リーゼロイ家を巻き込めた
「ギルマス。漁師ギルドに言えば直接卸してくれるのかな?」
ギルマスを呼んで来て流通の流れを聞いてみることに。グリンディルも一緒にこっちに来た。グリンディルを見てなぜか子持ちシシャモが食べたくなったのは内緒だ。
「通常はセリにかけて商人が買い付けて取引先に持っていくんだが直接買付も出来るはずだ」
「悪いんだけどさ、漁師ギルドに話し付けてくれない?リーゼロイ家と直接交渉の」
「わかった。奥様、漁師ギルドにロブスタというギルドマスターがおりますのでそちらへ向かわせるように手配致しますがよろしいでしょうか?」
「お願い致しますわマモンさん」
これで後はなんとかしてもらおう。お母さんはそれぞれのアクセサリーを眺めて何色にしようか悩んでいるようだった。
(セイ殿)
(はいなんでしょうお父さん)
(ワシにも回してもらうことは出来るか?)
(構いませんけど、お金より高く付きますよ)
(構わん。ワシの力の及ぶ範囲なら協力しよう)
いいのかな?と思うが、どうせ奥さんは情報を掴むだろうからいいか。
結局、お母さんはピンクがいいらしく、フルセット分の宝石を希望した。お父さんは赤のフルセットだ。
そしてお父さんが何かに気付いて驚いている。
「た、食べのものが宙に消えていく・・・」
今ヘスティアもここで食ってるからな。
「いまここで火の神様ヘスティアが飯食ってるんですよ」
「は?」
「ウェンディは力が落ちてるので皆に見えてますが、ヘスティアは本当の神様なので皆には見えないんです。でもここにいますよ」
「本当かそれは?」
「見えないと信じられないでしょうけどね。ヘスティア、ネックレス貸して」
と手を出すと黄色の宝石のネックレスがセイの手に現れた。
「ヘスティアはこの黄色の宝石を身に付けてますよ」
「まさか本当に・・・。結婚式の神様役をしてくれたのその少女も・・・」
「こう見えても本物ですよ。アネモスの住民がウェンディへの信仰心を失ったので力が落ちてるんです。以前の報酬にお祈りをお願いしたのはその為です。ウェンディは悪魔でも疫病神でもありませんよ」
おい、今お前の話をしてんだからがっついて食うなよ。
「すいません。力が落ちている分食べないとダメみたいで」
セイはだんだんと嘘付きになっていく。
「リーゼロイ家ご当主殿、セイの言うことは全部本当です。ウェンディの風は被害も出ますがあれは国を守る加護の風なのです。加護の風が吹かなくなってアネモスはそのうちとてもまずい事になると教えてもらいました。是非貴族の方々にもこのことをお伝え下さい」
「それほど深刻なのか?」
「セイ、どうなんだ?」
「山と海はもう死にかけてますからね。オーガ島周辺はウェンディに加護の風で浄化してもらいましたから魚も捕れるようになり、島にいる魔物も弱くなりました。漁師達にもこの島の周辺で漁をしてもらう予定にしています」
「加護の風は国全体に今でも可能なのか?」
「可能ですけど大きな被害が出ますからやれません。ウェンディを恨んでいる現状ではより恨まれますから。国民がウェンディを信じ、風を求めてくれたらやれますよ」
「どのような被害が出るのだ?」
「このままだと、魚はオーガ島周辺しか捕れないのですが、大型魔魚が沿岸まで来ているようですので船を出せなくなるかもしれません。山は強い魔物が溢れるのと山全体が枯れかけてますから木々がダメになり、より水を蓄える力が落ちて王都も水が枯渇していきます。すでに山の湧水が枯れてしまった箇所がいくつもあるそうです」
「加護の風が吹いたらどうなる?」
「海と山を生き返らせる程の風はかなりの暴風と大量の雨を伴います。それは建物を破壊し、洪水をもたらします。いつ吹くかは事前にお伝えできるので人的被害は無くせるとは思いますが、物的被害は甚大になるでしょう。木工ギルドから洪水被害を少しでも減らすのに水路の改良を要求したそうですが取り合って貰えないと言ってました」
「そうだろうな。ここ10年近く被害がなかったから予算に組まれていないのだ。予算に組まずとも問題が無かった状態だからな。それを元に中長期の予算計画が組まれているからすぐに変更するのは難しいだろう」
「まぁ、そのうち王都は水が足りなくなると思いますよ。多分街の被害はそれから始まりますから」
とセイはあっさりと言った。
「セイ様、アネモスを見捨てられるおつもりなのでしょうか?」
「いや、アネモスがウェンディを見捨てたからです。初めはなんとかウェンディのことを理解してもらおうと思ってましたけど人間って困らないと神に頼らないんですよね。だからそれを待つことにしました」
「そうですか・・・」
「でもウェンディを信じてくれた人達は恩恵を授かってると思いますよ」
とヒョウエとラームを見た。
「そうですわね。娘にこんな幸せをもたらせて下さいましたものね」
酒を飲んで変な踊りをしているウェンディをチラッと見て、見えない方がいいよな?とか思ってしまったのであった。
祝いの席で仕事の話はそれぐらいにしなとタマモに言われたので、挨拶をして人魚達の所へ。向こうは移動出来ないからこちらから行かないとダメなのだ。
式神が若い人魚達にせっせと餌付けしたのでお腹は満腹のようでパクパクしていない。
リタもこちらにやって来た。
「髪飾りから何から何まで凄いです。まるで自分じゃないみたいで」
「うん、巫女の衣装も似合ってたけど、そのアクセサリーとドレスも似合ってるよ」
「あ、ありがとうございます。エヘヘへ」
ギルマス達もこちらにやってくる。
「やれやれだな。無事ここまできて良かったじゃねーか」
「そうだね。皆の協力のおかげだよ。ヒョウエもラームも幸せそうで良かった」
「わ、私もこんな結婚式をしてみたいなぁ・・・」
リタが赤くなってそう言う。
「そのうち風の教会でもやってくれるようになるんじゃないかな。それより早くいい人見つけないと」
そういうとギルマスにギュッと足を踏まれた。
そこへラームのお父さんがやってきた。
「人魚達とは驚きましたが、美しい存在なのですな」
「大昔に貴族が人魚を狙った事があるそうだけどそんな事をしないでね。もし狙っても仲間に守らせてるから船なんかあっと言う間に沈められるよ」
「そんなことせん。美しいものは守らなければならない存在なのだから」
と、若い人魚に手を出したら噛まれていた。指とか無くなってないよね?
「セイ殿」
「はい」
「皆がウェンディ様の事を信じるようになるのはどれぐらい時間が掛かるであろうか?」
「手遅れにならないうちに手は打ち始めましたけど早いに越したことはないですね。水は早めに不足するようにしました」
「は?」
「山が本当に死んでしまう前に人々が困る必要があるんだそうです。だから山から街に流れ込む川を一つ堰き止めました」
「なんだと?」
「ご主人がアネモスでどのような責任を持っておられるかどうか知りませんが、警告を続けて下さると助かります。水不足は水魔法を使える者がいたらなんとかなります。しかし、山が乾ききると水を吸わなくなり、雨が降るとそのまま川に水が流れるらしいです。そうなれば雨の度に水害が出ると思います」
「わかった。貴族は国を守る責任を負っている。なんとか予算に組み込まれるように動こう」
「宜しくお願いしますね」
あとから聞いた話だが、奥さんは以前の約束どおり風の教会を宗教法人に戻してくれた上に後ろ盾になってくれているらしい。
披露宴は終わり、普段着に着替えて二次会になりサカキとクラマも参加しだした。ご主人は潰されてるけどお母さんは平気そうだ。グリンディルといいカントの奥さんといい、女性の方が酒に強いのかもしれん。
アリマ温泉で足湯とかけ湯をして入江にマットを敷く。その間にタマモがウェンディのティアラを取り上げたらしく拗ねてがぶ飲みして潰れていたので連れてくる。これ以上リーゼロイ家にみっともない姿を見せてはいけないのだ。ティアラとドレスは儀式用としてヒョウタンにタマモが持って帰った。
酔い潰れながらもエグエグ泣いてるウェンディ。そんなにアレが気に入ってたのかよ?
ヘスティアはそのまま着けてるけど、ウェンディには頭のアクセサリーが何もなくなってしまったからな。マットに寝かせたウェンディの頭をヨシヨシしながら、しょうがないからなんか作ってもらうかと思うセイであった。