にーちゃんにもらった」
「ばっかやろうっ!それいくらすると思ってんだっ。返せっ」
「いやーーっ」
「ギルマスいいって、あげたのは小さいのだし。その代わりに俺は奥さんに美味しいベーコン作ってもらうから」
「お前、この宝石一つでどれだけベーコンが買えると思ってんだ?」
「奥さんの作るベーコンは買えないでしょ。凄く美味しいよこれ」
「はぁ、お前ってやつは」
「子供達の宝石の加工賃はギルマスが払ってやってね」
「加工賃でベーコン屋ごと買えそうだぞまったく」
そう言ってカントは頭を抑えたのであった。二日酔いで頭が痛いと思っておこう。