シンディ
別荘はいくつか並んでいるうちの一つ。どこも先程の屋敷程ではないが立派な建物だ。しかし、どの別荘も空き家のようで人気がない。ここの幽霊騒ぎで他の持ち主は手放したのかもしれん。
ひときわ汚れているというか砂が溜まっているところが今回の依頼があった別荘みたいだ。
「汚ったないわね」
「あぁ、ここは風が集まるような場所なんだな。この砂埃はお前が運んだんじゃないのか?」
「そんなこと知らないわよ」
知らんとかよく言うわ。暴風出してたのお前だよね?
別荘には随分と霊が集まって昼間っからウヨウヨしてやがる。吹き溜まりにもなっているし、怨霊に呼び寄せられてんのかもしれん。
「なんなのよあれ?」
「お前にも見えるのか?あんまり関わるなよ。姿が見えたり声が聞こえるのがバレたら寄ってきてうっとおしい話をグジグジ聞かされるぞ」
幽霊はほとんどがネガティブだ。幽霊達に見えることがバレると話を聞いて聞いてと寄ってきてうっとおしい話を延々と聞かされるハメになるのだ。
別荘の門を開けて中に入ると幽霊たちが纏わりついて来るが無視だ。
「いやぁっ!何なのよあんた達っ。触んないでっ」
あっ、ウェンディの奴反応しやがった。
「あなた私が見えるのね〜。ね〜話を聞いて〜」
「なんで私にばっかり寄ってくるのよっ」
あーあ、幽霊に集られてやがる。だから忠告しおいてやったのに。どこの世界も幽霊はおんなじだな。
「じゃ、砂埃を綺麗にしておいてくれ。くれぐれも暴風でぶっ飛ばすなよ。砂だけを飛ばすんだぞ」
「ちょっとセイっ!どこに行くのよっ。こいつらなんとかしなさいよっ」
「反応したお前が悪い。話を聞いてやって満足したら成仏するよ。それが嫌なら祓ってやれ。俺は中に強い反応があるからそれをなんとかしてくるわ」
「幽霊を祓うってどうするのよっ!いやぁぁぁ触んないでって言ってるでしょぉぉっ」
ウェンディのやつめっちゃ集られてやがる。まぁ、あの幽霊達は引き寄せられた奴らみたいだし今回の依頼とは無関係だからあいつに任せておこう。
セイは幽霊に集られているウェンディを放置して建物の中に入って行こうとした。
「触んないでって言ってるでしょぉぉぉっ」
ゴオゥぅぅぅっ
ウェンディは集っている幽霊達を暴風で吹き飛ばした。幽霊って風で飛んで行くような存在じゃないんだけどな・・・
「お前、それ建物の中でやんなよ。中にも幽霊いるんだからな」
「するわけ無いでしょっ」
嘘つけ、ギルドで2回やっただろうが。
二人で中に入ると案の定幽霊がウヨウヨいやがる。別荘の関係者の霊がいるかもしれんが有害そうでも無いので無視だ無視。
「いやぁぁぁぁぁっ」
また反応してしまったウェンディ。早速集られてやがる。
「おい、建物の中で暴風だすなよ。やるなら外に引き連れいってやれ」
「ちょっとぉぉ。なんとかしなさいよぉぉぉ」
「一度幽霊にロックオンされたら走り回っても付いてくるんだからそのまま外へ走っていけ」
バタバタと幽霊に纏わりつかれるウェンディは走って逃げようとしているので外へ出るように言っておいた。こいつ幽霊ホイホイとしては有能だな。
さて、この部屋か。
一際強い反応を示す部屋。どうやらここが怨霊のいる部屋らしい。
ドアをガチャとあけると女性の幽霊が窓の外を見つめていた。
ん?怨霊にしては綺麗に人の形を保っているな。
「憎いぃぃぃ。殺してやるぅぅぅ」
「うわっ」
窓辺から外を眺める女性の幽霊に気を取られた時に別のモノに襲われたセイ。
「ちっ、こいつが怨霊かっ」
女性の幽霊とは別に怨霊がいたのだ。
怨霊に触れられた事で一気に恨みの内容が頭に流れ込んでくる。
〜〜〜〜〜〜〜
「奥様、窓辺は冷えますのでどうぞベッドでお休み下さい」
「ジョルジュは今日も来てくれないのかしら?私の誕生日なのに・・・」
「奥様、きっと旦那様はお忙しいのですよ」
これお付きの人とシンディって人の記憶か。
「ゴホッ ゴホッ」
「奥様、大丈夫でございますか」
「ジョルジュはどうして来てくれないのかしら・・・」
「奥様、旦那様はお忙しいのですよ」
どんどんとシンディの具合は悪くなっていってるようだ。それにどうやらこのお付きの者はシンディの事を・・・
「ジョルジュ・・・、もうすぐワタシのタンジョウビナノ・・・・」
「お、奥様っ。奥様っぁぁぁぁっ。どうしてっ、どうして旦那様はここにお越しにならないんだっ。奥様ぁぁぁぁぁっ」
・・・・
・・・・・
・・・・・・
「奥様を殺したのは旦那様だ・・・。こんなにも、こんなにも旦那様が来てくれる事を奥様は望んでいたのにっ。憎いっ、旦那様が憎いっ。恨んでやるっ。恨んでやるぞジョルジオーーー」
〜〜〜〜〜〜〜
お付きの者はシンディが亡くなった後に強い恨みを持ちながら喉を短剣で刺して後追い自殺をしたのか。あの霊障はお付きの者の恨みの念だったんだな。
怨霊に同情はするがここまでの存在になってしまっては滅するしかない。
「お付きの者よ、俺の声は聞こえるか?」
セイは一度目の襲撃を食らった後に自分に結界を張っていた。
「今更何をしにきたっ。ジョルジオーーーーっ!死ねぇぇぇぇっ」
もう誰が誰だが区別がつかなくなっているお付きの者だった怨霊がセイに襲い掛かってくる。やはりあの主人が恨みに飲まれて死んでも恨みは止まらなさそうだ。
「成仏はさせてやれん。悪いな」
セイは護符に自分の血と妖力を乗せ手刀で魔を祓い怨霊にその護符を投げつけた。
「グォォォォォッ」
護符から浄化の術がでて恨みの念が霧散していく。そして怨霊は消え去って行った。
「終わったの?」
浄化が済んだ後に部屋に入って来たウェンディ。終わるまで待ってただろお前?
「まだだ」
「げっ」
何しまったみたいな顔してんだ。図星かよ。
まだ窓辺で女性の幽霊がジョルジュは来てくれるかしら?とつぶやきながら外を見ている。
「あれもなんとかしなさいよ」
「祓う事は出来るんだけどさ、あの感じだと成仏させられそうなんだよね。依頼主と相談してからにするよ」
「ふーん。死んでからも裏切った相手を待ってるなんて可哀想な人ね」
お前も可哀想な奴だけどな。
依頼主の屋敷に戻ると主人の霊障は消えていた。
「おい、ご主人様の体調が戻ったぞ。よくやった」
筆頭家来が走り寄ってきた。主人を外に出すなと言ってあったのに部屋から出てやがる。
「セイよ、終わったのじゃな?」
「いえ、まだです」
「何っ?失敗したのかお前っ」
いちいち突っかかるな筆頭家来よ。
「怨霊は祓いました。が・・・・」
チラッと筆頭家来の顔を見る。シンディの事を話すのに邪魔なのだ。
「良い、この者は事情を知っておる」
「わかりました。怨霊はシンディさんではなく、お付きの男性でした」
「何っ?ピーターのことか?」
「名前まではわかりませんが、献身的にシンディさんに仕えていたようですね。ご主人様を健気に待ち続けるシンディ様を哀れに思われて恨みを持たれたようです」
「あの使用人がご主人様に恨みを抱くなどと不届き者めがっ」
筆頭家来は怒り心頭だが真実は黙っておこう。
「で、終わってないとはどういうことか?」
「シンディさんはまだご主人様を待ち続けておられます。祓おうかと思ったのですが念の為に確認してからにしようかと」
「何っ?シンディが亡くなってもなおワシを待ち続けているとっ」
「はい。窓辺から外を見続けておられて私の声も聞こえないようなのです。会いに行かれますか?それとも祓いますか?」
「そうか・・・、まだワシを・・・」
目頭を押さえて泣く主人。
「貴様、いい加減な事を言って報酬を吊り上げるつもりじゃなかろうな?」
本当に失礼な事を言う奴だ。
「ちなみにご主人様のお名前はジョルジオ様ですか?それともジョルジュ様ですか?」
「ジョルジュ?貴様なぜその呼び方をしっているっ」
「いや、お付きの人はジョルジオ、シンディさんはジョルジュと呼ばれていたものでどちらが正しいのかなと思っただけですよ」
「・・・お前の言うことは本当らしい。ジョルジュとはシンディだけがワシをそう呼んでいたのだ。シンディは本当にまだワシを待ち続けておるのじゃな・・・」
「そうですよ。別荘の掃除と怨霊は祓ったので今回の依頼は達成していますのでここで終わってもいいんですけど、お付きの人がいなくなった事でシンディさんが怨霊になっても知りませんよ。あのお付きの人、怨霊になってまでシンディさんを守ってたみたいですから」
そう言って偉そうな筆頭家来をみる。
「わかった。ワシは別荘へ行く」
「ご、ご主人様。このことが奥様に知れたら・・・」
「シンディが死んでもなおワシを待っておるのだ。行かねばなるまい」
止める筆頭家来を黙らせてジョルジオは別荘に行く事になりシンディの部屋に到着した。
「シンディはあそこにおるのか?」
ジョルジオにも筆頭家来にもシンディは見えていないようだ。
「貴様、私達を謀っているんじゃなかろうな?」
まだセイを疑う筆頭家来。
「ジョルジオ様、ご覚悟はありますか?」
「なんの覚悟じゃ?」
「幽霊を見えるようにすることも可能ですが暫くの間他の幽霊も見えるようになってしまいます。幽霊が見えるというのは想像するよりうっとうしいものなのですよ」
「待てっ、問題がないかまず私にやってみせろっ」
「いいですけど知りませんよ。数日で見えなくなるかもしれませんし、一生見えるかもしれません」
「うるさいっ。早くやれ」
「ハイハイ」
セイは筆頭家来の目に妖力を流し込んだ。
「うおっ!シンディ様っ」
筆頭家来の目にシンディがジョルジオを待ち続ける姿が見えた。
「本当にっ 本当にあそこにシンディがいるのじゃなっ」
口をパクパクさせて声にならない筆頭家来。
「ワシにもっ、ワシにも見えるようにしてくれっ」
セイはジョルジオの目に妖力を流し込んだ。
「おぉ、シンディ・・・」
「ジョルジュッ」
ジョルジオの声に反応したシンディ。
「やっぱり来てくれたのねっ」
「すまなんだ、すまなんだっ」
そう言ってシンディに手を差し伸べるジョルジオ。
良かったな。これでシンディさんも成仏出来るだろう。
「シンディっ」
「ジョルジュ・・・・。持ってきてくれたのよのねっ」
ジョルジオに抱き付きに行くかと思われたシンディは何かを頂戴と言いたげに手を出した。
「な、何をじゃ?」
「誕生日に家宝のサファイアのネックレスくれるって言ったじゃないっ。持ってきてくれたんでしょっ」
「あ、あれは・・・」
汗を流して焦るジョルジオ。
「シ、シンディ様。あのネックレスは結婚の品として奥様の物に・・・」
パクパク状態から復帰した筆頭家来は気まずそうなジョルジオの代わりに説明した。
「なんですってぇぇ。ならあれと同等の物をくれるんでしょうねっ」
「いや、その、あれは家宝の品。あれと同等の物など手に入ら・・・」
「ペッ」
え?
手に入らないと言われてツバを吐いたシンディ。
「ケッ、待ってて損したわ。サヨナラ」
シンディはサファイアを貰えないとわかって消えて行った。
・・・
・・・・
・・・・・
シンディはジョルジオじゃなく、サファイアのネックレスを待っていたのか・・・
「あ、あの・・・。依頼達成ということで・・・」
無事に解決したというのに現場にはなんとも言えない空気が流れていたのであった。