領主街ギルドはアットホーム
領主街に到着すると早速この前のAランクパーティーの奴らに見つかった。
「あーっ!来たーーっ」
ここでも拉致されてギルドに連れて行かれた。
「聞きたいことが山程あるんだからギルマスとの話が終わったらここで飲むからねっ」
「いや、すぐに帰りたいんだけど」
「ダメーーっ」×全員。
「良かった。良かった。来てくれて本当に良かった」
ギルマスのカントに泣かれてしまった。依頼主の領主からどうして報酬を受け取りに来ないのかと何度も使いが来て、ギルマスがお詫びに行ってこっぴどく叱られたそうだ。
「悪かったね。Aの人達で分けてくれたら良かったのに」
「金だけならそうしたんだがな。それだけじゃねぇんだよ」
「何が報酬だったの?」
「お前、報酬の件を王都ギルドでも聞かずに出たんだってな。確かにここでも聞いて行かなかったけどよ」
「まぁ、今はお金に困ってないから別にいいかなって」
「報酬は金以外に領主の娘との縁談ってのがあったんだよ」
「は?」
「あの娘は一人娘でな。婿養子を取る予定にしている。貴族社会は色々と面倒でな、どこの誰と結構しても派閥問題でもめるそうだ。そしてその派閥がダメになると巻き添えを食らう。一人娘なら尚更だ。どこかの婿を貰えば自動的にその派閥とみなされる」
「別にいいじゃん」
「隣国は2大派閥でな、どちらに付いても常に巻き添えを食らう可能性が残る。娘をそれに巻き込みたくないんだそうだ」
「で?」
「娘を拐った相手がバンパイアの場合、そのパーティーメンバーから婿を選ぶというのが報酬だ」
「そんなの希望しない人も多いでしょ」
「冒険者はほとんどが平民だ。貴族になれ、しかも時期領主になれるチャンスを棒に振る奴がいると思うのか?」
「まったく興味ないけど」
「はぁ〜。お前は普通の感覚を持って無いなまったく」
「なら、ギルマスが今の奥さんと結婚する前の付き合ってる段階で婿になれと言われたら奥さんを捨てた?」
「いや、それはない・・・。そうか、そういう事か」
ん?そういう事ってどういう事だ?なぜウェンディを見ているのだ?
「わかった。それは自分で伝えて断ってくれ」
「それってなんだよ?」
チラッとウェンディを見るギルマス。
「あのね・・・。ウェンディと俺は」
「話終わったー?」
ココのギルドはギルマスの部屋に冒険者が勝手に入ってこれんのか?
「大体な。セイ、受付で報酬を受け取ってこい」
「みんなで分けてくれたらいいよ」
「まずお前が受け取れ。その後どうするかは好きにしろ。あいつらは依頼不達成で報酬無しだからな」
「違約金発生したの?」
「ギルドからの指名依頼だから違約金はないから安心しろ」
そして受付で金貨100枚を受け取った。
「早くっ!飲むよーーっ」
なんか知らん奴らもいっぱい来てるじゃないか。めっちゃ嫌な予感がする。
「よし、酒だな」
いきなり出てくるサカキ。
「おいっ、街に飯食いに行くんじゃなかったのかよ?」
「悪いなヘスティア。この状況で逃げるのは無理だ。お前も好きに食え」
「膝に座んなくていいのかよ?」
「もう変に思われてもいいわ。どうせ皆んな酔っ払って夢を見たとか思うだろ」
そして今の報酬でここの代金を全部持つ事になった。奢りと聞いてどんどん人が増えていく。まぁ、足らないってことわりないだろうからいいか。
そしてまず火魔法に付いてしつこく聞かれる。
「あの火は俺がやってたんじゃない。ヘスティアだ」
「あんた神様の火って大きくでるわねー。そんな事で誤魔化されないわよっ。無詠唱であんなのどうやるのよっ」
誰も信じない。
「サカキ、肉を鬼火で焼いて見せてあげて」
「おっ、なら黒豚を出せ。炙って一番旨いのがあれだからな」
鬼火でガンガン炙るサカキ。
「あんたも凄いじゃないっ。どうやんの?ねぇ、どうやんの?」
鬼火を肉の周りでくるくると回すのは高等技術らしく興味はサカキにシフトした。君もうんざりしたまえ。
「なら、俺に飲み勝てたら教えてやる」
「その勝負乗ったーーっ!」
ズルいぞサカキ。そんなかわし方俺には出来んだろうが。
「じゃ、こいつでな」
と、鬼殺しで飲み勝負になった。アル中で死ぬやつが出てきても俺は知らん。
「だーっ、何だこの酒っ」
男どもがどんどんくたばって行く。サカキは楽しそうだな。あいつもこの世界に来てよく笑うようになったな。
ガーハッハッハと笑いながらバンバン皆を潰していくサカキ。
俺はウインナーとからあげをジュースで食べながらその様子を見ている。
サカキは黒豚を焼いて爪で剥ぎ取って、イッキで行ったやつにやるぞとかやってる。冒険者に取って黒豚は売るものであって食うものではないみたいで一気に飲んで死にそうになっては黒豚を旨そうに食っていた。
「このからあげ何の肉だろうね。歯応えが強いけど結構旨いね」
「おう、酒に合う味付けで旨ぇぞ」
そう、かなりスパイシーな味付けだ。ボッケーノ王都よりワイルドに味付けてある。たまにはこういうのもいいな。
ウェンディはがっついては舌を出して冷ましてビールを飲んでいる。ヘスティアは冷まして食べてビールを飲んでいる。
「セイー、飲んでるーっ?」
酔った魔法使いがダンッと隣に座って来やがった。泉の風呂に初めに入って来ようとした女の子だ。
「いや、俺酒飲めないんだよね」
「そんな奴冒険者にいるわけないでしょーっ。いいから飲みなさいよっ」
「ちょっとーっ、セイに飲まさないでっ」
「おっ、あんたウェンディだっけ?ずっとセイにべったりしてたしヤキモチ?」
「なんで下僕にヤキモチなんて焼かないといけないのよっ」
「あんた下僕なんて呼ばれてんの?キャーハッハッハ。エッチ」
なぜそこでエッチなんて言われなきゃならんのだ?
「あんたこんな子供みたいな子になにさせてんのよ〜」
何もさせてないわ。
「あんたの魔法もそうだけど変わった装備してんねぇ。それワイバーンだろ?黒に染めたの?」
「まぁそんなとこ」
「髪の毛はー?」
クシャクシャっと触られる。あぁ、こんな風に触られるのって嫌なもんなんだな。ヨシヨシを嫌がるウェンディの気持ちがわかった。
「これは地毛だよ」
「めっずらしいよねぇ」
「よっ、サマンサに絡まれてんのか」
しつこくクシャクシャされるのにうんざりしているとこいつと同じメンバーの冒険者がやってくる。この娘、サマンサというのか。
「まぁね。引き取ってよ」
「まぁ勘弁してやってくれ。あのバンパイアをあっさりやっつけた奴と飲めて嬉しいんだろよ」
「何よ〜、タンクはこっち来んなよ〜」
こいつはタンクか。
「お前、魔法使いなのか?それとも剣士なのか?バンパイアはどっちで倒した?」
「倒したというより捕縛だから魔法って事になるのかな」
「その剣はどんなのだ?」
「この剣はね」
「見せて見せてーっ。魔法使いがどんな剣持ってんのか見せてーっ」
「あっ、馬鹿抜くな」
キュウ
あわてでサマンサから剣を取り上げる。少し吸われただけだから大丈夫だろう。
「どうしたっ」
「少ししか持ってないから大丈夫だよ。この剣は力を吸い取るからね」
「何だその全てを吸い取るような黒い剣・・・」
「メラウスの剣だよ。仕上げにヘスティアが焼入れした奴なんだよ。こっちのナイフなら大丈夫だから」
「これ、ヘスティアって名前が・・・」
「サイン入り特製ナイフ。そのままでもよく切れるけど力を流せば金属でもバターみたいに切れるよ。ヘスティアは見た目と同じような強くて美しい字を書くんだよね」
「やっ、止めろよ。恥ずかしいじゃねーかよ」
「いや、本当にいい字だよ。メラウスの剣も気に入ってるけど、このサイン入り特製ナイフも気に入ってるんだよ」
「やーめーろーよー」
真っ赤っ赤になるヘスティア。
「だ、誰と喋ってんだ?」
「俺の隣にヘスティアが座ってんだよ。褒めたら真赤になっててね」
「やめろってば」
どんっとセイを押すヘスティア。
「押すなよ」
「おっ、お前が変な事を言うからだろっ」
「ヘスティアって、神様のヘスティア様か?」
「そうだよ。そこで舌を水で冷ましてるのが風の神ゴニョゴニョのウェンディ。ヘスティアは力のコントロール出来るけど、ウェンディは細かいコントロールが苦手でね。だからこの前も何もさせてなかったんだよ」
ウェンディはコップに舌を浸けながら「うっふぁいわへとか言っている」
「あの死体を焼いていたのはヘスティア様だと言っていたのは・・・」
「本当の話。俺の火はこれぐらい。死体を消滅させるように燃やすのは無理だよ」
「おっ、おいっ。ここにヘスティア様が来てるんだってよっ」
そう皆を呼び、メラウスの剣は力があると使えると聞き、剣士達はみな挑戦して倒れていった。
「お、お前は平気なんだよな」
「平気だよ。これに力を込めたら威力出すぎるから今は力流してないけど。サイン入り特製ナイフに力を流せばこんな感じ」
ファッとヘスティアのサインが光る。
「おぉっ。なんて美しいナイフなんだ」
「あ、あれ。ヘスティア様の直筆サインらしいぜ。セイがヘスティア様の美しさそのものの文字だってよ」
「セイっ、ヘスティア様ってどんな感じなんだ?」
「小柄だけど美人だよ。足先とかシュッとしててね。ロングブーツが似合うんだ」
「やーめーろーよーっ」
ヘスティアは照れながらも上機嫌だった。一方その頃のウェンディはコップに舌を突っ込んだまま寝ていた。