犯罪者扱い
「ようやく観念したか」
指をポキポキ鳴らして出てきたギルマスのファイン。取り囲む冒険者達。
ただならぬ雰囲気にぬーちゃんは首から離れて元の姿に戻って皆を威嚇した。
「セイになにかするようなら殺すぞお前ら」
「ぬーちゃん、やめろ。皆本気じゃないからな。毒吐いちゃだめだよ」
「なら噛み殺してやろう」
牙を向いて、反対側は蛇の尻尾でシャーっとする。
「セイ、コイツら燃やし尽くしてやろうか?」
「ヘスティアも焼き尽くすとか言うな。ギルドだけじゃ済まなくなるだろうが」
冒険者達はどうやらセイがヘスティアの加護を受けているのは本当のようだと噂になっていた。
ウェンディはセイの背中でマントの中に入ってグースカ寝ている。まったく幸せな奴だ。
「セイ、落ち着け。俺達はお前をどうこうしようとしているわけじゃない。話を聞かせてくれ」
あんたポキポキ指を鳴らしながら出てきたよね?
「ぬーちゃん、小さくなって。あんまりもめるとカニ食べに行くの遅くなるよ」
「はーい」
シュルルんと猫サイズに戻って首に巻き付くぬーちゃん。
「ギルマス、ここで話をするの?部屋に行く?」
「あー、ここで話せ。コイツらにも聞かせて、お前が何をしているか理解してもらえ」
「わかった。何から聞きたいの?」
「ダンジョンに何をした?」
「なんか階層増えたんだってね。ごめん、あれは俺が原因だわ。この前の依頼で捕縛したバンパイアをダンジョンに食わせた」
「は?」
「ダンジョンって人間や魔物とか餌にしてるだろ?そして強いやつ程栄養になるみたいだからバンパイアを食わせてみた。かなり栄養価が高かったみたいで成長しちゃったんだろうね」
「そんな事をしてやがったのか・・・」
「アネモスではダンジョンにゴミを捨ててるんだよ。ダンジョンが食べられるものは吸収されて食べられないものがそこに残るから、食べ残しだけを他の所に埋めたりしてるんだ。ゴミの量が減るし、ダンジョンも餌をもらえるからウィンウィンのやり方だね」
「それを真似たのか?」
「そう。今回はダンジョンが成長したからお宝の種類増えるんじゃないの?」
「まだ調査中だ。かなり広がったから時間が掛かるだろう」
「これ出たけど何かわかる?」
とさっきダンジョンに貰った塊をみせる。
「知らん金属だ・・・」
「何に使えるかわらないからビビデとバビデに渡して試して貰うよ。価値があれば鉱夫達の利益増えるね」
「わかった。次はお前に王室から捜索依頼が出た。何をやった?」
「指名手配じゃないの?」
「捜索依頼だ」
「なら多分宝石か貴金属のことだと思うよ。それ出頭しないといけないの?面倒臭そうだから行きたくないんだけど」
「お前、王室からの呼び出しだぞ?」
「俺はボッケーノの住人じゃないからね。命令に従う義務ないよ。どうしてもって言うならこの国を出て、もう来ないようにするから捜索依頼は無駄だと言っておいて。これで終わり?」
「い、いや・・・。領主街のギルドからバンパイア討伐の報酬を渡してないから来て欲しいと・・・」
「別にアレの報酬はいらない。以上?」
「い、以上だ」
「じゃ、サヨナラ」
とセイはギルドを出た。ボッケーノのギルマス達は好きだったけど王家と絡むとか面倒で嫌すぎる。アネモスならまだしもボッケーノ国とは関係ないのだ。
来ないとは言ったけど、ビビデ達の所と宝石店には来ないといけないからなぁ。こっそりと隠れて来ないとダメなのかなぁ。
「ギルマス、やべぇんじゃねぇの?」
「お前らが犯罪者扱いして囲むからだろうが」
「ギルマスがセイを見つけたら逃がすなと言ったんだろうがよっ」
責任のなすりつけ合いをするギルマスと冒険者達。
「しかし、あの使い魔ってあんなに恐ろしい魔物だったんだな。ブルって動けなくなっちまったぜ」
「それにヘスティア様が近くにいるって本当みたいな感じだな」
「あいつが出入りしている宝石屋によ、ヘスティア様セットってのが飾ってあって、神様はあの店のアクセサリーを身に着けてるらしいぜ」
「あんなの嘘の宣伝に決まってるだろうが」
「ヘスティア様の名前が書かれたプレートがあったろ?」
「あぁ」
「アレ、伝説のメラウス鉱から作られてるんだと。名前はヘスティア様が直接書いたってよ。あの漆黒はヘスティア様が直接焼入れないとダメだそうだ」
「嘘付けっ。そんな嘘くさい話をどこで聞いたんだ?」
「バビデの防具店だ」
「え?」
「ビビデとバビデの所にあのプレートがあった。プレートはビビデが作って、ヘスティア様が名前を焼き入れたと教えてもらった」
「じゃあその話は本当の事なのかよ・・・」
「神様御用達店の証だそうだ。全部セイが絡んでる」
「マジかよ・・・。ギルマス、マジでヤバイんじゃねーか?」
「うるさいっ。わかってるわそんなことっ」
セイは宝石店に寄ってみる。ウェンディの髪飾りを作ってやらないといけないのだ。
「こんにちはー」
「セイ様、ようこそお越し下さいました。こちらが仕入れ代金にございます」
「こんなに売れてるの?」
また金貨500枚とかくれたのだ。内容の説明をしだしたけどもういいですと途中でやめてもらった。
「王室からの呼び出しはございませんでしたか?」
「なんかギルドに指名手配みたいなの掛かってたよ。断ったけど」
「実は姫様がピンクゴールドのヘスティア様セットをたいそうお気に召されまして、是非これを手に入れた者と会いたいとおっしゃられました」
「うん、俺は会う気ないからごめんねって言っておいて」
「はい、我々もお越しになられるのがいつか存じ上げないと申しましたのでギルドに依頼が入ったものと思います」
「それに、春になったら旅に出るからボッケーノにはしばらく来なくなるしね。追加のプラチナとかピンクゴールドいる?」
「どれぐらいの期間お留守にされますか?」
「どうだろう?その後アクアに行くつもりにしてるから半年以上は来ないと思うよ。なんか王室が面倒臭くなりそうならもっと長い間来ないかも」
「ではお預かりさせて頂いても宜しいでしょうか?」
「じゃあはい。あ、貴金属ってアクセサリーセットにどれぐらいの量を使うもの?」
「ヘスティア様セットでこれぐらいの量になります」
それぐらいしか使わないのか。
「両方ともワンセット分残しておいてもいい?」
「まったく問題ございませんが何かに使われるのですか?」
「アネモスの知り合いに宝石を渡すことになっててね。これも渡しておいた方がいいかなって。本当はここで作ってもらおうかと思ったんだけど、旅に出るから材料だけ渡すことにしたんだよ」
「そうでしたか。相手はご貴族様でらっしゃいますか?」
「そうだよ」
「では、どの宝石を渡されるかお選び頂けますか?鑑定書をお書き致しますので」
「鑑定書?」
「はい、宝石には鑑定書というものがないと品質を保証するものがないのです。貴族相手なら鑑定書を付けてお渡しになられた方が宜しいですよ」
「知らなかったよ。ありがとうね。じゃあお願い出来る?」
奥さんはティアラも欲しいのかな?お父さんの方はフルセット分だな。
それを説明して店の人に宝石を選んでもらった。明後日には鑑定書を用意してくれるらしい。
「後、これで髪飾りを作って貰える?普段使い出来そうな・・・」
「こんなのがいいっ」
起きてたのかこいつ。
「お前、そんな頭に輪っかみたいなの着けるつもりか?」
「ヘスティアも着けてるじゃない」
「お前が着けたら孫悟空みたいになるだろうが。いいからお店の人に任せろっ」
ウェンディが孫悟空ってなによ???となっている間にお任せで作ってもらうことに。もう宝石店の人は俺が宝石をザラザラと出しても驚かない。
「追加で宝石いる?」
「い、いえ。お預かりしている物で十分にございます」
プラチナとピンクゴールドをサイン入り特製ナイフに妖力を込めると、ヘスティアの文字が光り金属がバターのように切れる。
「じゃ、残りは渡しておくね」
「ヘスティア様のナイフとは凄まじい切れ方をするのですね」
「うん、俺も驚いた」
宝石屋を後にしたらヘスティアが温泉にはいつ行けるんだと聞いてくる。
「鑑定書を受け取ったら行こうか。スッキリ用件を終わらせてからの方が心置きなくゆっくり出来るしね」
「わかったよ」
心残りというと領主街のギルドだ。報酬をいらないとは言ったけど、もしかしたらギルマスが困るのではなかろうか?
「鑑定書出来るまで領主街に行こうか」
「何しに行くんだ?」
「あの街の飯食ってみたいと思わないか?」
「おう、なら行こうぜ」
ということでビビデ達の所に戻って、温泉への出発が遅れる事を伝えてから領主街に向かったのであった。